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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』Q:1212
◇回答
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
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■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1211への回答、ありがとうございました。先週の冷泉さんのレポートにも
ありましたが、今の日本は、原発の不安と憂うつに覆われています。しばらく前まで
は恐怖でしたが、現在ではかろうじて不安と憂うつに変化しました。わたしは、これ
まで2度、「原発はもう制御不能なのかも知れない」とあきらめたことがありました。
1度目は、自衛隊のヘリによる給水のときです。あれは本当にシュールな映像でした。
空から水をまいて冷却できると当事者は本当に考えているのだろうか、という疑問は、
強い不安に変わっていったわけです。
2度目は、放射性物質を大量に含んだ汚染水があふれ出したときです。汚染水の漏
出自体、憂慮すべきことではありますが、「あれだけ水を入れ続ければ当然あふれる
だろう」という思いはありました。不安になったのは、あれだけ大量の注水を続けな
がら、各タンクが「満杯」になり、さらに漏出がはじまるまで対策を考えなかったの
だろうかという素朴な違和感によるものでした。最悪の事態への想像力が足りない気
がしたのです。
原発や放射線に関しては、さまざまな人が発信を続けています。わたしは信頼でき
ると思えるソースをいくつか見つけ、基礎的な知識と、情報を得るようにしています。
とくに放射線量の安全基準値に関しては、幅広い意見があります。被曝の影響には年
齢や体力による個人差があるので、いろいろな意見があるのは当然と言えば当然です
が、わたしが忌避したいのは、自らの意見を強化するために「不安を煽る」やり方で
す。どんなに豊富な知識を持っている専門家でも、不安を煽るような方法を採る人に
ついては、あまり信頼しないようにしています。
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■今回の質問【Q:1212】
2011年度第1次補正予算が成立しました。その財源を含め、どう評価すべきなので
しょうか。
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村上龍
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
5月初旬に成立した23年度の一次補正予算の内容を見ると、約4兆円の歳出に関
しては、大震災被害に対応するために直ぐに必要と思われる経費が計上されており、
それぞれの項目については、「当然だろうな」と思われる内容になっています。一方、
財源については、主に23年度の当初予算に計上されていた項目の一部を棚上げにす
る格好で捻出しており、今回の補正については国債の発行を回避しています。補正予
算全体とすると、震災被害対応費として当座必要な資金を、取り敢えず、国債の発行
をせずに工面しているというところでしょう。
震災対応のための予算は、今後、第二次補正が組まれることが前提になっています。
第二次補正の規模は、一次補正よりもはるかに大きな10兆円程度になると予想され
ます。予算の内容も、もう少し中・長期的な復興計画に基づいて考えられるはずです。
ですから、二次補正の予算案を作成するときには、本格的な復興計画の青写真が出来
ていなければならないことになります。その意味では、政府の本格的な対応策は二次
補正予算以降ということがいえます。
実際の予算の歳出の項目には、応急の仮設住宅の建設費など災害救助関係経費が約
5千億円、がれきの撤去費用に約3千5百億円、破損した道路の復旧などの災害対応
公共事業関係費に約1兆2千億円、さらに自衛隊や消防、海上保安庁などの活動経費
等に約8千億円、合計で約4兆円が計上されています。
一方、財源については、23年度の当初予算に計上されていた、子ども手当の減額
によって約2千億円、高速道路無料化実験の一時凍結などで約1千億円、経済危機対
応・地域活性化予備費の減額で約8千億円、さらに、基礎年金国庫負担の減額によっ
て約2兆5千億円が捻出されています。23年度の当初予算の見直しによって、合計
約3兆7千億円が捻出された格好です。今回の補正予算の規模が約4兆円ですから、
その8割以上が、当初予算の棚上げによって賄われたことになります。そうしたやり
繰りによって、一次補正予算に関しては、国債の発行を回避することにしたと言えま
す。
その背景には、国債発行額が急速に増加しているため、わが国の信用力が低下する
ことを防ぎたいという思惑が働いていると考えられます。有力格付け会社から、わが
国の格付けを見直すとの発表があったこともあり、政府としては、安易に国債発行に
頼る姿勢を見せたくなかったのでしょう。また、国債の増発については、野党からの
厳しい批判があります。政府としては、そうした批判にも配慮したのだと思います。
ただし、問題は、一次補正で棚上げした当初の支出項目を、今後の二次補正予算の
段階でどのように扱うのかと、もう一つ、二次補正の財源確保です。まず、一次補正
で約1千億円減額した子ども手当の扱いをどうするか。元々、子ども手当に対する批
判の声は大きく、一部には、人気取りの"ばらまき"と酷評する人もいました。民主党
政権は、それを復活させるか注目されます。
また、基礎年金部分の国庫負担を3分の一から、2分の一に引き上げることは既に
決定されていたことです。それを反故にすることは難しいはずですから、二次補正で、
それを復活させることになると予想されます。ということは、その分の財源をも、何
処からか持ってこないといけないことになります。その場合の主な選択肢は、国債の
発行か、あるいは増税ということになるでしょう。
増税する場合には、法人税率引き下げの棚上げ、所得税率の引き上げ、消費税率の
引き上げ、さらには、復興税など新しい税項目を創設することなどが考えられます。
こうした財源に関する議論は、具体的な復興の構想と同じように重要なものと考えら
れます。これから本格的な検討、議論が活発化することでしょう。一次補正予算は時
限性が高かったこともあり、そうした検討や議論を先送りして作った予算ということ
が出来ると思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
5月2日の参議院本会議で第一次補正予算(4兆153億円)が全会一致で可決成
立しました。この補正予算は、何と言っても被災された方々の生活を一日でも早く、
可能な限り旧に復するためのものですから、まずは、その実効性の面から、被災者の
方々によって評価されるべきものでしょう。
一方、今回の補正予算の規模と財源に関しては、二つの考え方があるように思いま
す。まず、みんなの党の江田憲司幹事長は、次のように指摘しておられます。「菅総
理は、第一次補正予算案の策定過程で、「総額4兆円規模」を唐突に打ち出してきた。
これは「先に財源の制約ありき」という財務省的発想に基づく予算案であり、こんな
覚悟のなさでは、とても被災民の方々に夢や希望を与えることはできない」(VOICE
6月号)。逆に、同じ雑誌の別の記事のなかで、与謝野馨経済財政担当大臣は、「い
ま日本の国債の発行高は臨界に近いとの見方もありますから、震災復興だからといっ
てやたらに国債をだすわけにもいかない。・・・天からお金が降ってくるような発想
で、使うことばかり計画しているような財政はいずれ破綻するんですよ」と語ってお
られました。
ちなみに、江田憲司氏の文章からすると、4兆円は財政制約を受けた不十分な金額
という印象を受けますが、本当にそうなのでしょうか。4兆円という金額は、私は決
して小さな額だとは思いません。阪神淡路大震災の際には、平成6年度に二次補正、
平成7年度に一次、二次補正を行い、総額3兆3千億円の費用を計上しております。
当時の経済的損失額は約10兆円ということになっております。今回の損失を、政府
は16兆円から25兆円と見積もっているようですから、阪神淡路大震災と同じ率
(33%)を25兆円にかけると約8兆円になります。4兆円というのは、ちょうど
その半分ということでしょうか。
ただし、これはあくまでも政府の損失見積もりが正しいという前提での話です。私
は、津波による浸水面積をもとに、民間資本の毀損額を自分なりに計算しましたが、
政府の見積もりよりはかなり小さな数字(約2.5兆円)になりました。むろん、私
も机上の計算に過ぎませんから、間違っている危険性もあるでしょう。ただ、16兆
から25兆円という損失額が見直されることなく、ずっと一人歩きしていることもお
かしいのではないかと思います。実際、社会インフラの復旧スピードを比較すると、
今回の方が、阪神淡路大震災よりも、ずいぶん早いです。横倒しになった阪神高速道
路は復旧に20ヶ月を要しましたが、東北自動車道は13日で復旧しました。山陽新
幹線は3ヶ月かかりましたが、東北新幹線は2ヶ月以内で開通しました。
「今回は、阪神淡路大震災を超える規模なので・・・」というのは、亡くなられた方
や行方不明になっておられる方の人数をみると、まさにその通りなのですが、経済的
損失にも同じことが言えるのかは、改めて考えてみる必要があるように思います。
ところで、与謝野大臣の発言で気になるのは、「いま日本の国債の発行高は臨界に
近いという見方もありますから」という部分です。「臨界」とは、どういう意味で、
「見方もあります」というのは誰の意見なのでしょう。要するに、債務残高の割には、
国債の利回りは低すぎる、これは国債バブルであり、何がきっかけになってバブルが
崩壊(金利急騰)しても不思議ではない。その場合、株式相場も円相場も暴落するい
わばトリプル安になる危険性がある。「これは想像するだけでも恐ろしい。失業者が
たくさん出る。GDPはマイナスになってしまう。輸入物価がどんどん高くなる」(VOI
CE6月号)と与謝野大臣は懸念しておられます。
地震による津波の被害よりも、市場の津波による被害の方が心配だということです。
そうならないために、復興費用にも一定の規律は必要ということです。おそらく、
「見方もあります」と他人の意見のように言っておられますが、与謝野大臣がそう見
ておられるのでしょう。
国債バブル論は、主流派と目される学者の方々から支持されているように思います。
果たして、こうした見方は正しいのでしょうか。経験的には、バブルを正しくバブル
と指摘した方々は決して主流派ではなく、傍流に追いやられ、学界的には村八分にさ
れていることが多いように思います。主流派がバブルというバブルなどあるのかと私
は懐疑的です。
いずれにせよ、復興費用を調達するには、(1)歳出削減(予算組み替え)、
(2)新税導入(増税)、(3)国債発行のいずれかしかありません。与謝野大臣的
には、(3)は絶対に避けるべきなので、(1)か(2)、現時点で(2)もさすが
に景気への副作用が懸念されるので(1)ということなのでしょう。国債整理基金か
らの流用という埋蔵金の活用による(4)もあるようですが、4兆円というのは、
(1)の枠組みでの最大限の金額なのかもしれません。
ということで、復興優先派からは、中途半端な金額とされ、財政規律派からは、限
界的と思われているのが4兆円の一次補正なのではないでしょうか。私は、いずれの
考え方が正しい云々の前に、損失額について、阪神淡路大震災よりも多いという先入
観を排した上で、もう一度、精査してもらいたいと考えております。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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