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社会不安への経済学的対処法 金融危機の事後的対応から考える「買いだめ」対策
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投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 17 日 12:55:30: 6WQSToHgoAVCQ
 

日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>「気鋭の論点」
社会不安への経済学的対処法 金融危機の事後的対応から考える「買いだめ」対策

2011年5月17日 火曜日


 東日本大震災の後、被災地から数百キロ離れた首都圏の店頭から食料品や日用品が消えた。災害によって供給が途切れたのではなく、震災後に起きたパニックによって買い占め・買いだめ行動が起こったのだ。1973年の石油危機にも同じような買い占め騒動があった。また、韓国でも2010年3月に起きた哨戒艦沈没のあとにこういった騒動があった。

平時のまとめ買いは「効率的」

 平時のまとめ買いは、忙しくて毎日スーパーに行く時間がないといった将来の「限られた購買機会」に備えた需要で、パニックによる買い占めとは違う。消費したくなった時にいつでも消費できるよう、その都度買い出しに行く時間的なコストや在庫保有のコストと比べて、適量だけ保持する方を選ぶ行為だ。こうした在庫需要は、価格の安い時に買い置きしておく行動に見られるように、価格と連動して安定的に増減する傾向がある。実際、日本の大型スーパーマーケットの定期的な安売りは、まとめ買いの在庫需要をターゲットにしていることが多い。平時のまとめ買い自体は、消費者の購買にかかる時間や労働費用に対する、極めて効率的な対応といえるだろう。

 これに対して、今回のようなパニックによる買い占めは値段とは無関係で、災害で生じた「将来不安」で発生する。日本の大都市圏で数カ月も食料供給が途切れるとは考えにくいのに、将来に対する不安が、不必要な在庫保有を促したのだ。

 重要なのは、「人が大量の買いだめをするのでモノがなくなるのではないか」、という疑念が、人を買いだめ行動へ向かわせる点だ。多くの人がこう考え始めると、その悪い予想が当たり、実際に店頭からモノがなくなる。「悲観的な期待が自己実現してしまう」のだ。そして必要な人(消費したい人)にモノが行き渡らなくなるという資源配分の非効率性が生じる。

 このような非効率性は、手段を講じて解消できるならすべきだ。だが、実際には事前の政策で騒動を未然に防ぐことはほぼ不可能で、事後的な対策で、できるだけ多くの消費したい人にモノが行き渡る可能性を増やす(店頭で「お1人様1つに限定」と制限をするなど)しかない。

取り付け騒ぎ発生のメカニズム

 買い占め騒動で見られた「悲観的な予想が自己実現してしまう」現象は、金融危機の局面でも多く見られる。いわゆる取り付け騒ぎだ。この場合は、買い占めと違って様々な善後策が考えられている。

 銀行取り付け騒ぎでは、コスモ信組(1995年)、木津信組(1995年)、山一證券(1997年)で預金者が預金払い戻しを求めて窓口で列を作った。昭和金融恐慌(1927年)、豊川信金事件(1973年)、能代信組事件(1995年)や佐賀銀行倒産メール事件(2003年)では、事実無根のうわさや不正確な報道が、金融機関への信用不安をあおった。

 2007年から始まった世界金融危機では、英ノーザンロック銀行、米ベアー・スターンズやワコビアへの取り付け騒ぎが記憶に新しい。いずれの場合も、通常の業務では想定していない巨額の資金が多くの預金者・投資家によって一斉に引き出され、立ち行かなくなった。

 金融市場におけるミドルマンである銀行は、流動性変換を提供している。要求払い預金などは預金者がいつでも引き下ろせるのに対して、長期で運用する投資資産は満期が来るまでに一定の時間が必要だ。現金・資産を保有する企業・家計は、運用先に対していつでも引き出せる高い流動性を求めるかもしれないし、逆に十分高い収益を生むなら、ある程度引き出すまでに時間がかかってもいいと考えるかもしれない。よって、銀行は引き出しやすさの違う金融資産を組み合わせて保有するのだ。こうした資金のプールは、将来の不確実な流動性ニーズに対しての「保険」である。

「本当に必要かどうか」は区別できない

 流動性の提供業務には、2つ重要な特徴がある。まず、個々の預金者の流動性ニーズが、究極的には私的な情報だということ。また、預金支払いは、要求された順にその場でなされるべきということで、これは「逐次的なサービス制約」と呼ばれる。もちろん、通常想定されている範囲内で引き出されている間は、この2つの要因は問題にならず、常備している流動資金で問題なく支払える。

 しかしここで将来への不安、悲観的な予想が生まれると、「自己実現的なネガティブな期待」が人々の行動を支配し始める。つまり、満期を待たずに資金を引き出す預金者が現れ、銀行から資金がなくなる疑念が生じ、人々を必要のない資金の引き上げに向かわせる。

 個々人のニーズの有無は私的情報なので、本当に資金が必要な人と、不安に駆られて必要のない引き出しをする人を区別するのは難しい。また、逐次的なサービス制約があるため、すべての要求が出揃うまで待ち、取り付けの全容が判明した時点で支払いを決めるということもできない。放っておくと「悪い予想」が当たり、資金が枯渇するまで引き出しは続く。

 長期の資産投資を満期前に解約すれば本来得られた収益を失うし、それを清算するコストも強いられる。また、資金が本当に必要な人(有効な需要)へと向かうのではなく、必要のない在庫として保有されれば、資源配分の非効率性が生じる。

兌換一時停止や政策発動の事前確約も選択肢

 こうした騒動を事前に防ぐ方法として、ある程度資金が引き出された時点で兌換を一時停止し、後は長期の投資が満期を迎えるまで再開しない(サスペンション・オブ・コンバティビリテイ)と確約する方法がある。このような措置が事前にはっきりしていれば、不要不急の資金を引き上げる意味はなくなる。

 兌換一時停止は、米国で1814年から1907年までの間に8回も実行された。しかし流動資金を必要とする人の数が不確実な場合、兌換停止の正しいタイミングを見極めるのは至難の技だ。実行が早すぎると必要な人に資金が回らないし、遅すぎると取り付け騒ぎが起こるからだ。このように執行に困難が予想される政策は、はじめからコミットメントとしての効果に限界があるのが実情だ。

 一方、預金者保護制度や中央銀行による、「最後の貸し手」としての資金提供などの政策は、コミットメントとして取り付けを防ぐ効果が期待される。ただし、預金者が資金運用に慎重になったり、銀行による経営健全化努力を阻害したりするなど、モラルハザードを招くことが指摘されている。そもそもコミットメントの効果を期待した事前の予防策は、実際に危機が起こってからそのまま実行し続けるのが本当に理にかなっているか、実はあまりはっきりしない。

「引き出す便益を下げる」ためのインフレや通貨切り下げ

 危機が起こってからの対応としては、事後的な要求払いの凍結が考えられる。取り付けを未然に防ぐために設定した水準を超えて貸し出しを続け、貸し出しがある程度の量に達したら支払いを凍結するという方法だ。

 そして満期を迎えた残りの投資資産収益を、残りの支払いに引き当てるのである。これは、長期の投資資産の一部を流動資産に振り分けるので、事前の予防策で設定した以上に、流動資金を必要なところへ配分できる効果がある。実際このような措置は、ブラジル(1990年)、エクアドル(1999年)、アルゼンチン(2001年)で取られたことがある。

 例えば、アルゼンチンの金融危機の際は、2001年12月1日に資産凍結が宣言されるまで、9カ月間にわたり総量比21%の預金が引き出され、しばらくの間、1口座当たり1カ月に1000ペソ(約6〜7万円)までの引き出しが認められていた。

 取り付けが一端始まってしまった後で最も重要なのは、不必要な引き出しによる便益をできるだけ小さくすることだ。より踏み込んだ事後的措置としては、支払い再計画(リスケジューリング)がある。例えば、預金契約が国内通貨なら当局がインフレを引き起こすことで、外国通貨であれば通貨を切り下げることで、これから引き出す預金の実質価値そのものを目減りさせることができる。この措置によって、現金を持つ価値の相対的に低い人は、不必要な資金を在庫として現金保有することにあまり魅力を感じなくなるだろう。

「どうしても欲しい人」をあぶり出す

 また、裁判所の調停で、本当に現金の必要な人、そうでない人を選別する方法もある。アルゼンチンの例では、裁判所の調停によって総預金残高の21%にのぼる支払いが実行された。
第三者による調停で個々人の流動性ニーズが完全に明らかになるわけではない。だが時間と手間をかけて訴訟を起こしてでも現金を引き出したい人は、それ相応のニーズがあるに違いなく、調停でそうした人があぶり出される可能性は大きい。

 例えば買い占めが起こって「お1人様1つに限定」しても、何度も並んでたくさん買う人はいる。それは時間をかけて何度も並ぶほど、相対的にニーズが高いためであり、アルゼンチンの調停のケースはそれに似ていると言えるだろう。

 東日本大震災で、買い占めに困った各スーパーが現場で取った「お1人様1つに限定」という臨時の対応は、本当に必要とする人をあぶり出すという効果があったと言えるだろう。
このコラムについて
「気鋭の論点」

経済学の最新知識を分かりやすく解説するコラムです。執筆者は、研究の一線で活躍する気鋭の若手経済学者たち。それぞれのテーマの中には一見難しい理論に見えるものもありますが、私たちの仕事や暮らしを考える上で役立つ身近なテーマもたくさんあります。意外なところに経済学が生かされていることも分かるはずです。

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著者プロフィール

渡辺 誠(わたなべ・まこと)

渡辺 誠スペイン・カルロスIII世大学准教授。1996年早稲田大学政治経済学部経済学科卒。98年京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。2006年英エセックス大学経済学博士。専攻は労働経済学、産業経済学や貨幣理論。
 

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