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http://www.tanakanews.com/110304dollar.htm
失われるドルへの信頼
2011年3月4日 田中 宇
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中東の混乱が拡大し、産油国であるリビアやサウジアラビアに波及し、原油の国際価格が上昇している。サウジの油田は今のところ安泰だが、大油田地帯であるサウジ東部のすぐ脇にあるバーレーンでは王政打倒の反政府運動が続き、サウジの株価は暴落している。サウジの油田地帯が不安定になると、原油価格(北海ブレント)は1バレル200ドルに高騰すると予測されている。格付け機関のS&Pは、中東の混乱はすべてのアラブ諸国に感染し、混乱が長期化するという見方を示している。(S&P says turmoil could still spread)
このような地政学的な混乱の時、従来なら世界の投資家は、資金を米国債やドル建て債権に逃避させ、為替市場でドルが上がるのが常だった。だが今、この「有事のドル」の現象は起きておらず、代わりにスイスフランなどが史上最高値を更新した。原油が高騰すると、極度の金融緩和を続けている米国がデフレからインフレに転換し、むしろ米国債などドル建て債権が下落(長期金利が上昇)すると投資家は考えている。金利が上昇すると、米経済は不況に戻ってしまう。ドルへの信頼が崩壊し「有事のドル」の不文律が失われている。この現状を見て「2010年からの10年間、ドルが世界の単独基軸通貨でなくなっていき、米国が覇権を失う歴史が展開するだろう」と早々と予測する分析も出てきた。(It's Taps For the Still Weakening dollar)
主要な穀物の国際価格がこの1年で70%値上がりしたと国連の食糧機関(FAO)が発表した。消費者物価指数(CPI)など米国の表向きの経済指標はまだ上昇していない。(FAO: Tight cereal markets as food prices increase again)
だが、CPIを構成する商品の42%は住宅関連で、それらは米住宅市況の悪化を受けて値下がりしている。CPIの構成要素の中で、食料は12%、エネルギーは9%を占めるにすぎない。実際の人々の日常生活で大きな割合を占める商品は食料やエネルギー関連だから、住宅関連が主導するCPIは、米国の実際のインフレ傾向を隠している。正しい米国のインフレ率は5−7%という高率になるはずだとも指摘されている。ウィスコンシン州などで続く米国民の反政府的な行動を見ると、すでに米国民の生活は物価高騰によってかなり悪化していると考えた方が自然だ。(US Standard of Living in Peril From Dollar's Weakness: Zell)(ウィスコンシンに関する2月23日の速報分析)
原油高が世界のインフレをひどくすると考えるユーロ圏の欧州中央銀行(ECB)は利上げを検討し始めた。早ければ4月にもECBが利上げに踏み切ると予測されている。ユーロが利上げに入ると、米連銀がゼロ金利を続けるドルとの金利差が広がり、ドル安ユーロ高が加速するだろう。(John Taylor: "We Are Going Into A Recession, Damn It")
▼基軸通貨は米欧中の三極体制に
3月2日には、米国の最有力経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が「なぜドルの覇権が間もなく終わるのか」と題する論文を掲載した。カリフォルニア大学の教授が書いたこの記事によると、ドルは近いうちに単独の国際基軸通貨という特権的な地位を失い、今後10年ぐらいかけて、中国人民元やユーロとともに多極的な基軸通貨体制を共有するようになる。(Why the dollar's Reign Is Near an End)
論文によると、従来の世界の為替取引の85%がドル建て、世界が保有する債権債務の半分以上もドル建てであり、この市場占有率の高さがドル利用の拡大と高占有率の維持につながり、米国債は最も安全な債券であり、ドルは有事の資金逃避先として頼られていた。だが今、こうしたドルの利点が次々に壊れている。米政府は財政赤字を急拡大し、多くの投資家が米国債は過剰発行で債務不履行の恐れがあると考えている。貿易業者にとっても、米国以外の国々の間の取引が増え、保有通貨を多角化した方がよい状況になっている。ドルの独占的地位が崩れると、米国債の売れ行きが落ち、ドルの価値が20%下がると論文は予測している。
「権威ある」WSJがドル覇権の終焉に言及する論文を載せたことは衝撃だ。ドル崩壊予測は、金地金愛好家の「陰謀論」から、WSJも認める「現実」になっている。このような現実があるのに、連銀など米当局は、1971年のニクソンショック時に発した「ドルは我々の通貨だが君たちの問題だ」という無関心さを相変わらず続けている。
米議会で台頭する共和党の茶会派は、政府に財政緊縮を求め、連銀にドルの過剰発行をやめろと求めている。だがバーナンキ連銀議長は、ドルを過剰発行して売れ残りの米国債を買い支える量的緩和策(QE)をやめると米国が不況に逆戻りするのでやめたくないと言っている。今年6月に一段落するQEをその後も続行すると、過剰発行に拍車がかかり、ドルと米国債に対する世界からの信用失墜に拍車がかかる(QEをやめて米国債が急落しても信用失墜なので、米当局は「やめるも地獄、続けるも地獄」の状況だが)。(Bernanke Doesn't Rule Out More Bond Buying to Aid Economy)
米政府の予算は昨年から、財政緊縮を求める共和党と、緊縮に比較的消極的な民主党の議会での対立が解けず、今年度予算が3月4日分までの暫定分しか決まっていなかった。何も決まらないままだと、3月5日から緊急部門以外の米政府の機能が停止する大惨事になるところだったが、議会は3月2日に談合して2週間分だけの予算を通し、3月18日まで米政府の機能を延命させた。3月18日までに今年度予算を可決しないと、再び機能不全の危機がくる。(Government avoids shutdown; hard part still to come)
4月には米政府の財政赤字額が法定上限に達するので、そこでも議会の赤字拡大決議が必要となる。決議しないと米国債の債務不履行があり得る。巨額赤字を抱え、機能不全や債務不履行に直面している米政府の姿を見て、世界の投資家はますます米国債やドルに対する信頼を失っている。
▼基軸通貨の準備をする中国
ドルの信用失墜と基軸通貨の多極化が進む際、最も注目されるのは中国当局が人民元に対してどう対応するかという点だ。中国は実質的に人民元の為替をドルに固定するペッグ制度を続けており、ドルの信用失墜に合わせて中国国内のインフレがひどくなっている。人民元が国際基軸通貨の一つになるなら、その前にドルペッグの廃止や人民元取引の国際化が行われる必要がある。
この点で、中国の中央銀行である人民銀行は、原油高騰でドルが逃避先でなくなっていることが示された直後の3月2日、人民元の国際利用を拡大すると発表した。今年中に、中国の主要な貿易業者のすべてに対して人民元建ての貿易決済を許可するとともに、欧米銀行に元建ての金融商品の創設を許したり、人民元を受け取った外国企業が中国で元建ての社債を買えるようにする動きを加速する。中国は、世界の企業や通貨当局が人民元を備蓄通貨として使うことへの容認を拡大する。今後3−6年以内に、先進諸国以外の国々と中国との間の貿易の半分以上が、人民元で決済されることになると予測されている。(Govt to boost renminbi's role)(求真務実 開拓進取 推動跨境人民幣業務及有関監測分析工作再上新台階)
同時に中国当局は、人民元を金地金で裏打ちされた通貨にしていくことを模索しているように見える。中国は今年1−2月だけで、昨年の1年分に近い200トンもの金地金を輸入した。その多くは、インフレを嫌気して現金を金地金に換えておこうとする市民の購入であるとされるが、中国当局も国内市場でかなりの金地金を買っていると推測される。中国当局の金備蓄は約1千トンしかなく、米国が8千トン台、欧州の主要諸国が2千トン台の金地金を保有するのに比べ、中国の金備蓄は少なすぎる。(China Demand Voracious - A Yuan Gold Standard?)
ユーロや人民元が「次の基軸通貨」として名指しされているのに対し、わが日本の円は全くと言っていいほど、次の基軸通貨として言及されていない。リビア危機で原油が上昇してドルが売られたとき円が上昇したが、これは中国の人民元がまだドルペッグしていて逃避先として適当でないので、代わりに隣にある日本の通貨が連想買いされたと考えられ、円が基軸通貨として期待されたのではない。
円に対する期待が低いのは、日本政府が対米従属への固執と表裏一体の政策として、円を地域基軸通貨にすることに非常に消極的であり続けた結果だ。今後、ドルの覇権が崩壊していくと、日本は中国の経済圏に入る傾向を強めるだろう。これは、米国の覇権失墜がここ数年しだいに明確化したにもかかわらず、日本政府が対米従属のみに固執する国家戦略をとり続けたことからくる、当然の帰結である。
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(新世紀人コメント)
幾つも優れた指摘が書かれているが、私はその中の特に二つに目が行った。
一つは、
…従来なら世界の投資家は、資金を米国債やドル建て債権に逃避させ、為替市場でドルが上がるのが常だった。だが今、この「有事のドル」の現象は起きておらず、代わりにスイスフランなどが史上最高値を更新した。原油が高騰すると、極度の金融緩和を続けている米国がデフレからインフレに転換し、むしろ米国債などドル建て債権が下落(長期金利が上昇)すると投資家は考えている。金利が上昇すると、米経済は不況に戻ってしまう。ドルへの信頼が崩壊し「有事のドル」の不文律が失われている。この現状を見て「2010年からの10年間、ドルが世界の単独基軸通貨でなくなっていき、米国が覇権を失う歴史が展開するだろう」と早々と予測する分析も出てきた。…
である。
米国債などドル建て債権が下落… これについては、今回の中東動乱で米国が狙った思惑は、「米国債への購買人気の回復」であったとの評論も出されていたので、有意義な指摘であると考える。「米国債への人気回復」を狙ったとの指摘について私も「成る程」と考えたものだった。米国にその思惑があったのか又は無かったのか? あっても現実の市場はそれを裏切っているという事なのか? そこについては実情はわからない。
ただ、確かなことは米国の経済政治体制の危機深化が中東動乱を煽り立てる背景にある事は確かである。
もう一つの指摘は、
…「権威ある」WSJがドル覇権の終焉に言及する論文を載せたことは衝撃だ。ドル崩壊予測は、金地金愛好家の「陰謀論」から、WSJも認める「現実」になっている。このような現実があるのに、連銀など米当局は、1971年のニクソンショック時に発した「ドルは我々の通貨だが君たちの問題だ」という無関心さを相変わらず続けている。
…
というものである。
これは、ドル覇権の終焉が予定されていて、今回の中東動乱もその到達目標の為のスケジュールに入っている予定行動である事を窺わせるのである。
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