03. 2011年3月17日 18:10:37: cqRnZH2CUM
値上げになる可能性は高まっているね 【第22回】 2011年3月16日 著者・コラム紹介バックナンバー 野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授] RSS最新記事 印刷向け表示
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これに対して電気料金は、電気事業法に基づいて経済産業大臣の認可をえれば変更できる(注)。料金水準についていちいち法律で定める必要はないので、税率に比べれば遥かに柔軟に変更できる。 (注)電気料金には、供給者(電力会社など)と需要者との個別の交渉により決定される料金(自由化部門料金)と、政府による規制に基づいて設定される料金(規制部門料金)がある。規制部門について料金改定を実施する場合は、経済産業大臣の認可が必要となる。ただし、2000年以降、料金引き下げなど需要者の利益を害する恐れがない場合には、届出により実施することが可能となった。 規制部門の電気料金は、将来の合理的な期間における総括原価を基に算定されることとされている。ここで提案しているような理由による料金引き上げが、現行法の範囲内で可能か否かは、検討の必要がある。 自発的抑制も必要だが 各利用者の自発的な需要抑制も、もちろん必要とされることである。今回も、かなりの程度の節約がなされた可能性がある。 しかし、これがいつまで継続するかは確かでない。抑制が長期間にわたって必要とされると、次第に抑制努力が衰える可能性もある。とりわけ、産業用の電力使用については、自発的善意による抑制を長期にわたって期待するのは難しい。夏季における冷房のための電力需要を、どの程度自主的に抑制できるかも、不確実だ。 総じて、いま必要とされる需要削減は、こうした自発的努力で達成できる限度を超えている。 自発的善意だけに頼れないことは、電力需要に限らず、災害復旧や被災者救済に関して、より一般的に言えることである。 救援義援金やボランティア活動が、これからなされることとなるだろう。そうした努力は、大いに進められるべきものだ。しかし、今回の災害によって生じた被害は、自発的善意のみによって対処できる限度を遥かに超えていると考えられる。 質問1 電力需要を抑えるため、どのような措置がふさわしい? 描画中... 37.3% 計画停電や料金引き上げ・課税の組み合わせ 30.3% 電気料金の引き上げ 20.2% 電気料金への課税 7.5% その他 4.8% 計画停電 |