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日銀は今こそ過去20年間の蓄えを使え 円安、賃金高、株高誘導で震災を転機に
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/751.html
投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 12 日 08:00:57: 6WQSToHgoAVCQ
 

インフレで年金老人や生産性の低い企業の生活(賃金)水準が低下することを覚悟するなら可能だろうが

あまり日銀に期待しても無駄だとは思う





日銀は今こそ過去20年間の蓄えを使え


円安、賃金高、株高誘導で震災を転機に







2011.05.12(Thu) 武者 陵司



日本には過去20年間の潤沢な蓄えがあり、震災がそれを発揮する契機になる。過去20年間の蓄えとは、円高とデフレである。


 円高とデフレは、日本の賃金、株や不動産などの資産価格において本来価値(Value)からかけ離れた低市場価格(Price)を形成せしめた。価値と市場価格の差額は蓄えと言え、いずれ賃金上昇、株高となって戻ってくる。


 震災後の適切なリフレ政策が実施され、賃金と資産価格が本来の価値を取り戻せば、賃金上昇と株高が起こり、日本経済を長期停滞から救出するだろう。


円安で賃金デフレは終わる

 労働の価格は為替によって変化する。しかし、労働の価値は生産性によって決まるのであり、為替が変わっても不変である。だとすると、為替水準が変化することによって労働の価値と価格の間にギャップが生まれる。そうしたギャップが各国の国民経済に賃上げか、あるいは賃下げかの圧力を与える。


 「失われた20年」の主因である長期にわたる賃金下落は、労働生産性を上回る円高によって日本の賃金水準が国際水準から見て非常に高くなり、引き下げる圧力が働き続けたためと考えられる。その結果、日本の労働者だけが、生産性上昇の果実を享受できなかったのである。



図1 主要国の賃金推移(1990年=100)、出所:経済協力開発機構(OECD)、武者リサーチ


 しかし1ドル100円になれば、日本の賃金には2割の上昇圧力が与えられる。日本の労働者は労働の価値に見合う価格を受け取ることができるようになる。



図2 主要国の通貨推移(90年1月実効レート=100)、出所:イングランド銀行、ブルームバーグ、武者リサーチ










日銀は量的緩和拡大へ


 どうすれば円高とデフレを終わらせることができるかは、米連邦準備理事会(FRB)が見事な処方箋を示してくれた。ゼロ金利でも効かない時には量的金融緩和を続ければいいのである。


 2010年末からのQE2(量的金融緩和第2弾)によりFRBのバランスシートは大きく増加し、株高とドル安が米国のデフレ圧力を著しく減殺した。


図3 FRB総資産推移、出所:米国連邦準備制度(FRB)、武者リサーチ



 日銀もFRBに追従する姿勢を見せている。白川方明日銀総裁は「必要な場合には適切な措置を講じる」と語り、西村清彦副総裁は量的緩和の拡大(資産買い取りを10兆円から15兆円に増額)を提案した(4月28日政策決定会合で)。


図4 日銀総資産推移、出所:日本銀行、武者リサーチ


 円高阻止でG7の合意が得られている以上、円安誘導に何の問題もないはずである。この日銀の姿勢は円の天井感の形成に、大いに役立つ。世界的にはドル安が続いたとしても、対円では80ドル/円を超える円高はあり得ない(あったとしてもごく一時的)と考えられるのである。

株高が経済好循環の起点に


 FRBが示したように、量的金融緩和は株価など資産価格に対しても大きな影響を及ぼす。


 日本の株式益回りは7%、長期金利は1%、差し引き6%のプレミアムがある。このプレミアムは歴史的にも諸外国との比較でも極端に大きく、日本株の割安さ(価値と価格とのギャップ)を示している。









 この6%のプレミアムは値下がり準備金と考えられるのではないか。過去20年間で株価は3分の1に低下した。それは年率5%のペースであり、投資家は5%の値下がりを織り込んだ価格を求めていると考えられる。しかしこれ以上の値下がりがないところまで株価が低下したとすると、この5%の値下がり準備金は投資に対する超過利潤となる。


 FRBの経験にならい、日銀が(資産購入を増額して)株価のフロアを設定すれば、5%の超過利潤を求めて投資家が日本株に殺到するだろう。



図5 日本株のリスクプレミアム推移、出所:ブルームバーグ、武者リサーチ


 同様の事情は不動産価格にも共通する。東京の不動産のスプレッド(投資利回り−長期金利)は世界最高であり、日本の不動産の割安さを示している。


図6 主要都市不動産投資の採算推移、(注)2010年は6月末値、出所:コリアーズインターナショナル、ブルームバーグ、武者リサーチ

 過去20年間で1500兆円前後の株式、不動産価値が消えた。毎年100兆円弱、GDPの20%近い富が減少してきたわけであるから、深刻な負の資産効果を経済に与えた。極端なリスク回避が行われ、国民の金融所得の減少は内需に深刻な影響を及ぼし続けた。


 しかし、現在の資産価格は、妥当な水準よりも大幅に下がっている。私はかねてこれを「マイナスのバブル」と呼んでいるが、今回の震災によって打ち出されるであろう本腰を入れたリフレ政策は資産デフレを資産インフレに転換させる可能性がある。それは、これまでとは逆に年間50兆〜100兆円レベルという膨大な資産効果をもたらす。


図7 日本の「株+土地時価」の推移、(注)2009年と2010年は武者リサーチによる推定、出所:総理府(国民経済計算年報)、武者リサーチ








TARP(米国問題資産救済プログラム)の成功に学べ


 リーマン・ショックは大不況を招くことなく収束した。そのカギとなったのは総予算7000億ドルの「TARP(Troubled Asset s Relief Program)」の成功である。


 実際に支出された額は4110億ドルであるが、その6割を占める銀行支援プログラムは、返済と売却益等で既に黒字(回収超過)となっている。今残っている残高の大半はAIGとゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーの自動車2社の株式であり、それらも赤字は回避できると推測されるので(AIGは5月にIPO=新規株式公開=実施)、結局巨額の財政支援はコストゼロ(または若干のプラス)で終わることとなる(表1参照)。



表1 TARP(問題資産救済計画)の収支(2011年4月末、10億米ドル)、出所:米国財務省、武者リサーチ


 この成功の要因は資産価格の上昇である。売り叩かれ、価値(Fair Value)に比べて著しく割安となった市場価格(Price)に当局が介入し、その後の価格上昇で経済と金融が安定化したばかりか、支援プログラムに利益をもたらしたのである。2008年末時点での米国の社債大暴落、住宅ローン債権暴落が価値を反映したものでないことは、その後市場価格が回復していることから明らかであろう(図8、9)。


図8 米国社債リスクプレミアム(BB-10年国債)、出所:ブルームバーグ、武者リサーチ


図9 サブプライムローン債権市場価格(ABX指数)推移、(注)2011年4月28日現在、出所:MarkitのABX指数より武者リサーチ作成


 資産価格が「マイナスのバブル」化している(市場価格が価値を大きく下回っている)ことは、市場が恐怖心に冒され正常に機能していないことの表れであるが、当局の果敢な対応により、価格是正と経済金融回復が同時になされたと言えるのである。









 この環境は今の日本に、完全に当てはまる。日本は政策次第で賃金上昇と株高を実現できる好機にある、と言える。これこそ「失われた20年」に蓄えた日本の貯蓄である。


 空前の国難の今、それを使わない手はない。これはフリーランチでもモラルハザードでも全くない。


健全な米国株式、5月相場にも不安は小さい


 市場格言は「Sell May and go away」と言うが、今年は様相が異なる。米国株式は依然割安、日本の震災ショックでいったん急落するなど、投資家に過度の楽観もない。

 米国株式はギリシャ・ショック、ユーロ危機も克服、リーマン・ショック時に6割の大暴落を経験したが2年後には2倍に回復した。しかし株価回復は米国企業収益回復に比べればむしろ緩慢であり、割安感が続いている(図10参照)。



図10 米国株式のリスクプレミアム、(注)実質金利は10年国債利回り-コアCPI、出所:ブルームバーグ、武者リサーチ


 企業利益はグローバリゼーションとインターネット革命による生産性の向上に支えられている。雇用と消費回復が本格化してくれば収益は一段と向上するだろう。図11に見るようにS&P(スタンダード&プアーズ)500のROE(株主資本利益率)は2012年に過去のピークを超えていくと予想されている。



図11 米国S&P500社のROE推移と予想、出所:ブルームバーグ、武者リサーチ


 金融市場におけるリスクテイク意欲も高まっている。特にヘッジファンドの隆盛が鮮明になってきた。ハイテクの主役がIBMなどの既存大企業からグーグル、フェイスブックなどの新興企業にシフトしたように、金融も新興企業の出番となりつつある。

 グリーンスパン前FRB議長は、規制の強化が金融活動を阻害しているとの理由から、新しく成立した金融規制法に厳しい批判を加えている。神の見えざる手により、金融市場はより効率的に機能し得る、との信念である。


 制度の最終的な落ち着きどころはいまだ不明だが、金融が進化しビジネスチャンスが拡大していることは確かである。米国経済と金融はダイナミズムを強めている。


 米株高と円のピークアウトで、5月の日本株式は期待できそうである。ニュースフローは震災復興関連でポジティブなものが多くなるだろう。


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この度、「特別緊急企画:被災地への全額義援金セミナー」を開催致しますので、この場をお借りしてご案内申し上げます。今が日本経済の歴史における大きな転換期であり、日本の強さと将来展望を、皆様と共に考えたいと思います。皆様にご参集いただけることを願っております。

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    コメント
     
    01. 2011年5月12日 11:02:53: cqRnZH2CUM
    日本のデフレ脱却と高インフレ化はかっては軍事費の日銀引き受けでなされたが、
    今回は震災需要と膨張する高齢者福祉の日銀引き受けによってなされることになりそうだ

    http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2011/05/11/012683.php

    三橋貴明第101回 「歴史の教訓」と「通貨の信認」
    2011/05/10 (火) 11:30


     1929年7月。ウォール街株式大暴落(1929年10月)を切っ掛けに、世界的な大恐慌が始まるわずか三ヶ月前、日本で濱口内閣が 成立し、金本本位制復帰を目指した緊縮財政、産業合理化などの「改革」が開始された。その年の暮れ頃、アメリカ発の恐慌が伝播し、日本経済は「昭和恐慌」 と呼ばれるデフレ不況に見舞われた。
     濱口雄幸内閣、若槻禮次郎内閣と、二つの内閣が短命のうちに倒れた。後を引き継いだ犬養毅内閣の大蔵大臣、高橋是清は、濱口内閣、若槻内閣のデフレーション政策を放棄。政府支出拡大と赤字国債発行、さらには日銀の国債引き受けによる恐慌対策に乗り出した。
     日銀国債引き受けでマネタリーベースが拡大し、円の為替レートは下落。政府支出(軍事費など)拡大と輸出増という二つのエンジンが回り始め、日本経済は早々にデフレから脱却することができた。
     さて、この高橋是清による日銀国債引き受けが行われた期間、日本の物価はどのように変動したのだろうか。高橋是清が大恐慌発生後に大蔵大臣の座に就いていたのは、1931年12月13日から、1936年2月27日までである。
     1923年から1945年までの、東京小売物価指数の動きを見てみよう。
    【図101−1 東京小売物価指数(対前年比変動率)】)】出典:消費者庁「戦前からの物価指数の長期系列」
     東京の小売物価指数の変動率であるため、全国的なCPI(消費者物価指数)ではないが、それにしても1920年代から大恐慌期までの日本の「低インフレ率」には驚かされる。 
     グラフの始まりである1923年は、関東大震災が発生した年である。関東大震災は、何しろ首都東京を直撃したため、日本国内の金融システムが一時的に麻痺状態に陥ってしまった。
     さらに、震災復興で需要が回復した直後、日本政府が緊縮財政に舵を切った(まさに橋本政権である)結果、日本経済は深刻なデフレ状況に陥ってしま う。1926年の東京小売物価指数は、対前年比で8%超も下落したわけであるから、まさしく「デフレ」である。この時期の日本のデフレを、昭和金融恐慌と 呼び、先の昭和恐慌と区別している。
     当時の日本のデフレは、高橋是清蔵相(田中義一内閣)が実施した紙幣増刷などにより、ようやく収まった。
     その後、日本経済は何とかデフレ脱却に向けて歩み始めたわけだが、アメリカ発の大恐慌と濱口内閣の緊縮財政、産業合理化により、またまたデフレに突っ込んでしまう。1930年の東京小売物価指数は、何と対前年比で14.6%のマイナスになった。
     またもやデフレに落ち込んでしまった日本経済を救うため、高橋是清が蔵相として再登板し、先の日銀国債引き受けや政府支出拡大といった、いわゆる リフレーション政策が採られた。結果、日本経済は世界が羨むほどのスピードで、早期に恐慌状態から脱出することができたのである。
     その後、高橋是清は1936年2月26日の226事件で命を落とすことになる。高橋是清が狙われた最大の理由は、1934年に発足した岡田啓介内 閣の大蔵大臣として、先の犬養内閣の大蔵大臣時代に、自ら始めたリフレーション政策が目標を達したとして、軍事費の削減に乗り出したためである。
    (2/3に続く)
     いずれにせよ、関東大震災から226事件まで、日本のインフレ率はきわめて低い水準(多くの年でマイナス)で推移した。その後、1937年に日中戦争が始まり、東京の小売物価指数は上昇していく。
     今も昔も、戦争こそが最もインフレ率を高める。何しろ、戦争の主役を務める軍隊は、ひたすら消費をするだけで、生産行為はほとんど行 わない組織だ。日本国内で生産される武器弾薬は、次々に軍隊により消費されるわけだが、その費用はもちろん政府支出により賄われる。政府支出にしても、 GDPの需要項目の一部だ。リソースが軍に割かれ、供給能力が高まりにくい中、需要が拡大する一方になるため、物価は上昇傾向に向かうわけである。
     もっとも、日中戦争期の日本の物価上昇率は、図101−1の通り、高くても対前年比で16%(1940年)である。例えば、1974年の「狂乱物価」の時代の日本のCPI上昇率は、23.2%であった。日中戦争期は物価上昇率が高まったとはいえ、オイルショック後の日本のCPI上昇率を下回っているのである。
     日本の物価上昇が本格化するのは、1941年以降だ。すなわち、太平洋戦争勃発以降なのである。
     いずれにせよ、高橋是清存命の時代、東京小売物価指数の上昇率は、ピークの1933年であっても6.5%に過ぎなかった。小売物価指数上昇率 6.5%を「凄まじいインフレ!」と評価するかどうかは、個人の価値観の問題ではある。とはいえ、少なくとも数字で見る限り、当時の物価上昇率が高度成長 期の日本を下回っていたのは確かだ。
     すなわち、日銀の国債引き受けが「インフレを暴走させた」という歴史的事実は存在しない。何しろ、当時の日本は現在同様にデフレ状況、あるいは恐 慌状況だったのだ。デフレとは、国内の供給能力が「充分過ぎる」状況である。そんな環境下において、日銀が国債を引き受け、日本円を市場に供給したところ で、少なくとも「インフレが暴走」するなどという事態は発生し得ないのだ。
     もちろん、戦争が激化し、軍需が急拡大した場合は話が別だ。供給が需要に追いつかなくなれば、当然ながら物価は上がっていく。とはいえ、少なくと も226事件以降の日本の物価上昇は、高橋是清が実施した日銀国債引き受けのためではない。単純に、戦争が拡大した結果、軍隊の需要が急増し、日本国内の 供給能力が追いつかなくなったためである。
    『2011年5月9日 ロイター「財務省出席者が果断な金融政策を要望=日銀会合議事要旨」
     日銀が9日に発表した4月6─7日開催の金融政策決定会合の議事要旨では、財務省出席者が「日銀においては今後とも、東日本大震災が経済や市場に 与える影響や復興の状況等を踏まえながら、果断な金融政策対応をお願いしたい」と発言したことが明らかになった。また一部取りざたしている日銀による国債 引き受けについては「政府として検討していない」と明言している。
     議事要旨によると、ある委員は「最近、復興財源を捻出するため、日銀が国債を引き受けるべきとの主張が一部に聞かれるが、そうした取り扱いは、初 めはうまくいったようにみえても、早晩、激しいインフレを招き、国民生活に大きな打撃を与えたというのが歴史の教訓であり、この点について、広く理解を得 る努力を続ける必要がある」と述べた。複数の委員は「中央銀行による国債引き受けが行われ、通貨への信認が毀損すると、長期金利の上昇や金融市場の不安定 化を招き、現在、円滑に行われている国際発行が困難になるおそれもある」との認識を示した。(後略)』
     いつも思うのだが、日銀の国債引き受けに反対する人たちが言う「歴史の教訓」とは、具体的に「いつ」を指しているのだろうか。「歴史の教訓」という言葉を使っている以上、何年何月の何々内閣による国債引き受けと、特定できるはずだ。
     現実には、日銀の国債引き受けが「激しいインフレを招き、国民生活に大きな打撃を与えた」などという事実は存在しない。少なくとも、太平洋戦争時 の物価上昇も、あるいは戦後の混乱期におけるインフレ率高騰も、高橋是清の日銀国債引き受けとは関係がない。太平洋戦争のような大戦争を戦い、国内の工場 などが空襲で焼け野原にされてしまえば、国債引き受けをしようがしまいが、インフレ率は高騰するだろう。
     何しろ、太平洋戦争終了時、日本の供給能力は戦前の二割にまで落ち込んだと考えられているのだ。それまで「100」生産できていた日本経済が、 「20」しか生産できなくなってしまったわけだ。戦争で多くの日本人が亡くなったとはいえ、需要のほうまでもが二割に落ち込むわけではない。当時の日本経 済の供給能力が、国民の需要を満たすことができず、物価が急騰したのは、当たり前すぎるほど当たり前である。
    (3/3に続く)(2/3の続き)
     さらに、日銀が国債引き受けや国債買い入れを拒否する際に使う「通貨の信認」とは、一体何を意味するのだろうか。「通貨の信認」の定義は、日本円 の為替レートではないのだろうか。そうだというのであれば、現在の日本円という通貨の信認は、むしろ強すぎる。何しろ、日本円は大震災が発生した直後に史 上最高値をつけてしまうほど、世界各国により買い込まれてしまっているのだ。
    【図101−2 日米マネタリーベースの推移(06年1月−11年2月)】出典:日本銀行、FRB
     日本円の「信認が強すぎる」理由は、明々白々である。世界の基軸通貨であるアメリカ・ドルを管理するFRBが、08年9月のリーマンショック以降、銀行 などが保有するGSE債(政府保証債)や長期米国債を買い上げ、マネタリーベースとして市場にドルを供給している中、日本銀行が「何もしていないに等し い」ためである。
     図101−2の通り、FRBはリーマンショック後、市場からGSE債や国債を買い上げ、代わりに各銀行の準備預金口座にドルを供給する量的緩和を 継続している。結果、08年9月時点では9051億ドルに過ぎなかったアメリカのマネタリーベースは、2011年2月には2兆2063億ドルを超えてい る。マネタリーベースが、およそ2.5倍に拡大したわけである。
     それに対し、日本のマネタリーベースは、08年9月時点が88兆3741億円であるのに対し、2011年3月現在でも112兆7432億円である。リーマンショック直後と比べ、わずかに1.27倍になったに過ぎないのだ。
     これだけ日本銀行が「相対的に」マネタリーベースを絞り込んでしまうと、日本のデフレが継続するのはもちろん、実質金利が上昇し、為替レートは円 高傾向に触れてしまう。現実に円高が続いている以上、日本銀行は「世界で必要とされている量」の日本円を発行していないのである。
     例えば、日本銀行が何らかの経済的ロジックに基づき、国債引き受けや長期国債買取に二の足を踏んでいるのであれば、それは構わない。そのロジックを、きちんと説明すれば済む話だ。
     ところが、現実に聞こえてくるのは「歴史的教訓」や「通貨の信認」といった、イメージ優先のフレーズばかりだ。筆者が忌み嫌っている「国の借金」「国民一人当たり借金」などのフレーズと、本質は全く同じである。
     経済とは、全てが数字で説明できる。少なくとも、日本の通貨発行権を国民から委譲されている以上、日本政府や日本銀行は、東日本大震災のような国難に直面してなお、日銀の国債引き受けを拒否する理由を「数字」に基づいて説明する必要があると思うわけだ。
    本ブログの「デフレ」関連記事はこちら。


    02. 2011年5月12日 12:17:47: cqRnZH2CUM
    >第1は対外資産の取り崩し。第2は、増税。そして、第3は、日銀の出動

    金利上昇を避けるには 結局、日銀頼みということになるか

    http://diamond.jp/articles/-/12213
    復興資金の増加に伴う金利上昇は、日本経済を揺るがす大問題 【第12回】 2011年5月12日
    野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
     今年の秋ごろから復興投資が増加するが、そこで懸念されるのは、金利の上昇である。
     金利の上昇とは、国債価格の下落である。日本の金融機関は膨大な量の国債を保有しているので、その価格の下落は、大問題だ。個別企業に対する貸付 の不良債権化とは比べものにならない大きな影響を金融機関に与える。これは、1990年代の前半に生じた不良債権問題より大きなインパクトを日本経済に与 える可能性がある。
     しかし、「そうした事態は生じない」という意見が多い。その論拠として言われているのは、つぎの2点だ。
     第1は、「これまで、大量の国債発行が続いたにもかかわらず、それらは順調に消化されてきた。長期金利も上昇することはなかった。国債暴落をあてこんで外国のヘッジファンドが投機を仕掛けたが、すべて失敗した。だから、今後も大丈夫だろう」というものだ。
     第2は、「仮に資金需要が増加するにしても、企業は多額の余裕資金を持っている。また、政府も株式などの金融資産を保有している。それで復興資金も賄えるし、国債の消化にも支障は出ない」というものである。
     しかし、これらの議論は、いずれも誤りである。その理由を以下に述べよう。
    これまでの国債消化のメカニズムが働かなくなった
     まず、第1点について見よう。
     これまでは、確かに国債の消化は順調に進んできた。ただし、重要なのは、「なぜ順調に進んだのか?」ということだ。
     過去10年間程度について言えば、その答えは、「企業の資金需要がなかったから」だ。したがって、金融機関は、企業に対する貸出を減らし、その代わりに国債を購入したのである(注1)。
     企業の資金需要がなかったので、国債が増発されても、資金需給がタイトになることはなかった。だから、金利も上昇しなかった。このプロセスは、今後10年間程度は継続できると考えてよかった。
     しかし、東日本大震災で条件が一変してしまったのである。そして、今後は、このメカニズムが働かなくなった。なぜなら、復興投資が生じるからだ。 企業、家計、政府のいずれのセクターでも資金需要が増大するので、これまでのように、「金融機関が対企業貸出を減らすことで国債を購入する」というメカニ ズムが働かなくなってしまうのである。
     投資増加がどの程度の規模になるかは、震災による損害をどの程度のスピードで復旧させるかに依存する。しかし、投資が従来より1割程度増加する可能性が高い。これは、かなり顕著な増加である。
    (注1)詳しくは、拙著『大震災後の日本経済』、第4章を参照。
    次のページ>>個々の企業は余裕資金で対処できても、経済全体ではクラウディングアウトに
    個々の企業は余裕資金で対処できても、経済全体ではクラウディングアウトになる
     つぎに、「企業が余裕資金を持っているから大丈夫」という点について述べよう。
     企業が余裕資金を持っているのは、事実である。2008年末では、非金融法人企業の金融資産残高が約760兆円(うち、現金・預金が201兆円) ある(民間非金融法人企業では、金融資産残高が約725兆円、うち現金・預金が189兆円)。なお、金融負債は1129兆円(うち、借入が413兆円) だ。「預金が200兆円もある」というのは、一見すると、かなりの「余裕」のように見える。
     しかし、重要な点は、「それらの資金は、手つかずの紙幣として会社の金庫に眠っているわけではなく、すでに何らかの用途に運用されている」ということだ。例えば、銀行の預金になっている。そして、銀行はそれを貸し付けや国債の購入にすでに充ててしまっているのである。
     個々の企業の立場から見れば、確かに、預金を取り崩して工場再建資金に充てることができる。しかし、そうなれば金融機関は預金が減るので、金融機関は何らかの調整をする必要があるのだ。例えば、他の企業に対する貸し付けを回収しなければならなくなる。
     これは、民間企業だけでなく、政府が保有している株式についても、まったく同じである。政府がNTT株などを保有していることは事実である。しか し、仮に政府がNTT株を売却すれば、誰かがそれを購入しなければならない。金融機関が購入するのであれば、金融機関がバランスシートを調整しなければな らない。
    「企業が余裕資金を持っているから」とか、「政府は株式を持っているから」という議論は、個々の企業や政府の立場からものを見ているだけであって、「経済全体ではどうなるか?」という視点が欠けているのだ。
    「企業が余裕資金を持っているから大丈夫」というのは、個別企業にとっては確かに正しい。しかし、経済全体では正しくない。これは、「合成の誤謬」に陥った論理である(注2)。
     以上は、別に難しいことを述べているのではなく、考えてみれば当然のことを言っているだけである。
     国内で資産を売却した主体は資金調達ができるが、売られた方は、それに伴う調整を行なわなければならない。こうした取引を行なっても、各経済主体のバランスシートが変化するだけで、国全体として利用可能な資金量が増えるわけではないのだ。
     ところで、復興投資が増えるということは、国全体として新しい資金需要が増えるということである。仮に家計や企業の預金が増えれば、それによって 新しい資金需要を吸収することができる。これまでは、そうしたことがあった。しかし、いまは、この可能性はない。だから、「クラウディングアウト」(混雑 による押し出し現象)が起こるのである。
    (注2)「家計が1400兆円を超える金融資産を持っているから大丈夫」というのも、同じ理由で誤った考えである。
     資産売却が日本に資金をもたらす唯一の可能性は、日本が保有する対外資産を売却する場合である。これについては、後で述べる。
    次のページ>>フローとストックでのバランス式
     以上で述べたことを要約すれば、つぎのとおりだ。
    (a1)これまで国債が順調に消化されてきたのは、企業の資金需要がなかったからである。家計の金融資産が巨大であるからではない。(a2)しかし、そのメカニズムは、東日本大震災で機能しなくなった。(a3)「企業が余裕資金を持っているから大丈夫」という考えは、経済全体では成立しない。
     以上のことは、なかなか一般に理解されていない。しかし、日本経済の今後を考える際にはきわめて重要である。そこで、やや迂遠だが、なぜ以上のような結論が成立するのかを、以下に説明することにしよう。
     まず、国全体について、つぎの関係が成立しなければならないことに注意しよう。
     国内生産+輸入=消費+投資+輸出        @
     この式の左辺は総供給であり、右辺は総需要である。消費や投資は、家計、企業、政府の各々の部門のものである。また、投資には在庫投資も含む。@式は、需要と供給の均衡が、事後的には必ず成立しなければならないことを要求している。
     生産物の価値は所得として分配され、所得から消費を引いたものが貯蓄である。したがって、上式を書き換えると、つぎのようになる(注3)。
     (家計の貯蓄−投資)+(企業の貯蓄−投資)+(政府の貯蓄−投資)=(輸出−輸入)                A
     各部門の(貯蓄−投資)は、資金面からは「資金余剰」と呼ばれる。これは、その部門のネットの金融資産の増加に等しい。A式の右辺は、ネットの対外資産の増加である(注4)。A式は、海外部門も含めた資金余剰の和はゼロにならなければならないことを要求している。
     Aをストック(=残高)で表現すれば、つぎのようになる。
     (家計の金融資産−負債)+(企業の金融資産−負債)=(政府の負債−金融資産)+(対外純資産)   B
     つまり、各部門のネットの金融資産の合計はゼロにならなければならない。
    (注3)この説明は、やや簡略化したものである。「投資」として、通常の統計では資本減耗を含 む「総投資」が使われる。これから資本減耗を引いたものが「純投資」だ。そして、国内総生産から固定資本減耗を引いたものは、所得として分配される。した がって、Aのもととなるべきは、本来は、「純」概念での均衡式であるべきだ。
     家計は税を支払い、これが政府の収入となる。正確に言えば、家計の貯蓄とは、可処分所得から消費を引いたものだ。政府の貯蓄は税収から政府消費を引いたものである。
    次のページ>>復興投資の増加がなぜ問題を引き起こすのか?
    (注4)この説明も、簡略化してある。本来は、対外純資産の増加は、(輸出−輸入+所得収支黒字)である。国内純生産に所得収支黒字を加えたものが国民純生産であり、本来はそれを@式の左辺にすべきだ。
     つまり、正確に言えば、つぎのとおりである。
     国内純生産=国内総生産−固定資本減耗であり、国内総生産+所得収支黒字=国民総生産
     なので、@の両辺から、固定資本減耗を差引き、所得収支黒字を加えたつぎの式から出発する。
     国民純生産+輸入=消費+純投資+輸出+所得収支黒字  @’
    「国民純生産」という概念が一般には用いられていないものなので、ここでは便宜上@から出発したのである。
     フローとストックの関係についていま一つの複雑化要因は、株価が変化することで株式資産の価値が変化することである。この問題は、ここでは省略している。
    復興投資の増加がなぜ問題を引き起こすのか?
     (a1)、(a2)、(a3)で述べたことを、以上のフレームワークで説明しなおせば、つぎのとおりだ。
    (b1)これまで国債が順調に消化されてきたのは、なぜか?
    「国債残高の増加」とは、B式の右辺にある「政府の負債」が増加することである。したがって、他のどれかの項目が変化しないと、B式が成立しなくなる。
     これまで10年間程度においては、主として、左辺の「企業の負債」が減少することで調整されてきたのである(注5)。
     しばしば言及される「家計の金融資産」は、B式の左辺の最初にある。この項の値がいくら大きくとも、「政府の負債の増加」には対応できない。
    (b2)東日本大震災で何が変わったか?
     最も大きな変化は、復興投資により、家計、企業、政府のどの部門においても、投資が増加することである。
     一方、電力ボトルネックによって生産は拡大せず、したがって、家計と企業の所得は拡大しない。したがって、消費が不変だとすれば、各部門の貯蓄は増大しない。
     このため、A式において、各部門の貯蓄投資差額(=資金余剰)は縮小する。
     したがって、何らかの変化が生じないと、A式(あるいはB式)が成立しないのだ。これが、秋以降の日本経済が直面する問題である。
    次のページ>>クラウディングアウトを避けるには
    (b3)企業に余裕資金があっても問題の解決にならないのはなぜか?
    「企業に余裕資金がある」というのは、B式の左辺にある「企業の金融資産」が大きな値になっている(あるいは、「企業の金融資産−負債」がプラスになっている)ということである。
     しかし、企業が金融資産を取り崩せば、B式の左辺は減少してしまう。これでは、右辺の増加に対応することができない。
     なお、「政府がNTTなどの株式を持っている」というのは、B式右辺にある「政府の金融資産」がプラスということだ。しかし、政府がこれを処分すれば、B式の右辺の絶対値は増加してしまう。政府負債は増加するのだから、B式の不均衡は増幅されてしまう。
    (注5)1990年代には、家計の貯蓄率が高かったため、「家計の金融資産」は増加した。そして、これによって国債が消化されたのである。詳しくは、『大震災後の日本経済』を参照。
     なお、最近の10年程度について言えば、「企業の金融資産」も増加した。
    クラウディングアウトを避けるには
     以上で説明したように、「復興投資が増大しても問題は生じない」という議論は、論理的な誤りに陥っているのである。
     しかし、もう少し詳しく言うと、クラウディングアウトの回避は、不可能ではない。原理的に考えると、つぎのようないくつかの可能性がある。
     第1は対外資産の取り崩し。第2は、増税。そして、第3は、日銀の出動である。これらについて、次回に述べよう。
    ●編集部からのお知らせ●
    【緊急出版】日本は生まれ変われるか?『大震災後の日本経済』野口悠紀雄著、5月13日発売、1575円(税込)
    大震災によって、日本経済を束縛する条件は「需要不足」から「供給制約」へと180度変わっ た。この石油ショック以来の変化にどう対処すべきか。復興財源は増税でまかなうのが最も公平、円高を阻止すれば復興投資の妨げになる、電力抑制は統制でな く価格メカニズムの活用で…など、新しい日本をつくる処方箋を明快に示す。


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