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特別リポート:震災は日本国債「暴落時計」の針を進めたか
2011年 04月 27日 18:48 JST
[東京 27日 ロイター] 東日本大震災後の復興に必要な巨額の財政負担が、日本国債の先行きに新たな不安を投げかけている。数十兆円に達するとみられる復興コストを確保するには、国債の大量追加発行は不可避。
しかし、経常黒字や民間金融機関の資金余力といった安定消化の原資にも縮小の予兆が見え始めた。そして、追い打ちをかける政権の迷走と処方箋の不在。日本国債の「暴落」を抑えてきた安全装置にきしみが生じる中、危機時計の針は再び前に進み始めている。
「日本の財政は破綻しないのか」、「日本国債に暴落の危険はないのか」。東日本大震災が起きた3月11日以降、都内にある大手銀行系証券の債券市場デスクには、欧米ヘッジファンドから、こうした問い合わせが目立って増えている。
過去最大級の巨大地震と大津波による壊滅的な被害、それに続く東京電力(9501.T)・福島第1原子力発電所の放射能汚染事故。日本政府に降りかかる復興コストの膨張は避けられず、そうなれば国債相場には警戒信号がともる、つまり、日本のソブリン(国家財政)リスクが一気に高まる、という思惑からだ。
ヘッジファンドが描いていたのは、トリプル安シナリオだった、と問い合わせを受けた担当者は推測する。ほぼ1年前、ギリシャをはじめとする欧州のソブリン危機で利益を得た手法だ。未曽有(みぞう)の震災被害で日本の株式、国債、円相場が下落し、日本の長期金利が上昇するというシナリオに沿い、実際に一部ヘッジファンドはスワップションなどのデリバティブ(金融派生商品)を使い、長期金利が跳ね上がれば大もうけできるポジションを組んでいた。
「2009年秋以降、金利が上がらず萎縮していたヘッジファンドが、今回の震災でいよいよ出番だ、となって再び盛り上がった」と、その担当者は振り返る。
<揺らぐセーフガード>
日本国債の発行残高は、普通国債と財政投融資債を合わせ、2010年度末(見込み)で767兆円にも達した。国と地方の長期債務は869兆円と国内総生産(GDP)の200%に迫り、先進国で最悪の高水準。こうした途方もない借金を背負いながら、日本がこれまで深刻なソブリンリスクから無縁でいられたのは、投機筋の攻撃を許さない二重、三重のセーフガードが機能していたからだ。
日本の金融資産は国債発行残高を上回っており、高い貯蓄率が生んだ膨大な個人資産、比較的低い租税負担率とともに、日本国債に対する信認を支えてきた。発行済み国債の多くを外国人投資家が握っているギリシャなどと異なり、日本国債の95%は日本の銀行、生損保、郵貯、年金など国内の金融機関や個人(家計)が保有、投機的な取引に影響される可能性も少ない。
さらに、そうした民間部門が国債を引き受ける資金量の目安ともなる日本の経常収支は、一貫して黒字基調を維持。その一方、国内景気の伸び悩みは皮肉にも金利上昇を抑え、国債の利払い負担を低位安定させる効果をもたらしてきた。
「ギリシャやアイルランドと比べると、日本政府が(負債を)制御できる余地ははるかに大きい」という米ワシントンのピーターソン国際経済研究所、マーカス・ノーランド氏の指摘は、世界の債券市場が共有してきた日本国債への信認に通じている。
しかし、3月11日の大震災を境に、日本国債の先行きは一段と不透明感を増している。巨額の復興コスト、景気後退、輸出の減少という従来の発行環境では「想定外」ともいえる不安要因が、にわかに浮上してきたためだ。
日本国債の膨張を可能にしてきた安全装置のきしみ。その兆候は、すでに見え始めている。
東京港で最大の貨物取扱量を誇る大井コンテナふ頭。通称「キリン」と呼ばれる巨大な荷物運搬クレーンが海に向かって立ち並ぶ姿は変わっていないが、震災前の日常的な風景だったトレーラーの渋滞は減り、ターミナルに入るまで5、6時間待ちという以前のにぎわいも影を潜めた。
貿易貨物の減少は、震災による生産や部品供給の停止、東電原発事故による放射能汚染が大きな原因だ。一部に対日貿易を敬遠するムードが広がる中、「港にはスカスカ感がある」と、同港でコンテナトレーラー歴6年の運転手、横山悠さんは話す。2008年9月に経験したリーマンショックによる荷動きの激減よりも、「今回の影響のほうが大きいような気がする」という。
貿易の冷え込み、特に輸出の減少は、日本国債の安定消化にとって不安材料となる。貿易収支が赤字に転落し、国内に還流する資金が減れば、国債発行を支える企業や家計の資金余力にも影響する。
日本人が海外にもつ資産からの金利収入を反映して所得収支は黒字が続いており、貿易収支と合わせた経常収支がすぐに赤字転落する可能性は低い。しかし、震災をきっかけに、国債受け入れに回る国内資金が縮小する懸念は高まっている。
すでに3月の貿易黒字は、震災ショックで前年に比べ8割減と大幅に落ち込んだ。サプライチェーン(部品調達網)の寸断などで生産が停滞し、輸出が前年比2.2%減の5兆8660億円と16カ月ぶりに減少したことが要因だ。サプライチェーンの本格回復は6、7月以降と見込まれるうえ、原油高や復興需要の資材輸入などで、貿易収支は4─6月に赤字に陥る可能性が高い。
「今回の震災は、構造的に経常黒字を減少させる要因になりうる」と第一生命経済研究所の永浜利広・主席エコノミストは予想する。日本の経常収支が2014年以降に緩やかな縮小に転じ、2038年に赤字基調になると予測していた同氏は、今回の震災で赤字基調の定着見通しを6年早め、2032年に修正した。
一方、貿易収支だけでなく、実際に国債を購入し、保有する金融機関の資金余力にも震災の圧力がかかっている。被災した生産・販売設備の復旧、運転資金の確保などのほか、電力供給減にそなえた事業融資への需要が急増しているためだ。
緊急融資を必要とする企業の筆頭は、深刻な原発事故を引き起こした東京電力。すでにメガバンクが1兆9000億円の緊急融資を3月に行った。しかし、原発事故の収束度合いと補償スキーム次第でさらに融資が必要になる可能性がある。
東北電力(9506.T)も3月30日、日本政策投資銀行から300億円を借り入れた。同社では、福島県南相馬市にある原町火力発電所が大津波の直撃を受けた。同発電所は、同県の全電力消費をおおよそ賄うことができる200万キロワットの総出力を持つが、放射能汚染を起こした東電・福島第1原発から北へ約20Kmの屋内退避対象地域にあるため、被災状況も復旧コストも確認できないままだ。
資金需要が強まっているのは電力会社だけではない。メガバンク3行が受けた融資要請額は、震災後の1カ月で1行あたり約2.5兆円、総額で約7.5兆円に上った。
国債市場の参加者が懸念するのは、災害融資の増加で、過去最大規模にある現在の預貸ギャップが縮小、銀行の国債投資余力に影響が出る事態だ。銀行や生保など金融機関は発行残高の7割近くを保有しており、このうち銀行(日銀除く)は約4割を抱えている。
震災ショックで企業向けのつなぎ融資が急増しても、銀行の国債引き受け余力が直ちに低下するわけではない。融資を受けた企業がその資金を再び銀行口座に預けることが予想されるためだ。しかし、企業向け融資が対外投資など前向きの需要に使われれば、国債投資に回る資金は縮小する。復興需要が経済成長に結びつき、企業の資金需要が強まることが前提だが、長期的にみて銀行の貸出と国債保有額はこれまでも逆相関の関係を示してきた。
「長期的に見れば、融資資金は銀行に戻ってくるので大きな影響はないとしても、貸し出し期間が長期になれば投資余力にネガティブに作用しかねない」とドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは予想する。
<3年後より10年後の不安>
国債市場への震災ショックは、安定消化を心配する市場不安を増幅し、くすぶり続ける「日本国債暴落説」を勢いづかせる結果にもなりかねない。「海外投資家なら誰でも不思議がる規模」(外資系証券)に膨れ上がった国債残高。17世紀初頭のジェノバ共和国以来といわれる日本の歴史的な低金利。そして、少子高齢化で予想される貯蓄率の低下などを理由に、日本国債の暴落を予想する投資家はなお多い。
その一人、「日本破綻にかける男」の異名をとる米ヘイマン・アドバイザーズの創設者、カイル・バス氏。昨年10月、ニューヨーク・タイムズスクエアのマリオットホテルで500人以上の投資家に対し、アイルランドやギリシャとともに、日本が債務不履行に陥る可能性を訴えた。
会場でロイターの取材に応じた同氏は、「日本は数年以内に国内で借金をまかなえなくなる」と指摘し、「現在の債務の規模を考えると、どうやったらデフォルトしないで済むのか説明できない」と語った。
ヘッジファンドは短期間で投資対象を変えることが珍しくないが、バス氏は今年に入っても日本売りの姿勢を継続。2月14日に送った投資家向けリポートで「われわれの具体的なポジションは明かさないが、今後数年、オプション価格決定モデルの欠点をついていく」と表明した。「(日本が)いくら危機を鎮めようとあがいても、どんな手立てを取ろうとも、すでにチェックメイトだということに気づくだろう」──。
国債暴落という決定的な転換点は、いつ訪れる可能性があるのか。みずほ証券が震災前に行った試算では、負債を除いた家計の金融資産が今後一定と仮定し、公債残高が現在のペースで増え続けた場合、2022年ごろにその規模が同じになる、つまり家計による公債保有余力がなくなる。
これより悲観的な見方も少なくない。UBSの経済アドバイザーをつとめるジョージ・マグナス氏は、日本の労働人口の高齢化ペースを考慮すると、3年後では早すぎるが10年後では遅すぎる、と指摘。都内のある外資系証券幹部は、「海外のヘッジファンドは、当面の情勢はともかく、10年先をにらんで日本国債の破綻シナリオと戦略を組んでいる」と語る。
短期的な懸念は、震災対応の増発が日本国債の新たな格下げを引き起こすかどうかという点だ。今年1月27日に日本の長期国債格付けを「AA」から「AAマイナス」に引き下げた米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は4月27日、その格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。「3月11日の地震、津波、そして原発事故が日本の財政赤字をこれまでの見通し以上に増加させる」などの理由からだ。
S&Pは「今回の災害が日本の中期的な成長力を大きく傷つけるとは予想しない」とする一方、「もし政府債務が現在予想されるペースで拡大し続けたり、対外純資産残高が減少することになった場合には、長期・短期ソブリン格付けを引き下げる可能性がある」と警告した。
また、今年2月22日に同格付け見通しを「ネガティブ」に変更した米ムーディーズも、震災3日後の3月14日、「日本の財政の先行きは一段と見通しがたたなくなっている」との見解を発表。「今回の地震によって日本の財政危機が切迫したものになることはない」としながらも、日本政府の財政規律に懸念を示し、引き続き厳しい視線を変えていない。
<司令塔不在の復興対策>
国債市場の行方を左右する最大の要因は、言うまでもなく、政府の国債管理政策だ。ねじれ国会、党内分裂、選挙敗退で足元が大きくゆらいでいる菅直人・民主党政権がどこまで市場の信認をとりつけることができるか。試金石のひとつは、震災復興への財源確保だ。
内閣府の試算では、東日本大震災で破壊された住宅や工場、道路、港湾などの直接的な被害は16兆円から25兆円に達する。約10兆円だった95年の阪神大震災を大きく上回る見通しだ。しかし、これは東電原発事故の処理に必要なコストや補償費用は含まれていない。第1原発の廃炉投資や土地改良、風評被害などへの対応も含めると、総額で40兆円に及ぶとの見方もある。
その財源をどう捻出するのか。政府の対応はここでも遅れをみせた。当初、第1次補正予算の編成は4月中旬をめざしていたが、復旧・復興をスローガンに掲げた4兆円規模の1次補正案の国会提出は4月末。早期編成の焦りがある一方、安易な国債発行は市場の過剰反応を招くとの懸念から、財源をめぐる調整が難航。被災地の疲弊が進むなかで、意思決定の混乱ぶりを露呈した。
1次補正では、年金財源転用や借換債の一部を前倒し発行する手法でカレンダーベースの国債市中発行額の増加を抑制したが、2次補正での国債増発は避けられない見通しだ。国と地方の債務残高は阪神大震災当時の約2.4倍に膨らんでおり、財政に余裕はない。増税を前提に将来の償還を担保する復興国債を発行するアイデアも与党内に出始めている。
野田佳彦財務相や白川方明日銀総裁の強い反対でいったん立ち消えになったが、水面下では「日銀が国債を直接引き受けるべきだ」との主張も根強く残っている。
しかし、中央銀行による市場を通さない直接買い取りは、歴史的にみてもインフレの要因となりやすく、法律で禁止している国も多い。「財政規律の弛緩」と市場が受け止めれば、金利が上昇し、利払い費が増加することで、国家財政が危機に陥る危険もある。
白川日銀総裁は「通貨の信認が毀損される」と反対の姿勢を崩していない。日銀内部では「万が一にも国会決議がなされたら、執行部全員が辞任する腹積もりでいる」(関係者)との声があるほど、行内の反発は強い。
与野党の果てしなき駆け引きと「司令塔不在」(政府筋)の復興財源対策。日本国債の先行きにとっての最善のシナリオは、震災復興を景気刺激と成長促進に結びつけ、税収を増やしながら財政規律を高める政策だ。それが実現しないと、市場不安の過熱をおさえる冷却水の水位は低下し、暴落への危機時計がさらに早く進む事態も否定できない。
(取材:伊賀大記、山口貴也、星裕康、久保信博、志田義寧 編集:北松克朗)
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1次補正で実質GDP0.6%押し上げ・雇用増20万人、被災地復旧の公共投資が支え=内閣府試算
2011年 04月 27日 17:32 JST
[東京 27日 ロイター] 内閣府は27日、総額4兆0153億円の2011年度第1次補正予算が、11年度の実質国内総生産(GDP)を0.6%程度押し上げるとの試算をまとめた。東日本大震災の被災地復旧に向けた公共投資が進むためで、被災地を中心とする雇用の創出効果は今後1年程度で20万人強と予測。加えて、休業手当の一部を国が助成する「雇用調整助成金」などによる全国的な雇用の下支え効果は150万人強に達するとしている。
1次補正予算案では、損壊した道路・港湾などの災害復旧公共事業に1兆2019億円、仮設住宅の設置など災害救助等関係費に4829億円、がれき処理などの経費に3519億円を計上。被災地以外の学校の耐震化経費や、被災した地方自治体に配分する特別交付税1200億円なども盛り込んでいる。
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