03. 2011年5月11日 07:33:31: cqRnZH2CUM
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/7143 「一人っ子政策」は終わらない、日本企業が採るべき対策とは? 2011.05.11(Wed) 柯 隆 中国 中国政府は新たな人口センサスの調査結果を発表した。それによると、中国の総人口は13億3900万人と言われ、依然として増加傾向にある。だが、人口増加率はすでに低下しており、2015年頃になると、マイナスになると見られている。 振り返れば、中国政府が人口の抑制に乗り出したのはおおよそ35年前からだった。それまで、毛沢東は英米に追いつき、追い越すために、人口を増やすべく出産奨励を呼びかけた。1950年代と60年代はベビーブームが続いた。しかし、当時、毎年権力争いを背景とする「政治闘争」が繰り広げられ、企業の生産活動は停滞状態にあった。国民経済は英米に追いつくどころか、破綻寸前にまで陥った。 生産活動の停滞と人口の爆発がもたらす一番の弊害は食糧不足の慢性化だった。70年代に入り、マスコミでは社会主義の優位性について毎日のように宣伝されていたが、国民の生活レベルはみるみる低下し、食糧など生活物資の配給制の実施を余儀なくされた。当時の状況は今の北朝鮮とそっくりである。 78年に復権したケ小平は経済改革に着手する前に、まず人口抑制に乗り出した。少数民族は別として、国民の大多数を占める漢民族について「一人っ子政策」を導入したのである。 思いがけず高度経済成長に寄与した一人っ子政策 もしも一人っ子政策を導入しなければ、今の中国の総人口は26億人を超えていると予想される。一人っ子政策によって10億人以上の人口増が抑制された計算になる。 人口増加の抑制を目的とする一人っ子政策は、確かに人口増加の抑制に寄与した。同時に、思い切った人口抑制政策は、30年前に導入された「改革開放」政策の下での経済成長に大きく貢献した。 一人っ子政策を導入する前の中国社会では、国有企業が社会保障機能を担っており、介護などは家族によって行われていた。1家族の子供の平均人数は4〜5人に上るため、共稼ぎであっても、夫婦の給与所得では生活が困窮し、生活必需品以外の買い物や旅行などの消費はほとんどできなかった。 一人っ子政策が導入されたあとは、共稼ぎの夫婦が扶養する子供の人数は1人となり、生活負担が大きく軽減された。その結果、80年代初期から働き盛りの夫婦には生活を楽しむ余裕ができて、消費振興にも大きく寄与した。 現在、多くの都市部家庭は「4+2+1」という家族構成になっている。4は父方と母方の祖父母である。つまり、一人っ子は6人の大人に囲まれて育っている。そのため、中国では子供用品の売れ行きが好調である。 現時点で「労働力が不足している」と見るのは拙速 一人っ子政策は、当然の結果として、いずれ労働力の供給も減少させることになる。そこまでいけば、中国経済は大きく減速する恐れがある。それは今の日本経済によく似た現象となる。 現実問題として、中国ではすでに労働力不足の現象が見られる。広東省などの沿海部では、玩具や機械部品など労働集約型製造業の会社が労働者を募集しても、以前ほど集まらなくなった。同時に、労働者の賃金は大きく上昇するようになった。 こうした現象を受けて、経済学者や経済評論家の間で、中国では労働力が不足し、「ルイスの転換点」(農業の余剰労働力が底をつくこと)を過ぎており、この先、経済成長率は徐々に低下するとの指摘がある。 とはいえ、総人口の伸びはいずれ頭打ちになるが、現状では、労働力が不足しているという判断はやや拙速過ぎるように思われる。 実際労働市場をよく見ると、需要と供給のミスマッチが起きている。 中国では長年、出稼ぎ労働者を中心にブルーカラーの賃金が低く抑えられてきた。その狙いは輸出振興にあった。しかし、毎年少しずつインフレが上昇しているため、出稼ぎ労働者にとって都市部での生計が難しくなっている。 2008年のリーマン・ショック以降、農村に帰郷した2000万人の出稼ぎ労働者の一部は農村に止まり、都市部には回帰していない。出稼ぎ労働者の供給不足は「民工荒」と呼ばれ、労働力不足と言われる背景となっている。 しかし、それは本当の意味での労働力不足ではなく、出稼ぎ労働者にとって労働条件が折り合わないだけである。 沿海部各省では、政府主導のもとで最低賃金が改定され、毎年20%ずつ引き上げられている。玩具やアパレル加工などの労働集約型の企業にとり、安い出稼ぎ労働者の存在は頼りになるが、仮に、政府が最低賃金を上げたところで、出稼ぎ労働者は企業に戻らないだろう。これは、中国における産業構造が高度化していることの結果である。 一人っ子政策の様々な弊害 ここで、一人っ子政策の弊害について改めて検討してみたい。 30年以上も続いてきた一人っ子政策は、「少子高齢化」という問題をもたらしている。国連の人口統計では、中国は2005年にすでに高齢化社会に突入したと言われている。もともと脆弱な社会保障制度は、今後、保障能力がいっそう不足すると思われる。 一人っ子政策がもたらすもう1つの問題は男女のバランスを崩してしまうことにある。 一部の夫婦では、男の子を生みたいあまり、女の子の赤ちゃんを人工流産してしまう傾向がある。その結果、男女のバランスが大きく崩れている。 今回の人口センサスでも、この問題が浮き彫りになっている。具体的には、中国の男女の割合は「105:100」になっていると言われている。また、国連の中国人口統計では、20歳以下の若年層では、男性は女性に比べて3000万人多いという計算になっている。 中国の人口学者と経済学者の多くは今後の人口減と少子高齢化の進展を懸念して、一人っ子政策の撤廃を提案している。しかし、政府では、一人っ子政策の撤廃について真剣に検討されていないようだ。その原因はどこにあるのだろうか。 実は、一人っ子政策を貫徹するために、中央政府と地方政府のいずれにおいても「計画出産弁公室」という役所が設立されている。これらの計画出産弁公室では、フルタイムの正規の職員は50万人に上り、パートタイムの非正規職員は660万人に達する。 農村などで一人っ子政策に違反して2人目の子供を出産した住民に科す罰金だけで、毎年、数百万ドルに上ると言われている。計画出産弁公室は、職員の雇用の確保と、罰金という既得権益を守るために、一人っ子政策の撤廃に猛烈に反対している。 中国では、一人っ子政策が人口の抑制と経済成長に大きく寄与したのは確かなことだが、半面、行き過ぎた人口抑制の弊害もすでに明らかになっている。にもかかわらず、メディアでは、一人っ子政策の存廃に関する議論すらタブーになっている。 今後、孤独死の老人が多数現れると予想され、結婚相手すら見つからない男性が大勢出現するだろう。胡錦濤国家主席が提唱する「和諧社会」(調和の取れた社会)づくりはいつになれば実現するのだろうか。 人件費の上昇に日本企業はどう対処すべきか 最後に、日本企業が取るべき対応について検討してみよう。一人っ子政策が当面継続されることを考えれば、今後、中国における労働力の供給は徐々に細くなると予想される。 それ以上に、一人っ子として生まれた労働者の職の選び方が大きく変化し、日本企業にとって、廉価な労働力を供給する中国の魅力は徐々に減退するかもしれない。 現に2009年頃から中国の日系企業では、労働者のストライキが多発している。このことは中国に進出する日本企業にとって想定外の話である。そもそも社会主義の中国では、労働者のストは考えにくいことだ。 その背景について2点を指摘しておきたい。 1つは、一人っ子として生まれた労働者は親の世代と違って、自らの権利を守る意識が強くなっていることである。もう1つは、日本企業にとって労働者のストが想定外の事態だったため、それに対処するファンクションは社内で用意されておらず、対処の遅れによってストがさらに拡大してしまった。 中国では、人件費の上昇はすでに止められない。一人っ子政策の継続によって労働力の供給が減少するのは予想されることである。同時に、経済成長が続いていることから、賃金水準がそれに比例して上昇するのは当然のことである。 これらを踏まえると、日本企業にとって製造基地、輸出基地としての中国の役割は徐々に低下し、その代わりに、人件費の上昇によって「市場」としての魅力が高まってくるものと予想される。したがって、日本企業は中国を工場ではなく市場として捉えるように、変わっていかなければならない。 必然的にそこで求められるようになるのは、中国で作った製品を海外に輸出する従来の戦略ではなく、中国に販売する営業力の強化である。残念ながら、現状では多くの日本企業は中国でのこの変化を察知していないようだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/7316 中国:最も意外な人口動態の危機 (Wed) (英エコノミスト誌 2011年5月7日号) 最新の国勢調査の結果は、中国の一人っ子政策の将来に疑問を提起している。 人口爆発を恐れて一人っ子政策を取ってきた中国が、思ってもみなかった人口動態の危機に見舞われている(写真は中国南部・広西省に掲示された一人っ子政策の広報看板)〔AFPBB News〕 中国の人口は足りているのだろうか? これは馬鹿げた質問に思えるかもしれない。何しろ中国は長年、世界最大の人口を抱え、人口増加を抑制するために厳格な措置を取ったことで有名だった。 中国人、外国人を問わず多くの人は、無慈悲で強制的な度を越した一人っ子政策に愕然としていたが、莫大な人口を抑制するために中国が何か手を打つ必要があることを渋々認めることも多かった。 しかし、最新の人口統計の数字は、中国が違う種類の人口問題に陥っているという、ここ数年言われてきた主張を勢いづかせることになった。すなわち、出生率が低すぎるという問題だ。 人口増加率が急低下し、社会が一気に少子高齢化 昨年実施された全国国勢調査に基づいてまとめられ、4月28日に発表された最新の数字では、中国本土の人口は合計13億4000万人だった。また、この調査では、2000〜10年の年間人口増加率の平均値が0.57%となり、その前の10年間の数値(1.07%)の半分と、著しく低下したことも明らかになった。 このデータは合計特殊出生率(出産適齢期の女性が一生の間に生む子供の平均数)が現在、わずか1.4となっていることを示している。最終的に人口が安定する「人口置換水準」の2.1をかなり下回る数字である。 人口増加率の鈍化と足並みを揃え、人口の劇的な高齢化も進んでいる。60歳以上の人口は現在、全体の13.3%を占めており、2000年の10.3%から上昇した(図参照)。 同じ時期に14歳未満の人口は23%から17%に低下した。 この傾向が続くと、高齢の身内を支えなくてはならない就労若年層や、政府が管掌する年金・医療保険制度にますます大きな負担がかかる。中国の大きな「人口の配当」(生産年齢の成人の割合の上昇)はほぼ終わったのだ。 一人っ子政策は 中国の年齢分布を歪めたうえに、男女比の著しい不均衡を悪化させたと考えられる。中国では、女児よりも圧倒的に多くの男児が生まれている。この点は、中国 に限った話ではない。ほかの国々、特にインドは、強制的な人口抑制策を取っていないにもかかわらず、同様の問題に見舞われている。 しかし中国の当局者たちは、一人っ子政策がこうした不均衡に一定の役割を果たしたことには反論していない。というのも、男系子孫を残さねばならないという中国の文化のために、多くの家庭は一人だけ認められる子供を息子にするためなら手段を選ばないようになった。 一人っ子政策が導入された当初は、これは時に女児殺害を意味した。超音波検査技術が普及すると、性別選択による堕胎が広く行われるようになった。 一人っ子政策を巡る熱い議論 この子たちが大人になる頃には・・・(写真は北京の公園に集まった子連れのお母さんたち)〔AFPBB News〕 今回の人口統計では、この厄介な風潮に対抗する動きに進展があまり見られなかった。2010年時点で、100人の女の新生児に対し、男の新生児は118人以上いた。 これは2000年の水準をわずかに上回る数字で、今からおよそ20〜25年後には、現在の男の赤ちゃんの約2割に結婚相手がいないということを意味している。このことは、潜在的に極めて大きな不安定要因をもたらすかもしれない。 今回の国勢調査の結果は中国で、人口抑制を進める強力な官僚機構と、次第に声高に一人っ子政策の緩和を求めるようになった人口統計学者のグループとの議論に拍車をかけるだろう。両者の論争は、一人っ子政策の将来だけでなく、(中国ではよくあるように)その過去にも及ぶ。 学者の1人であるブルッキングス・清華公共政策センター所長の王豊氏は、1980年に一人っ子政策が始まった頃には、既に中国の人口動態のパターンが急激に変化していたと主張する。1950年には合計特殊出生率が5.8だったと同氏は指摘。それが急低下して1980年には2.3となり、人口置換水準をわずかに上回る程度になったという。 ほかの国々でも同じ期間に同程度の出生率の低下が見られた。従来は幼児死亡率が高かったため、人々は少なくとも何人か生き延びるように子供をたくさんつくってきたが、保健医療の改善や幼児死亡率の急低下をはじめとする進歩の恩恵が決定的な影響を与えたと王氏は考えている。 これが暗に示唆していることは、強制的な人口抑制は、いずれにせよ起こっていた出生率の低下とはほとんど関係がないということだ。 例えばタイやインドネシアなど、ただ単に避妊具を利用しやすくしただけの国でも、厳格な政策を取った中国と同じくらい出生率が下がった。中国政府が自国領土の一部だと見なしている台湾は、人口を抑制することなく中国と同じくらい出生率が低下した。 政府が一人っ子政策を擁護する理由
一人っ子政策により4億人の出生を回避できた(写真は今年2月、中国の湖北省武漢駅で、春節の休暇を終えて帰省先から戻る人々)〔AFPBB News〕 中国政府は、一人っ子政策に意味がなかったということを否定し、この政策のおかげで4億人の出生が避けられたと主張。一人っ子政策がなければ生まれていた人々を中国は養えなかったという。 中国国家統計局の馬建堂局長は、「中国の人口急増の勢いは家族計画政策のおかげで効果的に抑制された」と話している。 中国政府が一人っ子政策を頑としてかばうのには、様々な理由がある。1つは、中国は独特な国で、他国の経験は意味をなさないという、それなりに理解できる見解だ。 2番目は、一人っ子政策は当初出生率の低下にあまり効果がなかったかもしれないが、今は出生率を低く保っているかもしれない、というものだ。3番目は、もし人口抑制策が撤回されれば、人口は再び増加するかもしれないという見方である。 実のところ、そのような懸念には、ほとんど正当性はない。というのも、実際には一人っ子政策は地域によって大きく異なり、中国の少数民族にはほとんど適用されておらず、農村地域では柔軟に適用されている。そして、こうした地域では人口増加は見られなかったのだ。 ブランダイス大学ヘラー校(社会政策・経営大学院)のジョーン・カウフマン氏は、政府が一人っ子政策を支持する理由は、認識されている利点とは一部しか関係がないと論じている。これは、中国の家族計画を推進する官僚機構の抵抗の産物でもあるのだ。 中国の家族計画当局は強大な力を持った組織だ(そして、地方政府には違反者から集める罰金という既得権益がある)。「一人っ子政策は役人の存在意義だ」とカウフマン氏は語る。 「二人っ子政策」に転換を 王氏とその同僚は、一人っ子政策をやめるべきだと主張している。出生率低下の目標は、とうの昔に達成している。現在の出生率は人口置換水準以下で、持続不能だ。 大きな第一歩を踏み出し、二人っ子政策に転換する時が来た。王氏のグループが実施した調査は、中国では子供を3人以上持つことを望む家族はごく少ないことを示唆している。 人口に関する議論の政治色を弱め、より証拠に基づく議論にしようとする学者たちの取り組みが成功を収めつつあるという兆しがある。国家統計局の馬氏は、家族計画政策に固執するだけでなく、「よりバランスの取れた中国の人口増加を促すために、慎重かつ段階的に政策を改善する」ことについて語っている。 胡錦濤国家主席は最新の国勢調査に対するコメントで、近々改革があり得るという漠然としたヒントをほのめかした。中国は低い出生率を維持すると胡 主席は語った。しかし、現行の家族計画政策を「貫き、改善させる」とも語った。これは、誰でも自由に子供を生むことを容認した発言には到底思えない。しか し、「誰でも2人まで」なら、問題外でもないだろう。
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