http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/520.html
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■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1206への回答、ありがとうございました。大震災のあとの首都圏の日常は、
余震と、福島第1原発危機の長期化で、不安がぬぐえず居心地の悪いものになってい
ます。また、地震直後に実施された計画停電の影響も無視できないようです。わたし
は毎朝、近くの広い公園に犬と散歩に行くのですが、最近、いつもお会いするランニ
ングの男性の姿が見えないことに気づきました。軽く挨拶を交わす程度の間柄なので
すが、「計画停電で生活のバランスが崩れちゃいました」と、最後にお会いしたとき
にそういうことをおっしゃっていました。
子どもたちはもう独立して、奥様と二人だけの年金生活だそうですが、買い物に行
くにも停電を気にしなければいけなくなって、精神的に参ってきて、ランニングする
気になれないと訴えられていました。被災地のみなさんに比べると、影響は軽微です
が、それでもリタイアした60代後半の夫婦にとって「それまで確固としてあった日
常が変化する」というのは相当なストレスのようです。
直接には震災の影響がなく、余震もなく、原発からも遠く離れた西日本の友人たち
との感覚的なギャップも感じます。彼らは、深い同情を示してくれますが、独特の居
心地の悪さを共有していません。首都圏に住むわたしたちは、これからむずかしい方
法で、復興を目指すことになるのだと思います。犠牲になった方々への哀悼の念と、
いまだに続く被災地の方々の労苦を忘れず、また原発危機の不安に耐えながら、でも
自らの現場で、良い仕事、つまり生産性の高い仕事をしていく必要があります。とて
もむずかしいですが、そういったことをやっていくべきなのだろうと思います。
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■今回の質問【Q:1207】
先週円が下がり、「悪い円安」ではという懸念が広がりました。今後、国債の増発
も予想されます。「悪い円安」という事態を避けるためにはどうすればいいのでしょ
うか。
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村上龍
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
"悪い円安"という意味がいま一つよく分っていなかったので、インターネットで検索
してみました。どうも、二つのインプリケーションで使われているように思います。
一つは、"日本売り"に関連して、円が売られることのようです。つまり、今後、わが
国経済が落ち込むことを予想するため、わが国の通貨、株式、債券、すべての金融資
産のエクスポージャーを減らすことを目的として、わが国通貨=円を売ることで円安
が進むことを意味しているようです。つまり、その場合には、いわゆる"日本売り"と
いうことだと理解します。
従来、わが国の企業収益は輸出依存度が高まっていることもあり、円高になると株
価が低迷し、円安になると、企業収益の好転期待から株価が上昇する傾向がみられま
した。ところが、4月6日、円が売り込まれ円安方向に動いたにも拘わらず、株価は
やや軟調な展開になりました。それについて、一部の市場関係者の間から、円安に
なったにも拘らず株価が下落したことを、"悪い円安"が始まったのではないかと表現
したようです。
もう一つのインプリケーションは、円安になることによって、わが国経済にマイナ
スの影響をもたらすという意味で、"悪い円安"と称しているようです。つまり、円が
下落すると、輸入物価水準は上昇します。特に、現在の様に、エネルギー資源や穀物
などの価格が上昇し易い状況下で、自国通貨の下落速度が速いと、輸入物価を急速に
押し上げてインフレ懸念を台頭することが考えられます。
大震災の影響もあり、当面、わが国経済は調整局面を迎えることは避けられないで
しょう。今年4ー6月期のGDPは、3%程度落ち込むとの予測も出ています。それ
に加えて、夏場の電力供給量に大きな不安が出るようだと、7ー9月期の生産活動が
大きく阻害されることも懸念されます。それが現実のものになると、景気が落ち込み、
それに加えて、円安による輸入物価水準の上昇でインフレが追い打ちをかけることも
想定されます。
その場合には、景気下落局面でのインフレの発生=スタグフレーションの状況に落
ちこむことも考えられます。そうした悪い経済のシナリオをもたらすという意味で、
"悪い円安"という表現が使われているようです。
ただ、ややステップバックして冷静に考えると、今回、円安方向にやや傾いている
と言っても、1ドル=85円前後のレベルですから、まだ、レベル的には円高水準に
あると考えられるかもしれません。また、円安から円高方向に風向きが少し変わった
きっかけは、欧州などの金利引き上げが実施されたことに加えて、米国の金融政策が
正常化される可能性が増したことにあると思います。
それ自体は、ヘッジファンドなどの投機筋が、為替相場の展開を力づくで捻じ曲げ
たということではないと思います。つまり、足許の為替市場の動き自体はかなり自然
な動向なのではないでしょうか。中・短期的に、為替レートは二つの通貨の量に大き
く規定されることが考えられます。世の中に沢山存在する通貨は基本的に売られやす
く、希少性の高い通貨は、一般的に買われやすくなります。通貨量の代理パラメータ
ーとして、当該通貨の金利水準が注目されます。
金利水準の高い通貨は買われやすく、低い通貨は需要が少ないため売られやすくな
ります。今回、円安方向に動いた背景には、欧米諸国の金利水準が、上昇ないし上昇
する可能性があると見た投資家が、ドルやユーロを買い上がったことがあるのでしょ
う。これは、ごく自然な投資行動と考えます。
ということは、円安の傾向に歯止めを掛けるためには、わが国の経済状況を改善さ
せて、先行き、金利水準が上昇する可能性があるという状況を作り出せばよいことに
なります。そのためには、早くわが国経済を復興させて、投資家に金利上昇を予感さ
せることが最も重要だと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
悪い円安を避けるためには、国家としての国際的な信頼性を維持することが何より
も重要です。為替は2国間の相対的な強さで決まりますが、実効為替は国全体の信頼
度合いを表す鏡といえます。12日に政府が福島原発の事故がレベル7だったというこ
とを事故から1カ月経って認めたことは、日本の国際的な信認を傷つけました。政府
は事故直後レベル4と発表していましたが、原子力の専門家の間では、当初からレベ
ル7だとの認識がありました。政府は原発から出た放射能が直接的な原因で亡くなっ
た者はゼロと発表していますが(地震や津波による死者は多数いますが)、レベル7
であれば、放射能が原因で亡くなった方もいるのではと指摘する医学専門家もいます。
今回は国家財政に対する信頼を維持することも重要です。一次補正予算は4兆円程
度になりそうですが、大規模な公共事業が必要になる二次補正予算は10兆円規模にな
ると予想されます。民主党は子供手当てなどのマニフェストをまだ取り下げていませ
んので、財源をどうするか全く決まっていません。地方統一選挙で民主党が敗北した
ことで、野党も国会での攻勢を強める見込みです。14日に初会合を開催した復興構想
会議の五百旗頭真議長が「震災復興税」の創設を提唱したことが、波紋を呼んでいま
す。増税のような重要な意思決定は、民間有識者で構成される復興構想会議ではなく、
政治家が決めるべきだとの指摘が出ています。いずれにせよ、巨額の復興予算のファ
イナンスが円の信頼性に大きな影響を与えます。
貿易収支の黒字が維持されるかも重要ファクターです。20日に3月の通関統計が発
表されます。日本はこれから資材、石油、食料品などの輸入が増えるのが間違いあり
ません。輸出も、日本の工業製品まで風評被害を受けて、放射性物質に汚染されてい
ないという証明書がないと輸出しくにい状況になりつつあります。リーマンショック
以降、日本は一旦、貿易黒赤字に陥りました。日本からの部品調達ができなくなった
海外企業は、日本製品でなければだめな製品以外は、部品調達先を多様化することが
予想されます。日本は世界最大の債権国なので、経常収支の黒字は維持されると思い
ますが、貿易黒字が減ることが、円安につながる可能性があります。
日本の投資家に、円建て金融商品に対する信任を維持してもらうことが重要です。
日本の投資家はホームカントリーバイアスが大きいので(円建て比率が高いという意
味です)、個人、年金ともに、中長期的に海外資産比率を引き上げたいという投資家
が多くいます。3月の株安・円高局面で個人投資家がどのような投資行動を採ったか
注目されていましたが、3月の投信概況によると、海外の債券やREITなどに投資する
ファンドオブファンズが大きく増えた一方、国内株型投信は純減となりました。円高
局面で海外投資を増やすという個人投資家の投資パターンが今回も起きました。日本
の国債は9割以上、国内の投資家に保有されています。日本の投資家が一気に海外資
産比率を上げたら、円安になります。企業経営、国家運営の両面から、国内投資家の
日本の債券、株式への信任を維持する必要があります。弊社の為替調査チームは、今
年末の円ドルレートを88円と予想しています。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
「悪い円安」という言葉を含む記事を検索してみました。3月11日以降、4月15
日までの間で、意外なことに1件しかありませんでした。その記事の該当部分は、次
の通りです。「円安が進めば、輸出企業の競争力は高まるはずだが、株式相場の上昇
の勢いは鈍い。震災で生産が落ち込んでいるため、円安が進んでも輸出の増加が期待
できず、復旧のための輸入代金の増加だけが日本経済にのしかかるとの見方がある。
「悪い円安」(米国銀行)との声も広がり始めた」(4月5日付け日本経済新聞)。
記事が1件しかなかったのは、「悪い円安」という懸念が広がり始めた二日後の4
月6日に、ドル円相場が目先の高値をつけて、83円台までドル安円高になったから
かもしれません。ところで、この記事では、円安にもかかわらず、株式相場の戻りが
鈍いから、「悪い円安」という解釈になっているようです。要するに、為替相場の変
動が良いのか、悪いのかは、その時の株式相場の反応をみて判断するということなの
でしょう。
さて、行司役の株式相場ですが、日経平均株価は、3月15日に8227円で底入
れした後、大震災後の下げ幅の半値を戻してきました。ただ、この間(3月15日か
ら戻り高値をつけた4月8日まで)の値動きの内訳をみると、自動車、電機などの外
需セクターの上昇率が15.4%であったのに対し、銀行などの内需セクターの上昇
率は11.0%でした。株式相場の場合、相対的に上昇の勢いが鈍かったのは内需セ
クターです。円安にも拘わらず、というか、その前に「日本」が敬遠されているので
しょう。
いずれにせよ、一日や二日という極めて短い期間の、しかも表面的な値動きだけを
捉えて、円安にも拘わらず、株式相場の戻りが鈍いから、悪い円安だというのは、相
当、無理のある話です。円安は円安として分析というか、後講釈をすればよいし、株
式相場の戻りの鈍さは、別途、その理由を考えれば良いのではないかと思います。
ところで、大震災以降、外国人入国者数も急減しているようですが、「日本」が敬
遠されている最大の理由は、やはり原発事故に収束の目途が立っていないことだと思
います。だから、「日本」と一蓮托生の内需セクターの戻りが鈍いのだと思います。
そもそも、大震災後、3月15日までの下げ局面では、約20兆円とも言われる経済
的損失を考慮してもなお、株式相場の下落率は強烈でした。私は、放射能による首都
圏消滅を織り込む値動きだったと考えております。
先日、「放射能で首都圏消滅」(古長谷稔、三五館)という本を読みましたが、2
006年に出版されたこの本に書かれている近未来シミュレーションには驚きました。
東海地震を東北太平洋沖地震に、浜岡原発を福島原発に置き換えると、ほぼ3月11
日に、我々が経験したこと、感じたことを予言していたからです。この本を読みなが
ら、ああ、なるほど、株式市場が織り込んでいたのは、やはり、このシナリオだった
のだなと思いました。ただ、結論においては、この本の通りにはなっておりません。
東京は消滅していません。首都圏は、少なくとも今のところ健在です。そこで、半信
半疑の半値戻しという格好で、株式相場は上昇してきたのでしょう。
仮に、こうした理解が正しいなら、株式相場が上昇するために必要なのは、何より
も原発事故に収束の目途が立つことでしょう。閉ループでの冷却システムが構築され、
放射性物質の封じ込めに成功したならば、為替相場がどうあれ、企業業績がどうあれ、
景気がどうあれ、株式相場は大震災前の水準を目指して上昇するでしょう。その意味
で、「悪い円安」という事態を避けるために必要なことは、福島第一原発に対して
「安全宣言」を出すこと(出せる状況にすること)でしょう。その時に、為替相場が
円安になっているのか、円高になっているのかは知りませんが、少なくとも、「悪い
円安」とは呼ばれなくなっている筈です。
なお、これは、あくまでも過去数週間の出来事を前提にした議論で、時代が変われ
ば、「悪い円安」の内容も変わっていることでしょう。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
円安自体はデメリットばかりでなくメリットもあるため、悪い円安にはなりませ
ん。震災直後はむしろ円高が進んだのは記憶に新しいことでもあります。震災直後は
日本勢のリパトリがあったため、円高に陥ったとの解説が乱舞していましたが、それ
も、海外勢による、日本資産の目減り分に対するマージンコールのために円需要が増
したことが主因なのだとの説明に落ち着くようになっています。
現在の日本は海外勢から見てどう映っているか、が重要な鍵を握っているのではな
いでしょうか。金融市場にいると、海外勢のスタンスが基本的には弱腰になってきた
ことがわかります。一部には東京電力の社債について、"スイスフラン建てのみなら
ず日本円建てのものでも欲しい"と、買いイントを見せる投資家もいるのですが、ほ
んの一部です。CDS市場では、外人は基本ショートポジション(クレジットに対し
て)なので、震災後のワイド化によって利益確定に動きました。また、新たなポジ
ションを仕込む動きもあるにはあるのですが、あまり活発ではありません。ある金融
機関の幹部の方の話では、首都圏の不動産に見られた強い需要も、一転してキャンセ
ルが積み上がり、一気に冷え込んでいるということです。リアルマネーの日本への資
金流入もストップし始めたということでしょうか。
海外投資家は、日本経済の復興はいつか果たされるであろうことは漠然と理解して
いるものの、目先は懸念一色に見えます。それが上記のような日本への資金流入を阻
むことにつながっていると考えられるのです。また、日本勢のドル資金調達に多少陰
りが出始めたとの話も聞きました。まだ欧州では日本の金融機関の資金調達が可能な
ようですが、米国では徐々に資金調達難になってきているようです。ジャパンプレミ
アムがついてしまうということになってきた、と言ってもよさそうな勢いです。
海外勢から見て、日本回避の動きがより濃厚になってきたことが、悪い円安を更に
招くと考えられるわけです。これを止める必要があります。
海外投資家が日本を避け始めたことが、我々にはっきり見えてきたのは、IAEA
が日本の原子力関連の調査を開始すると発表したときでした。それまで、日本政府も
放射能量などの発表をしてきていたにも関わらず、日本政府の発表ではまったく信頼
が持てないと言うことだったのでしょう。「やっぱりだめなんじゃないか」との見方
が一気に広がり、日本資産の処分を考え始めたように見えました。液状化した土地の
映像は、どれだけ耐震構造のビルですと言えど、所詮埋め立て地は埋め立て地という
見方を強めるのに十分だったようです。また、東京電力関連のニュースでも、東電が
失った分の信用リスクを国が早々に補填するだけのコミットメントを指し示すべきで
したが、それもせずに、逆に東電の責任を追及するようなゴタゴタを国の内外問わず
見せ続けたことも、日本政府への信頼を落とすことになりました。製造業ニッポンの
品質は世界でも広く認められているところですが、部品がそろわないことにより、米
国自動車工場での生産がストップしています。サプライチェーンの見直しも進めざる
を得なくなるでしょう。GW明けには、企業の決算発表が本格化します。3月11日の
震災の影響分が今期の業績に与える影響はあまり大きくないはずですが、それでも、
引当金を積むなど処理をしているがゆえ、収益は低く抑えられると考えられます。
4-6月期の業績については、深刻になっていると思われますので、その状況が明るみ
に出れば、株式市場は落胆の色を隠さないのではないでしょうか。
こうして見てくると、順次日本売りの構造ができあがっており、悪い円安に歯止め
をかけることは大変難しいことに見えてきます。
出来ることからやっていくしかないでしょう。まずは、東京電力福島原発の事故を
収束させることです。そして、その収束および放射能による汚染状況については、日
本政府と東電に加えIAEAの三者で行うことが望ましいと考えます。その上で、新
たな電力政策やエネルギー政策と東電の状況および震災など被害の手当をいかに迅速
に、いかに的確に、国主導で行っていけるのかを、見せることが大事ではないでしょ
うか。
民間はその方向性を示しつつあります。液状化した駐車場も補修をして、東京ディ
ズニーランドは再開しました。部品が調達できないといっていた自動車生産も、稼働
率こそ低いですが、とりあえず、再開しています。完全に正常化するには時間がかか
るのは言うまでもないですが、日本経済への信頼を取り戻すには、その方向に確実に
向かっていると確信できるように仕向けることが大事です。
その方向性を示すための時間は余り多くないということは、ただし、肝に銘じる必
要があります。金融市場で信頼されるためには、時宜を得た動きが絶対に欠かせませ
ん。後から帳尻を合わせることが難しい市場です。東京電力は4月30日に予定してい
た決算発表を遅らせますが、遅らせるといっても、市場の信認のためには6月には発
表されることになるでしょう。この時の東京電力の決算には、国と一体化した損害賠
償支払いなど、政府サポートが反映されるでしょうか。4?6月期の決算発表が本格
化するのは、7月からですが、この頃は既に暑くなっていることが考えられます。
クーラーなしの生活に耐えられないようになっている日本で、計画停電はどのような
印象となるか、想像するのは簡単です。つまり、6月から7月には、再び日本売りとな
る可能性があるということになるわけです。その前に、日本政府および日本国が、そ
れなりの信頼を回復していなければ、海外資金は日本を完全に回避することになりか
ねません。こうした危惧が現実にならないことを望みます。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
3月17日早朝、76円台まで急騰したあと、円は急激に円安に反転しました。相
場反転にはいくつかの理由が挙げられます。一つは協調介入で円高の天井が形成され
たことです。過去の介入の歴史から単独介入の効果は限定的ですが、G7協調介入だ
と効果が高いという経験則があり、今回は協調介入だったので円高にかなり強い歯止
めがかかったと言えます。第ニに76円までの円急騰をもたらした「リパトリ」のう
わさの否定、すなわち、本邦機関投資家が震災保険支払いのため外債を売却するので
はないかとのうわさが否定されたことです。なんだ、リパトリは実際には起こってい
ないのかと安堵した市場関係者も多かったと思います。
第三は日米欧の金融政策のスタンスの違いがここに来て、かなり顕著になってきて
いることです。ECBはすでに4月7日に政策金利を0.25%引き上げました。ユ
ーロ圏のインフレ懸念は強いのでECBは引き続き監視の手を緩めない姿勢を示して
います。6月か7月には2度目の利上げもありえます。また、FRBは現在QE2と
いう米国債を6千億ドル買い取る緩和プログラムを採用中ですが、米国も雇用など景
気回復のデータも出ていますので、QE2は予定通り、今年の6月で打ち切るとの見
方が強くなっています。このように欧米金融当局がこれまでの緩和政策の変更に動い
ているのに比べ、日本は震災対策もあり、むしろ、一段の緩和に動いており、少なく
とも引き締めに転ずるということは当面ありえません。よって、円が売られやすい環
境になっています。
さて、円安が進行すれば輸出依存の高い日本経済にはプラスであり、株が上昇する
のが常ですが、今回は円安転換にもかかわらず、株価が下落したので、株式市場から
「悪い円安」という声が上がりました。「悪い円安」の定義は人それぞれでしょうが、
一応、震災や原発の影響で当面需要が出てこずに景気が悪化する、また同時に供給力
が回復せず、円安でも輸出が増やせないのではないかという懸念が円を押し下げてい
ます。それで「悪い円安」というのでしょう。それと、復興には膨大なお金が必要と
なりますが、それを国債発行で賄おうという動きがありますが、財政状況が極端に悪
化している日本で巨額の国債発行は財政破綻の連想を招きます。まして、日銀引受を
検討となると、財政の規律も金融の節度もなくなりますので、余計に海外勢は円売り
に反応しそうです。これらが「悪い円安」の背景でしょう。
このような「悪い円安」を回避するにはまず、確固たる復興の道筋を示すことです。
具体的なインフラ整備とそれに要する時間とお金、そしてその資金調達ルートを具体
的に示すことが必要です。いわゆる工程表をしっかりと策定することです。これに
よって、視界不良の日本経済の展望が開けてきますし、海外勢の日本に対する見方も
ポジティブなものに変わってくるでしょう。もちろん、そのためには今、最大の障害
となっている原発問題の収束をできる限り早く達成することは言うまでもありません。
あと、復興財源ですが、先ずはバラマキとみなされている子供手当て等の財政支出
は一時凍結して、復興財源にまわすことです。それから国債の日銀引受は論外です。
これをやったら一発で「悪い円安」に火がつきかねません。財政状況を考えれば、で
きる限り国債発行は最小限かつ、万やむを得ない場合に限るべきでしょう。やはり、
震災復興は国民全員で推進するという意識の元、できる限り復興税の形をとるのが望
ましいと思います。東西ドイツが統一したときにも、連帯税という時限増税が実施さ
れました。何でも借金で賄おうという安易な方策は今回は採らないで、正攻法で行っ
た方が、経済の健全性を維持できますし、ひいては「悪い円安」を避けることにもつ
ながるかと思います。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也
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■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
「悪い円安」という言葉の意味はよく分かりながらも、3.11以前、いや3.11
直後も、当局や産業界が円高を防ごうと必死になっていたことを考えると、やはり皮
肉な感がします。円相場はどこまで行っても数字でしかなく、それに対する意味づけ
は個々の人間の読み込みにすぎません。相場は無数の情報の集積であり、集団心理が
投影されてはいますが、「何が意味されているのか」というのは結局のところ分から
ないし、「意味などない」と言い切ってしまっても間違いとは言えません。
だから、円安が「いい」のか「悪い」のかも、気の持ちようによってはよくも悪く
もなる、と言ったらあまりに無責任でしょうか。でもそんなものです。実際、この円
安で輸出企業は一息つきます。供給体制が整っていなくてこの機会を生かせない企業
も多いでしょうが、中には大きな利益を挙げる企業もあるはずです。
見事に復興が成し遂げられたら円はきっと高くなります。その時は「こんな円高で
は日本経済は沈没だ」と産業界はまた騒ぎ出すに決まっています。そんな不毛さは感
じますが、ともかく「見事に復興が成し遂げられた」という状態になれば「悪い円高」
が避けられるのは確かです。
3.11以前の円高は、世界経済の中で日本が比較的安定しており、円資産の確実
性が高いとみなされていたことが主な要因でした。現在は逆に、世界的に景気が回復
し、金利も上がり気味の中で、日本だけが原発問題などでリスクを抱えており、不安
要因が大きいこと、またそのような状況で金利を上げられず、他国との金利差が際
立っているために、円安の方向に振れています。
不安要因を乗り越え、「見事に復興した」と見なされるのはイメージ形成の問題で
すから、ビジョンとかメッセージ性が重要になってきます。「安全・安心な日本」と
いうブランドを失ったのですから、それを取り戻さなくてはなりません。それも、さ
らにグレードアップした形で安全・安心な社会を築いてみせることが大きなメッセー
ジになります。
一つのカギになるのは、やはりエネルギー利用の問題ではないでしょうか。原発の
今後の扱いはまだわかりませんが、いずれにせよ東日本において発電量を大きく増加
させることは、将来にわたって不可能になったと考えていいでしょう。しかし、こう
した枷をはめられたということは、考えようによってはよいことです。なぜなら、エ
ネルギー資源の限界は、いずれ世界が直面する問題だからです。日本はこの問題を世
界に先んじて解決する動機を与えられたということです。
エネルギー利用の効率性は日本は高い方ですが、まだ改善の余地はあるでしょう。
新エネルギーの利用も進められます。太陽光パネルの普及やバイオマス、風力、波力
などの利用促進、さらにはもっと新しいエネルギー源の探索、利用技術の開発も進め
るべきでしょう。エネルギー低消費型の生活文化を築くことも重要です。何か一つの
決め手ではなく、エネルギー効率の向上に加え、多様なエネルギー源による分散的な
エネルギー調達を進める必要があります。原発の問題は、原子力自身の問題もさるこ
とながら、一つのエネルギー源に頼ることがシステムを脆弱にするという問題でもあ
るからです。
エネルギーの問題に加えて、防災の問題をより根本的なレベルで解決することも新
たな課題として浮上しています。日本は今後も地震・津波とは縁が切れず、東海・東
南海・南海の三つの巨大地震の発生を近い将来に控えています。起きることは確実な
のですから、この際、三つの地震における死者をゼロにすることを目指すべきだと思
います。
「死者ゼロ」は今回の二万人を超す死者・行方不明者の後ではいかにも荒唐無稽に聞
こえます。しかし、かつて日本では大きな台風が来ると数千人の死者を出していまし
た。台風接近の度に、窓枠に木材を×の形で打ち付けて補強したり、懐中電灯や非常
食を確認するなど、日常生活を中断して準備をしていたのは、ほんの三、四十年前の
ことです。それが最近では台風での死者はかなり少なくなり、かなり大きな台風でも
死者ゼロも珍しくなくなりました。治水の努力と、住宅の建て替えや補強が進んだこ
とが主な理由です。
今回の巨大地震をきっかけに、地震・津波対策の観点から全国的に街づくりのあり
方を見直せば、来る東海・東南海・南海地震における被害者の数を劇的に減らすこと
は可能です。まだ間に合います。具体的には、全国的に綿密な巨大地震のシミュレー
ションを行って、多数の死傷者が出る可能性のある要因を地域ごとに特定し、しらみ
つぶしに問題を解決していくことだと思います。圧死、火災、津波、土砂崩れなど、
地震による被害にはいくつかのパターンがあり、それぞれに対策があります。きちん
とやっていけばかなりの効果があることは間違いありません。
実際に死者ゼロを達成するのは極めて難しいことは確かです。しかし、死者ゼロを
掲げることにより、明確な目標が共有されます。「地震のとき、死者を出さないため
にはどうしたらいいか」と考えると、街づくりにいろいろと新しい発想が生み出され
ます。新技術の開発を促進することにもなるでしょう。
太平洋戦争が終わった時、日本社会には明確な目標が共有されました。二度と戦争
で死者を出さないことです。その目標は六十年以上にわたって、達成され続けていま
す。今度は「二度と地震で死者を出さないこと」を目標とすべきではないでしょうか。
エネルギーの問題と防災の問題、この二つの問題を高いレベルでクリアしたとき、
日本は見事に震災から立ち直り、新しい魅力的な社会モデルを築いたと評価されるで
しょう。「悪い円安」の懸念もなくなるはずです。
日本語学校教師、評論家:水牛健太郎
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