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森信茂樹の目覚めよ!納税者
【第4回】 2011年4月18日
著者・コラム紹介バックナンバー
森信茂樹 [中央大学法科大学院教授]
投機の標的、金利上昇のリスクをはらむ復興国債の日銀引き受け論を排す
国債の日銀引き受けが報道されたとき
マーケットに何が起きたのか
まず下のグラフを見ていただきたい。これは、3月31日から4月1日にかけての、10年もの国債金利の推移を表したものである。3月31日の14時に、金利は急騰している。この理由は、一部報道機関が「政府が日銀による国債引受けを検討」と報道したためであるという(時事通信社2011年3月31日)。
同日の日経夕刊では、「復旧復興税を創設 震災国債、日銀引き受け検討」との見出しで、「政府が」基本法の中に書き込むことを検討していると報じた。しかし、その後政府は、日銀引き受けの検討を真正面から否定し金利は落ち着いた。あやうく金利の高騰という重大事態を免れたのである。
国債の日銀引き受けは
なぜ問題なのか
復旧に向けた第1次補正予算編成作業が始まり、マーケットでは、その先の復興財源論に興味がシフトしつつある。
復興財源は、「国内的には日本人同士の連帯感の表示、国際的には、投機筋の日本国債売りに対抗する強い意思表示をする必要がある」という理由から、当面は国債発行で行うものの、その償還については、通常の国債とは別に、税財源を確保することを決めておく必要がある。このことは3月25日付の「目覚めよ納税者(第3回)」で述べたとおりである。
次のページ>> なぜ日銀の国債引き受けは禁止されているか
そこで今回は、復興財源を増税に求めず、国債発行に求めつつ、デフレ脱却という別途の意図から、日銀引き受けで行うべきだ、という主張について考えてみたい。
あらかじめ私の立場を断っておくと、日銀引き受けという禁じ手を発動せよという主張は、「歴史の教訓に学ばない愚者」の考えである、というものである。
以下、水掛け論になるデフレ脱却論の蒸し返しではなく、論者の言う財政法に対する(意図的な)誤解をただすという観点から、議論をしてみたい。
国債引き受け論を主張する人は
財政法を誤解または曲解している
「第5条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」
これが財政法第5条の全文である。
このとおり、国債発行の日銀引き受けは明文で禁止されている。これは、戦前、戦中において大量の公債発行が日銀引き受けによって行われた結果、通貨の膨張的な増加を通じて、激しいインフレーションを引き起こしたことへの反省に基づいて規定されたものである。しかし、「特別の事由がある場合」という但し書きがついている。
これに対して、引き受け論者は、「日銀が保有する国債の借り換え債(いわゆる「日銀乗換」)については、予算総則に明記し国会の議決を経た上で、日銀引き受けを実施しているではないか」という議論を行っている。
次のページ>> 資金繰りのための直接引き受が問題ない理由
「日銀乗換」というのは、日銀が現に保有している国債の満期到来に伴う引き受けのことである。したがって、これを行っても、すでに保有している国債の単なる借り換えであり、通貨膨張にはつながらない。このことから、財政法第5条の趣旨に反するものではなく、「特別な事由」にあたるものとして、日銀引き受け行ってきている。政府は満期が来た国債の借り換えを行っているが、日銀の保有する国債を借り換える際に、日銀が引き受けているというだけのことである。
そこで、引き受け論者は、次の論点にシフトしてくる。「財務省証券については、日銀引き受けが禁止されていない(財政法第7条)ではないか」という議論である。
たしかに、財政法第7条をみると、以下のように記述されている。
「1 国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行し又は日本銀行から一時借入金をなすことができる。
2 前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しなければならない。
3 財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。」
国庫の資金繰りのための財務省証券については、財政法は、日銀の直接引き受けを禁止していない。この理由は単純である。財務省証券というのは、収入と支出との時期がずれることから生じる年度内の国庫の資金繰りのために一時的に発行されるものである。
資金繰りは、国庫金の出納を管理している日銀が行うことが最も適当で、そこで財務省証券の引き受けを行っているだけの話である。財務省証券は、最終的には同年度の中で償還されるので、何ら懸念されるような事態は生じない。
最後に論者が指摘してくるのは、「日銀は、長期国債の既発債について、年間20兆円を超える買い入れを、民間の金融機関から行っている。これは、日銀引き受けと同じではないか」という質問である。
残念ながら、この質問も的外れである。既発債の買い入れというものは、日銀の金融調節の一環として流通市場で行われているもので、財政赤字のファイナンスとして、発行市場で行われる日銀引き受けとは全く異なるものである。両者を混同することは、金融調節のイロハを知らないものか、意図的に議論を行うものである。
次のページ>> 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
実際に、震災後の国債発行状況をみてみよう。3月16日に20年債が1.1兆円、24日に2年債が2.6兆円、4月5日に10年債が2.2兆円入札されているが、順調に行われている。
以上見てきたように、引き受け論者の法文解釈は、法律家として見れば、我田引水なものであり、また、わが国の国債市場は、直ちに国債消化に支障が生じる状態にはないと考えられる。
「愚者は経験に学び、
賢者は歴史に学ぶ」
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とは、プロシア(現ドイツ)名宰相・ビスマルクの言葉として伝えられ、日本でも人口に膾炙(かいしゃ)している名言である。わが国には、戦前や戦中、巨額の公債を日銀引き受けにより発行し、急激なインフレが生じた苦い歴史がある。
1930年代の世界大恐慌の下で、時の大蔵大臣・高橋是清は、日銀の国債引き受けによる拡張財政と通貨切下げ策による経済回復を目指したが、結果的に財政規律は失われ、高橋是清の暗殺後、軍部による国債発行と軍事拡張により、戦争へと突入していった。
このような歴史的教訓を踏まえて、日銀引き受けは、現行の財政法で原則禁止された。ユーロ加盟国も、リスボン条約で、ユーロ採用国の中央銀行による公債の直接引き受けを禁止している。
日銀引き受けによるマネタイゼーション(財政赤字を中央銀行がファイナンスすること)の最終的な帰結は、大幅な通貨価値の下落を通じてのハイパーインフレと円安、長期金利の上昇である。このような財政規律の緩みを見せることは、日本国債売りに向けての国債投機の引き金を引くことになる。
震災の困難に立ち向かう今こそ、歴史に学ぶ賢者でありたい。
質問1 復興資金調達のため日銀が国債を直接引き受けることに賛成ですか?
51.9%
反対
31.2%
賛成
10.4%
わからない
6.5%
増税までのつなぎ資金なら賛成
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