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インフレで年金老人や生産性の低い企業の生活(賃金)水準が低下することを覚悟するなら可能だろうが
あまり日銀に期待しても無駄だとは思う
日銀は今こそ過去20年間の蓄えを使え
円安、賃金高、株高誘導で震災を転機に
2011.05.12(Thu) 武者 陵司
日本には過去20年間の潤沢な蓄えがあり、震災がそれを発揮する契機になる。過去20年間の蓄えとは、円高とデフレである。
円高とデフレは、日本の賃金、株や不動産などの資産価格において本来価値(Value)からかけ離れた低市場価格(Price)を形成せしめた。価値と市場価格の差額は蓄えと言え、いずれ賃金上昇、株高となって戻ってくる。
震災後の適切なリフレ政策が実施され、賃金と資産価格が本来の価値を取り戻せば、賃金上昇と株高が起こり、日本経済を長期停滞から救出するだろう。
円安で賃金デフレは終わる
労働の価格は為替によって変化する。しかし、労働の価値は生産性によって決まるのであり、為替が変わっても不変である。だとすると、為替水準が変化することによって労働の価値と価格の間にギャップが生まれる。そうしたギャップが各国の国民経済に賃上げか、あるいは賃下げかの圧力を与える。
「失われた20年」の主因である長期にわたる賃金下落は、労働生産性を上回る円高によって日本の賃金水準が国際水準から見て非常に高くなり、引き下げる圧力が働き続けたためと考えられる。その結果、日本の労働者だけが、生産性上昇の果実を享受できなかったのである。
しかし1ドル100円になれば、日本の賃金には2割の上昇圧力が与えられる。日本の労働者は労働の価値に見合う価格を受け取ることができるようになる。
日銀は量的緩和拡大へ
どうすれば円高とデフレを終わらせることができるかは、米連邦準備理事会(FRB)が見事な処方箋を示してくれた。ゼロ金利でも効かない時には量的金融緩和を続ければいいのである。
2010年末からのQE2(量的金融緩和第2弾)によりFRBのバランスシートは大きく増加し、株高とドル安が米国のデフレ圧力を著しく減殺した。
日銀もFRBに追従する姿勢を見せている。白川方明日銀総裁は「必要な場合には適切な措置を講じる」と語り、西村清彦副総裁は量的緩和の拡大(資産買い取りを10兆円から15兆円に増額)を提案した(4月28日政策決定会合で)。
円高阻止でG7の合意が得られている以上、円安誘導に何の問題もないはずである。この日銀の姿勢は円の天井感の形成に、大いに役立つ。世界的にはドル安が続いたとしても、対円では80ドル/円を超える円高はあり得ない(あったとしてもごく一時的)と考えられるのである。
株高が経済好循環の起点に
FRBが示したように、量的金融緩和は株価など資産価格に対しても大きな影響を及ぼす。
日本の株式益回りは7%、長期金利は1%、差し引き6%のプレミアムがある。このプレミアムは歴史的にも諸外国との比較でも極端に大きく、日本株の割安さ(価値と価格とのギャップ)を示している。
この6%のプレミアムは値下がり準備金と考えられるのではないか。過去20年間で株価は3分の1に低下した。それは年率5%のペースであり、投資家は5%の値下がりを織り込んだ価格を求めていると考えられる。しかしこれ以上の値下がりがないところまで株価が低下したとすると、この5%の値下がり準備金は投資に対する超過利潤となる。
FRBの経験にならい、日銀が(資産購入を増額して)株価のフロアを設定すれば、5%の超過利潤を求めて投資家が日本株に殺到するだろう。
同様の事情は不動産価格にも共通する。東京の不動産のスプレッド(投資利回り−長期金利)は世界最高であり、日本の不動産の割安さを示している。
過去20年間で1500兆円前後の株式、不動産価値が消えた。毎年100兆円弱、GDPの20%近い富が減少してきたわけであるから、深刻な負の資産効果を経済に与えた。極端なリスク回避が行われ、国民の金融所得の減少は内需に深刻な影響を及ぼし続けた。
しかし、現在の資産価格は、妥当な水準よりも大幅に下がっている。私はかねてこれを「マイナスのバブル」と呼んでいるが、今回の震災によって打ち出されるであろう本腰を入れたリフレ政策は資産デフレを資産インフレに転換させる可能性がある。それは、これまでとは逆に年間50兆〜100兆円レベルという膨大な資産効果をもたらす。
TARP(米国問題資産救済プログラム)の成功に学べ
リーマン・ショックは大不況を招くことなく収束した。そのカギとなったのは総予算7000億ドルの「TARP(Troubled Asset s Relief Program)」の成功である。
実際に支出された額は4110億ドルであるが、その6割を占める銀行支援プログラムは、返済と売却益等で既に黒字(回収超過)となっている。今残っている残高の大半はAIGとゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーの自動車2社の株式であり、それらも赤字は回避できると推測されるので(AIGは5月にIPO=新規株式公開=実施)、結局巨額の財政支援はコストゼロ(または若干のプラス)で終わることとなる(表1参照)。
この成功の要因は資産価格の上昇である。売り叩かれ、価値(Fair Value)に比べて著しく割安となった市場価格(Price)に当局が介入し、その後の価格上昇で経済と金融が安定化したばかりか、支援プログラムに利益をもたらしたのである。2008年末時点での米国の社債大暴落、住宅ローン債権暴落が価値を反映したものでないことは、その後市場価格が回復していることから明らかであろう(図8、9)。
資産価格が「マイナスのバブル」化している(市場価格が価値を大きく下回っている)ことは、市場が恐怖心に冒され正常に機能していないことの表れであるが、当局の果敢な対応により、価格是正と経済金融回復が同時になされたと言えるのである。
この環境は今の日本に、完全に当てはまる。日本は政策次第で賃金上昇と株高を実現できる好機にある、と言える。これこそ「失われた20年」に蓄えた日本の貯蓄である。
空前の国難の今、それを使わない手はない。これはフリーランチでもモラルハザードでも全くない。
健全な米国株式、5月相場にも不安は小さい
市場格言は「Sell May and go away」と言うが、今年は様相が異なる。米国株式は依然割安、日本の震災ショックでいったん急落するなど、投資家に過度の楽観もない。
米国株式はギリシャ・ショック、ユーロ危機も克服、リーマン・ショック時に6割の大暴落を経験したが2年後には2倍に回復した。しかし株価回復は米国企業収益回復に比べればむしろ緩慢であり、割安感が続いている(図10参照)。
企業利益はグローバリゼーションとインターネット革命による生産性の向上に支えられている。雇用と消費回復が本格化してくれば収益は一段と向上するだろう。図11に見るようにS&P(スタンダード&プアーズ)500のROE(株主資本利益率)は2012年に過去のピークを超えていくと予想されている。
金融市場におけるリスクテイク意欲も高まっている。特にヘッジファンドの隆盛が鮮明になってきた。ハイテクの主役がIBMなどの既存大企業からグーグル、フェイスブックなどの新興企業にシフトしたように、金融も新興企業の出番となりつつある。
グリーンスパン前FRB議長は、規制の強化が金融活動を阻害しているとの理由から、新しく成立した金融規制法に厳しい批判を加えている。神の見えざる手により、金融市場はより効率的に機能し得る、との信念である。
制度の最終的な落ち着きどころはいまだ不明だが、金融が進化しビジネスチャンスが拡大していることは確かである。米国経済と金融はダイナミズムを強めている。
米株高と円のピークアウトで、5月の日本株式は期待できそうである。ニュースフローは震災復興関連でポジティブなものが多くなるだろう。
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