01. 2011年3月01日 16:14:11: zb4Uu1DMHE
ソブリン危機、銀行救済、株式市場メルトダウン、驚異 的な株価反騰、低金利、超インフレ懸念、商品相場の急騰――。2010年は激動の1年でした。それと比べると、 2011年は退屈な1年になりそうだと思っていませんか。 心配には及びません。世界的金融危機から2年を経ました が、その原因の多くは未解決です。危機に直面した関係 当局は、残念ながら問題への対応が精一杯で、原因の抜 本的解決には手が回らない状況にあります。納税者や預 金者のお金、つまり公的資金を使った銀行救済、さらには 財政危機に陥った国家の救済までもが行われ、“kicking the can down the road” (問題の先送り)という表現 がぴったりの事態が日常化しています。利益および損失 の発生は市場経済にはつきものですが、そうした市場経 済の根源的な概念は、既存秩序の存続を優先する絶望的 な試みによって忘れ去られました。優先債権者は保護され ましたが、苦労もなく大きなリターンを得られる「フリーラ ンチ」の時代は過去のものとなりました。そうした救済策 のつけは納税者に押しつけられているのが現実です。 世界経済には未解決の問題が山積しています。特に政 府債務の問題は深刻ですが、それらにはある共通する特 徴があります。それは、いずれも解決までに長年を要する 長期的な問題だということです。西側諸国はどこも債務 削減を迫られていることを考えると、現在の景気回復局面 は循環要因によるものだと判断されます。この回復過程 は2011年にはより鮮明になると予想しています。 アメリカ経済は、2010年夏には「二番底」が懸念され ましたが、その後は改善がみられ、アメリカ株式相場も 上昇に転じて、2010年終わりのS&P500株価指数は 2010年夏の水準を20%以上も上回りました。消費者の 節約傾向と過剰設備というマイナス要因にもかかわらず、 製造業は人員削減と生産性向上を同時に進めて、過去を 凌ぐ高い収益率を達成しています。 とりわけ2011年上半期の企業収益はさらに増加が期 待されます。しかし2011年後半になると増収増益を続け る企業の数は減り、収益の右上がりの勢いも衰えると予 想しています。それは、需要が後退し、収益の伸び率が低 下する一方で、必要経費が増える状況下では、利益の確 保が難しくなるからです。 QE2の効果のほどは? 米連邦準備制度理事会(FRB)が市中に大量の資金を 供給しているかどうかを見てみましょう。アメリカが不況 に陥って以来、FRBの金融政策をめぐって賛否両論が激 しく交わされてきました。商品市場には資金が流れ込ん でいますが、消費者物価指数のコアCPIを見ると、完全な デフレ傾向ではないとしても、ディスインフレ傾向にある ことは明らかです。テクニカルには、その見方は正しいと 言えます。それは、FRBは紙幣を印刷するところではない からです(アメリカの紙幣印刷は財務省印刷局が行いま す)。しかし、FRBのバランスシートが増加していることに 疑問の余地はありません。大事なことは、FRBのバランス シートの規模の推移ではなく、金融緩和策の効果を見極 めることです。「物的証拠」で判断する限りでは、これま でのところ、FRB資金はアメリカ経済に注入されていませ ん。デレバレッジを優先する消費者は新規ローンを必要と しておらず、金融機関のバランスシート上では余剰準備 金だけが増え続けています。この傾向が続けば(2011年 は続くと予想されます)、大きなインフレ圧力や、市中へ の資金の過剰供給が生み出す資産バブルが発生する危 険もありません。にもかかわらず、市場が量的緩和策の第 2弾(QE2)のプラス効果を信じているために、リスク資 産の価格は上昇しています。 2010年後半の市場は、QE2の効果への期待から堅調 な推移をみせていました。市場には「噂で買い、真実で売 れ」という古くからの相場の格言が今も生きています。市 場は11月3日に連邦公開市場委員会(FOMC)がQE2を 決定する前からその格言どおりに動き、リスク資産の値上 がりが続きました。FRBから実際に市中に資金が流れて いないにもかかわらず、FRBの動きが市中への資金注入 による効果への憶測を生み出したのです。 上げ相場はQE2が発表された後も続きました。一時的 に売られる場面も見られましたが、それは強気市場にさら なる値上がりに向けて「呼吸を整える」余裕を与えるよう なものでした。相場は高値のまま2011年を迎えました。 S&P500はリーマン・ブラザーズ破綻以来の高値を付け ました。しかし、企業のファンダメンタルズ、ソブリン債務 危機の懸念、QEに関する誤った思惑が入り混じった状態 が続くのは必至ですので、「2011年世界経済予測」チー ムでは市場の先行きは「不安定」とみています。 サクソバンクは、量的緩和が実体経済に大きな影響 をもたらすことはないと確信しています。QE2は金利緩 和にはつながっていません。 10年物米国債の利回りは2010年10月上旬の底から100bpも上昇しています。 QE2がアメリカ経済全体と金利をターゲットとしたもので あるとすれば、FRBの政策は完全な失敗だったと言えま す。それとも、株価の値上がりを誘い、資産増加を通して 需要増大を図ろうとしたのでしょうか。もしその見方が正 しいとすれば、これまでのところ、FRBは成功を収めてい ると認めざるを得ません。確かに株価は上昇しましたが、 そのことで、国民は消費と借り入れを増やしてもよいとい う確信を持てるのか、あるいは企業業績見通しの改善に つながるかという疑問が残ります。サクソバンクでは、株 価は2011年のどこかで分岐点に差しかかると考えてい ます。その分岐点とは、世界経済、とりわけアメリカ経済 の改善が進み、向こう2年間に1株あたり純利益(EPS) が年率17%も伸びる状況となるか、それともFRBのおか げで値上がりを続けた強気相場に急激なブレーキがかか るかのいずれかです。 狼を鶏小屋に招き入れたEU ギリシャのソブリン危機が頂点に達していた頃、欧州 連合(EU)は他の加盟国が救済を求めてくる事態に備え るために、緊急救済基金の設立に向けて大慌てで動いて いました。その一方で、政策立案者たちは、その基金が実 際に使われることは絶対にないという主張を繰り返しまし た。緊急基金は、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)か らの4400億ユーロ、欧州金融安定メカニズム(EFSM) からの600億ユーロ、国際通貨基金(IMF)からの2500 億ユーロで構成されています。アイルランドが同基金から の支援を受ける最初の(現時点では唯一の)EU加盟国と なりました。 しかし、EUは緊急救済基金の設立を少しばかり急ぎ過 ぎたかもしれません。それは、たとえばスペインのような 規模の大きな加盟国から要請があった場合、救済するに はあまりにも規模が小さいことと、ソブリン危機に陥って いるギリシャとアイルランド(それに新たに支援申請をす る国)を除く全加盟国からの保証を担保とする仕組みだか らです。さらに、財政事情が悪化する他の加盟国が緊急 支援を要請し、支援基金への補償義務から逃れることに なれば、モラルハザードを引き起こす結果になります。最 終的には、トリプルAの格付けを得ているEFSFが緊急救 済の対象となる加盟国に高い金利負担を迫ることさえ予 想されます。 中国は「ジョーカー」(予測困難) 英語に直訳するとthe Middle Kingdomとなる中国 は、2011年予測では「ジョーカー」(予測困難な対象)と みなすことにします。中国ではインフレが進行し、融資規 制が強化されました。そのために、中国の2011年の成長 率を10%強と予測していたエコノミストたちは、その予測 を9%へと下方修正しました。サクソバンクの予測チーム は長年にわたって、中国経済、とりわけその不動産市場に ついて、懸念を表明してきましたが、現在までのところ、そ うした懸念を和らげる材料は何も出てきていません。中国 経済もいずれ後退局面を迎えます。一方、中国指導部は 不自然なGDP目標を達成するために、無用の長物の公共 事業計画の追加、あるいは他の消費拡大策など、経済運 営において何らかの操作を再び試みるかもしれません。中 国が世界における地位の強化につながる政策を優先する ために、エコノミストたちの中国経済に関するコンセンサ ス予想は外れる可能性があります。 中国が予測を超える成長を達成する可能性は否定でき ませんが、サクソバンクは、2011年に実質10%の成長 率を達成する力が中国当局にあるとは考えていません。 融資へのニーズが高いために、2010年の国内融資総額 は中国人民銀行の総融資枠を超えてしまいました。言い 換えれば、投資の持続的増加のおかげで高い成長率が維 持されているわけです。中国では国内消費が経済成長を 主導するまでには至っていないために、投資拡大に依存 した成長パターンがほぼ常態化しています。2011年の 世界貿易がとんとん拍子で増えるとは考えにくいので、中 国は新たな成長要因を探る必要にますます迫られます。 国内投資を増やすことで高い成長率を維持していくこと が一層難しくなるために、サクソバンクでは中国の経済成 長率は市場の期待を下回り、2011年末には前年比8% に下がると予測しています。 世界経済の見通し ユーロ圏参加国が財政赤字削減の必要性という現実 を受け入れたことは、それが各国政府の思慮分別のある 見識ではなく、「債券自警団」からの圧力に屈した結果で あったとしても、評価しなければなりません。緊縮政策の 度合いを強めるヨーロッパは市場でも概ね好感されてい ますが、ユーロ圏周辺国が直面している深刻な財政問題 やEFSF自体の問題について市場は慎重な姿勢を崩していません。 一方、巨額の財政赤字への対策をまだ模索中の政府に 大きく依存しているとはいえ、アメリカ経済が回復基調に あることは否定できません。予算赤字を新規国債発行で 解決しようとする方法には賛成できませんが、同時に、短 期的にはそうした方法がGDPにプラスに働くことは否定 しません。アメリカ経済を見るときには、経営効率を高め、 収益性を向上させているアメリカ企業の存在を忘れては なりません。2011年には、商品価格の急落がなければ、 企業業績の堅調な改善が期待されます。「爆発的」ではな く「顕著な」改善という表現にとどめたのには理由があり ます。それは、アメリカの最終需要の低迷が売上高の増加 を抑えているからです。2011年の経済成長予測とリスク 資産市場の見通しに関して言えば、主たるリスクは相場 下落の可能性です。しかし、アメリカ企業のファンダメンタ ルズは健全に推移し、2011年の株価はさらに上値を狙う 動きを示すものと予想しています。 米ドルは、2010年を通して「ドル以外はすべて買い」 という流れが蔓延したために、過小評価されてきたという のがサクソバンクの見方です。2011年にはその反動で、 ドルの反発が起こる可能性があります。ヨーロッパと日本 はどちらもアメリカに取って代わるほど魅力的ではありま せん。中国やその他の新興市場への過剰な期待は、ドル 売り/新興国通貨買いのキャリートレードの大幅な減少を 引き起こす可能性があります。 アメリカとヨーロッパの金利はQE2発表を前にした 2010年10月の低水準から上昇しています。QE2はそれ なりの非難を免れないところですが、アメリカのマクロ経 済データが相次いで二番底の可能性を打ち消したため に、リスク資産への投資意欲が盛り返す兆しが出てきまし た。ただし、そうしたアメリカ経済のマクロ面の明るい材 料にもかかわらず、2011年の主要先進諸国の国債利回 りに関するサクソバンクの見通しは「弱気」です。政府の 借り入れが増加しているのは事実ですが、一方で消費者 のデレバレッジ傾向を考慮すると、最近の利回り上昇は 合理的な動きとは言えません。アメリカ経済に関する明る いニュースが増え始めた2010年8月以降、アメリカ経済 の目先の見通しが良くなったことは事実ですが、それだけ では現在の相場水準を支えるには十分ではありません。 財政赤字の雪だるま式増加が2011年も続き、予測チー ムが案じるように、ヨーロッパで、経済規模が大きな国が 緊急救済基金の支援を要請する事態が起これば、米国債 の安全資産としての地位が再確認されることになるでしょ う。 アメリカ:「ニューノーマル」か、古き良き時代か
2008年の大不況や株価の50%暴落など恐怖に満ち た状況から、市場とアメリカ経済は抜け出しました。問題 は、アメリカ経済の回復が本格的なものとは言えず、鉱工 業生産のギャップを埋めるまでには至っていないことで す。不況の終わりが公式に発表されてから1年半を過ぎ てもアメリカの失業率は10%近辺で推移しており、新規 の失業手当受給申請者の数は未だに1週間に40万人を 超えています。食糧配給券の受給者は過去最高の4500 万人強に上ります。言うまでもなく、失業率は遅行指標で す。一方で、住宅ローン滞納率は未だに7%近辺にありま す。家計のデレバレッジは現在も続いており、消費者金融 は年率2.9%の減少を記録しています。このように、商品 市場以外では、ディスインフレ傾向が続いています。 世界最大の経済の2011年予測を少し詳しく見ていき ましょう。製造業における在庫循環期間はサクソバンクが 当初予想していた以上に長くなっていますが、製造業は 景気拡大に貢献し続けることができるのでしょうか。消費 者が景気拡大のエースになる日は来るのでしょうか。 止まらない家計のデレバレッジ傾向 アメリカは「バランスシート不況」という、第2次大戦後 によく起きた在庫循環型不況とは全く異なる現象に悩ま されています。1945年から2008年にかけてのすべての 不況はほぼ間違いなく在庫循環型でした。企業が将来の 需要を期待して、耐久商品を中心に商品の製造を増やそ うとして設備投資を増やす結果、過剰在庫が発生して、 不況に陥るというのが在庫循環型不況のパターンです。 その場合、不況が始まると企業は設備投資を急激に控え ます。 民間部門では2010年を通して、借金の返済ないし債 務不履行、つまりデレバレッジが進みました。その結果、民 間のバランスシートは持続可能な水準に近づいています が、歴史的な基準に達するにはまだ相当のデレバレッジ が必要です。消費者金融は低迷しています(関連データか ら学生向けローンを差し引いたことの影響もあります)。 商業用ローンと産業向けローンは年平均8%の減少が続 いています。2011年には減少が底を打ち、若干の増加に 転ずる可能性も予想されます。2011年にアメリカ経済が 伸びると予測していますが、それで舞い上がることは控え ましょう。失業率は、2011年末近くに若干下がるかもし れませんが、非常に高い水準であることには変わりはあり ません。個人消費は、一部の人たちの間では増える傾向 がみられそうですが、多くの消費者はデレバレッジを優先 し続けると思われます。全体的には、2011年にはデレバ レッジは低下傾向に転じて、予測チームの見立て通りに リーズナブルな成長が期待できるでしょう。 2011年の経済動向を占う上では、アメリカ国民はほん とうに新時代を迎えているのか、それとも過去の経験を 繰り返しているだけなのかという大きな疑問がわいてきま す。その疑問とは、現在のアメリカの状況は「ニューノー マル」(new normal)と呼ぶべき現象なのか、それとも 2008年から2010年の期間は、貯蓄率が2〜3%で、誰 もがiPadを持てるような、古き良き時代に戻るまでの「間 奏曲」にすぎなかったのか、ということです。貯蓄率は現 在5.7%と、今回の大不況後の最高値である6%を若干下 回っていますが。2006/2007年の2%を大きく上回って います。アメリカ国民は倹約に新たに目覚めたわけです が、その精神をぜひ続けて、さらに根付かせることを期待 しましょう。ただし、希望的観測と現実は必ずしも合致し ない場合があります。 2011年のアメリカ経済の見通しが、オバマ政権による 景気対策にも支えられて、改善してきたために、アメリカ の貯蓄率は現在の水準以上に上昇することは期待できな いと考えられます。むしろ、貯蓄率が若干の低下する可能 性のほうが大きいとみています。そうなれば、消費の拡大 につながるので、政府は大いに喜ぶでしょう。アメリカの GDPに占める民間消費の割合は約70%と高いために、 貯蓄率の低下はすぐにGDPの増大につながります。サク ソバンクとしては、アメリカは高い貯蓄率と持続的成長に 欠かせない投資に重点を置くべきだと考えていますが、 貯蓄率低下が短期的な景気対策(実施するにはほとんど の政策立案者が考えるより時間がかかります)と同程度の 効果をもたらしてくれるのも確かです。 政府の大盤振る舞いによる短期的景気拡大 「2010年世界経済予測」では、アメリカ経済再生再投 資法(ARRA)を含む景気対策の効果が薄れてくることか ら、2010年下半期には財政による景気刺激策の息切れ が経済の足を引っ張ると予想していましたが、そうした事 態は起こりませんでした。ブッシュ減税の期間延長、失業 手当の充実、給与所得にかかる社会保障税の税率引き下 げなどオバマ政権が2010年12月に打ち出した一連の 景気対策を考慮に入れると、公的部門が2011年のアメ リカ経済の足かせになる可能性は以前の予想より低くな りました。オバマ政権の景気対策は、2011年にGDPを 0.5%拡大させる効果をもたらすと予測しています。 民間設備投資は低調 2008年秋のリーマンショックで、企業の在庫と設備投 資が激減して、経済は深刻なマイナス成長に陥りました。 その後、在庫水準が回復に向かい始め、振り返ってみた ら、企業の過剰反応だったことがわかってきました。現在 はリーマンショック以前の在庫水準に戻っており、製造業 の在庫積み増しは今後の消費動向次第という状況にあり ます。2011年後半になると在庫は適正な水準になると予 想しています。 住宅投資については、住宅市場の冷え込みが2011年 も続くと予想しています。住宅価格は2011年のほとんど の月で下がり、経済全体の足を引っ張る可能性がありま す。総じて言えば、価格低下で住宅市場の落ち込みが続 きます。一方で、住宅ローン部門では「金利リセット」(当 初低く抑えられた金利に、一定期間の経過後、市場金利 +プレミアム分が上乗せされ、返済額が膨らむ仕組み)問 題は、これから直面する借り手がまだ存在しますが、全体 としては解決済みとなったために、ローンの滞納率は横ば いで推移するというのがサクソバンクの見方です。住宅 市場の復活のために、FRBや政府は住宅ローン金利の引 き下げ、住宅購入者向け税控除の導入などに取り組んで きましたが、すべて大失敗に終わりました。市場へのテコ 入れの過程では、低金利住宅ローンの問題が正しく認識 されなかったか、問題そのものが見過ごされた可能性が あります。過去10年間のローン借り換えでは、借り換えに よって低金利の恩恵を得られる代わりに、定年を間近にし たベビーブーム世代にとっては、自分の首を絞める結果を 招くだけの借入期間の延長がセットになっている事実には ほとんど注意が払われなかったのです。 2011年も続くディスインフレ ディスインフレ状態は2011年を通して続くと予想して います。ディスインフレ状態がどのように推移していくか を知るために、消費者物価指数のコアCPIを注目する必 要があります。最近のアセット資産価格上昇の背景には、 資金需要の低迷と、量的緩和がアメリカ経済を活性化し、 その結果すべての価格が上がるという間違った期待感の 両方があるというのが、サクソバンクの判断です。資金需 要の低迷が大きな理由だとすれば、リスク資産市場の先 行きをあまり心配する必要はないでしょう。しかし、量的緩 和への誤った期待が株式や商品の価格上昇をもたらして いるのだとすれば、アセット資産の価格上昇の持続性を 疑ってみる必要があります。 イギリス、ユーロ圏、日本と比較すれば、アメリカ経 済は好調で、2011年はさらなる拡大が期待できます。 2011年末のGDP伸び率は2.7%と予測しています。そ れを超す可能性もありますが、一方で、高止まりの失業 率、デフレ圧力、家計のデレバレッジが持続的な景気回復 の阻害要因であり続ける状況は変わりません。 ユーロ圏:記念すべき1年か、忘れたい1年か
主要経済指標を見ると、ユーロ圏は深刻な不況からま ずまず順調に立ち直ったという印象を受けます。2010年 のGDPの伸び率推定値は1.7%となっています。しかし、 ユーロ圏参加国では国ごとに成長率に大きなばらつきが あります。ドイツは輸出ブームに沸いていますが、いわゆ る周辺諸国はソブリン危機に陥っています。ユーロ圏に とって2010年は、どの国に焦点をあてるかによって絶好 調と最悪期がはっきり分かれる1年でした。 ドイツ:息切れ気味の「機関車」 ドイツの経済成長率は2009年第1四半期には年率 換算でマイナス6.6%を記録しました。世界的な需要激 減で製造業が危機的な打撃を受けたのが原因でした。 2009年中期の機械・機器類投資と輸出は前年比それぞ れ23.6%と18%も減少しました。当時はユーロ高でした が、それにもかかわらず、ドイツ製品への海外需要が再び 伸びたおかげで、ドイツ経済は急速に好転していきまし た。2010年に入ると、ギリシャ、続いてアイルランドが、 IMFとEUに緊急融資を要請したために、ソブリン危機の ニュースが連日、新聞の一面を飾るようになり、ユーロ圏 は大混乱に陥りました。 ユーロ圏経済の「機関車」役を担うドイツ経済は2011 年には2つの理由から勢いを失うでしょう。まず、ユーロ圏 のほとんどの国が何らかの緊縮財政下にあるため、域内の 需要はさらに冷え込むことは必至です。次に、ユーロの為 替相場にも「大きな変動がない」(サクソバンクの予想)見 込みないため、輸出条件がドイツに大きく有利に働くことは 期待できません。ドイツはアジア向け輸出を伸ばそうとして いますが。ドイツの貿易の約7割はユーロ圏に依存してい るのが現実です。ユーロ圏のほとんどの国、とりわけ周辺 国では景気後退が不可避で、ユーロ圏経済の牽引役である ドイツにとっては厳しい1年となることが予想されます。 次に餌食になる国は・・・ 2010年を通して、pigs(豚)を連想させるPIIGSという ユーロ圏の一部の国の頭文字を並べた造語があちこちで 頻繁に使われました。もちろん、PIIGSを構成するギリシャ とアイルランドの国債利回りが相次いで急激に上昇した からです。サクソバンクは、この2カ国に加えて、ポルトガ ルとスペインも債券市場で厳しい扱いを受けると予想し ています。スペインの場合は、政府債務に関しては他の PIIGS諸国と事情が違いますが、不動産市場の崩壊と地 方銀行の経営破たんという問題を抱えています。それに 加えて、スペインはポルトガルが発行した債券の相当な額 を保有しており、ポルトガルの債券が値崩れをすれば、ス ペインの債券への連鎖反応は避けられません。 ユーロ圏の問題は、財政同盟抜きの通貨同盟であるこ とです。そのために、通貨政策は関係各国のニーズを反 映しない可能性があります。貿易不均衡を是正するため に財政同盟を結ぶべきだという主張がしばしば聞こえて きますが、サクソバンクは別な問題を指摘したいと思いま す。ユーロ金利は、放漫財政を続けてきた周辺国ではな く、ドイツ経済にふさわしいと思われる水準で推移してき ました。つまり、周辺国はドイツと同じ金利の恩恵を受け、 それぞれの経済実態とは釣り合わないやりくりをしてきた のです。これらの周辺国では生産性も消費も十分ではな いのに、賃金は高い水準にあります。それは周辺国の内 政問題であって、ドイツに責任はありません。ドイツが自国 製品を他のユーロ圏諸国に押し売りをしてきたのではな く、域内諸国が自らドイツ製品を選んで輸入してきたのが 実情です。しかし、周辺国は自国にはそうした選択をする 余裕がないことを認識する時期に来ています。 ユーロ圏は、新たにソブリン危機に陥る国が出現せ ずに、どうにか1年を乗り切るのか、それともドイツが 「ユーロ圏共同債券」(E-bonds)あるいは欧州中央銀行 (ECB)による国債引き受けというソブリン危機解決案を 受け入れるか――。2011年はユーロ圏にとって波乱に 満ちた1年になろうとしています。2011年のユーロ圏の 経済成長率は1.4%を予測しています。下振れの可能性 のほうが大きいとみています。インフレ率はやや下がりま すが、不安になるほど高い水準にある失業率はほとんど 改善しないと予測しています。 イギリス:2011年は目を離せない国
2011年の年明け直前のイギリスは、直近の経済指標 が相次いで市場の期待を超え、経済が予想される緊縮財 政の影響にも対応できそうだということから、楽観ムード に包まれていました。それは、正しくは、あるいは簡単に言 えば、「駆け込み需要」に過ぎないということでしょうか。 新予算が経済に短期的な悪影響を及ぼすことは否定でき ませんが、サクソバンクでは、2011年末から2012にか けて景気が回復すると予想しています。 国内需要に一時的打撃 緊縮財政計画は今後4年間に810億ポンドの歳出削減 を柱としており、その中には社会福祉予算の9%(70億ポ ンド)削減が含まれています。さらに、公務員を5年間で50 万人近く削減するとともに、公務員の定年を引き上げる計 画も発表されました。これらの政策で、今後数年間、イギ リスのGDPに占める公的部門の寄与度が下がります。し かし、サクソバンクは、歳出削減の対象範囲が非常に限ら れているために、消費者心理に大きな影響を与えることは なく、2011年の消費は大きな打撃を受けないとみていま す。つまり、成長の長期展望に悪影響を与えるほど消費者 の財布のひもが固くなることはないと予想しています。 VAT(付加価値税)の17.5%から20%への引き上げ (2011年1月4日実施)を前に小売売上高が増加しまし たが、それは、緊縮政策の本格的な導入の前に消費者が まとまった支出を行ったことによる、いわゆる駆け込み需 要がもたらした結果だと言えます。したがって、2011年 上半期の消費は落ち込みますが、サクソバンクは下半期 にはいわゆるミーンリバージョン(平均回復性)の大きな 力が働いて、消費が回復すると予想しています。 住宅市場の低迷下で増える投資 他のほとんどの西側諸国と同じように、イギリスの住宅 市場は2007年のバブル崩壊以降、低迷したままです。 2009年に若干回復をしましたが、その後は再び冷え込ん でいます。2011年も冷え込みが続くと予想しています。 全体的には、イギリス経済を取り巻く環境は現時点では 非常にネガティブなものとなっていますが、2011年が終 わる頃には景気回復が始まるというのが、サクソバンクの 結論です。2011年のGDP成長率は、第2と第3四半期に かけては低めに推移した後、再び上向いて2012年を迎 えるとみています。2011年の年平均成長率の見通しは 2%です。公務員削減の影響を受ける失業率は高止まりが 続きます。消費者物価指数は、2010年の推定値3.2%か ら2011年には2.3%に下がると予想しています。 日本:再び後退局面か
日本経済が2011年に二番底に陥る可能性があると予 測することは、全く不正確と言わざるを得ません。さえな い新年を迎えることになった日本経済ですが、2011年に 景気の落ち込みがあるとすれば、それは1989年以来、四 半期ベースでは19回目の落ち込み、年間ベースでは7回 目の落ち込みとなります。つまり、冒頭に書いた「二番底」 という表現は現在の日本には当てはまりません。1989年 以降の日本の成長率は年平均1.1%という低水準にあり ますが、日本が停滞から抜け出すことは容易ではなさそう そうです。低成長が続く「日出ずる国」の今後はどうなる のでしょうか。 国内需要は減少後、緩やかな拡大 2010年の国内需要は、政府による消費刺激策のおか げで力強い伸びを記録しました。そうした施策で生じた駆 け込み需要が消費の成長プロセスをゆがめしまったこと も事実です。そうした消費刺激策も今は期限切れとなっ ています。雇用情勢は厳しいことに変わりがなく、それが 2011年は消費拡大を阻むと予想しています。 過去10年の失業率はジェットコースターのような推移 をしてきました。2002年から2003年にかけて5.5%の ピークに達した後、2007年半ばには3.6%まで改善しま したが、2009年7月には過去最高となる5.6%まで上昇 しました。直近の4四半期は年率換算で5%の成長率を 記録したにもかかわらず、失業率は5.1%(予測作成時) となっています。2011年は、四半期ベースで1度かそれ 以上のマイナス成長が予想され、年全体の成長率の鈍化 は避けられないでしょう。そのため、雇用情勢の大きな改 善は望めません。同時に、雇用情勢の悪化で消費が伸び ず、成長が鈍化することが予想されます。 政府はデフレ対策として様々な景気循環の影響を相殺 する対策を講じてきました。それらは、2009から2010年 にかけては一時的な効果をもたらしましたが、2011年は 経済への効果はあまり期待できません。政府は2010年 10月に4兆4290億円の補正予算を柱とする「円高・デフ レに対応するための緊急総合経済対策」を発表しました。 そのうちの3兆円あまりは地域活性化と中小企業対策に 振り向けられます。しかし、補正予算のすべてが2011年 に執行されるわけではないので、経済拡大効果は限られ るとみています。 「重要なのは貿易黒字だ。愚か者!」 「重要なのは貿易黒字だ。愚か者!」――。1992年のア メリカ大統領選挙で経済最優先を掲げて勝利したビル・ク リントン氏の有名な選挙スローガン*を日本にあてはめて 少しもじってみました(*It’s the economy, stupid! 「重 要なのは経済だ。愚か者!」)。日本は、過去30年のほとん どの期間、貿易黒字を維持してきました。中国の場合と違 い、日本は、通貨切り下げを活発に行っていることを、少 なくとも公式には非難されずにきました。予測チームも寛 大さを発揮して、日本銀行が2010年ば9月半ばに実施し た無駄な努力については取り上げるのを控えます。世界 と交易する日本経済も当然、世界経済の好不調の影響を 受けているのですが、実態はあまりはっきりしません。そこ で、GDPに対する純輸出の割合を見てみましょう。その割 合は現在1.2%と、黒字大国の栄光の時代だった1980 年代を大きく下回っています。当時の割合は、過去最高と なった1986年の4%を含めて、常に2%以上でした。日本 が2巡目の「失われた10年」から何とか脱却をしようと試 みた過去10年のGDPに対する純輸出割合は平均1.2% で推移しました。逆から見ると、2000年からの10年間 は、内需が平均99%以下だったことになります。現在の 純輸出割合は約2.0%となっています。 日本の輸出マシンは永久に壊れてしまったのでしょう か。それとも、日本は活気を取り戻すのでしょうか。2010 年上半期は、日本経済、とりわけ輸出業者は、厳しい状況 に置かれました。2010年は、貿易加重ベースでみると、 円高の年でした。これは基本的には米ドル安によるもの です。その結果、純輸出(貿易収支黒字)は2010年下半 期には月あたり6000億円前後で推移しました。米ドルの 2011年の見通しは、日本経済が探し求めている「救命胴 衣」となるかもしれません。サクソバンクは、ドル・円相場に ついてはドル上昇、ユーロ・円相場については横ばいを予 想しています。その結果、2011年は後半になるほど日本 の純輸出は増えそうです。 サクソバンクの日本経済の2011年見通しは、驚くこと ではないのですが、わくわくするようなものではありませ ん。経済活動は2011年上半期には、景気刺激策の効果 が薄れることから、鈍化が予想されます。その後は、世界 貿易の活況を呈してくるおかげで、若干増加が期待され ます。物価は当初やや上昇するものの、消費拡大策が出 尽くすために、新たなデフレに直面するでしょう。 2011年政策金利予測
アメリカの金融政策 2010年の最後の数週間は、グリーンスパン前FRB議 長の有名な言葉を借りれば、「非合理な熱狂(irrational exuberance)」と呼ぶような状況でした。 アメリカでは、住宅市場に関する悲観的なニュースが絶 えることはなく、一方で2010年12月3日に発表された雇 用統計は、新規雇用がわずか5万人にとどまり、失業率は 9.8%へと予想外に悪化したことを伝えていました。しか し、金融市場や株式市場などは、それらには意図的に目を つぶり、代わりに変動幅が大きいことで知られる経済デー タのわずかな改善にのみ反応しました。それらのデータに は、景気動向に対する消費者の信頼感指数、ISM製造業 景況指数、小売売上高が含まれていました。 同時に、投資家が、民主・共和両党によるブッシュ減税 の一括延長と給与所得にかかる社会保障税の税率引き 下げに関する合意に向けた動きに過度に影響された可 能性もあります。減税延長などのGDP成長率の押し上げ 効果は0.5%から1%にとどまりそうです。それがなくても 2011年のアメリカのGDP 2.5%から3%の成長が予測 されています。 経済学の世界に「オク―ンの法則」があります。実質 GDPが潜在成長率を1%超えると失業率が0.5%下がる というのがその法則です。この経験則に基づく法則によ ると、ブッシュ減税の延長がGDPを0.5%から1%押し上 げるとすれば、その中間をとって0.75%の半分に相当す る0.375%だけ失業率が下がることになります。しかしILO (国際労働期間)基準で9.8%という高い失業率(非自発 的なパートタイム就労を余儀なくされた人などを含むアメ リカ方式の広義の失業率は17%)と比べるとあまりにも 効果が限られているのは明らかです。 こうした状況にFRBはより慎重な姿勢で臨んでいま す。国内12地区連銀の経済報告書をまとめた「ベージュ ブック」の最新版からは、明確な慎重姿勢が読み取れま す。全体としては「慎重な楽観論」と見ることも可能です が、ベージュブックは、消費者(アメリカのGDPの70%を 占めることは前述のとおりです)が価格に敏感で、不要不 急の出費を抑える姿勢を変えていないと記述しています。 しかし、最新のベージュブックでも極めて深刻な部門とし て挙げているのは、これまで同様に住宅市場です。ベー ジュブックの判断は、個人向け住宅市場については「低水 準」、商業不動産市場については「明暗まちまち」という ものでした。 住宅着工件数、建設許可発行件数、中古・新築住宅販 売件数、住宅価格指数はすべて、市場の予想を下回り、 市場最悪の水準で低迷したままです。 直近のFOMC会議も、景況の微妙な改善傾向に触れた だけでした。後日公表された議事録から改善傾向に関す るFOMCの判断を読み取るのは、ほとんど暗号を解読す るようなものでした。 製造業の生産水準と雇用の回復については、「失業率 を引き下げるには不十分なペースだが、景気回復が続い ている」と記述されていました。ちなみにその前のFOMC 会議では景気回復のペースについて、すばり「緩やか」 という表現が使われていました。消費者支出についての FOMCの言い方は、前回の会議が「徐々に増加してい る」、直近の会議が「緩やかなペースで増えつつある」で した。これでは、実際に良くなっているのかどうかは判断 がつきかねます。 不況が続く住宅市場についてもどうともとれる記述が 並んでいました。さらに、「インフレ基調を示す指標は低 下傾向を続けている」と、前回の「最近の数四半期におい ては低下傾向にあった」と比べると、どちらかと言えばよ り悲観的にも読める言い回しもありました。 「世界経済予測」作成までに公開されたFOMC議事録 には量的緩和策の第2弾(QE2)についての議論は記録 されていませんが、バーナンキFRB議長はCBSテレビの 報道番組「60 Minutes」のインタビューで、追加的な債 券買い入れ計画について「確かに可能性がある」と確認 しました。しかし、これでは重要な金融政策への力強い決 意を表したとはとても言えません。 FRBについては、「完全雇用・物価安定」という現行の 2大マンデート(責務)を「物価安定」のみ限定しようとい う動きが上院議員の中にあることから、QE2の決定は大 きな政治問題に発展しました。問題は、そうした議会の動 きが現実のものとなるのか、それとも歴史的な高水準にあ る失業率にもかかわらず、口先だけの脅しで終わってしま うか、ということです。 要約: FRBは、政策金利であるフェデラルファンド金 利の誘導目標を2011年を通して現行の0〜0.25%に 据え置くと予想されます。FRBの目標どおりにならない 失業率とインフレ率を考慮に入れると、FRBによる追加 的な米国債の買い入れの可能性は50%とみています。 トップアイデア: 2012年6月限月のユーロドル先物 を98.61で購入し、イールドカーブが低下することに便 乗する。2012年6月限月は2011年末までに99.40 で取引されていると予想します。 ユーロ圏の金融政策 欧州中央銀行(ECB)で行われるどこか歪んだ議論 (その多くは、まず「ユーロ」存続ありきのコンセンサス維 持のため)を見ていると、アルコール禁断症候群の1つで ある幻覚を伴う「震顫譫妄(しんせんせんもう)」に苦しむ アルコール依存症の金融保守主義信奉者の姿を思い浮 かべてしまいます。 ECBの政策金利である翌日物金利はユーロ圏参加国 のソブリン危機対策の一環で1%に据え置かれたままで すが、事態が筋書どおりに運んでいたら、ずっと前に「正 常」な水準に引き上げられていたはずです。さらに、ECB による緊急措置としての無制限の流動性供給(長期リ ファイナンスオペ=LTRO)も、早い段階で取り止めに なっていたはずです。 その代わりにECBがやってきたことは、短期金融市 場で目に見えない「ステルス」引き締めです(その結果、 2010年3月には0.634%まで下がっていた3カ月物金 利は現在1.0%を少し超える水準になっています)。3カ 月物LTROはさらに3カ月間の延長(1月、2月、3月)が決 まっています。ユーロ圏の多くの国の金融機関は、短期金 融市場にアクセスすることができない状態にあるため、 ECBからの「点滴」に頼り続けています。さらに、ECBは、 多くの周辺国の国債の下値を支えるためにそれらの国債 を買い入れ続けなければなりません。 一方、ユーロ圏では、ドイツ経済は比較的に好調です が、ソブリン危機で緊急の財政赤字削減を余儀なくされ ているヨーロッパ南部の諸国とアイルランドの経済は、良 くても辛うじてプラス成長か、一部の国の場合は、マイナ ス成長あるいは不況入りが予想されます。2011年を通 して市場はソブリン危機の影響から逃れられそうにありま せん。実際のところ、ソブリン危機がひどくなる可能性が あります。それは、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギ リシャ、スペインにとって、緊縮財政は望ましいことであ り、避けては通れない選択ですが、それらの国では政府自 らが緊縮財政を通して「節約のパラドックス」(個人が支 出を減らすと、社会の総貯蓄が減る現象)を引き起こすこ とになるからです。財政引き締めが、意図せざる結果とし て、経済活動の低迷を招くことを防ぐのは困難です。そし て、経済活動の低迷は税収不足につながれば、緊縮政策 が解決を目指す財政赤字問題の深刻化が避けられない 状況に陥ってしまいます。 要約:上記のようにユーロ圏が抱える問題の深刻さ を考慮すると、ユーロ圏金利がすぐに上昇する可能 性はないように思われます。ECBの政策金利(Main Refinancing Rate)は2011年を通して1%に据え 置かれると予想しています。 日本の金融政策
外需に大きく依存する日本経済は2011年も世界経済 の回復に支えられると予測しています(サクソバンクで は、世界経済の回復は2011年も続くとみています)。た だし、輸出が円高の影響を受ける状況は2011年も変わ らないでしょう。 国内需要が2011年に大きく伸びることはないと判断 しています。危険水域にある国債残高を抱える日本には、 新たな本格的な景気刺激策を打ち出せる余裕はほとんど ないからです。 要約:日本銀行の政策金利が2011年に現行の0〜 0.1%程度から引き上げられる可能性は全くありませ ん。一方、追加的財政出動が期待できないために、日銀 が金融面から景気刺激効果のある資産買い入れ(主とし て日本国債が対象)をさらに打ち出し、早ければ2月の金 融政策決定会合から、そして2011年を通して定期的に 行う可能性があります。 イギリスの金融政策
イギリスの消費者物価指数(CPI)は2010年11月に、 市場の予想をやや上回って、3.3%となりました。これはイ ングランド銀行の目標である2%を大きく上回っています。 金融政策委員会(MPC)のCPIに関する見通しは、2011 年第1四半期に3.6%のピークに達した後、徐々に下がり だして、1年半以内に目標を下回るというものです。 しかし、VAT(付加価値税)の標準税率が2011年1月4 日に17.5%から20%に引き上げられました。増税分に対 する価格上乗せがどこまで進むかによりますが、VAT引き 上げはCPIを最大0.5%押し上げるだろうとみられていま す。ただし、これはCPIにとっては明らかに一時的な変動 要因ですが、MPCは今後の「推移を注視」するとしてい ます。 問題は、CPIがイングランド銀行の目標を超えた状態を 1年以上も続けているのに、MPCはその間も「注視」をす るだけでした。そのためにMPCの信頼性が失われる危険 があります。そうなれば、中期的なインフレ圧力が増加す るでしょう。しかし、近代イギリスでは類を見ないスケール の財政引き締めがインフレ抑制につながるのは明らかで す。 要約:イングランド銀行は政策金利を2011年を通し て0.5%に据え置くものと予想されます。緊縮財政が経 済に影響を及ばすのが必至な状況にあるため、イングラ ンド銀行がさらに量的緩和を進める必要に迫られる可能 性が非常に高いとみています。 2011年FX予測:米ドル優位の時代到来か
米ドル・キャリートレードおよび円キャリートレードとリ スク選好度との過剰な連動性という果てしないテーマは 2010年で終わりが来るのだろうか――。「2010年世 界経済予測」が取り上げた問題の1つでした。答えは、円 キャリートレードについては「恐らく」、そしてほぼ1年を 通してリスク選好度を反映した動きを見せドルについては 「全くその気配はない」となりました。しかし、そうしたパ ターンにも2011年についにデカプリング(非連動)の動 きが始まるのではないかというのが、サクソバンクの見方 です。ドルの長期的な見通しが否定的なものであることに 関係なく、2011年はドルにとって「ウィンウィン」な年にな ると思われます。 2010年末のG10通貨はひどい荒れ相場でした。オー ストラリア・ドルが高値圏で推移する一方、ユーロ、ポン ド、米ドルはさえませんでした。為替相場には一定のミー ンリバージョン(平均回復)が起こる可能性もあります。も ちろん、相場の先行きには不透明感が漂っています。1つ 確かなのは、とりわけ世界経済の回復を考慮すると、相場 変動率が高まることです。 年初の展望 2011年を迎えましたが、マクロ経済の状況は1年前と は大きく異なっています。景気回復の有無にかかわらず、 主要先進諸国はそれぞれの理由で非常に深刻な状況に 陥っています。FRBの量的緩和策と政府の景気刺激策の おかげで景気拡大が高まっているアメリカを別にすれば、 主要先進国の成長見通しは気が滅入るものばかりです。 2011年の成長は、すでに現実になっている国でも、これか らの国でも、出口戦略なき中央銀行による過剰な金融緩和 (2010年12月はそれが大流行りでした)に支えられたも のです。どこの国の中央銀行も、自らの存続のために、潜 在成長率並みの成長を取り戻そうと懸命になっています。 一方、主要先進諸国の過剰な金融緩和は新興市場へ の資本流入を加速させる結果に終わっているようです。 新興経済国の資産市場や国内経済は再び活況を呈して おり、新たな過熱の危険が高まりつつあります。先進諸国 の中央銀行がすべての問題を通貨の供給を増やすことで 解決しようとする政策は長期のインフレ懸念を招き、金な どのハードアセットの価格高騰につながっています。中央 銀行の政策は貿易摩擦を生んでおり、韓国やブラジルな ど多くの新興経済国は、資本規制の導入や非居住者によ る対内資産投資への課税強化で、自国通貨の上昇を抑え るのに懸命です。 2011年は、ECB、FRB、日本銀行、イングランド銀行 のいずれもが金融緩和を継続させる一方、主要新興経済 諸国、とりわけ中国では、資産バブルと信用バブル、それ に先進国からの過剰な資本流入を躍起となって鎮める努 力が続くことになるでしょう。この先進国と新興国の政策 のミスマッチは大変危険をはらんでおり、大きな波乱要因 となる可能性があります。特に、各国が通貨変動を抑える ためにさらなる規制強化に踏み切る場合は、そうした可能 性がより高まります。各国が自国に都合のよい通貨管理を 進めようとすればするほど、それは不均衡を長引かせ、そ うした間違った政策が招く結果はもっと悪くなるという皮 肉な結果を招くだけです。 ここで2つのシナリオを立ててみましょう。最初のシナリ オは商品市場についてで、商品相場は、企業収益の悪化 と世界的な消費支出の抑制で経済成長率が下がるまで は、上昇が続くというものです。2つ目は、中国が、金融引 き締めで景気後退局面を迎え、ハードランディング(景気 の失速)という苦境に陥るというものです。その場合は、 2009年初めから世界経済を引っ張ってきたのは中国とそ の周辺経済だったので、世界経済の成長見通しの大幅な 見直しが不可避となります。いずれのシナリオも、新興市 場とリスク選考度にとって「ポジティブ」とは言えません。 これら2つのシナリオの1つが現実となる場合、金利、 商品価格、それに株価のトリプル高が持続することは考え られず、どれかが急落します。経済成長見通しが楽観過ぎ ていれば、金利、商品価格、株価はトリプル安となるはず です。いずれの場合でも、2010年11月初めに起きたよ うな、これら3つの同時上昇は無理です。金利あるいは商 品相場が2010年後半の水準に比べて上昇を続ければ、 リスクが高まります。童話「ゴルディロックスと3匹の熊」 に出てくる少女(ゴルディロックス)が選んだような「熱す ぎず、冷えすぎす、居心地の良い」、リスク資産にとっては 望ましいシナリオとなるには、金利と商品価格はレンジ相 場にあり、成長が持続しなければなりません。2011年FX 予測では、以下の個別通貨予測にあるように、リスクにつ いて楽観的な見方をしていません。 USD(米ドル):「ウィンウィン」な年となるか 米ドルは、FRBが11月初旬に追加的量的緩和(QE2)の 発表を控えて売られましたが、その後大きく値を戻しまし た。その米ドル上昇は、ドル資金を利用したキャリートレー ドに伴う旺盛なドル需要と、QE2発表前の「噂で買い、真 実で売れ」という市場の格言に従った米ドル買いがもたら したというのが一般的な見方です。しかし、それはやや安 易な解説です。実際には、FRBが2011年の半ばまでに 新たに6000億ドルの米国債を購入する方針を明らかに したにもかかわらず、QE2の発表後に金利が上昇したた めに米ドルの魅力は他の主要通貨と比較して薄れました。 しかし、主要3通貨間の醜い綱引きが続くなかで、ユーロ 圏のソブリン危機が再燃し、日本銀行が新たな大規模な 量的緩和策を打ち出したために、米ドルの相対的立場が それほど低下せずに済んだだけというのが現実です。 「2011年世界経済予測」に想定するシナリオは、他の 通貨に対して米ドルに有利になっています。その背景にあ るのは、極めて大きな米ドル・ショートの構造と世界経済 の成長への非常に大きな期待です。世界経済が期待通り の強い回復を続けることができなければ、リスク資産の資 金として調達した米ドルのポジション解消が起こるはずで す(米国などの成長が止まれば、金利の低いスイス・フラ ン、円、さらにはユーロが新たな資金調達資金として注目 を集めることになるという見方もあります)。そうしたこと を考慮すると、オバマ政権と共和党のブッシュ減税延長 の合意など、アメリカの財政規律の緩みがもたらす長期 的な影響があるにもかかわらず、米ドルにとって2011年 はウィンウィンの年になる可能性がありそうです。アメリカ の中間選挙で「ティーパーティ」(茶会党)」で躍進した結 果、アメリカでも2011年には財政引き締めに転じる兆し が出てくる可能性も、重要な「ただし書き」として見逃せま せん。 2011年を占ううえで重要な要素がもう1つあります。 それは、FRBの権威にかげりが生じて、中間選挙の結果 ますます手ごわい存在となる新議会(発足は2011年1 月)からの圧力がさらに強まるのは必至だということで す。バーナンキFRB議長は、州政府や地方自治体の財政 危機の悪化への対応として、必要だと判断すれば、次の 量的緩和策の導入をためらわないはずです。問題は、議 会がFRBの次なる動きを阻止するかどうかです。FRBへ の反発が政界と一般有権者の間で強まっていることは確 かです。 EUR(ユーロ):底値を探る年となるか ユーロ圏は存続をかけた非常に重要な試練に直面し ています。サクソバンクでは、その試練はかなり長期に及 び、ユーロ圏の生き残り努力は最終的に失敗するとみて います。そのときに、EUの政治家やECBがヨーロッパの 様々な諸国を政治・通貨同盟にとどめておくための本格 的な努力を始めても手遅れとなるでしょう。緊急資金援助 を拡大しようが、非不胎化型量的緩和を実施する新たな 権限をECBに与えようが、ユーロ圏が行ういかなる努力 も、それ自体がユーロ圏にとって負の連鎖を招く恐れが あります。1つないしそれ以上のユーロ圏周辺国が現実 にデフォルト(債務不履行)に陥る可能性がかなりの確率 であります。デフォルトを選択するのが、それらの国とって は最良の選択であることがあまりにも明らかだからです。 たとえばアイルランドを見てみましょう。アイルランド国民 は、バブル期の商業不動産市場で行われた愚かな取引に ついて、外国の金融機関に100%の損失補償を、窮地に 陥った自分たちがなぜしなければいけないかと憤っていま す。デフォルトが起これば、すでに極めて高い借入比率に 達しているヨーロッパの銀行は大混乱に陥り、民間銀行 救済に巨額の公的資金が必要となるとともに、通貨や経 済成長に大きな悪影響が生じます。デフォルトは同時に、 それがもたらす連鎖反応的な影響への不安から、国債金 利のスプレッドに爆発的な変化をもたらします。そうなれ ば、ECBや、EUはその不安を取り除くのに非常に苦労す ることになります。EUは存続をかけた戦いを余儀なくされ ています。 2011年が米ドルにとって「ウィンウィン(win-win)」 な年となる可能性がある一方で、ユーロにとっては、短 中期的に、悪いことばかりが続く「ルーズルーズ(loselose) 」な年になりそうです。一部の投資家にとっての唯 一の慰めがあるとすれば、ユーロ圏の今後について世界 はすでに非常に悲観的になっており、それが為替レートに 織り込まれているユーロは2011年にはリスクが最も高い 通貨の一部よりは安全な避難通貨と見直されるもしれな いということです。 JPY(日本円):ジキル、それともハイド 2011年の日本円に関する見通しは、ほぼ例年どおり、 金利動向次第で異なります。リスク選考がポジティブに推 移して金利の上昇傾向が続けば、日本の投資家が高いリ ターンを求めて海外での運用を増やすために、相対的に 円安が続くことが予想されます。その結果、円はキャリート レードの資金調達通貨として再び注目されるでしょう。こ れは2011年の円にとって「ジキル博士」の部分です。 では、「ハイド氏」的なシナリオではどうなるのでしょう か。2011年のどこかの時点でリスク選好が低下し、商品 相場の上昇が止まれば、金利は再び急落します。その場 合、日本の投資家の国内運用が増え、キャリートレードの ポジションも解消されるために、深刻な円高となる可能性 があります。その場合、日本銀行は必然的に日銀券の発 行を増すでしょう。そして、国債発行残高が危機的水準に あるなかで円高対策として打ち出される量的緩和策には 国内の債券保有者(日本国債のほぼすべては国内で消 化)からの反発はありますが、日銀は最終的に円安誘導に 成功するでしょう。日本国債の消化については、国内市場 は飽和点に達しており、これ以上の国内消化は容易では なく、一方、国外消化を増やそうとすれば、海外投資家は 高利回りを求めてくるでしょう。ほぼゼロ金利(10年物国 債利率はわずか1.25%)の状況下で、日本の予算の4分 の1は国債費に充てられています。すでに「泥酔」状態に ある国債残高がこれ以上増えれば、わずかな「信頼の危 機」が取り付け騒ぎを引き起こし、瞬時にデフレから高イ ンフレへと状況の大変動が生じる危険が高まります。取り 付け騒ぎのきっかけとなる可能性は、高金利あるいは日銀 券発行の増加(金融緩和)のいずれにもあります。つまり、 2011年は円にとって2通りのリスクがあるわけです。 いずれのシナリオでも、最終結果は円安です。 GBP(英ポンド): 驚異的なポンド高となるか
2010年のポンドと米ドルの航跡は、イギリスとアメリ カのファンダメンタルズがほぼ似通っていたことを反映し て、似たようなものでした。両国とも、機能障害に苦しむ 金融機関と巨額の双子の赤字を抱え、中央銀行は金融 緩和を余儀なくされました。しかし、ポンドと米ドルを取り 巻く政治環境は大きく異なります。アメリカでは、政権と 議会がひそかに共謀して、事実上の追加的な景気刺激策 (ブッシュ減税の延長)を決めたために財政赤字が膨らむ ことになりました。一方、イギリスでは、2010年に発足し た新政権によるVAT(付加価値税)の増税、公務員給与 アップの凍結、その他の予算削減策を含む「緊縮政策ラッ シュ」が続いています。高い経済成長率を約束するもので はないとしても、イギリス政府の姿勢からは、アメリカに全 く欠けているある種の気迫と政治的決断力がうかがえま す。新政権が、特に深刻な状態にある国内の金融機関の 問題についても解決策を打ち出すことができれば、イギリ ス経済が長期的に健全で均衡のとれた状態を回復する 良い兆しが見えてくるでしょう。さらに、イギリスが大陸諸 国の通貨同盟に参加しない道を選んできたことが、2011 年にはユーロに対するポンドの優位性を高めてくれるの は必至です。ユーロ圏の深刻な問題やイギリス経済への 過度の期待を背景に、代替通貨としてのポンドは2011年 に驚くほど強くなることが予想されます。 CHF(スイス・フラン): 判じ物 2010年のスイス・フランの動きは構造的なものとみな すべきかもしれません。スイス・フランは過去10〜12年 間、リスク選好の流れとネガティブな連動性を保ちなが ら安全な避難通貨としてそれなりの役割をはたしてきま した。ところが、その状況がすっかり変わり、ほぼゼロ金利 (政策金利0.25%)状態にあることと2010年後半にリ スク選好が再び高まったことを考えると、スイス・フランは 信じがたいほど上昇しています。スイス・フランの高値を もたらしているのは、ユーロ圏のソブリン危機です(他の 先進国に比べてGDPに対する国債発行残高の比率は極 めで低い水準にあります)。スイス・フラン高のもう1つの 理由としては、最近の相場上昇で過去に大量に貸し出さ れたスイス・フラン建ての国外融資に対する為替ヘッジ の必要性が高まっていることもあるようです。2011年に は、ユーロ圏の危機が深刻さを増す可能性があり、スイ ス・フラン高がさらに進むと予想しています。しかし、スイ ス・フランはどこかの時点で自律調整の局面に入り、競争 力が損なわれると同時に、スイス経済の拡大にもブレーキ をかけることになると思われます。スイス経済は、2010 年にスイス・フラン高を阻止するためにスイス国立銀行が 行った市場介入(失敗に終わりましたが)に伴う金融面の 刺激策のおかげで拡大した可能性があります。スイスの 巨大な金融部門(総資産はスイスのGDPの6倍超)も、世 界的なリスク選好の先行きへの否定的な見通しや銀行規 制の強化を考えると、リスク要因です。EURCHF(ユーロ /スイス・フラン)相場は2011年の新年に底を打ち、スイ ス・フランはしばらくの間、上昇した後、大きく下げる動き を見せると予想しています。 AUD(豪ドル): 危うし「一芸だけの仔馬」 オーストラリア・ドルは2010年も、まるで世界金融危機 などなかったかのように、値上がりを続けました。公的債務 がほとんどなく、金利は高く、高度成長が続く中国による 石炭、金属、その他の天然資源の輸入に大きく依存する経 済というのがオーストラリアの特徴です。しかし、2011年 を迎えるオーストラリアの通貨と経済に警戒信号が点滅し ています。オーストラリアの経済成長は資源採掘産業にほ ぼ全面的に依存しているために、中国政府が不動産バブ ルとインフレを抑えるために金融引き締めを強化すれば、 中国からの需要が減少して、大きな影響を受けるのは必至 です。国内にも、鉱山部門以外の産業の低迷、高水準で 推移する消費者の借入比率、崩壊が懸念される住宅バブ ルなどの問題が存在します。オーストラリア・ドルは割高と なっており、2011年には大きな値崩れが予想されます。 CAD(カナダ・ドル): 静かな年 2010年のカナダ・ドルは当初、第1四半期にリスク選好 の全般的な高まりとカナダ中央銀行の金利政策への強い 期待から上昇しました。しかし、その後は、アメリカ経済の 見通しの悪化と、資源輸出大国カナダにとって最も重要 であるエネルギーの価格が他の資源部門の多くと比べて 弱含みとなったために、下落しました。カナダ・ドルが対米 ドル等価を超えそうになると、中央銀行はすぐさま市場の 金利上昇の観測を打ち消しました。2011年のアメリカ経 済の拡大はカナダの輸出産業に恩恵をもたらす一方、カ ナダ経済には2つの懸念要因があります。第1は住宅バブ ルがはじけるリスクです。第2は、カナダの消費者が、世界 金融危機前の信用バブル時代のアメリカの消費者を超え るレバレッジ率で借り入れを行っていることです。カナダ・ ドルの対米ドル相場は2011年にさらに高くなることが予 想されます。カナダ・ドルにとってポジティブな材料は、カ ナダの金融部門が最高の状態にあり、相当の逆風が吹い ても切り抜けることができそうだということです。それに 加えて、オーストラリア・ドルなど他の資源依存経済の通 貨に対して信じがたいほどの割安となっていることも、カ ナダ・ドルにはプラス要因です。 NZD(ニュージーランド・ドル): 割高 ニュージーランド・ドルは2010年、他のG10通貨に対 して、最高値を付けましたが、年末には、リスク選好とす べての商品相場をめぐる環境が全般的にポジティブであ るにもかかわらず、弱含みとなりました。その原因は、干ば つが年末で続くという予報でニュージーランドの主要輸 出産品である農産物の生産への悪影響が懸念され、経済 が相対的に悪化したからです。ニュージーランド準備銀行 (RBNZ)が発表した経済見通しも明るいものとは言え ず、NZドルの相場回復にはつながりませんでした。サクソ バンクでは、2011年のリスク選好は再びツーウエーの状 態に戻り(低下の可能性の高い)、NZドルは最高値を割 り、他のG10通貨に対して、さらに値を下げると予想して います。ただし、ニュージーランドの気象条件が好転すれ ば、NZドルのオーストラリア・ドルに対する為替レートには 割安感が出てくるのは確実です。 SEK(スウェーデン・クローナ): 基本的に横ばい スウェーデン・クローナは、2010年の年初には、それま での割安感と、外需の増加で輸出依存度の高いスウェー デン経済が活況を呈したことから、大きく値上がりしまし た。クローナは基本的に、景気循環に敏感な通貨です。 それに加えて、ユーロを取り巻く環境の悪化でユーロの 代替通貨としても評価されたために、2010年を通して、 リスク選好が強まるたびに値を上げました。2011年のク ローナは、スウェーデンの景気回復への期待から、さらに 上昇が予想されます。しかし、資産市場の低迷がクローナ の上値を相対的に抑える可能性があります。 NOK(ノルウェー・クローネ): 過剰な割安感 ノルウェー・クローネは2010年、G10通貨の中で最も 落ち着いた動きをした通貨となりました。他のG10諸国に さきがけて、早くも2009年に政策金利を引き上げたノル ウェー中央銀行でしたが、景気が(住宅市場の動向に関 係なく)低迷傾向を示したことと、2010年のほとんどの 期間を通して、原油価格が比較的に横ばいだったことか ら、金融政策を変更しました。クローネには、他の資源依 存経済の通貨と比べて、とりわけ割安感があることから、 2011年には、資源依存国の公的債務問題に市場の関心 がシフトするような事態となれば、健全財政のモデルと言 えるノルウェーの通貨の魅力が高まることは必至です。 2011年のクローネは、リスクの高い通貨で構成する通 貨バスケットに対して「買い」です。 G10通貨:2011年の注目トレード
GBPAUDはロング――新年を前にした市場では、世界 経済が「ゴルディロックス」(熱すぎず、冷えすぎす、居心 地の良い)状態を迎えるという楽観論が広がる一方、ポン ド/豪ドル取引については、イギリス経済の先行きへの 極めて悲観的な見方が優勢でした。その背景には、オー ストラリアの好景気は天井知らずだと信じる向きがいた からです。ポンド/豪ドルではポンドの買いだと考える のは、財政赤字削減ではイギリスが最先端に位置してお り、2011年にいは予想以上の市場環境の好転が期待さ れるからです。一方、鼻血が出るくらいな水準に達してい るオーストラリア・ドルの鉱業部門への依存は過剰です。 2011年にはオーストラリアの鉱業部門の低迷が予想さ れます。 EURUSDはショート――ユーロ圏のソブリン危機は解 決には時間がかかります。アメリカ経済のファンダメンタ ルズの改善でFRBの出番が減ることが予想されるのとは 対照的に、ECBには金融を緩和して、ユーロ圏諸国の先 行きに対する不安を少しでも払拭することが求められるで しょう。2011年は1ユーロ=1.10〜1.15米ドルのレンジ を予想しています。 CADJPYはロング――各国の財政問題が市場の主要 テーマとして浮上すれば、CADJPY取引がおすすめで す。2011年に金利が上昇すれば、日本が抱える問題は 急速に悪化し、円安は不可避です。一方、カナダの金融部 門と財政部門の状況は先進国では最も良好な部類に入っ ています。
NZDNOKはショート――これはあくまで通貨評価に基 づく判断です。ノルウェー・クローネが注目を浴びることは ありませんでしたが、一方のニュージーランド・ドルは少な くとも経済予測とアジア市場へのエクスポージャーを背 景に上昇してきました。2011年にリスク選好が低下すれ ば、クローネよりNZドルのほうが大きな影響をうけること になるでしょう。 2011年FXオプション予測:リスクの海 史上最大規模の量的緩和策、ソブリン危機を含む深刻 な財政赤字問題、ヨーロッパの政治経済の両面での緊張 など世界各地の経済が様々な問題に直面しており、FX 市場にとって2011年は重要な1年となると予想していま す。ただし、それらの問題と、今後浮上するかもしれない 問題は、2011年に限ってみると、市場にとっては「取る に足らない」ものとなり、世界経済は順調に推移する可能 性があります。もちろん、新年がベストな年であることを望 むのは当然ですが、最悪のシナリオへの備えは必 要です。 相場の行き過ぎに備えるには、大きなレバレッジ効果 があるオプション取引がまたとない機会をもたらしてくれ ます。そこで、サクソバンクの考えは、割安のオプションを 購入して、ロングのインプライドボラティリティ(IV)のポジ ションを維持するというものです。「6カ月物インプライド ボラティリティ」のグラフはEURUSD(ユーロ/米ドル), USDJPY(米ドル/円)およびUSDZAR(米ドル/南ア・ ランド)のインプライドボラティリティの推移を過去4年分 表示しています。変動幅は、金融危機の前の水準にはまだ 戻っていませんが、下がってきたことが一目瞭然です。 以上のことを念頭おいてサクソバンクが考える2011 年の戦略は次のとおりです。 1年物GBPコール/USDプットを1.6000でロング、プ レミアム535USDピップ支払い(参考スポットレート=1.5550)。 Long a 1 year 1.6000 GBP Call / USD Put, premium paid 535 USD pips(spot ref 1.5550) イギリスでは、新政権が発足当初から厳しい財政緊縮 策を打ち出したおかげで、新たな問題への対応能力が 増してきています。とりわけ、米ドルに関する強気の見通 しへのヘッジには、ユーロ圏が深刻な財政問題を抱えて いることと、財政再建への取り組みではイギリスのほう が市場の信頼を得つつある事実を考慮すると、ユーロよ りポンドがずっと適しているように思われます。さらに、 GBP/USDのリスクリバーサル(コールとプット選好度 を示す値)はまだGBPプットサイドに大きく傾いていま す。このことは上向きのオプション(GBPコール)のイン プライドボラティリティーは割安で取引されていること を示します。その他に、EURプット/GBPコールのロン グポジション(買い持ちのポジション)を選ぶのもよいで しょう。 1年物新興市場ボラタリティをロング: 1年物EUR/PLN(ポーランド・ズロチ)4.0500のストラ ドル(アット・ザ・マネー・フォワードのコールとプットの両 方)をロングにする。ブレーク・イーブン・ポイントは3900 ピップ。 1年物USD/ZAR(南ア・ランド)7.1250のストラドルをロ ングにする。ブレーク・イーブン・ポイントは8400ピップ。 新興経済に大きな混乱をもたらすような危機への備え をするには、新興市場オプションのバスケットのロングが ふさわしく、FX市場がサクソバンクの予想するように活 況を呈する1年となるのであれば、興味深いレバレッジ 効果を発揮するとみています。サクソバンクが選んだ通 貨ペアは、ユーロ/ポーランド・ズロチと米ドル/南ア・ラ ンドです。運用の多様化を目指すのであれば、ほかのペ アを加えることも考えられます。この戦略を応用すれば、 インプライドボラティリティに対するエクスポージャーは ポジティブとなり、デルタヘッジやアクティブ運用のチャ ンスが増える可能性があります。 1年物USDコール/JPYプットを95.00でロングする。 ブレーク・イーブン・ポイントは119ピップ(参考スポット レートは84.30)。 低デルタJPYプットは円の対米ドルのスポットレート が95〜100円レンジを超えて円高に進み始めたときか ら活発に取引されてきました。オプション(およびトレー ディング)では、常にそうですが、タイミングがすべてで す。FRBの大規模な量的緩和策にもかかわらず、ドルの 強気見通しに違和感を覚えられるかもしれませんが、日 本の実情を考慮すると円買いを選択する理由は見当た りません。ポンドの取引の場合同様に、上記の戦略は、 ボラタリティのカーブに応じてアップサイドオプションの ディカウントという恩恵を得られます。 1年物XAU[金]プット/USDコールを1270でショー ト、プレミアムは1オンス=71.5ドル。 サクソバンクが唯一選択するオプションのショートポ ジションは金属に対してだけです。金(および他の貴金 属類)は2011年も安全な投資避難先の役割を果たすと 期待しています(ただし、米ドルの供給量が増えると、他 の貴金属から金へ乗り換えがを引き起こす可能性がある ことを付け加えておきます)。そうした市場動向の見通し を考慮して提案する戦略が、金のダウンサイドオプショ ンを売り、インプライドボラタリティの上昇の恩恵を得る というものです。権利が行使されれば、金のロングポジ ションはオールイン価格で1オンス=1200ドルを下回り ます。 2011年株式市場予測:強気相場は本物か
株式市場の動向は、企業収益サイクルが成熟期を迎 えつつあることを示していますが、堅実なリターンはまだ 期待できそうです。景気回復、特にアメリカの景気回復に よって、株式市場に対するリスクプレミアムが下がってお り、それが株価を押し上げています。サクソバンクでは、 MSCIワールドインデックスは、予測作成時の1275から 1375へ、約8%の上昇を予想しています。 株価押し上げ要因 「世界経済の見通し」のところでも述べたとおり、 2011年は世界経済、特にアメリカ経済のマクロ面の改 善が期待されます。景気回復の持続性について、投資家 と企業経営者の双方が確信を強めていることが、2011 年の株式市場では堅実なリターンが期待できるというサ クソバンクの予測の背景にあります。企業は、景気の回復 傾向が確かなものだと確信を持てば、バランスシート上の 借入比率を再び引き上げ、採用と設備投資を増やします。 そうした企業の行動が景気回復の下支えとなり、株式に 対するリスクプレミアムの低下につながります。一方、株 式投資を行っている投資家も利益を確実なものとするた めに、企業にそうした行動を求めます。これらの結果、将 来のキャッシュフローへの不安が減少し、それが株価の上 昇につながり、2011年は株式投資のリターンが実現する というのがサクソバンクの予測です。 景気回復が持続するかが重要ですが、回復はまだ始 まったばかりの段階にあります。しかし、緊急な量的緩和、 低金利、それに主要国の中央銀行が発する将来のコスト を度外視してでも現在の金融政策を堅持するという強い う姿勢は、景気回復にとって追い風となっています。サク ソバンクとしては中央銀行に政策に賛成しているわけで はないのですが、中央銀行の対応に一貫性があることは 確かです。 企業収益サイクルが現在のような段階に差し掛かると、 通常、収益率はピークを打ち、販売も伸びが止まり、収益 の伸びにも鈍化の兆しが見えてきます。このパターンは今 回の場合にもあてはまるのは間違いありませんが、サクソ バンクは意外なほど大幅な収益改善が続くと予想してい ます。特にアメリカ企業のコスト削減は、販売の落ち込み をカバーするほどの著しい効果を出しています。しかし、 世界の企業収益が15%も伸びるとする市場のコンセンサ スには賛成しかねます(サクソバンクの予測は7%です)。 それによると、世界の売上高はわずか6%増となってお り、予測通りの収益の拡大を実現するには、利益率の大 幅な改善が不可欠です。収益率が過去最高水準を記録し たのは2006年でしたが、それが可能だったのは2003年 から2007年まで続いたマクロ経済における好条件の重 なりがあったからです。今回は、そうした利益率の急激な 改善を可能にするような条件はそろっていません。それに もかかわらず、若干の改善の余地はまだ存在しているとみ ています。 2011年の株式市場の主要な牽引要因の1つになるの が、企業による「リレバレッジ(re-leveraging)」です。現 在極めて高水準にあるキャッシュバランスとピークに近づ いた利益率を考えると、自己資本利益率(ROE)の伸び は期待できません。そこで、企業が収益性を確保するには 外部資金の調達を増やすことが必要となります。しかし、 企業が実際にレバレッジ率を増やすかどうかは、経営陣 が景気回復に確信を持てるか否かにかかっています。回 復への確信が強まれば、企業は、現金比率を引き下げ、同 時に(あるいは)社債発行を通して、レバレッジ比率を高 め、雇用拡大、自社株購入、配当率向上、M&Aなどを進 めて、ROEの改善を目指します。そうなれば、株価が上昇 し、株価収益率(PER)が向上してほしいという投資家の 願いがかないます。サクソバンクでは2011年には株式投 資のリターンが改善すると予想しています。株価収益率 の拡大余地は大きいとみています。現在、MSCI ワールド インデックスの1年先の予想PERは過去の長期平均値を 30%下回っています。仮に企業収益の予想伸び率が7% (サクソバンクの予測)と控えめなケースでも、世界的な 予想株価収益率は12.8%となり、収益の伸びの鈍化が あっても、株価収益率の伸びは十分期待できるとみてい ます。 新興国市場に注目 地域別では、新興市場に引き続き最も注目をしていま す。それは、世界経済の回復を受けて、最も高い収益の伸 びが期待されるからです。ブラジル、ロシア、インド、中国 といういわゆるBRIC諸国は以前のように「スイートスポッ ト」ではなくなりましたが、アジアとラテンアメリカの個々 の国々と、それには及びませんが、中央ヨーロッパと東 ヨーロッパの国々は注目に値します。中央ヨーロッパと東 ヨーロッパの諸国はユーロ圏への依存度が高いために敬 遠されがちですが、企業収益とGDPのいずれにおいても 今が最低水準だと思われます。 注目すべき地域ランキングではアメリカが2番目です が、アメリカの株式市場の今後を占ううえで鍵を握るの は従業員の給与水準です。株価が時折ソブリン危機の影 響を受けるユーロ圏の株式市場も、ランキングでは最後 ですが、注目に値します。日本株は明らかに「ジョーカー」 (予測困難)ですが、リバウンド(回復)の可能性を考えざ るを得ません。 アメリカ:高まる期待感 S&P500株価指数の企業評価マトリックスは、米国株 の魅力の高さを示しています。それは、企業の収益回復 のペースが株価回復のペースを超えているためです。サ クソバンクでは、2011〜12年のアメリカ株の1株当たり 利益(EPS)については、それぞれ92ドル、99ドル、収益 の予想伸び率についてはそれぞれ9.5%、7.6%と予測 しています。これは、EPSが2011年には96ドル、2012 年には108ドルになるというコンセンサス予測を下回りま す。S&P500指数の2011年末予測は1420で、年間上 昇率は13%強を見込んでいます。利益拡大要因の3分の 2は収益増、残り3分の1が株価収益率(PER)の改善に よるものというのがサクソバンクの予想です。これからの 好調な数字が年末にはさらに膨らんでいる可能性もあり ます。 企業を取り巻くアメリカのマクロ経済環境も業績拡大 に追い風です。借入金利は非常に低く、FRBの政策金利 であるフェデラルファンド(FF)レートは事実上のゼロ金 利まで下がっています。FF金利は2011年を通して据え 置かれることが予想されます。サクソバンクでは、アメリカ の主要インフレ率(コアCPI)は、FRBのインフレターゲッ トである2%を割って、1.4%(平均)という低い水準で 推移するとみています。アメリカのGDP成長率は前年比 2.7%を予測しています。総じて言えば、マクロ経済環境 は株価の押し上げ要因になることが期待されます。 業績予想 サクソバンクは2010年予測で、アメリカ企業の売上高 はほぼ横ばいながら、収益率伸び率は拡大すると予想し ていました。2011年はその反対で、売上高増加を見込 んでいます。長期的な売上高拡大傾向の大きな理由は、 前述のように2011年には2.7%と予想されるアメリカの GDP成長率です。内需が伸び、それがS&P500指数の 構成銘柄の売上高を押し上げるのです。 サクソバンクは売上高の伸びが6.5%に達すると予想 しています(コンセンサス予測では6.8%の伸び)。2010 年のサプライズは、企業収益率の力強い回復でした。過 去数年の景気後退に過剰反応を示してきたアメリカ企業 ですが、最近は収益率の改善を加速させています。問題 は、それが持続可能なのかどうかです。結論的に言えば、 答えはノーです。 低金利、借り換えコストの低下、それに景気拡大が重な り、企業収益率のさらなる改善には追い風となっていま す。しかし、サクソバンクでは、2011年の改善幅は前年を 下回ると予想しています。その理由の1つは原材料費の 上昇です。商品価格、とくに産業用金属の値上がりが予想 され、それによって収益率の伸びが抑えられます。もう1 つの理由は、生産性の向上が賃上げ要求を高めることで す。コンセンサス予測では、金融を除くS&P500銘柄の 利益率は9%ですが、サクソバンクでは8.6%と予想して います。 売上高の伸びや高い利益率のほかにも、2011年の収 益拡大を支える要因があります。金融を除くS&P500銘 柄の現金資産比率は現在、過去最高の10.8%となってい ます。今後は自社株買い戻し、M&A、設備投資が予想さ れますので、現金資産比率は2011年には下がるとみて います。 指数 S&P500株価指数(金融を除く) 売上高伸び率(前年比) EBITマージン 収益率伸び率(前年比) S&P500 6.5% 8.6% 9.5% 株価収益率に注目 2011年の株価収益率の伸びをゼロと仮定すると、 年末のS&P500指数は1370になります。しかし、 S&P500の現在の株価収益率は13.6で、それに現在の 低金利を考慮すると、株価収益率は14〜16のレンジにな ると予想されます。つまり、株価収益率の伸びが株価を引 き上げる余地があることを示しています。株価収益率の 伸びをもたらしている最大の要因は自己資本コストです。 2010年には、欧州を中心とするソブリン危機の影響を受 けて、投資家がリスク商品への投資を手控えたために、自 己資本コストが上昇しました。ソブリン危機の影響はまだ 消え去っていませんが、それも景気回復の陰に隠れる形 になっており、株価の長期的なしっかりした動きへの投資 家の信頼も回復することが期待されます。 注目業種 2011年上半期は、景気循環型であるエネルギー、テ クノロジー、素材関連の銘柄に注目したいと思います。こ れらの業種は景気回復の拡大の恩恵を最も受ける立場に あります。それ以外では、米国以外の市場、特に新興市場 に、拠点を構える企業も注目されます。2011年後半に注 目されそうなのは、ヘルスケア関連銘柄や工業銘柄など、 中期的な収益サイクルの業種です。 ヨーロッパ:低成長率の影響 ヨーロッパの株式市場の2011年予測がアメリカと大き く違う点は、ユーロ圏、イギリスの成長予測の低さです。 DJSTOXX600種指数を構成する銘柄の約62%はユー ロ圏あるいはイギリスの企業で、ヨーロッパの低い経済 成長見通しを考えると、それらの企業の業績も売上高の 伸び悩みが足を引っ張ることが予想されます。株価動向を 見ると、ヨーロッパの株価もアメリカの流れと変わらず、株 価収益率(PER)の伸びを背景に値上がりが期待されて います。DJSTOXX600種銘柄の1株あたり利益(EPS) は、2011年が23.9ユーロ、2012年が25.9ユーロ、収 益率の伸び率はそれぞれ7.2%と8%を予測しています。 なお、コンセンサス予測では、EPSは2011年が25.7 ユーロ、2012年が28.8ユーロとなっています。 サクソバンクのDJSTOXX600種指数の2011年末予 測は315で、年間値上がり率は12.5%です。伸びへの貢 献比率は、収益率増加が約半分、PERの拡大が残り半分 になるとみています。アメリカ株と比較すると、ヨーロッパ 株はPERの拡大に重きが置かれていることがわかります。 業績予想 ユーロ圏のマクロ経済動向は、DJSTOXX600種指数 を構成する銘柄の約62%を占めるユーロ圏あるいはイギ リスの企業にとってはプラスとは言えません。サクソバン クの2011年経済成長予測は、ユーロ圏が1.4%、イギリ スが2%となっており、景気回復が著しいアメリカのような 企業業績の改善は期待できません。ヨーロッパ企業の売 上高は5.0%増を予想しています。これはアメリカ企業の 売上高伸び率予測6.5%をやや下回ります。 利益率の伸び率予測では、ヨーロッパがアメリカを若 干上回ります。ヨーロッパ企業の場合、労働者保護がア メリカより厳しいこともあり、経営改革がアメリカほど効 率よくは進められないという事情があります。2011年 におけるヨーロッパ企業の利益率の伸びは、サクソバン クの予測が12.9%、コンセンサス予測が16%となって います。DJSTOXX600種の利益率に限れば8.8%と、 S&P500銘柄の8.6%という予測伸び率を若干超えてい まが、2007年の過去最高水準にはまだ及びません。高い 利益率の伸びとは反対に、ヨーロッパ企業の売上高が伸 び悩むことが予想されるために、DJSTOXX600種の収 益予想は7.2%とS&P500の9.5%を下回っています。 アメリカと同様に、ヨーロッパでも2011年予測では 堅調な利益率が期待されル理由はほかにもあります。 DJSTOXX600種銘柄の現金資産比率は、過去最高に は及びませんが、約10%となっています。やはりアメリカ と同じように、今後の株価収益率の増加は自社株の買い 戻し、M&A、設備投資に依存することが予想されるため に、現金資産比率は2011年には下がるとみています。 株価収益率に注目 DJSTOXX600種指数が2011年末予測を達成する には、ヨーロッパ株の株価収益率(PER)の伸びが欠かせ ません。PERが全く伸びないというシナリオでは、年末の 予測は300となります。しかし、2011年の1株あたり利益 (EPS)予測では、1年物フォワードは11.7%となってお り、13〜14%に伸びる可能性もあります。そうなれば、株 価上昇が期待されます。ヨーロッパ株がさらに値上がりを するには、投資家の景気判断の大幅な改善が必要です。 その点については、他の先進国と比べると、ヨーロッパの 投資家の景気判断はまだ低いと言わざるを得ません。しか し、自己資本コストの低下が期待され、それが株価を押し 上げる可能性もあります。 他の市場より見劣りする 世界全体の予測と比べると、前述のとおり、ヨーロッパ のGDP成長率予測が低く、それが企業売上高に影響を及 ぼすために、ヨーロッパ株も弱含みということになります。 アメリカ経済の拡大と新興市場の高い成長率の恩恵を受 けるのは、ユーロ圏やイギリス以外への依存率が高い輸 出企業です。 注目業種 2011年前半には景気循環型の業種が注目されるアメ リカ市場と同様に、ヨーロッパでも景気回復の傾向が強く なるほどその恩恵を受けるエネルギー、テクノロジー、素 材関連の銘柄が注目されます。アメリカと違うところは、 売り上げがユーロ圏とイギリス以外に大きく依存する企 業を探す必要があります。これは、ユーロ圏、イギリスと も、売り上げの低迷が続くと予想されるためです。サクソ バンクとしては、新興市場、それにアメリカとも、関連の深 い企業に注目をしていきたいと考えています。これもアメ リカ同様ですが、2011年後半に注目されそうなのは、ヘ ルスケア関連銘柄や工業銘柄など、中期的な収益サイク ルの業種です。 2011年商品市場予測:幸先良いスタートだが、前方に危険あり
商品市場は、金融緩和と景気回復見通しが、卑金属や エネルギー商品などの循環型商品の相場を押し上げたこ とから、高値圏で2010年を終えました。2010年を通し て見られた異常気象による農業生産への影響は、供給不 足とともに、価格高騰を引き起こしました。 商品価格の高値は2011年上半期も続き、トムソン・ロ イター/ジェフリーズCRB指数(TR/J CRB)のリターン が再び2桁になる可能性があります。中国、ブラジル、イン ドなどの新興経済国からの旺盛な需要に変わりがなく、ア メリカ経済の回復は天然資源の獲得競争の激化を招くこ とが予想されます。中国と米国の経済の同時拡大は、商 品価格の暴騰につながるリスクもはらんでいます。そうし た現象が起きた20008年には、両国の景気が行き過ぎ、 商品価格が急騰しました。その価格高騰で世界経済は急 激に冷え込み、商品価格は暴落しました。 商品相場に悪影響を及ぼす可能性があるリスク要因に は、ほかにも、@ソブリン危機(2010年には2度の相場調 整を引き起こしました)、A中国(景気引き締めを強めてい ます)、Bドル高(「2011年FX予測:米ドル優位の時代到 来か」を参照)があります。 上場投資信託(EFT)と商品指数連動型ファンドは、総 運用資産額が2010年に過去最高を記録し、現在も著し い拡大を続けています。実質金利の大幅な低下は、商品な どのオルタナティブ投資を下支えしてきました。現物市場 で供給がタイトになったいくつかの商品については、期近 限月の相場が期先限月の相場より高くなるバックワーディ ション(逆鞘相場)が起きました。その結果、期先への乗り 換えコストが実質不要となり、ETFや指数連動型ファンド を利用したパッシブ運用に有利な展開となっています。 WTI原油先物 ニューヨーク・マーカンタイル取引所上場のウエスト・ テキサス・ インターミディエート(WTI)原油先物相場は、 2010年末にかけて、世界的なエネルギー在庫の急速な 減少を受けて、2年超ぶりの高値を付けました。それを受 けて、2011年の原油価格の予測も引き上げられました。 さらに、世界最大の石油消費国であるアメリカの経済指 標に改善が見られていることが原油相場の高値予測のも う1つの理由です。 2010年12月には、在庫減少で需要が増えたために、 WTIスポット価格がフォワード(先渡し)価格を2年ぶりに 上回りました。このことがETFや指数連動型ファンドを利 用したパッシブ運用によるリターンの改善を再びもたらす とともに、先物価格を支えていくと予想しています。 石油の需要は2010年に過去最高水準を記録しました が、2011年も高水準で推移するものとみられます。その ために、2011年のWTIスポット価格は1バレル=80〜 100ドルで推移すると予想しています。100ドル超えの可 能性もわずかですがあります。日量600万バレルの余剰 生産能力がある石油輸出機構(OPEC)にとって居心地 の良い価格宅の上限は90ドルだと言われています。その 水準を超える値上がりが続けば、OPECが動き出す可能 性があります。原油先物取引の投機的なロングポジション は過去最高となっており、どこかの時点で大幅な価格調 整につながる可能性を秘めており、市場の先行きについ ての最大の懸念要因の1つです。 金スポット価格 サクソバンクでは、金価格はまだ上昇の余地があり、今 後1年間に1オンス=1600ドルに達する可能性があると 予測しています。 過去数年間に、金の人気が非常に高まってきました。そ れに加えて、米ドルの上昇が予想されることから、さらな る価格高騰の可能性があり、その場合、相場が大きく変動 して、5〜10%の修正につながるかもしれません。しかし、 全体的には上昇基調は変わりません。 2010年に金の名目(インフレ調整前)価格を史上最 高値に押し上げた要因は2011年も変わらず、金投資の リターンは11年連続のポジティブとなる可能性がありま す。2010年には、中国やインドなどの新興経済国を中心 とする中央銀行が20年ぶりに金を買い越しました。同時 に、金鉱山会社は将来産出する金価格をヘッジするため のフォワード売りを止めてしまいました。 金は「インフレヘッジ(hedge against infl ation)」資 産というのが一般的に認識されていますが、サクソバン クでは、金は「不安定に対するヘッジ(hedge against instability)」資産と考えています。FRBによる量的緩和 が、デフレの危険に対するヘッジ、そして最終的には通貨 供給増が引き起こすインフレへのヘッジとしての、金の需 要を膨らませています。ヨーロッパのソブリン危機が続い ていることで、資産の安全な避難先として金を求める投 資家が増えているのも事実です。 個人投資家にとっても、過去2年の間に金投資はずっ とアクセスしやすくなってきました。あまりにも敷居が低く なったために、ETCによる金保有量は2000トンを超えて います。これは中国の金準備量の2倍以上にもなります。 こうした投資は借入資金に依存しておらず、株と同じよう に、長期保有を目標とするものです。そのために、通常は 借入資金を使って行われる金先物取引の変動率とリスク もその分だけ軽減されています。 トウモロコシ 経済のファンダメンタルズを最も反映する穀物はトウモ ロコシです。その在庫量は、生産の減少と、エタノール生 産と飼料向けの旺盛な需要を反映して、15年来の低水 準となっています。2010年には、アメリカで生産されたト ウモロコシの35%以上がエタノール生産用に出荷されま した。2011年にはガソリン価格の上昇が予測されている ことも、エタノール生産用のトウモロコシ価格を下支えし ています。飼料用トウモロコシの需要も、主に中国からの 需要拡大を反映して、増加傾向にあります。中国では、富 裕人口の増加とともに食生活を肉食中心にシフトしてい ます(トウモロコシは家畜・家禽の飼料として人気がありま す)。 2010年には穀物・大豆の価格が高騰しました。原因 は、世界的な異常気象による生産量の減少と増加の一途 をたどる需要が在庫の減少をもたらしたためです。中国 は大豆の輸入を増やす一方、数年ぶりにトウモロコシの 純輸入国となりました。2011年も供給はタイトに推移す ることが予想されますが、そのことが生産拡大を促進する ものとみられます。その結果、新たな異常気象が発生しな れば、穀物相場は高値で安定すると思われます。 金融安定化と成長のための10の処方箋
金融機関に全資産の時価評価を義務付け、非流動性 資産について、その1割を市場で売却し、バランスシー ト上に残る非流動性資産にその約定価格を適用して 時価評価を行う。全資産に対する時価評価方式の採用 は、金融制度への信頼回復に不可欠。 全資産の時価評価の結果、債務超過が判明した金融 機関は、通常の伝統的な破産手続きに従って、業務を 停止する。 大きすぎて潰せない[too big to fail]金融 機関の場合は、政府管理下に置き、株主資本は全額減 資とし、債権者には損失を受け入れてもらい、債務の 株式化を行い、改めて新規株式公開を実施する。 債務の株式化でも不十分の場合は、預金者にも負担を受 け入れてもらい、預金(銀行にとっては負債)の株式化 を実施する。以上の再建策でモラルハザードが抑制さ れ、納税者ではなく貪欲な投機家に彼らの行動に責任 を負わせることが可能となる。 金融機関に対する政府保証はすべて打ち切る。これら には預金保険、政府保証債の発行が含まれる。経営破 綻に陥った金融機関には支援の手を差し伸べないこと を明確にする。「大きすぎて潰せない」という特別扱い を認めず、すべての金融機関は(インターバンク)市場 の厳しい規律に従うことを求める。 経営破綻に陥った金融機関の取締役会のメンバーに は個人的な損害賠償の義務を課す。この措置は、取締 役に責任のある、リスク回避型の経営を推進させるう えで有効。 すべての政府予算は、支出を削減して、最低限、歳入 と歳出を直ちに均衡させる。楽なことではないが、予算 の均衡は国債市場の安定には欠かせない。歳出削減 は、社会福祉と年金に集中する(年金資産は甚だしい 積立金不足に陥っており、将来の課税ベースと比べる と非現実的な水準にある)。この措置は、政府の借り入 れコストを引き下げ、債務返済負担の軽減につながる。 政府は2年以内に大胆な減税に踏み切る(特に所得税 と「資本税」の引き下げ)。この措置により、GDPと雇 用の圧倒的な部分を担っている中小企業への資本流 入が促進される。同時に、政府の社会福祉に依存する よりも、働くほうがずっと魅力な社会環境が生まれる。 中央銀行は、国民が貯蓄を増やし、借り入れを減らすよ うに、金融を引き締める。この措置は、市場における貯 蓄と投資の関係の正常化に役立つ。 金利負担は、借り入れへの過剰依存を防止するため に、税控除の対象とはしない。 以上の施策で生じるデフレは、生産コストの低下と製 品の輸出競争力の回復をもたらすことになるので、歓 迎すべきである。 賃金の引き下げも必要である。西側世界では単位労働 コストは高すぎる(購買力平価調整ベース)。 特別リポート:ソーラー(太陽光発電)市場
国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP 16)がメキシコで2010年11月から12月にかけて開催 されました。そこで議論された地球温暖化への対策とエ ネルギー政策について、世界は今後も真剣に取り組むこ とが求められています。サクソバンクは、ソーラー(太陽 光発電)関連株が2011年には最低でも50%の値上が りをする可能性があるとみています。その主な理由は、 旺盛な需要、ソーラー関連ビジネスに進出する企業数の 増加、安定した政治情勢、生産コストの軽減です。 不死鳥のように蘇るソーラー関連株 ソーラー産業と風力産業を対象とする上場投資信 託である「グッゲンハイム(Guggenheim)ソーラー ETF」と「ファースト・トラスト・グローバル・ウインド・エナ ジー(First Trust Global Wind Energy)ETF」の 値動きは、ソーラー・風力産業がここ数年、厳しい状況 に置かれてきたことを示しています。それぞれの指数は 現在でも2008年夏時点を60%から70%も割ったまま です。 ソーラー関連株の評価は、2011年にはソーラーエネ ルギーが供給過剰となり、業界の利益を吹き飛ぶ可能性 が出てきたことから、下っています。サクソバンクは、市場 は神経質になりすぎていると判断しています。アメリカの 大手ソーラー企業のファーストソーラー(本社アリゾナ)と トリナソーラー(アメリカ本社サンフランシスコ)が最近発 表した2011年需要予測では、補助金の削減と緊縮予算 への懸念が深まるヨーロッパを含めて、2011年の需要 増大を見込んでいます。サクソバンクでは、2011年の四 半期決算が発表されれば、市場はソーラー株への見方を 変えて、12カ月予想株価収益率は現在の9.6から大きく 上昇すると予想しています。2030年まで年平均9.6%の 需要の伸びが予測されている産業の予想株価収益率が 9.6倍というのは理にかなっていません。それは、通常、産 業の成長サイクルの中で、事業効率が改善し、自社株購 入の実施を背景に、企業収益の伸び率が需要の伸び率を 上回るからです。 「太陽」が「風」を超える理由 ここで、関連データを見ておきましょう。2011年の売 上高伸び率予測は、ソーラー産業が22.5%、風力産業は 15.4%です。利益は、ソーラーの28.7%に対して、風力 が71%(後者の数字が大きいのは2010年の利益低下の 反動です)。2011年の予想株価収益率はソーラーが7.5 で、風力が15(前者の数値が小さいのは、投資家がソー ラー株の収益の伸び予想に予測時点では懐疑的だった ためです。そのことは、ソーラー株には上昇の可能性が あることを示唆しています)。ソーラー産業の利益の伸び が予測の28.7%に近い場合、あるいは15%増でも、ソー ラー株の大幅な上昇が予想されます。対照的に、利益の 予測伸び率が71%で、予想株価収益率が15倍の風力産 業の場合は、これらの予想通りの業績を達成しない場合 は、ソーラー株と比べて、2011年は冴えない年となって しまうでしょう。ただし、2012年の業績見通しが改選す れば、その可能性はなくなります。 産業の利益率見通しの点でも、ソーラーは風力より魅 力的です。ソーラー産業のレバレッジ率と資産効率が風 力産業のそれをずっと下回ってきたことから、ソーラー企 業の自己資本収益率(ROE)は伝統的に風力産業より低 いものとなっていました。ソーラー企業のそうした状態に も、資産効率の改善と大幅な利益率の上昇で、変化が表 れ始め、2010年と2011年のROEは伸びが期待されま す。 全体的にみると、ソーラー産業のEBITDA(税引き前償 却前金融収支前利益)マージンは風力産業のそれを上回 り、レバレッジ率は下回ったままです。これは、ソーラー産 業のほうがより健全な競争条件を備えていることを示す ものです。ソーラー産業の資産効率が上昇すれば、ROE は2012年には15%を超す可能性も出てきます。 アメリカの再生可能エネルギー発電への税控除の延長 (Section 1603 Grant)が、2011年から2012年に かけて、アメリカ国内の需要の増加をもたらし、ドイツでの 補助金削減による需要の落ち込みをカバーすることが予 想されます。 ソーラー企業のすべてが2011年については強気の需 要予測を出しており、それに相対的に低い株価、資産効 率のさらなる改善、安定したEBITDAマージンを合わせ て考慮すると、2011年のソーラー株はかなり上昇するこ とが見込まれます。2011年には、業績が改善予測から、 ソーラー株の評価倍率は拡大傾向を示しそうです。 ソーラー株投資 ソーラー株への投資を行うには、グッゲンハイムソー ラーETFを通すやり方があります。このファンドは、アメリ カ、ヨーロッパ、アジアのウエハース、PV(太陽光発電シ ステム)ソーラーパネル、ソーラー薄膜フィルムの各メー カーから販売会社までの株を後半にカバーしています。 投資対象の多様性という点では十分ですが、必ずしも最 大のリターンは期待できません。 もう1つの方法は、個別の銘柄を選択することです。 2011年の売上高、収益率、利益拡大の見通しを考慮に 入れると、予想株価収益率が低く、EBITDAマージンが業 界平均を超えている、次の銘柄が魅力的のように思われ ます。JAソーラー (予想株価収益率は4.62倍)、ソーラー ファンパワー( 4.90倍)、LDKソーラー(5.44倍)、トリナ ソーラー(6.39倍)、GCLポーリーエナジー(9.90倍)の 5銘柄です。 リスク評価 ソーラー株への投資は大きな可能性がありますが、政 治情勢、外国為替動向、需給関係などいくつかのリスクを 考慮する必要があります。政治リスクは、ソーラー産業が 未だに政府の補助金に大きく依存しているからです。たと えばドイツは、2011年7月1日にPV太陽光電気の固定 価格買取制度(TIF)による買取価格を16%削減する予 定です。政策決定は明らかに重要な政治リスクです。しか し、ソーラー産業が「グリッドパリティ」(ソーラー発電コス トと既存の電力価格が対等になること)に近づくほど、政 治リスクは徐々に下がっていき、ソーラー銘柄へのリスク プレミアムも低下してきます。オバマ政権が再生可能エネ ルギー発電への税控除の延長を決めたことは、ソーラー 産業にとっては、政治面での短期的な安定を確保するも のであり、アメリカの再生可能エネルギー発電が大きく伸 びる道が開けたことを意味します。 2009年に世界で新たに開設された太陽光発電施設 の75%はヨーロッパにおけるものでした。欧州でのソー ラー電気からの収入のほとんどはユーロ建てなので、 ユーロ圏以外のソーラー企業にとって、ユーロは引き続 き大きなリスクとなります。一方、ソーラー製品の多くは 中国から輸入されているので、人民元にも注意を払う必 要があります。したがって、収益とユーロの間には大きな 連動性が存在します。ブルームバーグによると、外国為 替の予測では最も信頼を得ている金融機関のスタンダー ド・チャータードとウエストパックは、いずれもユーロの短 期予測は弱気で、2011年半ばまでに1.20〜1.25ドルま で下がると予想しています。アメリカに本社を置く複数の ソーラー企業の2010年第3四半期決算報告は、ユーロ 安とユーロ圏における需要の低下をアメリカの需要が補 うことを示唆していました。 ソーラー産業全体の収益が改善しているにもかかわら ず、ソーラー銘柄の評価倍率がこれまで拡大してこなかっ たのは、2011年に予想される需要の低下(とりわけ、太 陽光電気の固定買取価格の引き下げと緊縮予算の影響 を受けるヨーロッパの需要低下)とソーラーパネルの過剰 生産についての懸念が理由でした。最新の2011年見通 しはそうした懸念とは若干矛盾するものになっています。 アメリカの再生可能エネルギー向け税控除の延長はアメ リカにおけるソーラー部門の需要増につながることが予 想されます。 成長産業 ソーラー産業はゆりかごの時代を経て、産業規模の拡 大がコストの減少をもたらす「規模の経済」効果がますま す期待される急速な成長段階に入りました。エクソンモー ビルの「エネルギーの見通し:2030 年への展望」は、 ソーラーを含めた再生可能エネルギーは2030年まで年 9.6%ずつ増えると予測しています。 ゼネラルエレクトリック(GE)のチーフエンジニア、ジ ム・ラインズ氏は、アメリカの日照時間が長い地域では 2015年頃までにグリッドパリティが実現し、最終的には ソーラーの比率が風力を超えると予想しています。グリッ ドパリティの早期達成が可能になる最大の理由は、ソー ラーパネルの生産コストにあります。太陽電池の主力メー カーであるリニューワブルエナジーとQセルズは、2011 年にはソーラーパネルの生産コストがさらに下げる方針を 明らかにしています。 生命保険会社もソーラーシステムのオーナーとなり、 新たな資産運用先に資金を提供することで、ソーラー需 要の増加に貢献しています。ソーラーパネルを敷き詰め たソーラーパークからは安定した収入が期待できます。 ソーラープロジェクトはリスクが低く、8〜15%の内部投 資収益率を確保できるために、保険会社に運用の多様化 の大きな機会をもたらしています。 ソーラー産業には驚異的な成長の可能性があります。 現在、ヨーロッパ最大の太陽電気市場はドイツで、国内電 力の約0.3〜0.5%をソーラー産業が供給しています。ド イツに限らず、世界のソーラー産業には大きな成長の余 地があります。 論より証拠 地球温暖化が今後どのように進むのかという問題には 関係なく、世界中の国がよりクリーンで、化石燃料に依存 しないエネルギー源を求めているために、再生可能エネ ルギーはこれから普及することは間違いありません。 金融危機は、政府や中央銀行が力づくで市場に介入し てくることと、そうした公的介入が資産運用に及ぼす影響 を投資家は軽視すべきではないということを私たちに教 えてくれました。 しかし、ソーラー産業の発展には政府の支援が欠かせ ないことも事実です。自由経済の信奉者としては、政府の 補助金を本来はよしとしませんが、それについては現実 的な対応をするべきです。ソーラーの需要は急増中、ソー ラーがグリッドパリティを実現する日が急速に近づいて います。社会もソーラーエネルギーを必要としています。 ソーラー産業が補助金を必要とせず、持続的な成長過程 に入るときがやってきます。ソーラー産業の規模は最終的 には風力産業を大きく引き離すでしょう。イデオロギーを 捨て、リターンを求めるのが正しい選択です。2011年は ソーラー株が狙い目です。 |