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最近の速報分析から
2011年3月9日 田中 宇
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私は、毎日ネット上で何十本かの英文情報を探して読み込み、簡単な分析をして短いメモを書き、解説記事を書く時に使います。その分析メモを「速報分析」と名づけ、ほぼ日刊で「田中宇プラス」の会員向けに配信しています。速報分析は毎日5本前後を配信しています。以下は最近配信した速報分析のごく一部です。もっと読みたいと思われた方は、下記のページから「田中宇プラス」への登録をお願いいたします。「田中宇プラス」の購読料は6カ月3000円です。(有料配信「田中宇プラス」について)
▼覇権、通貨、世界的な問題
【3月8日】欧米から新興市場諸国(BRIC)へと世界経済の重心が移動していく長期傾向が続いているが、移動させまいとする政治的動きもある。英国では、アヘン戦争以来の帝国の象徴である香港上海銀行(HSBC)が本社をロンドンから香港に移そうとして英国側から政治的な抵抗にあい、英政府が課税を軽減してくれるならという条件で、香港移転を断念しつつある。半面、ロシア政府はモスクワを国際金融都市へと成長させようと試み、米国のゴールドマンサックスを雇って米国など世界から投資を集めることにした。モスクワの金融都市構想は以前からのもので、机上の空論だと欧米から馬鹿にされてきたが、欧米自身の経済力が低下する一方で、ロシアが得意とする資源類の国際価格が上がり、状況が変わってきている。(HSBC Says It Prefers to Stay in London)(Russian Government Said to Set Up $10 Billion Fund to Attract Buyout Firms)
【2月26日】リビアの混乱で原油供給が減り、原油の国際価格が高騰している。多くの分析者が、今の世界経済を、金融不況からようやく脱しつつある状態ととらえているが、そうした微妙な時期の原油高騰は景気回復の足を引っ張るので、これ以上悪いタイミングはないといえるほど悪いタイミングの高騰だと言われている。不景気(デフレ)なのに物価が高騰(インフレ)するスタグフレーションの悪夢に世界経済が陥りかねないと指摘されている。(This Oil price spike couldn't be happening at a worse time)(Prepare for a shock from the Middle East)
▼米国、南北アメリカ
【3月6日】米国ユタ州の州議会下院が、ドルだけでなく金銀の地金を州内で通貨として認めていく方向性を州法として打ち出した。手始めに、連邦政府が鋳造した金銀の貨幣を、貨幣の額面としてでなく、金銀地金の価値として認める州法を可決した。また、ドル以外に金銀地金との交換性を確保するなどした法定通貨を州が発行すべきかどうかの検討を開始することにした。連邦当局(連銀)の過剰発行によってドルの価値が揺らぎだす中で、米国のいくつかの州は「金銀地金のみを通貨とみなす」と定めた合衆国憲法の基本に戻る動きを開始している。(Utah House stamps Gold, silver as legal tender)(1月6日の分析)
【2月26日】米国で地方債の起債が急減している。1月分の起債は前年同月比63%となり、2月も前年比減少になりそう。全米各地の州や市が財政破綻に瀕しており、地方債は起債しても売れない。起債の急減は債券市場にとって危険なことだ。民間の社債部門では、06年から07年にかけてサブプライム住宅ローン債券などジャンク債の売れ行きが悪化して起債が急減し、その挙げ句に07年夏のサブプライム危機が起こり、社債市場の全体が凍結(崩壊)状態となり、08年秋のリーマンショックへとつながった。この崩壊のパターンが米地方債で繰り返されるおそれがある。米国債は連銀が買い支えているので人為的に高値を維持しているが、ファニーメイなど公的金融機関の住宅担保の公債も先行きが懸念され、今年中に債券市場の再崩壊が起きるかもしれない。(The Muni Bond Market Signals Danger Ahead)
▼東アジア、南アジア
【3月5日】米国のゲーツ国防長官が先日の演説で、今後の米国は大規模な地上軍をアジア、中近東、アフリカに派兵してはならないという趣旨の「ゲーツ・ドクトリン」を発表した。これは短期的には、リビアなど中東の混乱を抑えるために米地上軍を派兵せよと主張し始めた米政界の右派を牽制したのだろう。米政府は極度の財政難なので、地上軍の経費を減らして防衛費を抑える意図もありそうだ。アジアに大規模な地上軍を派遣しないというゲーツの宣言が実行されると、中東だけでなく、韓国や沖縄にも陸軍や海兵隊がいる必要がなくなり、在日・在韓米軍は、海軍と空軍だけとなる。これは米軍が西太平洋でグアム島を大拠点とし、日韓では空港や港湾を有事に使わせてもらうだけという、以前からの米軍のグアム撤退構想と同じものになる。(Robert Gates, Neo-Isolationist?)
【3月3日】米右派シンクタンクAEIの日本担当者が「ロシアが北方領土にミサイルを配備したり、極東海域に潜水艦部隊を新設するのは、日本を標的にしたものではなく、中国の軍事台頭に対抗するためのものだ。ロシアは北方領土問題を隠れ蓑にすることで、中国に警戒されぬよう軍事強化している。ロシア極東では中国商人が貿易利権を握っており、今後さらに極東やシベリアへの中国の影響力が増すので、ロシア中枢は警戒している。日本は(北方領土問題を棚上げして)ロシアと協調関係を持ち、日本が極東やシベリアに経済進出して中国を抑えることが、日露双方の国益にかなっている」という主張をWSJ紙に載せた。
これは、日本に対し、ロシアと組んで東アジアの地域覇権国の一つになれと求める誘導だ。ロシアは中国を警戒しつつも、中国が極東開発に金を出すことを歓迎しているし、国際政治の分野では中露は広範に連携しており、仮想敵とは逆の同盟関係に近い。この論文は中露対立を誇張している。「中露は対立しているので、日本はロシアと組んで中国と対抗せよ」という言い方は、対米従属に固執して国際政治の場で「いないふり」を続ける日本を、何とか引っ張り出そうとして、以前から米国が断続的に言ってきた誘い文句だ。しかし日本側は、この誘いをほとんど無視してきた。今回もたぶん無視だろう。日本では、マスコミなどがロシア敵視の世論醸成を加速している。(Russia Fears China, Not Japan)
【2月28日】中国では毎週日曜日、北京や上海など大都市の繁華街のあらかじめ決められた場所に集まって反政府集会を試みる「ジャスミン革命」が先週から始まり、2月27日に2週目の試みが行われた。中国当局は群衆が集まらないようにする大々的な防衛策をとり、運動家を逮捕した。日本や米欧では、この運動を進める人が「善」で、阻止する中国政府は「悪」という善悪観があらかじめマスコミなどで設定されているが、その善悪観を外して見ると、行きずりの人以外の運動参加者より、取材にきた米欧日など外国マスコミの方が人数が多いことが印象的だ。米欧では、マスコミは軍産複合体傘下のプロパガンダ装置であり、地政学的に中国の台頭を抑止して英米中心の世界体制を維持する政治目的がある。中国で試みられているジャスミン革命は、軍産複合体が中国を不安定化するための策略と考えられる。「中国が崩壊した方が日本は幸せになる」と言うなら、それは日本にとって「善」ということになる。(Online call for protests in China prompts crackdown)
▼西アジア、中東、アフリカ
【3月8日】英国軍がリビア東部の反政府勢力の中心地ベンガジに、特殊部隊と諜報部員(MI6)で構成される8人の部隊を、武器やゲリラ戦用通信器具などとともに、ヘリで送り込んだ。反政府勢力がカダフィ政府側と戦う際に顧問団として活躍させ、反政府勢力が内戦に勝って正式なリビア新政権になったら英国と真っ先に良い関係を結んでもらい、リビアの石油利権が英国の石油会社(BP)に入るようにしたかったのだろう。だが、外国の介入は不要だと明確に宣言している反政府勢力は、英軍部隊を歓迎せず、すぐに逮捕して投獄し、数日後に英国側に引き渡した。「欧米が石油利権目当てに内戦に介入している」と非難してきたカダフィ派は、それみたことかと英国を非難した。米国がサウジアラビアに対し、米国がサウジ用に渡した武器の一部をベンガジに空輸してくれと求めたが、自国の反乱鎮圧を優先するサウジ王家は、エジプト革命を容認した米政府に怒っていることもあり、米国に返答せず無視したという報道も出ている。英米覇権のドタバタ劇が展開している。(Libya: inside the SAS operation that went wrong)(America's secret plan to arm Libya's rebels By Robert Fisk)
【3月6日】パレスチナで、これまで仇敵どうしだった米イスラエル傀儡系のファタハ(パレスチナ自治政府、西岸)と、反米イスラム主義のハマス(ガザ)が、和解交渉を始めている。エジプト革命で、ハマスの兄貴分にあたるムスリム同胞団が潜在的に大きな力を持つようになってハマスが優勢になっている。対照的にファタハは、中東における米国の影響力低下と、右派姿勢を脱却できないイスラエルのせいで「米イスラエルが中東和平交渉をするふりをする際の相棒」という歴史的役割が失われつつある。ファタハは生き残りのためハマスに譲歩しそうなので、ハマスはファタハとの和解交渉に乗ると言っている。(Hamas announces initiative to regain national unity with Fatah)
【3月5日】サウジアラビアの首都リヤドで3月4日の金曜礼拝の後、今回の中東革命が始まって以来初めて、政府の腐敗などを批判する反政府デモが行われた。サウジでは反政府活動は非合法なのでデモはあまり組織されておらず、参加者数は数十人とも2000人とも言われ諸説ある。3月11日に「怒りの日」の集会が予定されており、4日はその前哨戦。同日サウジ東部のシーア派の町でも、政府に逮捕されている聖職者の釈放を求めてデモがあった。聖職者は、サウジ政府に対し、国王は権力の一部を議会に委譲し、絶対王制をやめて立憲君主制にせよと求める説教を行った後、逮捕された。バーレーンやヨルダンでも、反政府派が立憲君主制への移行を求めている。(Protests build across Saudi Arabia)(Jordan rejects constitutional monarchy)
【3月5日】イラクも反政府デモが各地で起こされ、政治が不安定化している。スンニ派を代表してマリキ政権の連立に参加していたイヤド・アラウィが連立からの離脱を表明した。クルド人は、マリキ首相の非難を無視して油田地帯のキルクークに軍勢を駐留させ、油田をクルド人のものにしようとしている。バグダッド市長も辞任した。米軍は予定通り撤退の準備を進めているが、連立政権が崩壊し、イラクは再び3派間の内戦に戻るかもしれない。米政府はイラクの混乱を無視しており、何のコメントも発していない。(Allawi Abandons Promised Iraq `Power-Sharing' Position)(Maliki Demands Kurdistan Withdraw Troops From Kirkuk)(U.S. army starts replacing non-combat forces in southern Iraq)
【3月2日】イスラエル政府が、パレスチナ和平交渉を「進めるふり」を急に強めている。ネタニヤフ政権は、米国を含む国際社会が求めている西岸入植地の撤去を、ずっと拒否してきたが、ここに来て急に、撤去をやると言い出した。ネタニヤフは、昨年から止まっているパレスチナ自治政府(PA)との交渉も再開し、暫定国境を持つパレスチナ国家の創設を急ぐ方針に転換することを検討しているとも言っている。こうした急転換の背景には、中東における米国の影響力が急速に衰退し、イスラエルにとって死活問題である米国の後ろ盾が消えつつあることと、中東革命の波及によってPAが崩壊寸前になっていることがある。今後PAが消滅すると、パレスチナはイスラム過激派が席巻し、イスラエルは米国の後ろ盾なしに、周辺の全ての過激派と対峙せねばならなくなり、国家的な終焉に近づく。イスラエルのラビは「救世主の再来が近い」と言い出している。(Israel vows to raze all illegal outposts built on private Palestinian land)(Netanyahu mulls Palestinian state with temporary borders as part of interim peace deal)(2月26日の分析)(Arab unrest signals Messiah's coming)
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