http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/469.html
Tweet |
http://diamond.jp/articles/-/11857 経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層【第18回】 2011年4月13日島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト],高田 創 [みずほ証券グローバル・リサーチ本部金融市場調査部長/チーフストラテジスト],森田京平 [バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト]
「よい節電」と「まずい節電」―熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト
忍び寄る需要下振れのリスク
震災から1ヵ月が経って、先行きの不安材料がはっきりと見えてきた。震災や津波で操業停止した工場・店舗が復旧しても、GDPの水準が元に復元しないリスクである。
詳しく述べると、震災が経済成長に与える影響は、需要と供給のうち、もっぱら供給サイドへのショックと見られやすい。サプライチェーンの途中段階に、被災した工場があると、加工度の高い自動車・電機メーカーの生産がストップする。この状態は、部品の生産が再開されると元通りになると考えがちである。
しかし、そこには「伏兵」が潜んでいる。工場の生産がストップした状態が長期化すると、企業収益は悪化する。企業の稼働率が落ちて、固定費負担が高まるからだ。
経常利益が悪化すると、その次に雇用削減・設備投資抑制へと波及して、日本経済全体の需要水準が低下する(図表1参照)。こうした“二次被害”が発生するとき、供給サイドの復旧ができても、需要減退によってデフレ作用が働く。実質GDPが元の水準に戻るのに、長い時間を要することにならざるを得ない。
今のところ、四半期ごとの景気シナリオは、2011年1-3月、4-6月と連続してマイナス成長になった後、7-9月からどうにか前期比プラスに転じるという見通しである。東日本大震災が起こる手前の実質GDPの水準に復帰するのは、2011年末になってからである。
もっとも、このシナリオでも、需要下振れを過小評価している可能性がある。過去、需要が一気に落ち込んだ事例を振り返ると、多くの場合、リバウンドの後、実質GDPの水準に復するのに時間を要した。
次のページ>> 大震災後に課題となるピーク時対応の節電とのミスマッチ
1997年4Qの金融危機では、手前の実質GDPを回復するのに9四半期、2001年のITバブル崩壊も手前の水準に復帰するのに9四半期、2008年のリーマンショックに至っては、水準復帰は未だ果たせていない。つまりデフレ局面では、一度ショックに見舞われると、景気浮揚力が乏しいから、一旦失ったGDPを取り戻すのに時間がかかる。
こうしたダメージの特性をきちんと認識すると、経済政策としては(1)ショックの最中でも深い落ち込みを防止することと、リバウンド局面を支援して復元力を高める両面作戦が要求される。
ピーク時対応の節電とのミスマッチ
需要減少を引き起こしそうな要因は、いくつかある。先の(1)被災地域の工場復旧までの長期化のほか、(2)過度な自粛によって消費抑制が行われること、(3)放射能に関する風評による消費抑制、がある。
これらはそれぞれに深刻な問題だが、筆者はさらに、(4)節電の副作用について注意深く考えたい。夏場の節電活動には需要押し下げリスクが強く、それに配慮すべきだ。その節電が生み出す作用を合理的にコントロールしていかないと、企業収益が悪化して、雇用・設備投資にまで悪影響が及ぶ。
現在、大口電力需要先は夏場にかけての消費電力をピーク時25%削減する方針に取り組もうとしている。これは、夏場の関東地方への電力供給能力が著しく低下してしまい、夏場のエアコンなどの需要をまかない切れず、コントロールできない大規模停電が発生する心配への対処である。
関東地方では、海江田万里経済産業大臣が3月17日に「予測のできない大規模停電が起こる可能性がある」と発表し、一時騒然になったことがある。あのような緊急事態を繰り返さないために、節電に心がけること自体は必要である。
しかし、一方で大口電力を▲25%の幅で各社一律で抑制すると副作用があることは、十分に承知しておく必要がある。たとえば、工場の稼働率が一律▲25%の節電で低下すると、それは企業収益を下押しする(▲25%は東京電力・東北電力管内で全国平均では▲9%になる)。
次のページ>> 「家計」「ピーク時」「目標の柔軟化」が、節電のキーワードに
大口電力使用量は、製造業の稼働率、鉱工業生産、企業収益との相関関係が高い。財務省「法人企業統計」の全規模・全産業の経常利益前年比と、大口電力需要の伸び率の間には密接な関係がある(図表2参照)。
さらに、全規模・全産業の経常利益前年比は、完全失業率の前年差とも関連性が高い(図表3参照)。企業収益が悪化すると、企業の雇用吸収力が鈍り、結果的に失業率が上昇してしまう傾向がある。
単純に計算すると、1年間大口電力を絞り込むと、全産業の企業収益は前年比で▲36.4%ポイントも下がる。完全失業率は、+0.42%ポイントの上昇要因になる。
こうした弊害があっても、節電への取り組みを止められないことは言うまでもないが、節電の仕方に相応の工夫をすることは重要な課題である。その対応策としていくつかの考え方を述べると、(1)〜(3)のような要点にまとめられる。
(1)「企業も家計も」:企業の稼働率引き下げになるべく配慮し、家庭の節電実績をより大きく進捗させる。家計の節電を積極的に進捗することが、間接的に企業の所得・雇用削減が起きることを防ぐ。
(2)「総量ではなくあくまでピーク時」:電力消費のベースラインを軒並み下げるのではなく、ピーク時電力の山を平準化。サマータイム制度を大胆に活用することも一案。
(3)「節電目標の柔軟化」:千差万別の活動を行なっている企業の中には、一度でも稼動停止をすると効率が低下する先もある。そうした企業は、電力消費を大幅に削減できる企業から、電力削減枠を買い取って稼動を継続できるように、総量削減に柔軟性を持たせる。キャップ・アンド・トレードの発想。
次のページ>> 企業の取り組みも必要だが、家計が節電するメリットは大きい
家計節電のメリット
企業が節電目標を課せられる場合、多種多様な業種・事業所によって、節電のあり方が異なってくる。つまり、企業には柔軟に節電が進めにくい先もある。これに対して、家庭の場合は同質性が高く、節電マニュアルに沿って計画的に電力消費を落とすことができそうである。
さらに、ピーク時電力を考えると、気温が上昇したときほどエアコンの電力使用量が増えるので、ここを抑え込むことが肝心になる。完全にエアコンを止めなくても、室温と外気の温度差を小さくすることが効果を発揮する。
そのほか、トイレの便座ヒーターを切ったり、AV機器、給湯器のコンセントを抜いて待機電力を節約する方法も、ベースラインを引き下げるには効果がある。暑い時期にエアコンを切るのは、苦痛が大きいかもしれないが、それは雇用を守るために我慢することが大切だ。ピーク時電力を削減して、大規模停電を避けるためには、誰かが辛抱をしなくてはいけない。
家計の場合は、人々の善意が節電効果に結びつきやすいことも長所の1つである。1人1人が頑張ろうという意識を、消費自粛に向かわせるのではなく、計画的な節電に向かわせることが有効である。
そのときに重要なのは、電力消費のナビゲーションを見ながら適宜適切に節電を実行するタイミングである。問題は、ピーク時の電力を絞ることであり、投網をかけたように電力消費を止めてしまうことではない。
現在、インターネットのYahoo!Japanのトップページには、「東京電力の電力使用状況」が掲示されている。そこをクリックして、「東京電力の電力使用状況の履歴を見る」に進めば、「過去24時間の電力使用率の推移」という便利な図に行き当たる。そうしたモニター情報を関東全域の人が共有すれば、スピードメーターを見ながら自動車を運転するように、合理的に節電することができるのではないだろうか。
誤解のないように述べておくと、筆者は企業が全く節電努力をしなくてもよいと考えているのではない。企業も副作用を念頭に置きながら節電すべきである。そうした前提で、家計の節電にはもっと大きな可能性があるので、創意工夫をする余地があると言いたい。
次のページ>> CO2削減も視野に入れた、マクロ政策としてのエネルギー
家計のエアコン節電ではピーク時対応が足らないときには、日中の業務用冷房を目標を決めて、総量で削減する必要がある。家計の節電を工夫しながら、そうした企業活動への副作用を最小限に抑えるためにより重視されるべきだというのが、筆者の考え方である。
マクロ政策としてのエネルギー
歴史を振り返ると、危機に追い詰められたときは、大いなる飛躍のチャンスであることが多い。チャンスは常にピンチの顔をしてやってくる。そのことは、危機の最中にはわからない。日本経済が第一次オイルショックの後で、エネルギー効率を向上させて、世界からの賞賛を浴びたことを思い出す。
今回の震災・原発問題は、日本経済がエネルギー転換を図り、再度エネルギー効率化を飛躍させるチャンスになるかもしれない。福島原発問題によって、世界中のエネルギー政策は未来図を失ってしまった。新しいパラダイムを日本発で再構築する責任がある。
また、当面の景気下押し圧力の中に、企業収益悪化から設備投資抑制の懸念があるが、企業が自主電源を強化して、将来の電力確保へと自助努力をする取り組みは活発化するだろう。エネルギー基盤の整備が、企業の設備投資需要を高める大きな要因になるはずである。
最後に、多くの人が忘れかけているスローガンに、「二酸化炭素の排出量を2020年に90年比で25%削減する」という鳩山首相の言葉がある。あの当時は、何の根拠もなく語られた言葉であったが、今はその必要性がより真実味を増したのではないか。
日本は、当座は火力発電を再開させて二酸化炭素を増やすことになろうが、その先の未来を展望すると、二酸化炭素を大規模に節約するエネルギー体制を構築していくことを目指すだろう。省エネは二酸化炭素削減に結びつく。エネルギー革命を進める求心力を、危機対応から新しい未来図にスイッチさせることが、どこかで必要になる。
質問1 あなたはこの夏、「節電」を積極的に行なう?
74.6%
行なう
16.9%
行なわない
8.5%
まだ決めていない
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。