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− 第1回 −
竹中 平蔵 氏インタビュー <前篇>人口問題は貧困や食糧の問題に直結する 企業も個人も「生活改善」支援の活動を
――日本は少子高齢化が進んでいますが、世界の人口は2011年に70億人、2045年には90億人を超えるといわれます。それは貧困、食糧、環境などの問題に直結します。
慶應義塾大学総合政策学部 教授
グローバルセキュリティ研究所 所長
経済学博士
竹中 平蔵 氏
竹中氏:まず、人口問題に限らず、食糧・水・資源・貧困・環境などの問題は、“グローバルアジェンダ”(地球規模で解決を要する問題)として捉える必要があります。先日出席したダボス会議でも話題になりましたが、IMF(国際通貨基金)、国連、FAO(国連食糧農業機関)やG7〜G20など国レベルの取り組みだけでは解決できないからです。それらを克服するには、企業や個人、我々一人ひとりが、マルチステークホルダーとして取り組まなければなりません。またこれが、頭では理解していても、実際の行動に結びつけるのは難しい問題であることも実感しています。
特に人口問題には、“可視化”しにくいので、「何が問題なのか」捉えることが難しい一面があります。しかし、今回のナショナル ジオグラフィックの特集は、それを上手に“可視化”しており、感心しました。人口増が著しいインドや中国などの写真とともに、国連の統計を基にした世界の人口推計や消費動向を図表化し、分かりやすくしてあることです。この企画は、グローバルアジェンダを「我々の生活に密着した問題なのだ」と考えさせる良いプロジェクトだと思いますし、今後、環境問題、さらには金融問題などへと展開していってほしいと思います。
――人類は地球温暖化など様々な問題を抱え込んでしまったわけですが、まず人口問題についてはどのように理解し、どのように取り組めばいいのでしょうか。
竹中氏:人口そのものが「資産」か「負債」かという議論がありますが、両面からきちんと捉える必要があります。経済開発学者のラグナ―・ヌルクセの「人口が多ければ賃金が安くなり、所得が低いので貯蓄ができず、より貧困に陥る。つまり貧困の悪循環をきたす」というのが、負債として捉えた典型的な例です。その一方、日本では「経済成長のためには働き手が必要だ」と、資産として考えています。そこで不可欠なのは70億人を、というより、それぞれの国を豊かにする経済政策です。
経済学的に振り返ってみれば、1776年にアダム・スミスは『国富論』で「見えざる手によって経済は発展していく」というバラ色の世界観を描きました。これに対し、1798年にロバート・マルサスが『人口論』で「幾何級数的に増加する人口と算術級数的に増加する食糧の差は、人口過剰すなわち貧困を発生させる。この現象は不可避であり、社会制度では回避することはできない」と主張しました。マルサスの「人口過剰=貧困」のロジックは単純で分かりやすく、非常に強い影響力を持ちました。
しかし、現実にはそうはならなかった。それはなぜでしょうか。1つは、技術進歩が予想以上に大きかったことです。「緑の革命」によって農業分野の生産性が向上したことなどです。もう1つは、人間の「もっと豊かになりたい」という欲求です。もっと豊かになるために、子供に高い教育を受けさせようとします。教育には経済的な余裕が必要なので、子供の数を絞るようになるのです。その結果、出生率が低下します。敗戦直後の日本と現在の日本、また現代の日本では都道府県別の平均年収1位の東京と47位の沖縄との比較などから、この説は裏付けられると思います。
――人口問題は貧困の問題、教育の問題でもあるわけですね。世界の貧困問題で無視できないのは飢餓、食糧と水の問題ですが、ここで日本が役に立てることとなると…。
竹中氏:私の友人の、ハーバード大学のジェフリー・サックスは、「ミレニアムビレッジ」というプロジェクトを進めています。アフリカの貧困地域で、人々に井戸の掘り方を教え、農産物の育て方を教え、自立を支援する運動です。貧困から抜け出すための仕組みづくりとして、成功事例を築き上げ、世界中の貧困地域に展開しようとしているのです。私は話を聞いて「ジャパンビレッジ」ができないかと考え、日本経済研究センターなどで働きかけているところです。
アフリカで有名な日本企業に、住友化学があります。なぜ有名かというと、マラリアを媒介する蚊を防ぐための殺虫剤を染み込ませた蚊帳を開発、それが保健衛生の向上に役立っているからです。健康関連の分野では、橋本元首相がデンバーサミットで提唱、翌年に採択された「世界から寄生虫を撲滅しよう」という橋本イニシアティブもあります。寄生虫の撲滅が健康な肉体をつくり、それが健康な精神をもたらし、労働力としての生産性向上につながり、経済発展の原動力になるからです。
――人口問題では産児制限という直接的な方法もあるが教育という長い目で見た対策、言わばシステム的な思考が必要なわけですね。ただ、個人が支援しようという場合には…。
竹中氏:「テーブル・フォー・ツー」という運動をご存知ですか。アフリカの貧しい地域の人々を支援するために、レストランなどで食事をするとき、一定の金額を寄付する仕組みです。これならば、個人も参加しやすい。すでに日本でも社員食堂に導入している企業もあります。日本円にすると20円だったり50円だったりしますが、日本とアフリカでは貨幣価値が全く違いますから、それで大きな貢献ができるのです。
また早稲田塾では、生徒の勉強時間に応じてミレニアムビレッジに寄付を行う制度を採れ入れました。自分が勉強することがアフリカの人々の役に立つというのは非常にユニークな仕組みですし、若い人にグローバルアジェンダを考えてもらうためにもいいことだと思います。もちろん、寄付がどのように使われたかが分かるように、こちらも“可視化”した透明な仕組みになっています。
――日常生活の中で社会貢献に参加する仕組みが出来上がってきたわけですね。となると、それをもっと世の中に広めていくことが必要になります。
竹中氏:そうです。日本でも「世界の子供たちを救うために、何かしたい。だけど、何をしていいのか分からない」という声を耳にします。そこで必要なのは、ミレニアムビレッジのような取り組みを紹介し、たくさんの人々に参加してもらうことです。グローバルアジェンダの解決には、一人ひとりが行動を起こすことが不可欠なのですから。そのためには、現状を認識し、社会に正しく伝えることが重要です。ジェフリーは「一度でいいから、まず現場を見てくれ! 何かが変わるはずだ」とよく言いますが、その通りだと思います。理解が深まりますからね。私も、機会を見て現地へ行くつもりです。
貧困の問題で言えば、日本の場合、話の焦点が「格差」になってしまうことが問題です。日本の議論は歪んでおり、日本の格差は国際的に見れば大きなものではない。人類の問題を考えるとき、本当に目を向けるべきは「相対的貧困」ではなく「絶対的貧困」なのです。しかし、それについてきちんとした議論をしようとはしない。ここが世界とずれているところです。英国の元首相、マーガレット・サッチャーが「金持ちを貧乏人にすることはできても、貧乏人を金持ちにすることはできない」と言いましたが、まさにその通りです。そのことも、きちんと分かってほしいと思います。
(2011年3月14日公開)
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