03. 2011年5月18日 18:06:29: Pj82T22SRI
増谷栄一 米4月住宅着工件数、10.6%減=建築許可も4%減 2011/05/18 (水) 17:29【2011年5月18日(水)】 − 米商務省が17日発表した4月の住宅着工件数(季節調整値)は、前月比10.6%減の年率換算52万3000戸と、前月(3月)の12.9%増から減少に転じ、市場予想の56万3000戸も下回った。前年比でも23.9%減と、依然、低迷している。 過去4カ月(1 -4月)の長期トレンドで見ると、前月比で増加したのは1月と3月2回となった一方で、減少も2月と今回の4月の2回と、増減を交互に繰り返して不安定な動きが続いている。 これは着工件数が住宅の完成件数の増減に関係しているからだ。3月の完成件数が前月比12.9%減となったため、4月はそれに合わせて着工件数を減らしたが、4月の完成件数は同4.1%増となったので、5月の着工件数は増える傾向がある。 また、4月までの4カ月間の月平均は56万6000戸と、3月までの4カ月間の同56万6000戸と並んだものの、過去2年間の月平均である57万5000戸を依然下回っており、健全な着工水準といわれる年率120万戸の約半分以下だ。 この4カ月移動平均の数値は、同統計が始まった1959年以降では年間で過去最低となった2009年の55万4000戸を上回ったものの、2010年全体の着工件数である前年比6.1%増の58万7600戸を依然下回っている。 リセッション(景気失速)前の住宅着工のピークは2005年の207万戸だったが、それに比べても27%しか回復していない。また、1959年から2009年までの住宅着工の年平均100万戸超と比べても約57%しか回復しておらず、景気回復の足かせとなっている状況には変わりはない。 ■1-3月着工件数、いずれも上方改定 明るい材料は1-3月の着工件数がいずれも上方改定されたことだ。3月の着工件数はアパートなどの集合住宅が大幅に上方改定されたことから、前回発表時の前月比7.2%増の54万9000戸から、今回は同12.9%増の58万5000戸へと、約6%ポイントも上方改定された。 一方、2月も51万2000戸から51万8000戸へ、1月も62万8000戸から63万6000戸へと、この3カ月間で5万戸も上方改定されている。 しかし、今回発表の4月だけを見ると、2009年4月に付けた過去最低の47万8000戸を9.4%上回ったが、昨年4月(68万7000戸)以来9カ月ぶりの高水準となった1月の63万6000戸を依然18%も下回って、依然、低迷している。 米金融コンサルティング大手IHSグルーバル・サイトは、今年も住宅着工件数は68万5000戸と、低迷が続くと見ている。また、一部には、今後は新築住宅の売れ残り在庫が一段と減少しない限り、2009年前半の水準(上期は年率換算で月平均53万戸)で推移するとの厳しい見方もある。 これは、米不動産調査会社リアルティトラックによると、中古住宅の銀行差し押さえ件数が今年は120万件と、昨年の100万件を上回る見通しで、住宅購入者は住宅価格がどこまで低下するのか様子見にならざるを得ないからだ。 IHSは、2012年には109万戸、2013年には143万戸と徐々に回復するが、景気が健全な状態に戻ったときの150万戸超の水準に達するのは2014年以降になると予想している。 ■主力の一戸建て、5%減=前月は7%増 全体の約75%を占める主力の一戸建ての着工件数は、前月比5.1%減の年率換算39万4000戸と、前月の同7%増の41万5000戸(改定前は同7.7%増の42万2000戸)から減少に転じ、前年比でも30.4%減と、依然、低迷が続いている。また、直近の昨年4月のピーク時の56万6000戸を30%も下回っている。 エコノミストは、一戸建ての不振について、価格的にも格安な中古住宅の売れ残り在庫が高水準のため、新築住宅の着工の必要性がないためと見ている。 また、住宅販売価格が低下する一方で、建築資材の価格が上昇してコスト高となっているため、建築業者が新築着工には二の足を踏んでいることも一戸建ての低迷に拍車をかけている。 ■集合住宅着工、24%減=前月は31%増 一方、月ごとに変動が激しい2世帯以上のアパートやマンションなどの集合住宅は同24.1%減の12万9000戸と、前月の同30.8%増の17万戸(改定前は同5.8%増の12万7000戸)から減少に転じた。 このうち、大半を占める5世帯以上の集合住宅は同28.3%減の11万4000戸と、前月の同42%増の15万9000戸(改定前は同14.7%増の11万7000戸)から減少に転じた。前年比は5.6%増となっている。 また、4月の住宅着工を地域別で見ると、北東部と南部以外は増加した。中西部は前月比15.7%増となったほか、西部も同3.7%増となったが、全体の半分以上を占める主力の南部は竜巻や山火事などの自然災害の影響で同23%減と、2カ月連続の減少となり、北東部も同4.8%減となった。 ■建築許可件数、4%減=横ばい予想を下回る 一方、住宅市場の先行指標である建築許可件数は前月比4%減の55万1000戸と、市場予想の同横ばいの59万戸を大幅に下回った。 前月のデータも前回発表時の前月比11.2%増の59万4000戸から同7.5%増の57万4000戸へ、大幅に下方改定(悪化)されている。 建築許可件数は昨年12月に、前月比11.7%増の63万戸と、2008年6月以来2年6カ月ぶりの高水準を記録したが、これは、今年1月1日からカリフォルニアやペンシルベニア、ニューヨークの3州で新しい建築基準に切り替わるため、建築業者が旧基準の低コストで建築できるよう駆け込み申請した特殊要因によるもので、1月以降は2カ月連続で大幅に減少し、3月にいったんは持ち直したものの、長続きしなかった。 内訳は、主力の一戸建てが前月比1.8%減の38万5000戸と、減少に転じた。また、集合住宅も、大半を占める5世帯以上のアパートが同13.9%減の14万3000戸と、3カ月ぶりに減少に転じた。それとは対照的に、2-4世帯のアパートは同43.8%増の2万3000戸だった。 中古住宅や新築住宅の売れ残り在庫が依然高水準にあることを考えると、今後、住宅着工が急回復に転じる兆候とはならないと見られている。 ■建設中の住宅件数、依然、過去最低 住宅建築業界は新築販売の低迷で高水準の売れ残り住宅在庫を減らすため、着工を抑制し続けている状況には変わりはない。今回の4月統計でも、建設中の住宅件数は前月比0.9%減(前年比14.5%減)の41万8000戸と、依然、1970年の同統計開始以来の過去最低を更新し続けている。 ちなみに、商務省が4月25日に発表した3月の新築住宅販売件数(季節調整値)は前月比11%増の年率換算30万戸と、前月(2月)の同13.5減の27万戸から急反発が、これは前月が米東部・中西部を中心に襲った大吹雪で過去最低を記録した一時的な反動増で、前年比は21.9%減と依然、低迷している。 また、過去3カ月(1-3月)の月平均販売件数も29万4000戸と、前3カ月(2010年12月-2011年2月)の同30万5000戸を3.6%下回って低迷が続いている。 3月の新築住宅の売れ残り住宅在庫(着工前や建築中の住宅も含む)は、前月比1.1%減の18万3000戸と、昨年6月以降10カ月連続の低下しており、3月の販売ペースで計算した在庫水準も7.2カ月分相当と、前月の8.2カ月分(改定前8.9カ月分)相当から大幅に低下(改善)しているが、依然、高水準で住宅建築業界が容認可能な水準6カ月分相当を上回っている。 また、住宅が完成してから実際に売れるまでに要する日数(中央値)は、3月は8.5カ月と、前月の8.1カ月を上回り、2カ月連続で上昇(悪化)している。通常は5カ月なので、依然、販売に手間取っている状況は続いている。 新築販売の低迷の最大要因は、フォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)物件やショートセールズ(フォークロージャー手続きに進む前の早い段階で債務者と債権者が協議して住宅を任意売却)物件セールズなどの、いわゆる格安なディストレスト物件の販売増だ。 ディストレスト物件の市場流入で、3月の中古住宅の価格は前年比5.9%と大幅に低下した一方で、中古に比べて割高な新築住宅の価格も同4.9%低下したものの、それでも中古住宅との価格差は広がる一方で、新築住宅の購入意欲が削がれた状況が続いている。 3月の新築住宅価格の中央値(季節調整前)は、前年比4.9%低下の21万3800ドルと、前月の同6.4%低下に続いて2カ月連続の前年割れとなったが、中古住宅との比較では、3月の中古住宅の中央値15万9600ドルを34%も上回っている状況だ。 これは健全な市場環境では中古と新築の価格差は15%といわれるが、その2倍以上にも格差が広がっていることを示しており、新築住宅の価格は中古住宅並にまで十分低下しなければ需要は喚起されないとの見方がある。 ■5月業況判断指数、16=前月と変わらず 一方、住宅着工統計の前日(16日)に発表された、住宅業界の業況判断を示す今年5月初旬のNAHB(全米住宅建設業者協会)住宅建設業者指数は前月の16と変わらずとなった。 同指数は2009年1月の過去最低の8からは改善傾向にあるものの、依然、好不況の分かれ目となる50を2006年4月以来59カ月連続で下回り続けている。同指数は50を下回ると、大半が業況の悪化を感じていることを示すが、同指数のピークは2005年6月の72。 また、サブ指数で半年先の業況感を示す期待指数は前月の22から20に、2ポイント低下している。 この結果について、NAHBのボブ・ニールセン会長は、「中古住宅市場に格安なフォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)物件やショートセールズ(フォークロージャー手続きに進む前の早い段階で債務者と債権者が協議して住宅を任意売却)物件が増えて新築住宅との競争が激化していることや、販売契約後の住宅価格の値下がりで契約のキャンセルが増えていること、建築業者も銀行からの融資が困難なこと、政府の住宅支援を減額する動きなどで、住宅建築の先行き見通しが不透明になっている」と、述べている。 さらに、同会長は「最近のガソリン価格の急騰で、消費者は一段と住宅購入に慎重になっている」とし、新たに原油高騰によるガソリン価格の上昇も市場悪化要因となっていることを指摘している。 ■4月フォークロージャー、9%減=手続き遅延で 一方、米不動産調査会社リアルティトラックが12日発表した、住宅着工を抑制する最大要因となっている4月のフォークロージャー件数(デフォルト通知や競売通知、銀行差し押さえ件数の合計)は前月比9%減(前年比34%減)の21万9258戸と、3月の同7%増から減少に転じ、40カ月ぶりの低水準となった。 また、これでフォークロージャー件数は6カ月連続で30万戸割れとなり、前年割れも7カ月連続となったが、同社のジェームズ・サカシオCEO(最高経営責任者)は、これは、いわゆる、"robo-signing"という、専門家の監査を受けずに融資担保物件を差し押さえた問題で、一部の大手金融機関がフォークロージャーの書類審査が適切だったかどうかを確認するための見直し作業に入っており、その間は、フォークロージャー手続きやデフォルト物件の売却が停止されるため、見かけ上、減少しているだけで、住宅回復による減少ではない、と指摘する。 実際、1-3月期の銀行による住宅差し押さえ手続きの通知から完了までに要した日数は平均400日で、これは前年同期の340日より約2割も余計にかかっていることからも明らかだ。また、2007年第1四半期(1-3月)の151日の2.6倍にもなっている。特に、ニュージャージー州とニューヨーク州では900日以上と、両州の2007年当時の3倍も日数がかかっているほどだ。 言い換えれば、フォークロージャー手続きが遅れていることを示すもので、エコノミストは、今後、中古住宅市場へのフォークロージャー物件の流入が長期化し住宅市場の回復が思ったよりも厳しくなる可能性があると見ている。 内訳は、新規のデフォルト通知件数が前月比14%減(前年比39%減)の6万3422件と、減少し、競売通知件数も同7%減(前年比37%減)の8万6304件と、31カ月ぶりの低水準となっている。他方、銀行差し押さえ件数は同5%減(同25%減)の6万9532件となっている。 サカシオCEOは、昨年第4四半期(10-12月)のフォークロージャー件数が"robo-signing"の影響で前期比14%減となったが、この影響がなければ、2010年全体の件数は300万件を超えていたという。2010年のフォークロージャー件数は前年比1.7%増の287万1891万戸と、過去最高を記録した。 また、同CEOは、昨年第4四半期に"robo-signing"によるフォークロージャー手続きが停止となった件数は最大で25万件に達していると推定、「これは25万件の手続きが再び動き出せば、この分が2011年のフォークロージャー件数に上乗せされることになる」と指摘している。 しかし、4月13日に発表された今年第1四半期(1-3月)のフォークロージャー件数は前期比14.8%減(前年比26.9%減)の68万1153件と、増加しておらず、フォークロージャー処理が依然遅れていることを示しており、依然、最悪の状況は脱していない。 (了) Clip to Evernote 関連記事 米3月住宅着工、7.2%増=不安定な動き続く | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | FX(外国... 米2月住宅着工、22.5%減=前月のアパート急増の反動減 | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル |... 米6月住宅着工、2カ月連続で減少=2番底懸念広がる | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | FX... 米1月住宅着工、急反発も一時的か=主力の一戸建て減少続く | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル |... 米11月住宅着工、3カ月ぶり反発で底入れか=一戸建てが牽引 | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル ... 米10月住宅着工、2カ月連続で減少=前月は大幅下方改定 | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | ... 米12月住宅着工、再び減少=一戸建てが急減 | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | FX(外国為... 米9月住宅着工、3カ月連続で増加=危機脱したか | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | FX(外... 米3月新築住宅販売、反発=前月の天候要因剥落で | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル | FX(外... 米8月住宅着工、予想上回る+10.5%でも先行き楽観できず | 増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル ... |