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http://president.jp.reuters.com/article/2011/04/13/008F50DC-61AF-11E0-91CB-1EB13E99CD51-2.php
投機マネーが天災を人災に変える
復興過程において日本銀行は引き続き円資金の供給を続ける必要がある
プレジデント 2011年5.2号
東日本大震災は、多くの人々の暮らしと日本経済に大きな被害をもたらした。震災後の為替市場の動向を通して、市場が抱える問題と復興への道筋について筆者が説く。
一橋大学大学院商学研究科教授 小川英治=文 平良 徹=図版作成 写真=Getty Images、The Asahi Shimbun/Getty Images
キーワード: ビジネススクール流知的武装講座 東日本大震災 経済・金融 投資・信託
いつの間にか「失われた20年」に突入した
東日本大震災の後、ガソリンを求めて列を作る人々(写真=Getty Images)
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東日本大震災の後、ガソリンを求めて列を作る人々(写真=Getty Images)
3月11日午後2時46分頃に東北地方太平洋沖でマグニチュード9.0を記録する、信じられないほどの巨大な地震が発生した。それは、東西南北何百キロメートルにわたってプレートがはね上がることによるものであった。また、そのために大きな津波が次々と東北・関東地方の沿岸に押し寄せて、被害をより一層甚大なものとした。この東日本大震災によって被災された方々には心よりお見舞い申し上げたい。
東日本大震災が発生したとき、筆者はたまたまソウルで会議に参加していた。その会議の真っ最中に、会議に参加されていた日本の方の携帯にその一報が入った。早速、ホテルの部屋に戻り、NHK BS、BBC、CNNと次々にチャンネルを変えて、テレビの画面に見入った。画面には津波の大きな被害が映し出され大きな衝撃を受けた。その衝撃の大きさから愕然としていたところへ、その週明けに始まった突然の東京電力による計画停電が追い打ちをかけた。計画停電およびその影響を受けた公共交通機関の大混乱・運休が、東北・北関東のみならず首都圏にも多大な影響を及ぼすこととなった。
筆者自身は、東日本大震災の翌日に、震災の影響を受けて、フライトが1時間ほど遅れて金浦空港を出発したものの、羽田空港に無事に戻ることができた。乗客の中には、出発が1時間遅れとなった理由の説明がないとキャビン・アテンダントに詰め寄る人もいた。空港に置かれたテレビで東日本大震災のニュースが流れていたので、出発遅れの理由は聞くまでもないことだろう。非常時においてもいつでも飛行機がスケジュール通りに飛ぶはずだという予想(期待)が彼らを不愉快にさせていたのだろう。むしろ被災者の方々のことを考えると、遅れてでも羽田空港に降り立つことができたことは、幸運だったと感じたのは筆者だけではなかっただろう。
しかし、東日本大震災の当日に帰宅難民となって、疲れ果てて帰宅した家族とソウルから帰国したばかりの筆者は、スーパーマーケット等の店頭からお米やミネラルウオーターやトイレットペーパーが消え失せていることも、ガソリンを入れるためにガソリンスタンドの周りに長い車の列ができていることも知る術はなかった。
直接に甚大な震災被害を受けていない東京において、店頭からお米などが売り切れとなったり、ガソリンが入手困難となったりしている状況は、流通が滞っているというよりもむしろ買い占めや買い溜めによるところが大きい。普段、豊富に店頭に並んでいると買い占めや買い溜めが起こらないにもかかわらず、だれかがそれらを普段より大量に買い込んで、店頭における在庫がだんだんと少なくなってくると、ますますそれらが店頭から消え失せる前に買わなければならないという消費者心理が働く。そして、ついには、店頭からそれらの商品が消え失せてしまう。これは、たとえ商品の在庫がある程度あったとしても、皆が買いにきて、商品が店頭からなくなってしまうのではないかという予想(懸念)から起こる行動である。
円の急騰を反転させたG7協調介入
混乱する東京の駅構内(写真=The Asahi Shimbun/Getty Images)
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混乱する東京の駅構内(写真=The Asahi Shimbun/Getty Images)
東北・北関東にある多くの民間企業の工場も大きな被害を受けた。また、東北・北関東の幹線道路が緊急車両の通行のために一般車両が通行止めになる一方、ガソリンの入手困難のために、東北・北関東を中心として経済活動に支障をきたしている。このような日本経済の一部に大打撃を与えた状況において、東日本大震災が発生した週明け(3月14日)より、為替相場が急速に円高に進んだ。それが、株安と同時に起きた。
震災の大きな影響を受けた日本企業が多数存在したことから東京証券取引所では大きな株安となった。同時に、震災の大きな影響を受けた日本企業が円の手元現金の保有残高を増やすだろうという予想(思惑)、そして日本の機関投資家などの金融機関が対外証券投資を控えたり、さらには国際分散投資に占める外貨の比率を下げ、円の比率を上げるという予想(思惑)が外国為替市場の一部の投機家によってなされた。これらの投機家が近い将来の日本の企業や金融機関による円買いを予想して、日本の企業や金融機関が円買いを始める前に、すなわち、円がまだ高くなる前に円を買って、そして日本の企業や金融機関が円買いを始めて、円高となったところで円を売って、キャピタルゲインを得ようという投機が行われたのである。そのため、3月16日のニューヨーク外国為替市場では、1995年4月に付けた79円75銭/ドルという当時の最高値を超えて、76円25銭の最高値を更新した。
それに対して、主要先進七カ国(G7)の財務大臣・中央銀行総裁が3月18日に電話会議を開催し、「日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局および欧州中央銀行は、2011年3月18日に、日本とともに為替市場における協調介入に参加する」ことを合意した。その直後に、協調介入が実施されたことによって、同日のうちに81円/ドル台に反転した。近年においては、とりわけリーマンショックによるユーロとポンドの暴落が起きたときにでさえ、G7の財務大臣・中央銀行総裁は協調介入を行わずに、為替相場を市場に任せて、変動させてきた。しかし、今回は、東日本大震災が日本経済のみならず先進主要諸国経済をも混乱させることが懸念された。
「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に対して悪影響を与える」ことが認識され、G7の財務大臣・中央銀行総裁は「為替市場をよく注視し、適切に協力する」という声明を発表した。
この東日本大震災後の円高、そして、協調介入後の円安という為替相場の乱高下は、いかに投機が外国為替市場を攪乱しているかを示している。以前にも本誌においてフリードマンの言う投機の自然淘汰説に対して批判的に説明したことがある。投機家はファンダメンタルズを知っているので、ファンダメンタルズ水準から為替相場が乖離すれば、投機家の投機によって即座に為替相場がファンダメンタルズ水準に戻る。そして、ファンダメンタルズを知らない投機家は自然淘汰されるために、ファンダメンタルズを知っている投機家だけで投機が行われる、投機によって為替相場が安定化すると。
ファンダメンタルズによる予想と近視眼的な予想
円ドル相場
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円ドル相場
投機家は、東日本大震災によって日本経済が大打撃を受け、ファンダメンタルズでは円安になることを予想しているのであろうが、近視眼的な目先の円資金需要増大による円高を予想して、投機を行うことによって、為替相場を安定化させるどころか、不安定化させることに100%寄与したのである。それは、リーマンショックによってアメリカの投資銀行に対する経営破綻の波及の懸念が、ドル安ではなくむしろ、ドル資金の回収のためのドル需要増大からユーロやポンドに対してドルが高くなった状況と似ている。
東日本大震災のような災害が起きる非常時においては、前述した、スケジュール通りのフライトの予想(期待)や品切れになるのではないかという予想(懸念)や円高の予想(思惑)が正常時よりも際立ってくる傾向がある。そのため、災害による直接的な経済的影響のみならず、人々の予想に基づいた次的な経済的影響も相まって、全体として経済的影響が莫大なものとなってしまう。災害の直接的な経済的影響が天災であるのに対して、人々の予想に基づいた副次的な経済的影響は人災と言っても過言ではないであろう。災による直接的な経済的影響からいかに復興するかという取り組みとともに、人々の予想に基づく人災をいかに軽減するかが、その後の災害からの復興にも大きく影響を及ぼす。
今後の東日本大震災からの復興において、直近では、前述した日本の企業や金融機関による復興のための円資金需要が拡大することから、日本銀行は、3月14日に15兆円の円資金を供給したが、引き続き円資金の供給を続ける必要がある。それとともに、為替相場が再び円高に振れるようなことが起きれば、外国為替市場において円売り介入を行うことによって円高を抑制するとともに、その円売り介入を不胎化せず、円資金の供給増大をそのままにして、復興のための円資金需要の拡大に間接的に応えることも考慮に入れるべきであろう。
そして、東北・北関東における被災地の復興に早めに取りかかる必要がある。それは、単に元の状態に戻すという意味での復旧ではなく、勢いを取り戻し、さらにその勢いを後押ししてやるという意味での復興であるべきだ。また、そのことによって、打ちひしがれた東北・北関東の被災地の方々だけではなく、日本人全員の希望の光となって、日本に元気が出てくることが望まれる。それには、単に被害を受けた社会インフラを復旧するだけではなく生産性を高める産業を復興・新興させることが考えられる。農業・漁業・畜産業といった伝統的な産業を広域において再生することによってそれらの生産性を高めること。また、ライフ・イノベーション(今回の大震災によって医療分野の重要性が認識された)やグリーン・イノベーション(今回の大震災によって太陽光発電などによる自家発電の重要性が認識された)を活用した新しい産業を東北・北関東において興すこと。これらによって東北・北関東から元気な日本を復活させることをめざすべきだ。
最後に、原子力発電所に関連する風評など、「誤った情報に基づく予想」は、日本の社会と経済を混乱させることとなり、前述した「予想(期待)」や「予想(懸念)」や「予想(思惑)」よりずっと大きな副次的な社会的・経済的影響を及ぼすことに注意しなければならない。
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