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◆「日本政府にいまだに非常事態の認識がないのは、どういうわけか」と旧知の米国要人から言われた。いきさつを聞いたら以下のようなお粗末さだ。
3月11日午後3時40分、東日本大震災発生約1時間後、ルース駐日大使は首相官邸に電話し、全面支援意思を伝えた。官邸からは音沙汰なし。24時間後、米政府は米軍の出動を正式に申し入れたが、官邸も東京電力も自分たちの手で収拾できるという感触だった。
◆認識の欠如と迷走
在日米軍は福島原発専用の非常時対応ハンドブックを作成済みだ。本来はテロ攻撃時用で、放射能汚染に耐えられる戦車配備の仕方や、福島原発海域に入る軍船の喫水線など、具体的で細かい基準を盛り込んでいるという。原発が今回のように地震と津波で大きく損傷を受けた場合も、初期対応マニュアルがそのまま生かせるはずだったが、政府も東電も無視した。
東日本大震災は1次的には自然災害で、2次的には無能なリーダーによる人的災害なのだが、第3次も起きかけている。政策災害である。起因は福島原発対応と同じく、「非常事態」という認識の欠如である。菅直人首相、谷垣禎一自民党総裁、日本経団連の首脳は平時の感覚でしか復興政策を考えないように思える。産経新聞3月31日付朝刊によれば、L・サマーズ前米国家経済会議委員長は「日本は貧しくなるでしょう」と言い放ったが、長年対日経済交渉に携わった同氏は日本迷走を見抜いているのだろう。
不毛論議の最たる例が、「復興増税」構想である。増税して復興財源に充当するという案で、菅、谷垣両氏に加え、経団連の米倉弘昌会長も言い出す始末である。平時で経済が順調に拡大しているならともかく、今は消費も投資も急激に落ち込む非常時である。そうでなくても細り続けている家計簿に残る収入や、生産設備が破壊された企業の落ち込む収益から税を徴収するなら、消費者は液晶テレビや新車を買い控える。売り上げ減で企業は工場を閉鎖し、雇用を減らす。すぐに増税しなくても、いずれ増税になると予期するなら同じことが起きる。すると税収は逆に減り、財政赤字はさらに膨れ上がる。
すでに、東京・銀座のデパートでは食品売り場以外は閑古鳥が鳴き、下町によくある「○○銀座」商店街も人通りが半減した。一時的なショックで済めばよいが、停滞が長期化するほど、消費者心理は冷えに冷え、企業経営者からは立ち直るだけの気力も体力も尽き果てる。就職機会のない若者は未来を見失う。
◆大規模な財政出動を
どうすればよいか。福島原発安定処理のメドが立たない中で放射能汚染の恐怖がおさまらないうえに、計画停電の長期化が確実な状況で、やれ元気を出せ、買い物や外での飲み食いに出かけろ、増産せよと鼓舞したところでうまくいくはずはない。ためらい悩む民間に代わって政府が投資や消費のための財政支出を増やすしかない。未曽有の非常時だという認識のもとに思い切った規模で財政出動するしかないが、菅政権は財務官僚まかせだ。
政府は「財源の制約」を理由に、2011年度第1次補正で2兆円程度、2次、3次と補正を重ねても結局10兆円の財政出動を見込む程度である。被害規模は内閣府が最大で25兆円と見積もったが、企業設備の被害や福島原発による被害や原発の廃炉や修復コストを考慮すれば、その2倍、3倍も覚悟しなければならないだろう。
もとより国内ではだれも引き取ろうとしない使用済み核燃料である。それらを耐震性に疑問がある原発建屋の上部のスペースにプールを設置し保管しなければならない。福島第1原発事故は地震国日本の弱点をさらけ出した。全国レベルで電力エネルギー体系の抜本的再編を含め、日本列島再生のためグランド・デザインを構想し、実行に移すしかない。財源自体は問題ではない。そのことは本講座3月27日付の「『日本大復興』の条件を考える」で、世界最大の債権国日本は100兆円規模の日銀資金を創出できるゆとりがある、と指摘した通りだ。財政出動の効果はてきめんで、1995年1月の阪神大震災時には財政支出が呼び水となって被災地兵庫県の県内総生産は実質で5%増と全国の同1・9%をはるかに凌駕(りょうが)した。
米ゴールドマン・サックス調査部は阪神大震災や米ハリケーン・カトリーナなど「世界5大災害」後の復興を分析した結果、政府支出の拡大が早期の経済の回復をもたらすと結論付けた。日本が重大な決意で大規模な財政出動に迅速に踏み切るかどうか、国際金融市場も重大な関心を寄せている。
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