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一部のトップ校を除いて、大学の価値が崩壊したのは、
アメリカや日本、インド、韓国、中国など、大学が一般化した国では共通だ
貧困大国アメリカにあるように、下流大学は、もう完全に貧困ビジネスと化している
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110407/219357/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>知られざる韓国経済
大学は出たけれど…人気企業どころか4割が非正規職に
“学歴インフレ社会”韓国の教育事情(3)
2011年4月11日 月曜日
高安 雄一
アジア 大学生 韓国 就職
韓国では、大学に入学するまで、小中高と塾に通い、加えて高校では学校での補充授業に自律学習と勉強漬けの日々を送ることを前回と前々回のこのコラムで見てきました。
韓国の学生も、大学に入れば一息つけます。大学生の平均学業時間は4時間3分と、高校生の9時間10分の半分以下、小学生の6時間13分よりも短くなっています。しかしゆとりある生活は長くは続かず、大学生活も後半にさしかかると就職の準備を始めなければなりません。
大学生の就職は年々厳しくなっていますが、理由として、大学卒業の価値が年々下落していることと、大学卒業生が希望する就職先の採用人数が減少していることが挙げられます。
下落する大卒者の価値
大学進学率は1990年代初頭の30%前後から2000年には80%を超えるなど急激に高まりましたが、これとともに大学の卒業生数が急増しています。四年制大学について見ると、1980年には5万人でしたが、1995年には18万8000人、2010年には28万人と30年間で6倍ほどに増加しています(※1)。また専門大学でも1980年1万7000人、1995年14万4000人、2010年19万人とやはり増加しています。そして結果として、同じ年代で大学卒業生が占める割合が高まりました。
日本の「国勢調査」に相当する「人口総調査」によると、2005年において50〜54歳(1951〜55年生まれ)で大学を卒業した人の比率は17.8%に過ぎませんでしたが、25〜29歳(1976〜80年生まれ)では57.4%にまで高まっています。大卒が5人に1人しかいない年代より、2人に1人以上もいる年代の方が、大卒の価値が落ちることは明らかです(図1)。
人気企業は新卒採用人数を減らし競争激化
一方で大卒が希望する就職先が増えれば問題ありませんが逆に減少しています。大卒が目指す就職先とは大企業です(※2)。しかし財閥企業、公企業、金融関連企業など大学生が希望する企業(以下「人気企業」とします)は通貨危機を契機にリストラを進めており、従業員数は1997年の157万人から2002年には125万人と32万人減少しています(※3)。
人気企業が行ったリストラの方法としては、名誉退職(=勧奨退職)などにより中高年を切るよりも、新卒採用を絞る方法が一般的でした。このため、人気企業におけるリストラは新卒採用数に色濃く反映され、これら企業への就職が狭き門になったと考えられます。また新規採用者に占める経験者、つまり他社からの転職組の割合が増えていることが、新卒採用の門をさらに狭くしています。
1996年には新規採用者に占める経験者の割合は34.8%に過ぎませんでしたが、2002年には81.8%になっています(※4)。このように大学新卒者は年々増える一方で、人気企業の新卒採用人数は減っているため、競争も熾烈になっています。
また人気企業に入るどころか、大卒でも非正規職として就職する人が多い状態にもなっています。「経済活動人口調査青年層付加調査」の個票データを利用して(以下で出所を示さない数字は同様です)四年制大学の卒業者の就職先の雇用形態を見ると、非正規職としての就職率が3割を超えており、特にリーマンショック以降の2009年以降の卒業生は4割以上が非正規職(※5)として就職しています(図2)。なお男性に限っても2010年の卒業生の非正規としての就職率は33.0%と3割を超える水準です。
さらに韓国では過剰教育が問題になっています。経済学には、教育を受ければそれだけ人的資本が蓄積され、国の潜在成長率が高まるとの考え方があります。しかしこれには教育水準に見合った職が存在することが前提となります。
過剰教育とは、高校卒業程度の教育水準で足りる職業に大卒が就くなど、職務遂行に必要とされる教育水準より働いている人が高学歴であることで、せっかくの人的資本を無駄にすることを意味します。過剰教育については、四年制大学卒業生の49.5%、専門大学卒業生の37.8%が、身に付けた教育水準を必要としない職業に就いているとの研究があります(※6)。
※1 1980年及び1995年の数字は、チェチャンギュン他(2005)『青年層の労働市場移行と人的資源開発[1]』韓国職業能力開発院、12〜13ページを参照した。2010年の数字は教育科学技術部の資料を参照した。
※2 チェチャンギュン他(2005)の20ページでは、『大卒者が主に就職したいと思う30大企業集団(=財閥企業)、公企業、金融関連企業』と書かれている。また韓国労働研究院のイビョンヒ博士も、「就職時における大企業志向には変化がない」との意見であった。
※3 チェチャンギュン他(2005)20ページ。
※4 チェチャンギュン他(2005)19ページ。
※5 ここでの非正規職の定義は、政府の公式統計である「経済活動人口調査勤労形態別付加調査」の定義とは若干異なる。すなわち、(1)有期契約雇用者、(2)無期契約雇用者であるが継続的な勤務が期待できない雇用者、(3)パートを非正規職としている。政府の定義との違いは、派遣や請負など非典型雇用者を非正規職から除外する可能性がある点、自己都合で継続勤務できない無期契約雇用者を非正規職に含めてしまう点などである。
※6 キムスソプ(2005)「青年層の高学歴化による学歴過剰の実態分析」『労働政策研究』第5巻第2号 韓国労働研究院,pp.1〜29。
せっかく大学を卒業しても、希望した職業に就けず、実力を発揮できない職場で働く人が多いのですが、希望の職業に就きやすい大学生もいます。それは、名門大学の卒業生です。
名門大学出身者を好む企業担当者
若年雇用問題に詳しい韓国労働研究院のイビョンヒ博士によれば、企業の人事担当者は名門大学出身者を好み、就職の大勢は出身大学によって決まります(※7)。これはこのシリーズの第1回で指摘したように、韓国では学歴が個人の能力のシグナルとしてとらえられていることによります。
また、大学就学能力試験の点数が良かった人ほど大企業の正規職として就職する確率が高まるとの研究もあります(※8)。大学就学能力試験の点数が高かった人は、良い大学に通っていると考えられるため、この研究結果は、名門大学の卒業生ほど希望する職に就きやすいことを意味します。つまり名門大学を卒業することが就職活動を成功させるための第一条件となるのです。
しかし人気企業の新卒採用枠が狭まるなか、名門大学の学生も安泰ではありません。また名門ではない大学の学生も、可能な限り最良の就職先を目指します。そこで大学生活をエンジョイしてばかりもいられず、付加価値を付けるために努力しなければなりません。
就職にはどのような付加価値が必要であるか見る前に、新卒採用のプロセスを確認しておきましょう。
有名企業の就職試験の内容とは――
韓国雇用情報院が行った調査によると、従業員100人以上の企業のうち、大部分が履歴書(98.0%:回答企業の割合)及び面接(96.5%)で選抜しています(※9)。また自己紹介書(73.9%)を提出させる企業も多く、さらに推薦書(26.4%)、一週間以上のインターンシップ(23.6%)、適正検査(22.2%)を課す企業も少なくありません。
履歴書はインターネット上のフォームで送ることが一般的ですが、学歴(大学名、専攻)、成績、社会経験(インターン、アルバイト)、海外経験(海外研修等)、語学能力(試験点数)、取得資格、OA能力などを入力しなければなりません。また面接ですが、大半が通常面接(98.8%)を課しますが、プレゼンテーション(9.7%)、英語面接(5.2%)を行う企業もあります。
次に有名企業の新卒採用について、オンライン就業ポータルSaraminが提供している情報から見ていきましょう。まずは生命保険大手の三星生命の例です。新卒採用のプロセスは最初に書類審査、次にSSAT(Samsung Aptitude Test)と呼ばれる職務適正試験、そして面接と続きます。なお大学の成績が4.5点満点で3.0以上、語学試験の点数が、TOEICのスピーキングテストでレベル5以上、つまり「ある程度、意見を述べる、または複雑な要求に応えることができる」ことが応募の条件です(※10)。
また、資格、活動事項(インターンや社会活動)、自己紹介等が書類選考における主要項目であり、資格としては漢字検定が推奨されています。次にSSATでは、幅広い知識と与えられた状況に柔軟に対応できるかが評価されます。三星関係者によると、この試験は対策をしてどうにかなるものではなく、受験生が持つ才能が試されます(それでも対策する人がほとんどだそうです)。面接は、人柄を見る面接、プレゼンテーション面接、集団討論に分かれます。これらのプロセスを経て最終的な合格者が決定します。
次に化学メーカー大手のLG化学の例を見てみます。採用プロセスは書類選考、適正試験、面接です。書類選考では、成績、語学能力、資格証、ボランティア活動等が評価されますが、成績や語学の点数による応募制限はありません。面接はプレゼンテーション、集団討論、外国語面接を経て、人柄を見る役員面接に進みます。ちなみに面接の内容を見ると、プレゼンテーションでは「グローバル経済危機の中でLG化学が進まなければならない方向」、「複数国籍の許容」、集団討論は「FTAのメリット、デメリット」、「良心的兵役拒否の賛否」といった課題が与えられます。ただし英語面接では、「好きな歌は何か」、「他の国に生まれたとしたらどこが良いか」など比較的簡単なことが聞かれるようです。
※7 筆者が2009年に行ったインタビューによる。
※8 チェチャンギュン他(2006)『青年層の労働市場移行と人的資源開発[2]−総括報告書』韓国職業能力開発院の69ページ。
※9 韓国雇用情報院「履歴書検討時関連分野、インターン経験が重要になる」報道資料(2011年2月21日)。
※10 OPIc(Oral Proficiency Interview by computer)でも代用可能。
では、就職を決めるために重要な付加価値とは何でしょうか。韓国雇用情報院によれば、履歴書検討の際に最も重視される点は専攻であり(43.8%)、関連分野のインターン及びアルバイト経験(41.2%)、免許・資格証(35.9%)が続きます(※11)。また前述のSaraminが、企業の人事担当者に対して行ったアンケート調査によれば、新卒を採用する際には、82.6%が「学歴」、61.3%が「専攻」、17.4%が「語学試験の点数」が必須と回答しています。
Saraminが学生に対して行ったアンケート調査によれば、就職に役立ったものとして、20.5%が「資格証」、13.0%が「アルバイト経験」、11.0%が「成績」、8.6%が「インターンシップ」、6.8%が「語学点数」を挙げています。加えてTOEICなど英語試験の点数や成績で足切りする企業も少なくありません。以上を勘案すると、英語、成績、資格、職業経験が大学入学後に獲得すべき“就職の必須アイテム”と言えそうです。
大学生はこれら必須アイテムを得るために準備をしますが、そのために大学に長く在学することはしないようです。入学から卒業までかかる年数を見ると、四年制大学の場合、男性は7年間が最も多く43.8%を占めています。そして6年が20.6%、8年が15.5%と続きます。
一方女性については短く、4年が71.7%、5年が21.5%です。この数字を見ると、男性は長く在学して就職の準備をしているようにも思えますが、実際は異なります。男性は休学期間が平均で29カ月と女性の4カ月と比較して著しく長くなっており、これが卒業を遅らせます。男性がこれほど長く休学する理由は言うまでもなく兵役義務を果たすためです。
韓国の男性国民は兵役義務を負っており、一部の例外を除き、陸軍なら24カ月、海軍、空軍なら26カ月、軍隊に入らなければなりません(※12)。通常は20歳で入隊するのですが、教育機関の在学生には延長が認められ、四年制大学の場合は24歳までに入隊すればいいこととなっています(※13)。このため、大学を卒業してから入隊することも可能ですが、企業の応募資格に兵役義務を終えていることとされていることも多く、通常は大学在学中に休学をして兵役義務を果たします。
男性の休学経験者の割合は81.8%ですが、そのうち93.9%が兵役に就くための休学です。また、語学研修が10.6%、就職試験準備が9.0%、学費の工面が7.6%です(※14)。一方女性については、73.6%が休学しません。休学した人の24.4%は語学研修、22.6%は学費工面、19.3%は就職試験準備、17.3%は資格試験準備がその理由です。
さて男性が兵役義務を果たす場合の休学期間は3年が56.8%と最も多くを占め、2年が25.2%であるなど、実際の兵役期間より長めに休学しています。男性は休学期間が長いため、卒業するための年数が多くなっていますが、在籍期間から休学期間を除いた、実質的な就学期間を見ると、男性の94.9%、女性の92.5が4年間で卒業しています。
大学卒業後1年間は新卒扱い
ただし就職の準備が間に合わなかった人は、卒業後も引き続き必須アイテムの獲得に励む傾向にあります。2010年2月に四年制大学を卒業した人で(韓国の卒業シーズンは2月です)、3カ月後の5月までに就職していない人の比率は37.6%です。そして卒業後1年5カ月経った2009年2月の卒業生でも13.4%が就職を決めていません。もちろんこの中には就職する意志がない人も含まれていますが、大半は就職浪人中と考えられます。
このように就職浪人生が多い理由は韓国の採用慣行にあります。韓国では、卒業してしばらくは新卒として扱われます。韓国職業能力開発院が企業に対して行ったアンケートによると、51.4%が「在学生と卒業生は同じ待遇である」と解答し、29.1%が「卒業後1年までは在学生と同一の待遇である」としています(※15)。「在学生を優遇する」と解答した企業は11.6%に過ぎません。さすがに卒業後数年経った学生と在学生を同一待遇にするとは考えられませんが、卒業後1年程度であれば問題はないと考えられます。
また採用方法は決められた時期に一括して採用することが基本ですが、このところ時期を定めず随時採用する企業も増えており、上記のアンケート調査によれば、従業員が1000名未満の企業の多くは随時採用です。1000名以上の大企業については一括採用の比率が高まりますが、それでも60%は一括採用と随時採用の併用で、一括採用のみは19%に過ぎません。
よって学生は卒業までに就職が決まらなかったからといって留年したり、卒業前に妥協して駆け込み就職したりすることは多くなく、納得がいくまで付加価値を付けてから就職活動を行います。しかしそこまで頑張っても、人気企業に入れる学生は一握りであり、多くは非正規職として就職しています。
※11 注9と同じ。
※12 特に志願しなければ陸軍に入隊することになる。
※13 よって男性の場合、大学入試は2浪までとなる。
※14 2回以上休学する人もいるので、比率を全て足すと100%を超える。
※15 チェチャンギュン他(2006)52ページ、54ページ。
このコラムについて
知られざる韓国経済
韓国経済の真の姿を、データと現地取材を通して書いていきます。グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本でも注目されています。一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野では、さまざまな課題を抱えてもいます。こういった問題は日本に先駆けている部分もあり、韓国の政策のあり方は、日本にとって参考にすべき点が多くありそうです。マクロとミクロの両方から視点から描きだす、本当の韓国経済の姿がここにあります。
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著者プロフィール
高安 雄一(たかやす・ゆういち)
大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。
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