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あなたの会社は大丈夫? 「タダ乗り社員」を生む職場【第28回】 2011年5月11日 http://diamond.jp/articles/-/12193
河合太介 [(株)道(タオ)代表取締役社長],渡部 幹 [早稲田大学高等研究所 准教授、社会学博士]
就業経験がない30代女性をいきなり社長に抜擢!? フリーライダーを生む「構造の壁」を崩すプロジェクト
マーケティングに向かないから社長にする?「若者を経営者に育てるプロジェクト」が始動
「河合さん、若者を経営者に育てるプロジェクトに参加しない?」
昨年の夏ごろ、日頃から親しくつきあいをしている、中小企業経営者Y氏からの電話であった。
「何それ?」と私。
「そろそろさあ、若い人を経営者に育てる、というのを人生の使命としてやらなくちゃいけないと思うわけよ。でもさあ、自分の会社で、急にわけのわ からない若者を連れてきて『この人社長にしますから』ってできないじゃない。それで、一個会社を作って、そこで創業社長として自由にやらせることで、育て るっていうの、どうかなと思って」
「面白そうだねえ」
「そうでしょ。河合さんなら、そう言うと思って。そろそろ河合さんも、そういうことしたいでしょ」
相変わらずの決め打ちっぽい意見だが、図星だ。
「それで、人材のあてがあるの?」
その問いに対して、Y氏のにんまりする顔が、あたかも電話の向こうに見えるような声が返ってきた。
「それがさあ、この前うちの会社でマーケティング担当者の採用をやったの。そのときに、いいのがいてさあ。スペック的に合わないから、うちの会社のマーケティングでは採用できないけれど、創業社長やらせるとしたら面白いと思って」
「スペック的に合わないから自社で採用をしない人を、社長に?」
クエスチョンマークが10個くらい並ぶようなY氏の話に、思わず逆質問をする私。
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「だってさあ、マーケティングの経験ほとんどないんだよ。というか、まともな就業経験がないの。30歳くらいなんだけど」
もう、ほとんど意味不明になってきた。話を聞くだけだと、親にフリーライドしてきた若者である。電話ではらちが明かないので、直接Y氏に会って詳細を聞くことにした。
話を聞けば単なるフリーライダー就業経験なしの30代女性に社長が務まるか?
具体的に聞くと、社長をやらせようと思っているその人は女性であるとのこと。Tさんという。年は30歳ほど。学校を卒業後、やりたいことがあり米 国へ渡る。自己実現を目指して、よくはわからないが、色々やってきて、帰国。現在、日本で就業機会を探しているところだということがわかった。
経営者に育ててみたいと思った理由をY氏に問うと、理由は以下の通りだった。
「30歳だけれど、まだ目がやたらキラキラしていたこと」
「とても素直であること。雑巾がけしろといったら、雑巾がけができる素直さがあること」
「華があること。会ったときに瞬間的に感じる華。その原石があること」
この時点で、合点がいった。苦労して一から会社を作ってきたY氏らしい人選基準だと思った。これら3つの要素は、育てようとすると育てる側が大変苦労をする人が持つ資質だ。結局は育てられない場合も多い。
しかしこの要素は、経営者として成功している人が共通して持っている資質である。だったら、マーケティングの専門家としてスキルを一から教えて育てるよりも、初めから経営者として育てたほうが、投資効果が高いのではないか。もちろんリスクはあるが・・・・・・。
実際、本人に会ってみると、Y氏の言う通りの人物だった。そこで私も投資をし、オーナーとして参画して、経営者としての育成を行なうことにした。
次のページ>>オーナーが社長育成の基本役割を分担し、女性を徹底指導
もう1人、このプロジェクトには、中小企業経営者のN氏が最初から関わっている。彼女には、Y氏とN氏が構想している新規事業をやってもらう前に、まずは修行を兼ねてN氏が買収して運営している会社の社長をやってもらうことにした。
もちろん、N氏の会社の中ではやれないことなので、新会社がこの会社を買い取る形をとってのスタートである。
オーナーが社長育成の基本役割を分担半年で事業が軌道に乗ったのはなぜか
そんないきさつによってTさんが社長になってから、半年超が過ぎた。結論から言えば、「順調」である。高級品を扱う事業だが、この不景気の中、売り上げをしっかり上げている。12月は、オーナー全員から拍手が出るような業績を達成した。
この過程で、我々がやったことは何か。それは、育成に関わる基本役割を分けて指導することだ。
N氏が商売というものを、Y氏が経営管理というものを、そして私が人材マネジメントというものをそれぞれ教えたのだ。それを3人の基本役割とした。
また、育成パーソナリティーも分けた。N氏が鬼の父親役。私が母親役。Y氏が父にもなり母にもなる長男役。
つまり、経営に必要な3つの能力全てを、それぞれ得意分野とする人間を通じて伝え、育成のときに必要なコミュニケーションスタイルを、3人の人間の持ち味を活かして行なったのである。
3人が集まって指導する時間は、月1回、2時間の経営会議。ここで全てを行なう。あとは、メールベースでの情報共有と、気づいたことの指導、叱責、賞賛だ。
正直言うと、最初の頃はグダグダであった。たとえば、まともな資料なしで経営会議を始める。ページが打っていないので、どこを見ていいのかわからない資料、また計算が明らかに間違っている数値の入った資料が平気で出てくる。そして目的不明の分析。
会議のアジェンダ(議題)が設定されておらず、何を共有し、何を議論し、何を意思決定するのかがわからないまま会議が開始された。
次のページ>>「常識違反」の連続だった彼女に変化が見え、目覚ましい成果を?
グダグダの会議に鍵のかけ忘れ――。「常識違反」の連続だった彼女に変化が
第1回の会議の途中、Tさんの目からボロボロ涙が出てきて止まらなくなった。しかし、出てきた言葉がよかった。
「悔しいです」という言葉だった。そして、「自分が情けないです」「期待されて、時間をとってもらっているのに申し訳ないです」という言葉だった。
こうした言葉が出てくる人は伸びる。それは3人の共通見解だった。
もちろん、それですぐ変わるわけではない。そのあとも、オフィスの電気を消し忘れたり、施錠を忘れて帰るなどの常識違反をして、N氏から激怒されたりすることもたびたびあった。
しかし、我々が注意したこと、指導したことを、次の機会までに商売として実践し、会議資料として整えてくる、ということをまじめに重ねてきた。
もちろん、経営者としてはまだまだだが、事業運営者としては自分で商売を回すことのできる人材レベルになってきた。メンバーとの結束とチームの士気も高い状態を作っている。ベンチャーの経営者は、最初にここでつまずくことが多いのだが、その壁を乗り越えて来ている。
これは、特別なケースだろうか。必ずしもそうではないと考える。
確かに、経営者としての資質を持つ人がY氏のような経営者がいる会社の採用試験を受けに行ったという偶然は、特別かもしれない。しかし、「ビジネ スマンとしてきちんとやっていける」という観点に立ったときは、ほとんどの若い人はその資質を持っているのではないかと考える。
少なくとも、「今就業している人たちと何が違うか」と言われて、その差が明確にあるとは言えないものではないかと考える。
ところがTさんのように、いったん「幹線道路」から外れた道に入ると、本人の意欲とは関係なく、社会や親のフリーライダーと化してしまう。そういう「構造の悲劇」に陥っている人が、山ほどいるのではないかということである。
次のページ>>「構造の壁」がつくり出すフリーライダーに、どう対処するか
拙著『フリーライダー――あなたの隣のただのり社員』で は、フリーライダーには「能力」起因のフリーライダーと、「意図」によるフリーライダーの2種類があることを述べた。そして、問題視すべき真性フリーライ ダーは「意図」のフリーライダーであり、「能力」起因の場合は、その開発機会や適材適所の配置政策を企業側、管理職側が努力・工夫すべきということを述べ た。
「構造の壁」がつくり出すフリーライダー能力と意欲がある人を活性化させる社会へ
しかし、実際にフリーライダー化しているという現象から言うと、3つ目の起因があることがわかる。それは、「日本社会の構造」がつくり出すフリーライダーだ。
具体的に言えば、新卒採用社会である。「卒業時に最初の就職をするものだ」という社会構造から逸脱すると、新卒マーケットでも中途マーケットでも相手にされなくなるという、社会の裂け目にハマってしまう。
女性の場合で言えば、出産、子育てを終えた主婦にとって、「構造の壁」はいまだに大きい。世間的にいう、一流大学を出て、一流企業と言われるところでの就業経験があっても、一度「幹線道路」から外れると、本人の意欲と能力とは別に、なかなか機会に恵まれなくなる。
定年退職を迎えた高齢者も、その1つである。大変高い技術や幅広い人脈を培っていても、一度定年をした人がその力を活かしたいと思うと、たやすいことではない。意欲も能力もある人たちを、社会がフリーライダー化させているという問題である。
これらに対して、自発的な取り組みをしている会社もあるし、社会でも変化が出始めている。たとえば厚生労働省は、卒業後3年以内の既卒者をハローワークを通じて採用した場合は、奨励金100万円を支給するという制度を開始した。
企業例では、高島屋が2012年4月入社の採用活動から、既卒3年以内の人に新卒として応募資格を与えるようにするなどのケースが出てきている。
テレビ東京の番組『カンブリア宮殿』でも取り挙げられた、愛知県の工作機械メーカー・西島は、定年退職制度を撤廃し、高度技術者や事務社員などがいつまでも働き続けられるようにすることで、高品質製品を作り出し、世界から注文が入る会社へと成長した。
次のページ>>逸脱はマイナスではない。むしろプラス面のほうが大きい
「構造の壁」を崩す良い事例は出始めている。しかし、まだムーブメントには全く至っていない。「逸脱はマイナスではない。そこから学ぶことや、広 がる人脈などがあるはずだ。むしろプラス面のほうが大きい」。そう考えられる企業や行政機関が1つでも増え、能力も意欲もある人が活性化できる社会づくり に本気で取り組んでいかないと、国の活性化は心もとない。そう考える次第である。
((株)道(タオ)代表取締役社長 河合太介)
-----------------------------------------------------------------「タダ乗り問題」については、現在も研究・分析を続けております。あなたの職場のタダ乗り社員に関する情報がございましたら、こちらまでお知らせください。またお寄せいただいた情報は、個人情報に十分配慮した上で、本連載、あるいは著者の今後の文献などに使用される可能性があることをご理解、ご承諾ください。また、タダ乗り問題について自由に議論・情報交換したい方は、ツイッター「@nomorefreerider」でもぜひつぶやいてみてください。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------『フリーライダー――あなたの隣のただのり社員』(講談社現代新書刊)好評発売中!
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質問1 あなたの会社にはフリーライダーを生み出す「構造の壁」がある?
54.3%
大いにある
23.9%
少しはある
10.9%
全くない
6.5%
それほどない
4.3%
何とも言えない
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