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【第274回】 2011年5月6日 梅田カズヒコ [編集・ライター/プレスラボ代表取締役]
増税や子ども手当の見直しになぜ容認論が増えるのか
冷静に考えたい“本当に将来のためになる”復興政策
東日本大震災から2ヵ月近くたった今、ようやく復興に向けた総額4兆円あまりの第一次 補正予算が成立した。今後の焦点は第二次補正予算となるが、いまだ必要な財源のメドは立っていない。復興への機運が高まるなか、世間では「増税やむなし」 の声が目に見えて増え始めた。その一方、復興財源の捻出を理由に、民主党の目玉政策だった「子ども手当」の見直しも、いつの間にか決まった。増税もマニ フェストの見直しも、以前から必要性が唱えられていたとはいえ、「復興」を理由に負担ばかりが増す状況の変化を、我々はただ見ているだけでよいのだろう か。将来にわたって本当に有効な復興政策を実現するためにも、その背景を改めて考えてみたい。(取材・文/プレスラボ・梅田カズヒコ)
ようやく本格化する復興への取り組み一般市民からも聞かれる「増税やむなし」の声
「仕方がないですね。おそらく生活は苦しくなりますが、東人本大震災で被災した人たちのことを思えば、我々もできるだけ協力しないと……。何よ り、今議論されている増税は、『人助け』のイメージが強いから、反対する人もそれほど多くないのでは。それに、過去の増税のケースを見ても、国民の生活は 案外すぐに変化に対応できる気もしますよね」
こう語るのは、東京都内に住む30代の女性である。
東北三県(福島、宮城、岩手)を中心に、日本中に未曾有の被害をもたらした東日本大震災。福島原発事故による放射能漏れ不安がいまだ冷めやらぬなか、国民は政府与党に対して「対応が遅い」と不満を募らせている。
そんな遅々として進まないイメージが強かった「復興」への道筋が、震災から2ヵ月近くたった今、ようやく見え始めた。5月2日、総額4兆円あまり の第一次補正予算が成立したのである。このうち、約1兆2000億円はインフラの復旧に、約3600億円は被災者の仮設住宅に、そして約3500億円は、 がれき処理に使用される予定だ。
今後の焦点は、夏を睨んだ第二次補正予算の成立に向けた動きとなるが、問題はこれらの予算に必要な財源のメドが、まだはっきり立っていないことだ。
次のページ>>財源が厳しい震災復興予算にとって、今の世論は追い風?
菅政権は当初発行する約44兆円の国債とは別に、東日本大震災の復興に限定した「復興再生債」を新たに発行し、第二次補正予算の財源にしようと考 えている。しかし民主党内には、危機的な財政赤字のなか、潤沢な復興資金を捻出するために「増税は避けられない」という声も多い。一部の幹部もメディアで それを公言し始めた。
冒頭の女性のコメントも、こうした状況を受けてのものだ。この女性は民間企業に勤めており、同じく別の民間企業に勤める夫と2人で暮らしている。 共働きのため、専業主婦がいる家庭に比べれば収入面での余裕はある。とはいえ、それでも不況の出口が完全に見えないなかで、家計を圧迫する増税への不安は 小さくないはずだ。
しかし「頑張ろう、日本」を合言葉に、国民一丸となって復興を目指す機運が全国で盛り上がるなか、各種世論調査を見ても、こうした増税を容認する声が目に見えて増え始めていることは事実である。
大赤字に拍車をかける震災復興予算世論の変化は政府にとって渡りに船?
もともと日本人は、世界でも増税、特に消費税の引き上げにシビアな国民として知られてきた。近年の日本の政治家は、「増税を持ち出した途端に国民にそっぽを向かれる」というジンクスもある。
たとえば1989年、竹下内閣の下で採択・施行された消費税は、わかり易いケースだった。その年の参議院選挙では、消費税の廃止を訴えた社会党が 躍進した。以降、2010年の参議院選挙で「消費税を10%まで引き上げる」と演説して議席数を減らした菅総理に至るまで、歴代総理は20年もの間、消費 税の増税論議に苦しんできたと言える。
この20年間で最も選挙に強かった政治家・小泉純一カが、「私の総理大臣任期中は消費税率の引き上げは行なわない」と明言していたことも、このジンクスを裏付けていると言えよう。
日本の公的債務の対GDP比は、約200%と言われている(ただしご存知の通り、日本の国債は国内の需要が非常に高く、金利も低い)なか、この震 災の影響で復興に向けたインフラ整備などにも予算を割かなければいけない。このようなダブルパンチの状況を受け、米格付け会社のS&Pは4月27日、日本 国債の格付け見通しをついに「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。
次のページ>>増税は景気減退を招く一方、必ずしも債務減少につながらない
今後、日本国債に対する世界的な信用不安が巻き起これば、日本は金利の上昇とそれに伴うさらなる借金の増加という、悪循環に陥る可能性もある。増税、減税いかんにかかわらず、日本の財政問題が危機的状況にあることに違いはない。
こんな状況もあって、一部の国民の気持ちは「増税やむなし」へと傾きつつある。増税の「具体的な形」についてはいくつか議論が分かれるものの、う がった見方をすれば、消費税の引き上げを悲願としていた政権にとって、今回の震災は大きなチャンスになる側面もあるだろう。たとえ「火事場泥棒」と罵られ ようとも、である。
この国と国民にとって不幸なのは、税金という国の根幹を成す政策について、平時における充分な論議が行われないまま導入に至る可能性が高いことではないか。今一度、税金のあり方についてよく考え直してみる必要はある。
増税は景気減退を招きかねない一方、必ずしも公的債務の減少につながらない
問題は、増税の実効性である。消費税であれ、所得税であれ、法人税であれ、全ては景気の影響を受ける。つまり、税率を増やしたところで、所得が落ち込んでいたり、消費が落ち込んだりしては、引き上げた意味がないと言える。
言わずもがなだが、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年以降、消費税の税収額こそ伸びたものの、景気減退の後押しで日本全体の税収は 落ち込んでしまった。一方で、これらの増税によって公的債務が減ったという記録はどこにもない。むしろ、増税後も債務は増え続けた。これらの経緯から、増 税が必ずしも公的債務の減少につながるとは言えない。
もちろん当時の景気減退は、バブル崩壊後の平成不況において政府が有効な経済・金融対策を打てなかったという原因も大きい。社会構造が大きく変化 しているなかで、過去と現在を単純な税率の違いだけで語ることもできないだろう。だが、増税=「借金の返済」「復興」と単純に言い切れないことは明らか だ。
次のページ>>増税議論の傍ら、ひっそりと見直しが決まった「子ども手当」
実際、増税容認論が増える一方で、国政に対して不信感を露にする声も根強い。
「もちろん、私だって将来的には消費税を引き上げなければいけないことはわかっています。しかし、まだ歳出を削減するべき事業は山ほどあるじゃないですか。そういったムダなバラマキを続けながら、いきなり増税と言われても納得がいかないですよ」(30代・男性)
増税が「規定路線」と見なされる傍ら、子ども手当もひっそりと見直しが決定
実は、今回の震災において国民生活に影響を与えかねない「変化」は増税だけではない。増税に注目が集まっているため、あまり大きな話題になってい ない感があるが、民主党は子ども手当や高速道路無料化など、マニフェストの一部を見直す考えを示した。前出の男性が指摘する通り、増税を視野に入れる一方 で、復興財源を捻出するための「歳出削減」を迫られているのだ。
産経新聞が4月25日に行なった世論調査では、民主党支持者のなかにも、マニフェストの見直しを求める回答が86.8%に上っていることがわかっ た。こうした世論を受け、野党の自民党や公明党は補正予算に理解を示す一方、マニフェストの見直しを迫った。その結果、まず子ども手当の見直しが正式に決 定。政府は毎月1万3000円支給していた子ども手当を、10月以降は1万円に減額すると発表した。
未曾有の国難に直面している現在、政府が少しでも財源を確保したい気持ちは理解できる。国民の関心も大地震、大津波、福島第一原発関連の報道に集 中しており、「子ども手当どころではない」というのがホンネなのかもしれない。現在のところ、反発も少ないように見える。この状況も、政府にとって「渡り に船」と言えそうだ。
しかし、こういった手当は本来、政治のかけひきとして扱われるべきものではなく、簡単に止めてはいけない類のものではないだろうか。息子が生まれたばかりというサラリーマンはこう話す。
「そもそも、こういった支援制度は始まったり終わったり、減額されてまた始まったりという状況が続いては、全く役に立ちません。国がつくる制度 は、一度始めたらできるだけパーマネントに運用されるべきでしょう。生まれた子どもはお腹のなかには戻らないのだから、たとえ政権が変わってもある程度恒 久的に手当てを保障してもらわないと、社会保障の意味がないのでは」(30代・男性)
次のページ>>復興への「痛み」を分かち合うことは尊いが、冷静な議論は必要
確かに、子ども手当はその内容からして、政権が倒れたり大事件が起こったからと言って、そう簡単になくなってしまっては困るタイプの制度だ。安心して子どもを生める社会になるためには、制度を末永く運用する必要がある。
「今から後の時代に生まれた子どもにはおカネを支給できない」とあっては、本来は強い理想が込められた政策であっても、それこそ単なる政治運営の 道具になり下がってしまう。家庭にとって、子育ては時間がかかるし、長期的スパンで考えなければいけない重要なライフプランだ。結局のところ、基本理念の 部分で国民に理解されなければ、制度そのものを存続させても効果は薄い。
復興への「痛み」を受け入れることは尊いが、将来の重要な議論を置き去りにするべからず
去る5月5日は「子どもの日」だったが、残念ながら日本は少子化の真っ只中にある。それが年金制度の崩壊や経済の停滞感など、多くの問題の元凶と なっている。子どもを産めない社会になっているのは何が原因なのか。国民が未来に向けて希望が感じられないことも一因かもしれない。
今は増税議論と平行して進められているマニフェストの見直しだが、場当たり的な見直しに終始すれば問題の解決にはつながらず、それは巡り巡って、将来にわたる安定的な税収の基盤を脅かすことにもなりかねない。
そういった意味においても、復興には未来の日本を見据えたビジョンが大切と言えるだろう。政府には、日本の大きな転換点となる時代において、子の代、孫の代まで有効な「復興基本計画」を、ぜひとも考えて欲しいものだ。
もちろん、増税についても社会保障の見直しについても、日本復興のために痛みを受け入れようとする人々が増えることは、前向きなトレンドに違いな い。しかし、足もとの状況だけを見て、重要な議論を置き去りにしてしまうことがあれば、むしろ本末転倒である。それは、被災者の心情を慮るあまり消費を自 粛して、かえって景気を落ち込ませてしまう状況にも似ていると言えないだろうか。
我々は、中長期的な視点から「将来にわたって本当に有効な復興政策とは何か」を、問い続けていくべきだろう。
質問1 増税やマニフェストの見直しに賛成? それとも反対?
42.8%
マニフェストの見直しには賛成
32.9%
どちらも反対
14%
どちらも賛成
5.8%
増税には賛成
4.5%
何とも言えない
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