http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/165.html
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長い文章だけど次の2点が興味深い。
> 家電や自動車などの耐久消費財が、日本の「輸出全体」に占める割合は、わずかに14.42%だ。そもそも日本の輸出依存度が約11.5%に過ぎないため、「耐久消費財の輸出対GDP比率」は、1.652%ということになる(数値はいずれも2009年)。
> 「何ということか! 日本のGDPにおける第1次産業の割合1.5%を、耐久消費財の輸出の割合(1.652%)が上回っている。その差が対GDP比で0.152%もあるのだから、日本はTPPに参加すべきだ」
>という話にでもなるのだろうか。
>現在のアメリカの関税は乗用車が2.5%、家電は5%に過ぎない。TPP参加で関税が撤廃されたとしても、ウォンが対日本円で5%下げるか、あるいは日本円が対ウォンで5%上がってしまうと、元の木阿弥である。韓国ウォンは変動幅が大きい通貨であるため、日本がTPPに参加した直後に「ウォンが対日本円で5%下落」という事態は、普通に起こりえるのである。
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http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_89483_464545_148
自動車・家電輸出がそんなに重要か
この産業を救うのは「適切なデフレ対策」しかない
三橋 貴明 【プロフィール】
予めお断りしておくが、筆者は国内の「誰か」(特定産業や企業など)を「悪者化」し、別の産業や国民が「得をしよう」などという発想について、決して健全だとは思わない。何しろ、国民経済とは「つながっている」のである。特定産業や企業をことさらに叩いた結果、失業者が増え、国民経済全体の景気が悪化した結果、最終的には自分たちの産業がダメージを受けるケースが多々ある。
具体的な例を1つ書いておくと、メディア業界だ。日本のメディア業界は、ひたすら企業を叩き、政府を叩き、官僚を叩き、政党を叩き、業界を叩き、国内のデフレが継続する方向に、国民の危機感を煽り続けている。結果、現在は大手新聞社やテレビ局の業績が悪化し、自分たちの職や給与が危なくなってきているわけである。
当たり前の話を1つ書いておくと、メディア企業に勤めている人々の給料を払っているのは、会社でもなければ社長でもない。購読者やスポンサー企業などの「顧客」である。日本のデフレ深刻化を煽り、経済全体が沈滞化した結果、結局はメディア企業に勤める日本人も損をするというわけである。
農水省と経産省、セクショナリズム丸出しの理由
さて、今回の「平成の開国」すなわちTPPに関する検討手法が問題だと思うのは、まさしく前述の「誰かを悪者化し、他者が得をしようとしている」を、政府自ら実践している点である。具体的に書くと、悪者化されているのが「農業」で、「得をしようとしている」のは自動車や家電などの大手輸出企業である。
何しろ、TPPに参加した場合、農林水産省が、
「全国で農産物の生産額が4兆1000億円減る」
と試算し、悲鳴を上げている。
同時に、経済産業省がTPPに参加しない場合、
「自動車、電気電子、機械産業の3業種について、2020年にGDP換算10.5兆円の減少となり、実質GDPを1.53%押し下げる」
と、日本国民の危機感を煽る数値を掲げているわけである。
農林水産省と経産省が、まさしくセクショナリズム丸出しで「参加するべき!」「いや、参加するべきではない!」とやっている以上、TPPに参加した場合、「農産業が損をし、家電や自動車などの輸出産業が得をする」と考えて構わないだろう。
「車が来るなんて想定外でした」とでも言うのか
それでは、農産業にも輸出産業にも従事していない、多数派の日本国民にとって、TPP参加はどのような影響を与えるのか。実は、現時点では「不明」なままである。TPP推進派にしても、せいぜい
「国民生活や日本の諸制度に影響を与えるような、大幅な完全自由化は、TPPでは想定していない」
などと、アメリカの戦略を無視した説明をする程度だ。
要するに、農産業や輸出産業への影響以外に、例えばアメリカが「どこまでの自由化を望んでいるのか」などについては不明、というのが現状なのだ。無論、アメリカがサービスや官需について完全自由化(非関税障壁の撤廃を含む)を要求してきた場合、日本側が「NO!」と言うことはできる。とはいえ、実際には他国よりも関税が低いにも関わらず、国際会議の場で首相がわざわざ「我が国は開国いたします」などと発言し、自虐的な態度で交渉に臨む日本政府が、アメリカ相手に強硬姿勢を貫けるとは思えない。
日本が「NO!」と言った日には、
「貴国の総理大臣が『平成の開国を致します』と言ったじゃないか。つまり、日本は国を開いていないということだろう」
などと反論されるのが関の山である。
いずれにしても、農産業と輸出産業以外への影響がほとんど不明な時点で、「平成の開国です!」などとスローガン先行で話を進めるのは、全くもっていただけない。まるで、目隠しをしたまま交差点を渡ろうとするようなものである。
日本が「医療や金融、官需まで含めた完全自由化」という「車」にひかれた後に、
「ああ、ごめんなさい。車が来るなんて想定外でした」
などと、TPP推進派に言われた日には、日本国民としては目も当てられない。
日本の輸出依存度は約11.5%しかない
さて、繰り返しになるが、筆者は同じ日本国民でありながら「誰かを悪者にする」という発想が嫌いである。ところが、現在の民主党は、本当にこの種の「誰かを悪者にする」政治手法が大好きである。
何しろ、TPP推進派の前原誠司外相自ら、昨年10月19日に以下の発言をしているのだ。
「日本の国内総生産(GDP)における第1次産業の割合は1.5%だ。1.5%を守るために98.5%のかなりの部分が犠牲になっているのではないか」
見事なまでな、農業などの第1次産業を悪者化している発言だ。
ちなみに、この種の「他者を悪者化する手法」は、伝統的に共産独裁国が得意としている。かつてのソ連の独裁者スターリンは、政敵に「トロツキスト」とレッテルを張り、弾圧を繰り返した。中国の毛沢東も「右派分子」「走資派」などのレッテルを用い、他者を悪者化することで自らの権力を強めていったわけである。
それはともかく、前原外相が「数値データ」を用いてTPPを推進しようというのであれば、筆者としても以下のデータを出さないわけにはいかない。すなわち、日本のTPP参加により「得をする」側である輸出産業とGDPの比較である。
そもそも、多くの日本国民が誤解しているが、日本の輸出依存度(=財の輸出額÷名目GDP)は約11.5%(2009年)と、決して高くない。というよりも、むしろ低い。主要国の中で、日本よりも輸出依存度が「低い」のは、アメリカとブラジルだけである。
GDP比輸出、乗用車は1.23%、家電は0.021%
さらに、日本の輸出の主力は「資本財」であり、国民の多くが「主力輸出品」と思い込んでいる自動車やテレビなどの耐久消費財ではない。日本の輸出の半分以上(51.81%)は消費財ではなく、企業が購入する資本財なのだ。さらに、日本からの工業用原料の輸出も、輸出全体の25.5%を占めている。一般人が工業用原料を購入するケースはないだろうから、日本の輸出の77%以上は、消費者ではなく「企業」が購入する財なのである。
家電や自動車などの耐久消費財が、日本の「輸出全体」に占める割合は、わずかに14.42%だ。そもそも日本の輸出依存度が約11.5%に過ぎないため、「耐久消費財の輸出対GDP比率」は、1.652%ということになる(数値はいずれも2009年)。
「何ということか! 日本のGDPにおける第1次産業の割合1.5%を、耐久消費財の輸出の割合(1.652%)が上回っている。その差が対GDP比で0.152%もあるのだから、日本はTPPに参加すべきだ」
という話にでもなるのだろうか。
皮肉はともかく、TPPでネガティブな影響を受けそうな第1次産業の対GDP比を示し「TPPを推進するべきだ」と主張するならば、ポジティブな影響を受ける耐久消費財の輸出対GDP比も出さなければ、アンフェアというものだろう。
ちなみに、乗用車(1.23%)と家電(0.021%)の輸出総額をGDPと比べると、1.251%になる。少なくとも、対GDP比で1.251%の自動車や家電の輸出については、TPPに参加することで、アメリカの関税撤廃というベネフィットを得るわけだ。
もっとも、アメリカの関税は家電(テレビなど)について5%、乗用車は2.5%に過ぎない。わずか数パーセントの関税撤廃という恩恵を、対GDP比で1%強の輸出産業が獲得するために、日本国民は「目を閉じたまま、交差点を渡る」という、チャレンジをしなければならないのだろうか。
とはいえ、筆者は別に耐久消費財の輸出メーカーを「悪者化」した上で、日本はTPPに参加するべきではない、と言いたいわけではない。日本のGDPの2倍にもなる「世界最大の需要」たるアメリカの個人消費市場において、日系企業が勝てなくなっている現実は、これはこれで重要な問題である。筆者は単に、TPPに参加せずとも、日本の輸出産業の苦境を救う「真っ当な手段」がほかにあると言いたいだけだ。
日本はアンフェアな戦いを強いられている
そもそも、現在の日本の家電企業や自動車企業が「世界最大の需要」たるアメリカ市場で苦戦しているのは、韓国企業の攻勢を受けているためである。何しろ、韓国は2008年の危機の際にウォンが暴落し、その後は「通貨安を利用し、グローバル市場で勝つ」ことを、成長戦略の基本に置いた。
韓国の危機が深刻化する前の2007年、韓国ウォンの対日本円レートは「1円=7ウォン」であった。それが2008年の危機により、一時は「1円=16ウォン」にまで、韓国ウォンの価値が暴落したのである。現在に至っても、韓国ウォンの対円レートは「1円=13ウォン」前後で推移しており、日本企業を苦しめている。
サムスン電子やLG電子、それに現代自動車にしてみれば、アメリカ市場において対日本企業の「半額セール」を常時実施しているようなものなのだ。この「ハンディ」は、デフレで収益が上がりにくい日系企業にとっては、あまりにも過酷である。TPP参加により「せめてアメリカ市場における関税だけでも撤廃して欲しい」と考える日系企業の気持ちは、痛いほど分かる。
ちなみに、日系自動車企業のアメリカにおける現地生産の比率は、すでに6割を超えており、現代自動車の攻勢を何とか食い止めている。とはいえ、現地化が進んでいない日系家電企業は、まさしく惨憺たる状況になっているのである。また、アメリカで健闘している日系自動車企業にしても、現地生産が少ない欧州市場においては、現代自動車の躍進を抑えることができていない。2008年のウォン暴落以降、日系企業はグローバル市場において、為替レート的にアンフェアな戦いを強いられているのである。
とはいえ、先にも書いたように、現在のアメリカの関税は乗用車が2.5%、家電は5%に過ぎない。TPP参加で関税が撤廃されたとしても、ウォンが対日本円で5%下げるか、あるいは日本円が対ウォンで5%上がってしまうと、元の木阿弥である。韓国ウォンは変動幅が大きい通貨であるため、日本がTPPに参加した直後に「ウォンが対日本円で5%下落」という事態は、普通に起こりえるのである。
すなわち、日本の輸出企業が通貨安を韓国企業の攻勢に苦しむという構図は、TPP参加では解決できない可能性があるのだ。
答えは明白、デフレから脱却すればいい
それでは、どうすればいいのだろうか。実は、答えは明々白々だ。日本がデフレから脱却すればいいのである。
そもそも、日本の家電企業や自動車企業が、アメリカ市場ばかりを意識しなければならないのは、国内のデフレ不況が深刻化しているためである。デフレ下で物価が下がり続けている環境下において、過当競争を繰り広げなければならないのだ。日本企業が海外にばかり目を向けるようになっても、致し方がない話ではある。
しかも、デフレにより日本の実質金利(=名目金利−インフレ率)が高くなっており、金融市場で日本円が好まれる傾向が続いている。すなわち、円高が継続しているわけだ。現在の日本は「デフレで円高」なのではない。「デフレゆえに円高」なのである。加えて、アメリカが量的緩和第2弾(QE2)として、ドルの供給量を増やしている以上、日本円が高騰し続ける状況は終わりそうにない。
さらに言えば、日本でやたらと「国の借金(=政府の負債)」増大が問題視されるのも、デフレが続いているためだ。デフレ下では物価が下がり、「お金の価値」が上がり続けてしまう。すなわち「借金の実質的な価値」も高まっていってしまうのである。
この環境下において、日本が「適切なデフレ対策」を実施した場合、果たしてどうなるだろうか。「適切なデフレ対策」とは言っても、別に難しいことをしろと言っているわけではない。現在のアメリカが実施しているデフレ対策を、そのまま、まねすればいいだけの話だ。
バーナンキ・米FRB議長の提案
具体的には、まずはオバマ大統領の一般教書演説にもあった「インフラストラクチャーのメンテナンスなど、公共投資の拡大」だ。さらに、昨年12月に、やはりオバマ大統領が延長を決断した「大型減税」を日本でも実施する。そして、現在もFRBが継続している、大規模量的緩和である。
ちなみに、現FRB議長のベン・バーナンキ氏は、2003年に「デフレ脱却策」として、日本に以下のソリューションを提案する論文を公表した。
Remarks by Governor Ben S. Bernanke
Before the Japan Society of Monetary Economics, Tokyo, Japan
May 31, 2003
Some Thoughts on Monetary Policy in Japan
『(前略)Finally, and most important, I will consider one possible strategy for ending the deflation in Japan: explicit, though temporary, cooperation between the monetary and the fiscal authorities. (後略)』
日本語訳:
最終的に、あるいは最も重要なこととして、わたしは日本のデフレを終わらせるための1つの可能な戦略について考えたい。すなわち、一時的な通貨当局と財政当局の明確な協力である。
上記論文の中で、バーナンキ氏は日本政府に対し、デフレ脱却のために、 「一時的に通貨当局(日銀)と財政当局(日本政府)が明確に協力する必要がある。具体的には、日銀が国債の買取枠を増やし、同時に政府が財政出動と減税を行う必要がある」 と述べている。
実は、現在のアメリカが実施している「デフレ対策」は、2003年時点でバーナンキFRB議長が日本に提案したことを、そのまま実行しているに過ぎないのだ。
日本政府がアメリカ同様、適切なデフレ対策を実施すると、以下の効果が見込める。
◆国内経済の成長路線への復帰
◆円安
◆増収と名目GDP成長による財政健全化
日本がデフレから脱却し、国内経済の成長率が高まれば、家電企業などがアメリカ市場ばかりを意識しなくても済むようになる。加えて、実質金利の低下と量的緩和により、日本円の為替レートが下がっていけば、TPP参加以上に韓国企業に対する競争力を獲得することができる可能性がある。
加えて、増収と名目GDPの成長により、「国の借金(政府の負債)対GDP比率」も改善していく。すなわち、財政健全化の達成だ。
まさに、一石三鳥なのである。
ところが、現政府のやろうとしていることといえば、消費税増税などの緊縮財政による、総需要の抑制だ。すなわち「デフレを深刻化させる」政策ばかりなのである。
加えて、TPP参加を検討するなどと言い出すわけであるから、呆然としてしまう。何しろ、TPPなどの自由貿易とは「インフレ対策」であり、デフレの国においては状況を悪化させる施策なのだ。
次回は「TPPはインフレ対策」というテーマで解説したい。
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