http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/150.html
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確かに500万人と言っていたが、
やはりそう雇用を作りだすのは簡単ではない
日本の民主党のマニフェストと同じで
理想と現実のギャップは大きい
http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/yamamoto/09/04.shtml
山本隆三の『市場が解く? 地球温暖化』
漂流する「グリーンニューディール」米国の雇用対策から日本が学ぶこと
2011年2月17日(木)公開
環境投資から輸出振興へ、変わる米国の軸足
「環境分野への投資による雇用創出」から、「輸出振興による雇用創出」へと、米オバマ大統領の軸足が移っているようだ。1月25日、オバマ大統領は1年間の施政方針を上下両院に表明する 一般教書演説 を行った。環境・エネルギー政策に関しては、2035年までに発電の80%を「クリーンエネルギー」で賄う目標と、バイオ燃料により石油への依存度を下 げ、さらに2015年までに100万台の電気自動車を導入する目標を述べたが、昨年の演説では触れた気候変動に関する法案についての言及はなかった。
さらに、クリーンエネルギー技術への投資とそれが作り出す雇用については言及があったものの、投資額と 雇用に関して具体的な数字が語られることはなかった。環境分野では具体的な話として、ミシガン州で小規模の屋根材の会社を経営している兄弟が経営難に陥っ た後、政府からローンを得て太陽光発電用の屋根材を全国で販売するまでになった話を紹介したのみであった。
雇用については、昨年の一般教書演説では、「5年間で輸出を倍にし、それにより200万人の雇用を作り 出す」としていたが、今年の演説では「2014年までに輸出を倍にする目標」について触れたものの、雇用については「中国、インドとの貿易協定で25万 人、韓国との貿易協定で7万人の雇用が創出された」と述べたのみであった。
オバマ大統領は、「環境分野に投資することで経済を回復させ、雇用を創出する」と、大統領就任前から述 べていた。大統領が「グリーン経済」と呼び、マスコミが「グリーンニューディール」と呼んだ政策である。2008年6月にミシガン州フリントで行われた演 説、あるいは2008年10月に行われた共和党のマケイン候補との 討論会 では、「今後10年間で1500億ドルをクリーンエネルギー分野に投資し、今後20年間で500万人の雇用を作りだす」と述べていた。
いまだ再生可能エネルギーを中心としたクリーンエネルギー分野へ投資し、雇用を創出すると依然語ってはいる。しかし、かつての500万人という具体的な雇用増の数字が述べられることはなくなった。
代わりに、中国を中心とした新興国市場への輸出による雇用創出が語られるようになった。米国政府は中国 政府などとの間で環境・エネルギー分野を中心とした二国間の協力に関する協定を締結したが、二国間協定をテコに環境・エネルギー分野での米国製品と技術の 輸出増をねらっているとも思われる。
今年の一般教書演説を聞くと、クリーンエネルギーに化石燃料も加えることにより、結局は、米国が得意と する化石燃料関連設備と技術で米国内と中国を初めとする新興国市場を開拓し、雇用を創出する政策にさらに変わってきているようだ。オバマ政権の発足当時に 打ち出した再生可能エネルギーへの投資では米国内の雇用を創出できなかったためだろう。化石燃料のクリーンな活用と海外市場が、米国の環境・エネルギー政 策の新たな中心になるのだろうか。
米国内と輸出市場に関するオバマ政権の環境・エネルギー政策の現状を確認したうえで、日本が米国の政策から学ぶべきことについて考えてみたい。
クリーンエネルギー政策は、化石燃料政策に
オバマ大統領就任時のエネルギー政策では、非石油系の低炭素燃料の導入を促進するために低炭素燃料基準 (Low-Carbon Fuel Standard - LCFS)を導入するとし、2012年までに全米の発電量の10%を太陽光、風力、地熱などの持続可能なエネルギーで賄うとしていた。
今年の一般教書演説では、2035年までにクリーンエネルギーにより発電量の80%を供給するとした が、クリーンエネルギーとして、風力、太陽光(熱)、原子力、クリーンコール、天然ガスが挙げられている。「クリーンコール」技術としては石炭の改質技術 などが挙げられるが、ゼネラル・エレクトリック(GE)が得意とするIGCC(石炭ガス化複合発電)などが想定されているものと思われる。
米国の2009年の総発電量3兆9530億kWhの電源別構成比は次の表-1のとおりだ。
■表-1米国の電源別発電シェア
電源 構成比(%)
石炭 44.5
天然ガス 23.3
石油 1
原子力 20.2
水力 6.8
風力 1.9
木材バイオマス 0.9
ゴミ、ランドフィル由来のバイオマス 0.5
地熱 0.4
太陽光・熱 0.02
その他 0.6
出所/米エネルギー省の資料
米国の発電の主力は依然として安価な国内炭を利用する石炭火力である。最近では風力発電、太陽熱・太陽 光発電が年率数十%の伸びを示しているものの、依然としてその比率は小さい。2010年に風力と太陽光・熱発電事業のために連邦政府は50億ドルの補助金 を投入したが、補助金の多くが中国、インドの企業からの設備購入に使われたのは、本コラム「 中国企業を助けた欧米の環境政策、新興国が追従できない技術を強化せよ 」で述べたとおりである。残念ながら、米国の雇用増への貢献は大きくなかった。
風力、太陽光・熱などの再生可能エネルギーを導入するには、米国のぜい弱な送電線の整備がまず必要にな る。風任せ、太陽任せの発電のために発電量が不安定である再生可能エネルギー導入時の大きな弱点だ。送電線整備の投資がまず必要とされる再生可能エネル ギーの導入は簡単ではない。
しかし、クリーンエネルギーとして原子力、天然ガス、クリーンコールも含まれたことから、2035年の 目標達成はかなり容易とみられる。老朽化が進む石炭火力発電所の設備をIGCCあるいは天然ガス発電設備で置き換えれば、クリーンエネルギーの目標達成に 貢献することになる。
風力、太陽光・熱主体であったグリーン電力の対象を米国企業が得意とするIGCC、天然ガスプラントな どに広げることにより、米国企業の支援に乗り出したとも思われる。今後、米国の雇用増に結びつく可能性が高いと思われるが、結局、化石燃料に頼って雇用を 増やす政策と言える。
中国市場をねらう米政府と企業
一般教書演説の前の週、中国の胡錦濤国家主席が米国を訪問した。米中共同会見のとき、オバマ大統領が米 国製品を売り込む姿が日本のテレビニュースでも報道された。米国政府と企業は一体となって、中国を中心とする新興国に米国製品・技術を売り込み、米国内の 雇用増に結びつけようとしているようだ。
米中間の貿易は米国の大幅な赤字だが、その内訳は次の表-2のとおりだ。
■表-2 米国、中国の主要輸出5品目とその金額及び総輸出額(単位:百万ドル)
米国の対中国輸出
農産物 13,762
電気・電子製品 11,133
化学品 10,643
輸送用機器 9,193
鉱物・金属 8,703
総合計 65,124
中国の対米輸出
電気・電子製品 110,793
その他製品 49,892
繊維・アパレル 35,083
機械 25,996
鉱物・金属 19,146
総合計 295,545
出所/米商務省の資料
米国の輸出品目を具体的にみると、大豆が最大の品目で92億ドル、次が航空機で52億ドルを占めている。中国からの輸出品目はパソコンが229億ドル、携帯電話136億ドル、テレビ44億ドルなど電気製品の占める比率が大きい。
米国からは付加価値の高い航空機、発電用設備などの輸出シェアがある程度あるものの、農産物、金属スク ラップなどの輸出額がかなり大きい。米国政府は付加価値の大きい電気製品、機械などの対中国輸出を増加させ、貿易赤字額を縮小したいに違いない。中国では 今後エネルギー・環境分野での取り組みが大きく加速する一方、電力、交通網などのインフラも整備されることになるが、米国はこの分野での輸出を増加させた いと考えているだろう。
具体的には、省エネ住宅、IGCCなどの発電設備、電気自動車、高能率の建設機械、石炭利用関連技術な どが米国からの輸出対象品目として考えられる。米国政府は、米国からの設備と技術の輸出もねらい、中国政府との間でさまざまなエネルギー・環境関係の分野 で二国間協定を締結している(米国エネルギー省の最新のレポート参照)。
中国市場向けの輸出を米国内での投資と雇用増に結び付けたい米国政府の意向は、1月19日にホワイトハ ウスで開催されたオバマ大統領と胡錦濤国家主席の会談に米民間企業14社の首脳が同席したことでも明らかだ。1月21日に新たに設置された雇用と競争力に 関する諮問会議の議長に任命されたGEのイメルト最高経営責任者(CEO)をはじめ、ボーイング、インテル、モトローラ、ゴールドマンサックスなどの CEOが出席した。
また、胡錦濤国家主席の訪米中、米国企業が中国向けに450億ドルの輸出を成約し、それによって23万 5000人の雇用が創出されたと米国政府は発表した。ボーイングの200機の航空機をはじめ、GE、キャタピラ、ハネウエルなど米国を代表する企業が成約 したと発表されたが、多くの成約は環境の新分野とは関係なく、旧来の産業分野に関係するものだ。
環境分野で米国から中国に輸出可能な技術と製品は、結局GEのIGCCやタービンに加え、CCS(二酸 化炭素回収貯留)など化石燃料に関連する技術が中心になるとみられる。オバマ大統領はグリーン経済で雇用を作り出すとしていたが、風力、太陽電池設備など の新分野では中国を初めとする新興国企業がシェアを伸ばしており、米国企業は輸出市場でも化石燃料関連分野を中心に開拓せざるを得ないように思われる。
新たに雇用と競争力に関する諮問会議の議長に任命されたイメルトCEOのGEは2010年の第4四半期の収益が51%増加したと発表したが、そのGEが米国内の雇用を削減することにより収益を上げているのは皮肉と言うしかない。
■表-3 GEの米国内と米国外の従業員数(単位:1000人)
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
米国内 161 155 155 152 134
米国外 155 164 172 171 154
出所/GE
米国の政策の日本への教訓
オバマ政権は、グリーン経済による500万人の雇用増を打ち出し、再生可能エネルギー導入支援の政策を打ち出したものの、今のところ米国内では再生可能エネルギーに関する産業は大きく育ってはいない。
結局、オバマ政権は米国企業が得意としている化石燃料関連技術を中心に、国内の環境政策を組み直し、産業振興を図ると同時に、中国などの新興国市場にも、やはり化石燃料関連技術と設備を売り込むことをねらっているようだ。
新興国企業でも簡単に製造できる設備、あるいは簡単に模倣できる技術では、世界市場で競争することは難しく、自国の雇用に結び付かないことを、過去2年で米国がとった政策の結果が示しているように思われる。
日本は、米国と異なり生産人口が過去15年間減少している。人口増が続く米国では市場の伸びが期待でき るが、日本市場では大きな伸びは期待できない。数年後には人口減に加え世帯数の減少も始まり、日本市場の縮小は加速化する可能性がある。国内市場が成長す る米国とは異なる有効な政策を打ち出さなければ、日本企業は世界での地位を低下させることになるだろう。
米国政府が、米国企業が得意とする化石燃料関連技術の支援に乗り出しているように、日本企業が得意とす る高能率石炭火力、原子力発電技術、製鉄技術などで新興国市場の開拓を続ける一方、最貧国に対しては農業の生産性改善のための肥料、農業機械などの提供を 通じて温暖化対策につながる支援を行い、日本の成長に結び付ける必要があるだろう。
大きな成長が期待できない国内市場では、格差の拡大につながるが成長にはあまり寄与しない政策を見直 し、日本企業が持つ技術を伸ばすための補助金政策を主体にする必要があるのではないだろうか。海外市場を開拓する日本企業を、新興国との間の二国間の温暖 化に関する協定で支援する政策も考える必要がある。
山本 隆三 氏 (やまもと りゅうぞう)富士常葉大学 総合経営学部 教授
1951年香川県生まれ。京都大学卒、住友商事入社。石炭部副部長、地球環境部長などを経て、2008 年、プール学院大学国際文化学部教授に。2010年4月から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、独立行政法人 産業技術総合研究所「ベンチャー評価委員会」、21世紀政策研究所「ポスト京都議定書プロジェクト」などの委員も歴任。現在、地球環境産業技術研究機構 (RITE)のSDシナリオワーキンググループメンバーを務めるほか、2010年6月から、経済産業省の産業構造審議会環境部会 地球環境小委員会 政策手法ワーキンググループの委員も務める。
主な著書は『温暖化対策と経済成長の制度設計』(共著、頸草書房)、『経済学は温暖化を解決できる か』(平凡社)のほか多数。また、最近の論文に「温暖化問題解決のための石炭と日本の役割」(資源・素材学会誌2009年12月号)、論考に「経済的手法 は温暖化を解決できるか」(エネルギーレビュー2010年4月号)「投機の懸念強める温室効果ガス排出権取引」(毎日新聞「私の主張」2010年3月4 日)など。
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