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日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>水野博泰の「話題潜行」from NY
米原発業界を守るオバマ大統領の事情
2011年4月11日 月曜日
水野 博泰
米国 原子力発電業界 バラク・オバマ米大統領 エネルギー安全保障
やはり、バラク・オバマ米大統領には原子力発電業界を見捨てられない――。福島第1原子力発電所事故の深刻化、リビアなど中東情勢の緊迫化を受け、オバマ大統領が3月30日に行った米国のエネルギー安全保障に関する演説に、関係者はほくそ笑んだかもしれない。
オバマ氏は、原油輸入を2025年までに現在の3分の2まで削減するとの目標を掲げ、沖合油田、天然ガス、バイオ燃料などの開発・利用を推進するとともに、自動車のエネルギー効率向上といった方針を示した。もちろん、最大の注目は原発をどうするかで、演説からその部分を引用しよう。
「日本での原発事故を踏まえて原子力についてつけ加えたい。米国は既に電力需要の5分の1を原子力で賄っており、原子力は温暖化ガスを排出することなく電力供給を増やせる選択肢だ。ただし、安全性確保は不可欠で、既存の全原発施設を至急点検するよう原子力規制委員会(NRC)に指示した。日本の事故から学び、次世代原発の設計と建設に生かしていく。危険な放射性物質や技術を拡散させることなく、各国が原発を利用できるようにするための国際的な議論をリードしていく」
つまり、世界各国で反原発の動きが猛烈に高まるのとは逆に、アクセルを踏み込む姿勢を示したのである。中東への原油依存からの脱却や温暖化ガス削減というお題目に嘘はないだろう。だが、政治家バラク・オバマとしては、再選がかかる来年の大統領選挙のことを強く意識したのは間違いない。
実は、オバマ政権と原発業界の関係は深くて濃い。例えば、イリノイ州シカゴに本社を置くエクセロン。17基の原子炉を保有・運営する米原発最大手で、 2008年の大統領選では社員の個人献金だけで20万3663ドル(約1700万円)をオバマ陣営に献金(OpenSecrets.org調べ)。共和党の対抗馬ジョン・マケイン氏には3万6600ドル(約300万円)と差をつけた。原発大手のエンタジーもオバマ氏には1万3300ドル(約110万円)だが、マケイン氏に6650ドル(約56万円)と、原発業界はオバマびいきの傾向がある。
極太なシカゴ・コネクション
特にエクセロンとは特別な関係にあるようだ。オバマ氏の選挙参謀であるデイビッド・アクセルロッド氏にとっては、かつて経営していたコンサルティング会社の顧客がエクセロンだった。昨秋まで大統領補佐官を務めたラーム・エマニュエル氏は投資銀行に勤めていた2000年、電力会社2社の82億ドル(約 6900億円)に上る合併案件を担当。その結果、誕生したのがエクセロンだ。同氏は今年シカゴ市長選に出馬し当選、5月に就任する予定だ。
さらに、エクセロンのジョン・ロジャーズ副会長はオバマ陣営の選挙資金調達担当であり、ジョン・ロウ会長兼CEO(最高経営責任者)はワシントンに本拠を置くロビー団体原子力エネルギー協会(NEI)の代表も務める。ちなみに、エクセロンは32年前に炉心溶融事故を起こしたスリーマイル島原発にある2基の原子炉のうち、無事だった1号機を2003年以来、所有・運営している。
あの事故以来、米国の原子炉新設は凍結されたままだが、福島第1原発の事故の余波が世界中を駆け巡っている最中の3月30日、NRCはジョージア州で申請されている原子炉建設計画の環境アセスメントを終え、「環境に影響なし」との結論を出した。米政府は、30年以上ぶりの原子炉新設の再開に向けて着実に歩を進めている。
今年1月に新設した「雇用と競争力に関する大統領評議会」の議長に指名されたのは、渦中の原発メーカーゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルトCEOだと振り返るのはうがち過ぎかもしれない。だが、オバマ政権がある限り、米原発業界の火が消されることはないだろう。
著者プロフィール
水野 博泰(みずの・ひろやす)
日経コミュニケーション記者、日経E-BIZ副編集長、日経ビジネス編集委員、日経ビジネスオンライン副編集長を経て、2008年4月よりニューヨーク支局長。
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