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国債集中投資の愚  増税分を飲み込む歳出増 「格付け会社を信じるな」は本当か 
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/139.html
投稿者 tea 日時 2011 年 2 月 18 日 11:07:43: 1W1IXELjjF6i2
 

日本経済は衰退しつつあるのに、社会保障コストの自然増などで財政赤字はGDP比年10%を超えて増えつつある
そうしたデフレ圧力が投資を減らし、スパイラル的に日本経済衰退を加速する

さらに資源枯渇や異常気象による食糧増産の限界を考えると、何もなくても実質通貨価値は世界的に低下していくことが予想される。

それにもかかわらず、これまでのようなリスク回避での円上昇が今後も続き、日本国債の実質価値(未来の実質購買力)が未来永劫、上昇すると考えるのは、明らかにリスクが高すぎるだろう。

ポジショントークに従う必要はないが、せいぜい円金融資産は資産の3割程度に抑えておくのが無難だと思うし、実際に、邦銀の資産の分散化は規制もあって否応なしに進んでいる。

最終的には買い手は日銀のみということになり、物価安定を使命とするならば、国債購入にも限界がでてくる。

その前に富裕層なら自分の資産をどうするか、そして現役層なら長期的な財政収支をどうコントロールすべきかを、きちんと考えておいた方がいいだろう。

http://diamond.jp/articles/-/11177
【第5回】 2011年2月18日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
国債集中投資の愚――国民の資産はなぜ分散投資されなければならないのか
 民主党政権が発足した後、公的年金の運用方針について、長妻厚生労働大臣と原口総務大臣(いずれも当時)の間で大きな主張の隔たりがあったことは 記憶に新しい。長妻氏は国債中心の超保守的な運用を主張したのに対し、原口氏は、寧ろ運用先を多様化し、新興国など海外を含む成長分野への投資を入れるよ う主張していたのである。公的年金は国民の金融資産の代表的な受け皿であり、現在も127兆円もの残高を持つ。公的年金を一つの例にしながら、国民の資産 の運用のあり方を考えてみたい。
「国債100%」の運用は本当に保守的なのか?
 長妻氏は、「公的年金の積立金は国民から運用していいと言われて預かったものではない」として、国債100%で運用している米国のSocial Securityに倣って「保守的」に運用する方針を明確にしていた。しかし、そもそも「国債100%」の運用というのは本当に保守的なのだろうか?以下 に簡単な例で検証してみたい。
 下の表1は、現在公的年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がその前提とする「国内債券」・「国内株式」のリスク(標準 偏差)・リターン(期待収益率)プロフィールと、海外PE(プライベート・エクイティ)のデータを用いて推定した「国内PE」のリスク・リターンプロ フィールを並べたものである。
 様々な制約の中での推定値なので、このリスク・リターンプロフィールが絶対正しいと言い切れるわけではないが、その「傾向値」が正しいことは合理的に推測され、結論も変わらないと思われることから、ここではそれを用いることとする。
【表1】

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次のページ>>国内債券と国内株式だけの世界であれば、長妻氏の主張もありうる
さて、現在のGPIFの基本ポートフォリオでは、国内債券に67%を配分することとなっている。下の表2では、それを前提にリスクとリターンの変化 を考えてみる。ここで、単純化のために残り33%を国内株式に配分したとすると、そのポートフォリオの期待リターンは3.59%となる。国内債券100% で運用した場合の期待リターンが3%であるので、リターンの向上は期待できる。
【表2】
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 しかし、その一方で、リスク(標準偏差)は、国内債券100%の運用の場合の5.42%が8.88%にまで上昇してしまう。そして、リスク対比リ ターンを測る最も簡易な手法であるシャープレシオで見ても、国内債券67%・株式33%のポートフォリオが0.1794であるのに対し、国内債券100% のポートフォリオは0.1845である。
 この指標が高いほどリスク対比リターンが優れているので、国内債券100%の運用に軍配が上がる。つまり、国内債券と国内株式だけの世界であれ ば、長妻氏の言うように、国内債券100%にしてしまった方がリスクも低く、リスク対比リターンも良好ということもあり得るのだ。
次のページ>>「国債100%の運用が最も安全」という神話は過去のもの
では、ここに代表的なオルタナティブ(代替投資)運用手法であるPEを加えるとどうなるだろうか。表3は、@表2のポートフォリオの中ので、国内債 券67%は不変のまま株式への配分を15%減らし、その分をPEに振り向けたケースと、A国内債券100%のポートフォリオの中の国内債券を15%減ら し、その分をPEに振り向けたケースの2つを試算してみたものである。
【表3】
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 結論から言うと、期待リターンが最も高かったのは、国内債券67%に株式・PEを交えたポートフォリオであり、国内債券85%とPE15%のポートフォリオがこれに次ぐ。
 また、ここで注目して戴きたいのは、リスクが最も低いのは、国内債券85%とPE15%のポートフォリオであったということである。そして、 シャープレシオから見ても、国内債券85%・PE15%のポートフォリオは他に比べて断然良好であり、これに国内債券・株式・PEのポートフォリオが続 く。
 すなわち、国内債券100%の運用は最も保守的とは言えないことはもちろん、リスク対比リターンも見劣りするという結論になる。PEなどリスク・リターンプロフィールが違う運用資産があることを前提とすると、「100%国債で運用すべき」という長妻氏の意見は明らかな誤りであることがわかる。ましてや、昨今の国債の大量発行の下、国債価格の標準偏差(リスク)が一層高まることが予想され、国債自体のリスクプロフィールは、先の前提値より悪化していくことが十分考えられ、「国債100%の運用が最も安全」という神話は、もはや過去のものである。
次のページ>>公的年金は何を目的に運用されるのか
 ちなみに、長妻氏が倣いたいという米国のSocial Securityは、税方式で集めた資金を(非市場性国債購入の形式を取って)国家予算に組み込んで使うという仕組みであって、もともと日本の現在の公的年金の仕組みとは異なるものである。
 株式やPEへの投資がないのは、「資本主義国家なのに、国がその予算で個別企業の株を買っていいのか」という議論があるからであって、「リスクがあるから」という理由ではない。
公的年金は何を目的に運用されるのか
 現在、日本の公的年金は、「賦課方式」であると説明されている。賦課方式とは、「現役世代が生み出す富の一定割合をそのときそのときの高齢者世代に再配分する仕組み」(厚生労働省)とされている。逆に言えば、自分が納めた保険料が運用されて、その元利が後で返ってくるという仕組み(積立方式)ではないのだ。もっと言えば、現役世代が高齢者世代に所得を再配分し続ける限り、積立金は理論的には不要なのだ。
 にもかかわらず、なぜ現在127兆円(09年度末)もの巨額の積立金が存在するのかという事情については、野口悠紀雄教授「未曾有の経済危機を読む」の第86回「積立方式で始まったはずの年金制度は、なぜ途中から賦課方式と説明されるようになったのか?」に詳しいが、要するに、年金制度開始当初は積立方式が想定されていたために、実際に給付が始まるまでの間に積立金が溜まっていったという過去の事情によるものであろう。
 その良し悪しは別にして、現在我が国の公的年金は、家計部門のネット金融資産の10%以上を預かる、そして、世界で最も巨額の資産運用をしている 機関投資家になってしまったのである。2001年度までは、このお金は、郵貯資金と共に資金運用部に預託され、「第二の予算」とも揶揄された財政投融資計 画が毎年国会の承認下で策定されていたのだ。その時代の公的年金の使われ方は、原資が保険料である点を除き、先述した米国のSocial Securityに近いと言ってもいいかもしれない。
 ただし、こうして財投が活用されていた時代の日本は、高度成長期にあった。国や企業が成長するために必要なインフラは山積しており、財投による高 速道路や新幹線の整備が果たした役割は大きかった。その結果として企業や家計は潤ったのであるから、言ってみれば、この投資は国民経済的にはROI(投資 収益率)が高いものであったと言ってよいだろう。
 しかし、高度成長期が終わり、財投で不要不急の橋や道路、ハコモノを作ってもROIは非常に悪く、成長に寄与しないことは明らかである。従って、財投改革が行なわれ、年金積立金が徐々に市場運用に回されるようになったのは正しい政策であった。
次のページ>>公的年金は賦課方式なのだから、短期的な運用の成否は給付水準には直接関係ない
 ところが、現在公的年金の資産配分は厚生労働省が定める基本ポートフォリオで67%が国内債券、11%が国内株式、8%が外国債券、9%が外国株 式と定められており、その枠を出ることはできない。先に、財投改革は国がROIの悪い支出をすることを防ぐ狙いがあることを述べたが、今の運用は、その3 分の2を国債購入の形で結局国に返しているだけである。そうして賄われた国債がROIの悪い国の支出となり、無駄なハコモノ投資が行なわれた結果が昨今の 低成長と国の過剰債務であることは明らかだ。
 では、年金積立金はどのように運用されるべきなのだろうか。既にリスク対比リターンの観点からは、国債偏重の投資が好ましくないことは説明した。それに加えて、高度成長期と違って、積立金が国に還流してROIの低い投資に回ることも回避すべきということも説明した。
 結論から言えば、賦課方式という公的年金の性格に鑑み、積立金は国民経済的に成長を促す政策に使われるべきである。誤解を恐れずに言えば、短期的な運用の是非ではなく、国民経済的にROIが高い使われ方をしなければならないのだ。なぜならば、公的年金は賦課方式なのだから、短期的な運用の成否は給付水準には直接関係ないからなのだ。
 別の言葉で言うならば、以前は財投が国民経済的に最も効率的な運用であり、それによる国富の増加が企業や家計を潤した結果、長期的に見れば年金財政も安定したのであるが、その財投に変わる国民経済的に効率的な運用は何かということなのだ。
 現に、年金給付には下方硬直性がある(給付水準の引き下げは困難)にもかかわらず、経済成長率・賃金上昇率が財政再計算の想定(各々1%・ 2.5%)より低いということは、現役世代からの保険料収入が想定を下回ることにより、将来の年金支払いに多大な困難を伴う(保険料率の極端な引き上げな どが必要となる)ことが予想されるのであるから、現に手許にある積立金は、長期的視野で経済の成長を促し、結果的に経済成長率や賃金が伸びるような方向に 使われるのが正しく、それが結局は年金制度を安定させることにもなるのだ。
次のページ>>PEへの投資は政策的見地から是非とも実現すべき では、現在の日本で、何が最も企業や経済の成長を促す政策なのだろうか。もはや国にはROIの高い投資はできない。現代においては、ROIが高い 投資とは、国際競争の中で常にROE10%台を掲げて戦っている企業に、成長や構造改革のために必要なリスクマネーを投下することなのだ。この役割は、銀 行にはできない。銀行の行動は、飽くまでも債権保全を基本とするのであって、企業にリスクを取らせて高成長を促すインセンティブは持っていない。寧ろ、リ スクを低くし、安定した収益を上げ、財務を傷めないような安全運行を促すのが銀行の基本的な仕事なのだ。
 そもそも銀行融資はリスクマネーではないし、銀行が企業にエクイティを出すことが禁止されていく方向であることは連載第3回で 述べた通りである。そしてまた、この役割は、公的年金が直接企業の株式を取ることでも達成できない。そもそも国に準ずる機関が民間企業の議決権を取ること の是非もあろうが、何よりもパッシブに株式を買ったとしても、直接的に企業経営を改善させる手助けはできないのだ(緊張感を与えるという効果は否定しな い)。
 結局のところ、公的年金が日本企業と経済の成長を目指して長期的スタンスで投資をするのであれば、日本のベンチャーキャピタルやバイアウトファン ドといったPEファンドにお金を入れ、それらPEファンド経由で構造改革や成長のために必要なリスクマネーを企業に投下していくことが求められるのだ。
 以上のように、公的年金は、そのリスク・リターンプロフィールの改善のためにも、そしてまた運用目的に照らしても、運用を多様化 すべきであり、特にPEへの投資は政策的見地から是非とも実現すべきである。(余談であるが、日本の成長を促すと言う投資目的からすれば、原口氏の主張す る新興国への投資などがそれに該当するかどうか、筆者は疑問に感じている)
 今回は家計部門の金融資産の受け皿の代表格である公的年金を例にしたが、ほぼ同じことは公的金融であるゆうちょ銀行やかんぽ生命、更には企業年金 にも当てはまることであるし、生損保などその他の機関投資家も、更に運用を多様化することが日本経済にとって望ましいことは言を俟たない。
 日本のPEファンドには長年のトラックレコードがないことや、モニタリングに手間とコストがかかるなど、PEでの運用を始めるに際しては幾つかの テクニカルな論点はあろうが、部分最適ばかり考えていたのでは全体最適にはならない。もっと長期的かつ戦略的に国益を考えた政策的な判断が求められている のではないだろうか。

http://diamond.jp/articles/-/11191?page=3
TOP経済・時事野口悠紀雄 人口減少の経済学【第18回】 2011年2月18日野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]
増税分を飲み込む歳出増!歳出構造の見直しをどう進めるか
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 前回示したように、消費税率を5%引き上げる程度の増税では、すぐに歳出増に飲み込まれてしまう。だから、歳出構造の見直しがどうしても必要である。
「歳出の見直しなしに、財政再建はない」とは、きまり文句のように言われることだ。しかし、どこに問題があるかは、必ずしも正確に把握されていない。多くの議論は、多分に感覚的なものだ。そこで、まず、問題の根本がどこにあるかを把握しておこう。
歳出伸び率は、税収伸び率より高い
 改めて言うまでもないことだが、増税というのは、歳入の「レベル」を引き上げることである。しかし、長期的に問題になるのは、歳出と歳入の「伸び 率」の差だ。ところが、現在の日本の財政は、歳出の伸び率が税収の伸び率より高いという問題を抱えている。具体的には、つぎのとおりである。
 2011年度一般会計歳出総額92兆4116億円のうち、国債費が21兆5491億円、社会保障関係費が28兆7079億円、地方交付税交付金等 が16兆7845億円を占めている。これ以外の歳出は、防衛費4兆7752億円、公共事業費4兆9743億円、文教及び科学振興費5兆5100億円などを 含めて25兆3701億円だ。
 ところで、日本経済の状況を考慮すれば、年率1%を大きく超える税収の伸び率を期待することは難しい。
 他方で、制度を大きく変えなければ、社会保障関係費は、これまで見てきたように高齢者の増加率にほぼ等しい率で増加する。それは、1%を超える。
 また、地方交付税交付金は、税収の一定率とされているので、制度を変えなければ、税率とほぼ等しい率で伸びる。
 国債費は、利子率が変わらなければ国債残高の増加率とほぼ等しい率で増加する(正確には、少し違う。これについては後述する)。ところが、ここ数 年の国債残高の増加率は、税収伸び率を遥かに超えている(2008年度末の546兆円から、11年度末の668兆円に増加)。将来の利子率がどのようにな るかを予測するのは難しいが、国債残高の増加が続いて国債消化に支障が生ずれば、上昇する可能性が高い。そうなれば、国債費の増加率もさらに高まる。
 このような構造があるので、税率引き上げ幅をいくら増やしても、増税直後には歳出と歳入のギャップが縮まっても、いずれは増税分が飲み込まれてしまうのである。
次のページ>>消費税の「目的税化」は際限のない負担増をもたらす恐れがある
「伸び率の差」という問題は、「社会保障と税の一体改革」の本質にかかわる問題を含んでいる。それは、「消費税の目的税化」という点と重大なかかわりがある。
 まず、「消費税の目的税化」というだけでは、何の意味もない空虚なスローガンであることに注意しよう。なぜなら、消費税収入の総額は、社会保障費 に対して遥かに少ないからである。2010年度予算では、一般会計歳入中の消費税収入は9.6兆円であり、地方交付税を除くと6.8兆円に過ぎない。これ に対して、基礎年金、老人医療、介護の3経費の合計は16.6兆円である。
 したがって、「税による増収分は3経費に充てている」という説明は、消費税増税額のうち地方交付税に充てる部分が10兆円を超えるまでは、何ら特 別の措置を講じることなく、達成できる。つまり、「消費税の目的税化」というスローガンは、予算編成に何の違いももたらさないのである。その意味で、これ は空虚なスローガンだ。
 違いが生じるのは、このスローガンが「3経費の全額、またはかなりの部分は、消費税によって賄われるべきである」と解釈される場合だ。その場合には、まず、消費税増税額が10兆円になるまでは、増税が正当化されることになる。
 そして3経費の合計が消費税だけで賄われることとなった後の時点では、「伸び率の差」が重要な意味を持つことになる。なぜなら、3経費の伸び率 は、消費税の伸び率よりは高いからだ。したがって、消費税の自動的な増税が行なわれることとなり、際限のない負担増がもたらされる恐れがある。これは、 「租税法律主義」という財政民主主義の基幹を揺るがしかねない重大な問題だ。
 この点については、これまでも何度も述べた(例えば、『日本を破滅から救うための経済学』第5章の2)。しかし、きわめて重要な問題なので、ここで改めて指摘しておきたい。
事業仕分けでは無駄の排除はできない
 歳出削減の必要性はつねに言われていた。そして、無駄の排除が必要と叫ばれた。
 このために、「事業仕分け作業」が行われ、関心が集まった。しかし、重要なのは、「仕分けの場に何を持ち出すか」なのだ。実際に選定を行なったの は、財務省主計局だ。つまり、これまで行なわれたことは、従来の予算編成作業から一歩も踏み出していない。単に、そのプロセスの一部を劇場化しただけであ る。
 とくに重要なのは、ここには、社会保障制度の見直しも、地方交付税制度の見直しも持ち出されなかったことだ。つまり、事業仕分けが対象とした経費は、最大限に拡大しても(一般会計歳出では)上記の25.3兆円である。
次のページ>>ほとんど進捗しない公務員の人件費削減
 ところが、民主党は、当初、16.8兆円の「無駄の排除」が可能だとしていた。これは、25.3兆円の約3分の2にあたる。
 このような大規模な削減が、容易に達成できるはずはない。実際、事業仕分けで削減された歳出額は、3000億円程度であった。
 16.8兆円の財源ねん出という目的は、もともと達成が不可能な夢想事だったとしか言いようがない。現在の日本の財政は、このような仕掛けで処理できる範囲を遥かに超えているのだ。
 もちろん、これは、「無駄の排除が必要ない」ということではない。無駄の排除は大変重要な課題だ。
 ただし、「無駄をどのように探し出すか」という方法を明確にしなければ、無意味なメッセージである。それなしでは、いくら「経費の削減」を叫んでも、建設的な議論にはならない。それは、他の対応手段を取らないことの言い訳にしかならないのだ。
ほとんど進捗しない公務員の人件費削減
 削減の対象としてしばしば言われるのは、公務員給与の削減である。自民党内閣時代の2005年12月に閣議決定された「行政改革の重要方針」では、2010年度までに、公務員を5%(およそ1万6600人)以上削減し、それによって総人件費を減らすという目標が掲げられた。【図表1】に示すのは、このときの資料である。しかし、成果を挙げずに、政権が交代した。

 民主党は、2009年衆議院選挙におけるマニフェストで、柱の一つとして「2013年度までの国家公務員総人件費2割削減」を掲げた。人事院勧告 制度見直しによる給与引き下げと、大幅な人員削減、退職手当の見直し、出先機関の地方移管などを組み合わせて、総人件費を削減しようというものだ。 2009年度の総人件費は5兆3195億円であったから、要削減額は1兆1000億円になる。
 しかし、実際の削減状況は、これには遥かに及ばない。10年度の総人件費は、1400億円減の5兆1795億円、11年度は1590億円減の5兆1605億円だ。09年度予算比では、約3%減にとどまっている。残り2年間で公約を達成するのは、ほぼ不可能な状況だ。
 民主党は、マニフェスト見直し作業を進める予定だが、「公務員給与2割削減」も修正対象になる可能性がある。
 なお、みんなの党は、「国家公務員10万人削減、給与2割カット」「国会議員は衆院300、参院100の計400に削減」を標榜している。


http://moneyzine.jp/article/detail/194150
日本経済に生じている問題にフォーカス!

「格付け会社を信じるな」は本当か 日本国債が市場から締め出されるリスク

第55回課長 今調査役

2011年02月16日 10:00

格付けの影響を理解しよう 

 1月27日、S&Pが日本国債の格付けをAAからAA−へ引き下げました。国債の格付けが引き下げられたにも関わらず、日本の金利は低下、円は上昇しました。格下げはどのような影響を与えるのでしょうか?

民間格付け会社が発行する安全基準

 格付けとは、民間の格付け会社が発行する債券の安全性の基準です。格付け会社として、グローバル基準では米系の3社(S&P、ムーディーズ、フィッチ)、日本では米系の3社に加えて日系の2社(R&I、JCR)が主に市場で参照されています。

 格付け会社は手数料を得て債券の安全性について審査を行い、AAA(一番安全)などの格付けを付与します。投資家や証券会社はその格付けを使用し、商品開発や投資を行っています。

格付けの使われ方

 民間会社の発行する「格付け」は、どのような使い方をされているのでしょうか?
まず一番目の使われ方は、いわゆる投資適格債券の「足切り」としての使われ方です。シティバンクやバークレイズキャピタル証券などが提供している債券インデックスでは、米系格付け会社によるBBB−という格付けが足切りとして設定されています。

 BBB−という足切りラインから格下げされた債券は、ジャンク債として取引され、一般的な債券市場から締め出されてしまいます。

 実際、ギリシャ国債は格下げにより、国債の債券市場より締め出された状態になっています。証券会社側も投資家側も格付けを足切りとして使っているため、格付けがある一定水準を下回った瞬間、事実上取引停止に陥ることがあります。


 次に、ポートフォリオのリスク管理としての使われ方です。銀行資産の債券ポートフォリオ、取引先の与信管理など様々です。その中でもとりわけ影響力の大きいのは、国際的に活動を行う銀行資産ポートフォリオに対するリスク管理規制、いわゆるBIS規制です。

  BIS規制では、金融機関に高格付けの債券または国債を始めとする政府系機関の債券を多く保有するよう求めています。国境をまたいで活動を行う金融機関が リスクを取りすぎて経営危機に陥るのを未然に防ぐのが本来の趣旨ですが、そのプロセスに格付けが大きな影響力を持っています。

 格下げは、格付けをリスク管理に使用しているポートフォリオの質の悪化を意味します。格下げされた会社の与信は絞られます。そしてその債券を保有していた銀行の債券ポートフォリオの質は劣化し、資本を傷めます。

サブプライム危機とは何だったか?

 サブプライム危機とは何だったか、格付け会社との関係を整理してみましょう。
2000年代、BIS規制のため金融機関は常に利回りと共に債券ポートフォリオの質を求められました。そこに登場したのが格付けはAAAでかつ高利回りのサブプライム証券です。(次ページへ続く)

金融機関、機関投資家はサブプライム証券を数百兆円の単位で買い込みました。何と言っても、高格付け、高利回りなので、この債券を買わない理由はありませんでした。

 米系格付け会社はこれらサブプライム証券にAAAの格付けを付与しました。理由は簡単で、その当時、米国は不動産神話に沸きかえっていたからです。大恐慌以来米国の不動産価格は一時期を除いて上昇し続けていました。

 日本でいう70年代から80年代後半の状況です。サブプライム証券の裏にあるサブプライム・ローンも延滞することなく返済されました。

「サ ブプライム証券は危ないのか」「不動産神話が崩壊したらどうする」などの議論は米国でも行われましたが、あくまでも小さなリスクシナリオの1つで、サブプ ライム証券のAAA格付けを否定するだけの、「統計的な裏付け材料」はありませんでした。この当時、サブプライム証券よりもさらに奇怪なCPDOというク レジット商品でさえ、同じ理由でAAAの格付けを付与されて販売されていました。

 当時の格付け会社のAAAという評価について、さまざまな意見が事後的に挙げられています。「格付け会社が証券会社と結託し、格付けを甘くした」と大きく報道もされました。

 その一面もありますが、それよりも何十年も続いた不動産神話が格付け会社だけでなく、米国全体に浸透していたことがAAA格付けの一番大きな要因であったと考えています。

 結果としてAAAの格付けは間違いだったと後で分かりましたが、あの当時それを間違いだと言える人も材料も世の中に存在しませんでした。

不動産神話が崩壊して何が起きたか?

 2006年後半より下落を開始した不動産価格は、2007年にサブプライム証券に影響を与えました。住宅価格の下落によりサブプライム・ローンの延滞率が急増したため、格付け会社は格付けを引き下げた、というより、正確に言えば格付けを見失いました。

  急増するサブプライム・ローン延滞に関するデータが全くなかったため、リスクの判定が出来なくなりました。その結果、数百兆円あったサブプライム証券価格 は紙屑同然へ暴落、格付けもAAAから一気に格下げされ、それらを保有していた金融機関の資本を毀損し、世界がひっくり返るくらいの影響を与えました。

 その後は、米国政府の不動産市場へのサポートなどもあり、サブプライム・ローンの延滞率が安定、格付け会社のサブプライム証券に関するリスク判定能力も復活、サブプライム証券の価格も回復しました。

格付け会社の評判は?

 格付け会社は、手数料ほしさに格付けを甘くしたとの非難を受け、営業部門と審査部門の分離、社債の格付けとサブプライム証券等証券化商品の格付けの分離など、さまざまな改善策をとってきました。

今回日本国債の格付けを引き下げたS&Pや、その他の格付け会社の評判はどうなっているのでしょうか?実は彼らが格付けを付与する社債、国債、証券化 商品の3種類の商品のうち、証券化商品の格付けは評判を落としましたが、前者2つの格付けはまだまだ信憑性が高いままです。S&Pは毎年日本の国 債についてコメントを発信し、その信頼を保ち続けています。格付けシステムは生きて存続しており、S&Pはその一部分として大きな地位を占めてい ます。

  ただ一つ注意すべき点は、格付け会社の経営姿勢です。サブプライム危機は、格付け会社の経営姿勢と格 付けを、より保守的なものに変えさせた可能性があります。日本は巨額の対外債権を保有する国であり、歴史上参考にできる事例がないため、今後の格付けの見 通しは極めて不透明ですが、従来より保守的に、早めに引き下げられる可能性があるため、その動向に注意が必要となります。

日本の格下げと今後のシナリオ

 日本の格下げが今後どのように進展していくかを考えてみましょう。
あまり報道されていませんが、政府機関、都道府県、電力会社などが、S&Pの格下げと同時に格下げされました。万が一格付け会社が、財政赤字と政治に焦点 を絞り、保守的に評価することで格付けを引き下げ続けることになれば、日本国債とこれら政府系機関は、間もなく国際金融市場から締め出されます。国債は国 内で消化出来たとしても、日本企業が海外と取引を行う際、ペナルティが科されるようになります。いわゆる「ジャパン・プレミアム」の再来です。

  日本国債を大量に保有する都銀も、ある時点で格下げされ国際競争能力を失うことになります。格付けというシステムの影響で、金融機関、政府、企業が国際金 融市場から排除され、ドルの調達のために海外から債権回収を始める必要に迫られます。大企業は格下げを避けるため、何らかの行動をとると考えられます。

 日本は世界一の債権国であり、日本国債の将来がどうなるかについて様々な意見があります。格付けというシステムは、そんな日本の国債を紙屑にし、世界経済に甚大な影響を与えるトリガーの一つだと考えています。

格下げを防ぎ財政再建を実行できる強い政府が必要

 一方足元では、日本円よりもドルやユーロなど他の通貨の方が明確なリスクを抱えているため、その結果として円高が進行しました。しかし、機軸通貨で格付け会社の属する米国、財政赤字削減の傷みに取り組むユーロと英国に比べ、日本の政治と財政赤字に対する理解と取り組みは極端に見劣りして見えます。

  国際金融市場で活動している国である限り、その番人である格付け会社の顔色を無視するのは得策ではありません。どこの政党や連立政権でもかまいません。格 下げを防ぎ、財政再建、税制改革などを含め、日本が少なくとも今後30年存続できるシステムを構築出来る政治体制を切望しています。

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コメント
 
01. 健奘 2011年2月18日 15:59:47: xbDm84QDmOFmc : FY4u2WPdes
シュンペーターの意味で、投資という言葉を使うなら、"国債投資"はないでしょうね。

成熟した運用と言うならば、世界中で、金融資産が2.5京とも、5京とも推定される中、全体としては、1%を超える運用は、非常に難しいですね。2.5京の1%で、250兆。

2000年以降、世界の金融資産総額は、2京から、3.5京ほど(2007年)、そして、2009年に、2.5京とかに、変動しているのですが、ほとんどは、投機による評価替えでしょう。

この間における、中国など新興国による資産増額への寄与は、一桁違います。

天然資源の高騰による寄与も、1桁違います。

全体としては、むしろ、日本の運用(世界の1割ほど、0.25京)が、世界的な観点では、妥当なくらいです。合衆国やヨーロッパの一部金融筋は、暴走していると見るほうが、妥当と思います。

合衆国のいくつかの州のデフォルト、ギリシャ、スペインのデフォルトの可能性は、暴走の結果ですかね。高金利を求めて債権を持つ方による暴走。


02. 2011年2月18日 16:46:41: FagTZnraQk
金融業者のポジショントークですね。公的年金積立金をうかつにPEなどに突っ込んではいけません。ごく少額ならわかるけどね。

03. 2011年2月18日 17:19:36: ibwFfuuFfU
結果としてAAAの格付けは間違いだったと後で分かりましたが、あの当時それを間違いだと言える人も材料も世の中に存在しませんでした
-----------------------------------------------------

もちろん呼吸するようにいけしゃあしゃあとウソをつきまくってるのである。格付け会社の自称秀才諸君がこんな簡単なことも分からなかった、と無実を主張するなら君たちはもう生きてる資格ないから木更津まで寒中水泳でもやってろよ。

あのな、何か重大な事態が発生した場合のリスク分散ができるのは、火事、交通事故のように散発的に発生するリスクだけで、地震、戦争、経済不況、恐慌のように
全員に同時に襲いかかるリスクについては、どんなにトランシェだとか聞き慣れない言葉で煙に巻こうが、リスク分散はできないのだよ。脊髄で思考しているんでない限り自明のことだ。住宅ローンの債務不履行は経済不況になればほぼ全員に悪影響を及ぼすからリスク分散はできない。それもサブプライムのように低所得者を対象にしてれば、これは100%焦げ付きを前提とした詐欺商売であることは中学生でも分かることだ。

こういう恥知らずの嘘つきが日本国債危ない危ない、言ってると日本国債がいかに安全な投資であるかを逆に裏付けてるだけだ。

格付け会社関係者、及び投資銀行、証券会社は上から下まで全員が詐欺師だと思って接することが当然のリスクマネジメントでR


04. 2011年2月18日 17:40:29: ibwFfuuFfU
ちょっと舌足らずだったので補足すると、要はつぶれたベアスターンズをはじめとして投資銀行は様々な住宅ローン債権を細かく刻んで組み合わせ直して、ガラガラポンをやったから、リスクは分散してる、したがって安全な金融商品だ、つう触れ込みでこういうインチキ債券を売り出したわけ。(信じられないことにこれを欧米の金融機関が大量に購入した)でもどんなにガラガラポンやっても住宅ローンの債務不履行は不況時には同時に、それも大量に発生するからリスク分散などありえないわけ。格付け会社がホントに低脳者だけ雇用したんでない限り、こんなことは自明のことなので、こんなクズ債券にAAA格付けしたのは100%詐欺の片棒担ぎでやった以外考えられない。

「結果としてAAAの格付けは間違いだったと後で分かりましたが、あの当時それを間違いだと言える人も材料も世の中に存在しませんでした」

ふざけるんじゃない。小生なんかは少なくとも6年前にたまたまベアスターンズのビジネスモデルを見た時に、この会社は間違いなく数年以内に破産すると確信したね。

全くこういう連中は口から屁をたれるようにウソをつくんだねえ。もういいからグアム島当たりまで寒中水泳やってろよ。


05. 2011年2月18日 19:34:57: nJF6kGWndY
>小生なんかは少なくとも6年前にたまたまベアスターンズのビジネスモデルを見た時に、この会社は間違いなく数年以内に破産すると確信したね。

大前氏もそうだし
私もそうだw
日本人は、皆バブル崩壊を経験しているからね

欧米でも予想していた人間はいた
ただし、誰もそれを真に受けなかったというわけだ

本来なら自業自得で潰せば良かったのだが
既得権層と癒着した政府・中銀は、連鎖倒産の恐怖で脅されると言いなりになってしまったわけだ

多分、今後の中国バブル崩壊や、日本の国債バブル崩壊でも、同じことが繰り返されるだろうw


06. 健奘 2011年2月18日 21:43:07: xbDm84QDmOFmc : FY4u2WPdes
> 今後の中国バブル崩壊や、日本の国債バブル崩壊でも、同じことが繰り返される

それで、投稿者さんは、次の姿は、どうあるのが望ましいとお考えです?

   −−−

"繰り返し"というのは、金融機関が、動乱の結果として、中央銀行から通貨を配ってもらうことになるのですが。

今までの考え方と仕組みで潰せば、恐慌でしょう。


07. 2011年2月18日 22:22:12: nJF6kGWndY
>"繰り返し"というのは、金融機関が、動乱の結果として、中央銀行から通貨を配ってもらうことになるのですが。今までの考え方と仕組みで潰せば、恐慌でしょう。

正しい突っ込みだ

不動産バブル崩壊の場合、過剰融資の金融機関は救済せず潰れるまま放置する
当然、連鎖倒産で厳しいデフレ不況になるが、政府は、失業者と貧困層にマネーを配るだけで金融機関も大企業も救済する必要はない
マネーゲームをしていた大企業は淘汰され、安値で買われるから
非効率な生産力が自然と縮小していき、デフレ不況は続かない


国債バブルの場合は、もっと、たちがもっと悪い。
本来は日銀は国債が暴落するに任せておけば、金利が急上昇し
国債保有者と金融機関が損をして、上と同じことになり、
激安になった国債をIMFなどの助けで安く買い戻せば影響は短期間で済む

ただこの場合、国の信用力が崩壊して、ギリシャのようになっている場合が多いから、
増税と過剰な社会保障をカットして大幅にリストラせざる得ないだろう
それも国の実力以上の非効率な財政支出を行ったツケということだ


しかし、政府・日銀は、これまでと同じように金融機関の破綻を引き延ばすために、国債を政府紙幣や日銀緩和で、さらにマネタイズしていこうとする可能性が高い。

その場合は、インフレ率を金利が下回るので、内外の投資家の信頼を失い、円が銀行から溢れでることで
激しく長期的なインフレによって、国民全体が大きな損失を被ることになる。


08. 2011年2月18日 22:36:00: nJF6kGWndY
結論として言えば、早目に重要な金融機関の資産内容は厳しい規制をかけて、単一資産の暴落による金融システムリスクを防ぐ必要がある

それが金融規制の強化ということであり、日本のメガバンクは大体、その方向で動いているし、
日銀も今の陣容であれば、個人的にはシステミックリスクはあまり心配していない

愚かな政治家と大衆が日本の最大のリスク要因だなw


09. 健奘 2011年2月18日 22:53:00: xbDm84QDmOFmc : FY4u2WPdes
返答、ありがとうございます。

> 政府・日銀は、これまでと同じように金融機関の破綻を引き延ばすために、
> 国債を政府紙幣や日銀緩和で、さらにマネタイズしていこうとする可能性が高い

↑は、ユーロでも、ドルでも、大差はなさそうです。

結局、望ましい姿と言うのは、金融資産の総額が、今よりかなり小さい、いわゆる実体経済の大きさに合うような規模になるしかない、というように読めますね。


10. 2011年2月18日 23:52:46: nJF6kGWndY
>望ましい姿と言うのは、金融資産の総額が、今よりかなり小さい、いわゆる実体経済の大きさに合うような規模になるしかない、というように読めますね。

経済は生き物だし、GDP比の金融資産(負債)に理想値があるとも思えないが

現状のように2倍以上に膨れ上がり、その借主の大部分が企業ではなく
国というのは、今後の日本の生産力や競争力、人口推定、財政状況見込み
などから考えると、かなり危険であると言わざるをえない。

特にその内訳が、現在世代の社会保障と投機の失敗(バブル崩壊)のツケである場合
莫大な借金返済を、将来世代から税金として強制的に徴収するというのは、将来世代の勤労意識やモラルに大きな悪影響を与えるだろう。

個人的には、将来世代ではなく我々現役世代と公務員、富裕層が、インフレや増税で負担し、少なくともプライマリーバランスは改善して禍根を絶っておくべきものだと考える。


11. 2011年2月19日 19:56:46: Pj82T22SRI

2月18日(ブルームバーグ)
白川日銀総裁:柔軟な政策の枠組みが必要−経済・金融情勢対応で
   :日本銀行の白川方明総裁はフランス中央銀行が発行する「金融安定レビュー」(FSR)誌

に「グローバル・インバランスと経常収支不均衡」と題する論文を寄稿し、経常収支の不均衡は「多

くの指標の一つになり得る」としながらも、「唯一無二の指標などあり得ない」と指摘。むしろ「目

まぐるしく変化する経済・金融情勢に対応できる柔軟な政策の枠組みが必要」と主張した。

  白川総裁の寄稿文は18日夜、日銀のホームページに掲載された。総裁はこの中で、こうした枠組

みを構築する上で政策当局者は3つの重要な要素を認識する必要があると述べ、@経済・金融両面で

グローバル化が一段と加速A世界経済におけるエマージング諸国の比重の増加B一部先進国がバブル

崩壊後の回復途上にあることによる景気回復の各国間のばらつきの大きさ−を挙げた。

  白川総裁はまた、グローバル・インバランスを評価する指標には資産価格やレバレッジ、グロス

の資金フロー、リスクに対する市場の価格付けなども含まれると述べた。

  白川総裁は20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため、18日にパリ入りし

ている。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 小沢 均   Hitoshi Ozawa hozawa1@bloomberg.net
更新日時: 2011/02/18 23:49 JST


2011年2月18日
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/ko110218a.htm/
日本銀行総裁 白川 方明

グローバル・インバランスと経常収支不均衡

フランス銀行「Financial Stability Review」

(2011年2月号)掲載論文の邦訳



1.はじめに

21世紀入り後、米国の経常赤字が急拡大する一方で、新興諸国、特に中国
の経常黒字が著増し、グローバル・インバランス問題に関する議論への注目
度が高まった。グローバル・インバランスが近年米国で発生した信用バブル
―― 従って、その崩壊後生じた世界的な金融危機 ―― の主因の一つである
との主張も聞かれた。現在、世界経済が危機後の深刻な不況から脱しつつあ
る中、グローバル・インバランスが再拡大する可能性が改めて注目を集めて
いる。グローバル・インバランスが持続困難な状況に至ると、未だ脆弱な世
界景気の回復が阻害されかねず、G20首脳はこうした状況を踏まえ、「対外的
な持続可能性(external sustainability)」を2011年の主要議題の一つと位置付
けている。

グローバル・インバランスを巡る議論には数多くの論点が含まれている。

・経常収支不均衡それ自体の調整をどの程度重視すべきか。

・経常収支不均衡の原因は何か。

・基軸通貨国には経常赤字を減らすインセンティブが働きにくいため、最
大の経常赤字国が基軸通貨を提供していることは調整を遅らせることに
繋がっていないか。

・一部の経常黒字国が、固定的ないし、相対的に柔軟性に乏しい為替制度
を採用していることが、経常収支不均衡にどの程度影響を及ぼしている
か。

・新しい国際準備資産の導入はドルに対する需要を減退させるかもしれな
いが、それによって外貨準備に対する予備的需要も減少し、経常収支不
均衡も縮小することに繋がるのか。

こうした論点は、国際通貨制度に関するより広範な議論と密接に関連して
おり、70余年前にブレトンウッズ体制の構築を巡ってなされたホワイトとケ
インズの論争を想起させる。


数多くの論点の中から、本稿では、グローバル・インバランスの持続可能
性を評価する際に、経常黒字や赤字を指標として利用することが妥当かとい
う論点に的を絞って論じることにする。まず、次の第2節で、日本の経験を、
1980年代を中心に振り返る。当時、日本は、経常黒字が大幅に増加し、経常
黒字の削減に関する対外的な圧力への対応に苦慮していた。第3節では、今
回の世界的な金融危機における内外の経験を吟味する。これらの節を踏まえ、
第4節では、現在および過去から得られる教訓を整理する。さらに、第5節
では、世界的な危機を未然に回避するために考慮されるべき論点を取り上げ、
最終節で、政策当局者にとっての課題をいくつか指摘したい。

2.日本の経験

過去50年間における日本の経常収支の動向を振り返ると、製造業の対外競
争力の急速な向上を背景に貿易黒字が定着したことを受けて、経常収支は
1960年代半ばから概ね黒字を続けてきた(図表1)。例外的に赤字になったの
は、1973〜1975年および1979〜1980年という2つの期間だけである。当時
は、第一次および第二次石油ショックによる石油価格の上昇が輸入価額の増
大を通じて貿易収支を悪化させた。

1980年代入り後、日本の経常黒字と貿易黒字は急増した。この結果、日本
に対して黒字削減を求める海外からの圧力は二国間および多国間いずれのレ
ベルにおいても強まった。1980年代前半において、圧力の焦点は、自動車の
対米輸出への自主規制といった特定の業態の輸出抑制や国内市場の開放に当
てられていた。1983年11月には、日米両国の財政当局によって「円ドル委
員会」が設立され、翌年5月に公表された報告書で、わが国金融・資本市場
の自由化と円の国際化に向けた詳細なプランが提示された。

この間、円の対ドル為替レートは、1970年代末にかけて一時的に1ドル177
円台まで増価したものの、1980年代前半は総じて200〜250円で推移してい
た。そうした中、主要な貿易相手国の間では、日本の貿易・経常黒字を圧縮


する観点から、円の増価を求める声が高まっていった。そして、1985年9月
には、G5諸国の大蔵大臣・中央銀行総裁はプラザ合意1において、「対外ポジ
ションには、潜在的に問題となりうる大きな不均衡」があり、「為替レートが
対外不均衡を調整する上で役割を果たすべきであることに合意した」と発表
した。よく知られている通り、本合意に基づき、G5諸国は外国為替市場にお
いてドルの減価を目指した協調介入を実施した。このほかにも、プラザ合意
では、G5各国が対外公約をしており、日本の場合、「外国製品・サービスに
対する日本の国内市場の一層の開放」にコミットしたほか、「内需刺激努力は、
消費者金融及び住宅金融の市場を拡大する措置を通じた民間消費及び投資の
増加に焦点を合わせる」とした。さらに、金融政策面では、「円レートに適切
な注意を払いつつ、金融政策を弾力的に運営」することになった。この結果、
プラザ合意前には対ドルで240円前後だった日本円の為替レートは急速に増
価し、1986年9月には1ドル152円に達した。経常黒字も、GDP対比でみて、
1986年の4.2%をピークに減少に転じた2。

しかしながら、日本の主要貿易相手国との貿易黒字は高水準を維持した。
このため、円高だけでは貿易不均衡を十分に是正することは難しいとの見方
が徐々に支配的になっていった。これに伴い、日本に黒字の削減を求める対
外的な圧力の焦点も内需拡大に移っていった。1987年2月、G6諸国の大蔵
大臣・中央銀行総裁はパリにてルーブル合意に至ったが、その中では、「プラ
ザ合意以降の大幅な為替レートの変化は対外不均衡の縮小に今後一層寄与す
るであろうということ」、「今や各通貨は経済ファンダメンタルズに概ね合致
した範囲内となったこと」、および「為替レートを現在の水準の周辺に安定さ
せることを促すために緊密に協力すること」などが合意された。また、大蔵
大臣・中央銀行総裁は「いくつかの国の大幅な貿易・経常収支の不均衡が深

1 「フランス、ドイツ、日本、英国及び米国の大蔵大臣及び中央銀行総裁の発表」(1985年9月
22日)。

2 いわゆる「Jカーブ効果」の影響もあって、経常黒字が実際に減少し始めるまでにはタイムラ
グがあった。


刻な経済的・政治的危険をもたらしている」との認識を表明した。各国が再
び対外公約を行う中で、日本は「内需の拡大を助け、それにより対外黒字の
縮小に寄与するような財政金融政策をとる」としたほか、日本銀行も「公定
歩合を0.5%引き下げることを発表した」。

3 1986年から1988年まで、消費者物価指数の前年比は平均で0.5%であった。

4 ブンデスバンクは1987年12月に公定歩合を3.0%から2.5%に引き下げた後、1988年7月に3.0%
に引き上げた。日本銀行が1989年5月に公定歩合を3.25%に引き上げた時、ドイツの公定歩合
は4.5%になっていた。

5 レポート(「日米構造問題最終報告」)では、それまでの過去10年間(1981〜1990年度)にお
いて実施された公共投資は263兆円と試算されていた。

1986年から1988年にかけて、日本の経済成長は年平均で4.7%と急速なも
のとなったほか、各種の資産価格が二桁台の上昇率を見せていたが、物価上
昇率が低水準で安定しているもとで3、2.5%という低水準の政策金利が、1989
年5月まで2年以上にわたって維持された。政策金利を2.5%で保った期間が
1年弱であったドイツに比べると、日本が政策金利を低水準で維持した期間
はかなり長かったと言える4。なお、ルーブル合意に基づく主要国の度重なる
為替介入にもかかわらず、円は対ドルで増価を続け、1988年11月には1ド
ル121円に達し、円高の進行は、輸出減少を通じた景気悪化懸念を高めた。
この間、米国からの二国間レベルの圧力は継続していた。すなわち、米国議
会が1988年に包括的通商・競争力法(Omnibus Foreign Trade and
Competitiveness Act of 1988)を可決し、翌年には、日本はブラジルやインド
とともに不公正な貿易慣行をもつ国に認定された。1989年には日米両国政府
間で日米構造協議も開始された。同協議に基づく共同レポートが翌年6月に
完成し、その中で、日本は10年間で総額430兆円におよぶ公共投資プログラ
ム(当時の日本の名目GDP 1年間分にほぼ相当)の設定を公約した5。日本の経
常黒字の対GDP比率は1990年に1.4%まで低下したが、その後は、バブルの
崩壊と経済成長の鈍化を受けて上昇に転じ、1990年代は平均して2.4%とな
った。

より最近では、経常黒字の対GDP比率は、2000年以降は平均で3.3%にな


っているが、その構成は大きく変化している。すなわち、日本の経常黒字は、
かつては、概ね貿易黒字の規模を反映したものであった(図表2)。しかし、
ここ10年は、そうした貿易黒字のウェイトが低下する一方で、所得収支黒字
のウェイトが高まり、足許では経常黒字の四分の三を占めるに至っている。
こうした所得収支の大規模な黒字の大半は、対外証券投資や対外直接投資を
通じて日本が長年にわたり蓄積してきた対外資産によってあらかじめ規定さ
れる性質のものである。

こうした日本の経験はいくつかの論点を提示している。

第一に、為替レートの調整やその他のマクロ経済政策は経常収支不均衡の
是正にどの程度有効であったのか。こうした政策は、確かに、景気が変動す
る中での貿易黒字の削減 ―― ひいては、経常黒字の削減 ―― に寄与した。
しかしながら、景気循環に伴う変動部分を除いた経常収支のより基調的なト
レンドはほとんど変化しなかった。景気変動に伴う部分を超えて経常黒字を
一段と削減することを狙ったマクロ経済政策、特に長期にわたり実施した拡
張的な財政・金融政策は有効ではなかった。そうした政策は、むしろバブル
を生み出す様々な要因の一つになってしまい、その崩壊後の深刻な状況をも
たらしたという面で、副作用が大きかった。

因みに、経常収支の黒字・赤字といった収支尻は、経常収支の構成によっ
てあらかじめ規定され得る。前述の通り、日本の場合、近年では、大規模な
所得収支黒字が経常黒字の主因となっている。G20諸国をみると、これは決
して例外的な状況ではない。例えば、豪州の経常赤字の大部分は所得収支の
赤字によって説明できる。多くの国において、貿易黒字(赤字)の大きさが経
常黒字(赤字)の大きさの主たる説明要因ではあるものの、所得収支をはじめ
とする他の要素の影響も決して無視し得るものではなく、大きな影響を及ぼ
している場合もある(図表3)。これは各国の経済構造を反映したものであり、
また経常収支の変遷を評価する際には十分に認識しておくべき点である。

第二に、経常黒字は果たして真の「不均衡」を表していたのか。経常黒字


は「不均衡」の存在を示唆していたかもしれないが、有効な評価を行うため
に必要となる十分に詳細な情報を提供するわけではない。持続困難な不均衡
の生成は、資産価格の急激な上昇や企業債務の大幅な増加といった他の指標
をみた方が、より良く、またより明確に把握できるように思われる(図表4・
5)。一貫して大規模な黒字となっている日本の経常収支をみても、それだけ
でもって、経済の安定に深刻なダメージを与える根本原因となるようなバブ
ルの兆候とはならなかった。

第三に、為替政策はどのようなかたちで経済全体に影響を及ぼすのか。円
高の抑制やその悪影響の軽減に過度に焦点が当たった結果、低金利環境が継
続するとの期待の形成が助長された。これはバブル生成の諸要因の一つとな
り、経済全体の安定を損なうことになった。ルーブル合意後に続けられた緩
和的な金融政策は、日本の経常黒字削減を求める対外的な圧力と円高の経済
への悪影響に対する国内の懸念の双方を反映していた。

3.今回のグローバルな金融危機

今回のグローバルな金融危機に先立つ2000年代中頃になると、ドルの急落
と米国長期金利の急騰を通じたグローバル・インバランスの無秩序な調整が
突然生じるのではないかとの懸念が高まった。こうした見方は、米国の経常
赤字が増大する一方でエマージング諸国の外貨準備が積み上がる状況におい
て、米国の赤字をファイナンスすることに、エマージング諸国がいつか消極
的になるのではないかという可能性に着目したものだった。しかしながら、
周知の通り、実際には全く異なる展開となった。金融危機発生当初、市場参
加者のリスク回避姿勢が極度に高まり、世界的に「質への逃避」が発生し、
米国国債への需要の増大によって米国長期金利は大幅に低下し、ドルは大半
の通貨に対して上昇した。

この経験は、前述の日本の経験と同様に、単に経常収支に着目するのでは
なく、その根底に潜む不均衡の原因を特定することの重要性を示している。


すると、次の論点として、「持続困難なグローバル・インバランスに繋がり得
る不均衡や歪みをどうすれば見極めることができるか。経常収支では十分に
把握できない如何なる情報に着目する必要があるのか」が浮上してくる。今
回の金融危機を通じて得られた追加的な経験も踏まえつつ、重視すべき点と
して以下の二つを指摘したい。

(過度なレバレッジの積み上がり)

第一点は、経済への過度なレバレッジの積み上がりである。経常収支尻に
相当する貯蓄・投資バランス(ISバランス)の対GDP比率の長期トレンド
をみると、2000年代の米国において投資超幅が拡大したことが確認できる
(図表6)。この変化自体はその持続可能性について判断する情報を提供する
ものではないが、さらに家計部門の債務残高の推移をみると、それが長期ト
レンドを大きく上回っていたことがわかる(図表7)。レバレッジの行き過ぎ
という意味では、1980年代の日本の状況と類似している。日米間の差異は、
それが発生した部門の違いであり、米国では家計部門であったのに対して、
日本では企業部門で発生した(前掲図表5)。こうした長期トレンドからの乖
離については、それだけで結論めいたことが言えるわけではないが、少なく
とも持続困難な不均衡が金融面で蓄積されつつあることの強い兆候とみなす
ことはできる。重要なことは、経済を全体として捉えた評価だけでなく、例
えばセクター分析のようなより分解されたレベルでも評価を行うことである。
こうした作業によって、政策当局者は、不均衡が蓄積されつつあるかもしれ
ない場所をより的確に把握することが可能になる。

このほかにも、レバレッジの積み上がりを支える信用供与がどのように実
行されているのかを理解することも重要である。今次金融危機の前、米欧の
金融機関によって設立されたストラクチャード・インベストメント・ビーク
ル(SIV)は、多くの場合、設立のスポンサーである金融機関が組成した様々
なストラクチャード金融商品を購入していた。サブプライムローン市場が崩
壊すると、SIVが抱えていた流動性リスクや信用リスクは、レピュテーショ


ン・リスクの観点から支援に乗り出さざるを得なかったスポンサー金融機関
に戻ってくることになった。似たような状況は日本でも1980年代後半のバブ
ル期に生じた。すなわち、ノンバンク金融会社を経由した住宅・商業不動産
向けの融資が規制回避手段として積極的に活用され、こうした動きは銀行の
不動産向け融資の伸び率を制約する規制が導入された後に一段と強まった。
これらノンバンクは母体銀行のバランスシートには連結されない仕組みにな
っていたものの、結局、大半の損失を母体銀行が負担することになった。日
米両国の金融危機においていわゆるシャドーバンクが果たした役割は、銀行
システムの外側の動向も注視することの重要性を強く示している。

(グロスの資本フローと金融機関のリスク・プロファイル)

第二点はグロスの資本フローである。経常収支と表裏一体の関係にあるネ
ットの資本フロー(資本収支)は、持続困難な不均衡の要因を突き止めるた
めに十分な情報を提供してくれないため、その他の情報で補う必要がある。
近年のユーロ圏の動向がよい例である。すなわち、過去10年間、ユーロ圏の
経常収支は概ねバランスしていたが、BISの国際資金取引統計をみると、ユ
ーロ圏の銀行は国際銀行システムから積極的に米ドル資金を調達して米国の
非銀行セクターに資金を供給したことがわかる(図表8)。資産と負債を相殺
すると残高自体は小さくなるものの、グロスベースで膨らんでいった満期の
ミスマッチ、外貨にかかる資金調達リスク、および信用リスクといった各種
のリスクは相当な規模で積み上がっていた。

世界的にみても銀行 ―― 特に、欧州の銀行 ―― はインターバンク市場
でドル資金を短期調達し、長期の債権を造成してきた。国際銀行システムに
おけるドル資金の調達リスクは2000年代半ばに急速に増加し、他の主要通貨
の調達リスクに比べると非常に大きい規模にまで拡大した(図表9)。危機の
拡大とともにグローバルな金融市場では、取引相手の信用リスクへの警戒感
が強まり、銀行はドル資金を抱え込み始めた。この結果、ドルのインターバ
ンク市場は機能不全に陥り、多くの市場参加者がドル資金の調達に苦戦する


ことになった。市場の緊張状態は、日本銀行を含む各国の中央銀行が米連邦
準備制度との間で二国間の米ドル・スワップ取極を締結してドル資金を供給
するようになるまで続いた。

BIS統計は、他の情報源とともに、経常収支に関するデータだけでは生じ
るデータ不足を補ってくれる。例えば、BISの国際資金取引統計をみると、
今次金融危機の発生前、欧州先進諸国の銀行は多額の資金をクロスボーダー
で調達していたが、2007年の夏以降、これが急速に巻き戻されている(図表
10)。また、同じくBISの国際与信統計をみると、報告銀行全体の米国向け
与信残高が、2008年第1四半期にピークを付けた後、20%以上減少したこと
や、さらに部門別にみると、ストラクチャード金融商品への投資を含む民間
部門向けの与信残高が30%近くも減少したことがわかる(図表11)。

中央銀行や規制・監督当局は、金融機関に関するミクロ情報を得ることを
通じて、個別金融機関のリスク・プロファイルの実態を把握することが可能
になる。また、ミクロ情報を出発点に、金融システム全体やそれを構成する
各段階において、リスクがいかに分布しているのかを把握することも可能に
なる。金融システム全体の中でリスクがどこに集中しているのかといった点
や、市場参加者間で見込まれる相互連関について、マクロレベルで理解を深
めることが重要となっている。

4.グローバル・インバランスの評価

経常収支は、経済の状況について有益な情報を提供する。しかし、同時に、
今次金融危機や過去の危機の経験は、持続困難なグローバル・インバランス
の存在を判断する指標として経常収支をそのまま単純に利用することの潜在
的なリスクを示している。決して網羅的なものではないが、ここで、現在お
よび過去の経験から得られる教訓として三つの点を指摘したい。

第一に、経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるも
のであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではない。経常収


支のトレンドは、貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したものであり、
経済情勢の変化や人口動態に強く左右される。経常黒字や赤字は、それが持
続困難なものとなった場合にはじめて問題を引き起こすものであり、その場
合、慎重な総合判断が必要になる。

第二に、経常収支の構造的な側面と景気循環に伴い変動する側面を見分け
ることは決して容易な作業ではない。マクロ経済政策や為替政策を通じて構
造的な要素の調整を試みることは、経済を不安定化させる金融面の不均衡の
蓄積を助長しかねない。経常収支そのものに焦点を当てた政策運営は、むし
ろ副作用が大きくなる。

第三に、中央銀行やその他の政策当局は多様な指標を用いて持続困難な不
均衡が生じているかどうかを評価する必要がある。こうした指標には、資産
価格、レバレッジ、グロスの資本フロー、そしてリスクに対する市場の価格
付けや金融機関のリスク・プロファイルに関する情報などが含まれる。経常
収支に関するデータだけでは、全体像の一部分しか見えてこない。かつて、
国境を越えた財やサービスの移動が国際経済上の相互関係の大半を占めてい
た時には、経常収支や貿易収支のデータをみることによって、対外不均衡の
拡大しつつある状況を比較的容易に把握することができた。しかし、グロー
バルな資本フローは、巨額になるとともに、国境を跨いで動く速さも加速し
ている。さらにデリバティブの利用拡大が状況を一層複雑化させており、グ
ローバル・インバランスの評価の在り方もこうした環境変化に応じた見直し
が必要になっている。

5.新しいタイプの危機への準備

人類はこれまで常に金融面の「アンカー」や「ベンチマーク」を追い求め
てきた。こうした取り組みは、その初期段階において一定の成功を収めるも
のの、経済・金融システムの急速な変化の中で、頓挫してしまうか陳腐化し
てしまうことを繰り返してきた。金融政策の世界では、1970年代、多くの先


進諸国において、マネーストックの一定の伸びをターゲットにした政策運営
がなされた。しかしながら、急速な金融イノベーションを受けて、マネーサ
プライとインフレの関係は不安定になり、最終的には活用されなくなってし
まった。1990年代には、インフレーション・ターゲティングが金融政策の新
しい枠組みとして登場したが、今回の金融危機に至る過程でバブルが生成さ
れたように、同政策を有効に実施していくことの難しさが浮き彫りになって
きた。特に、不均衡が財やサービスの物価上昇率とは異なるかたちで姿をみ
せる時、それを見極めることは難しい。国際通貨制度に関しては、これまで
に金本位制から管理変動相場制への移行を経験している。今日、主要国通貨
の為替レートは自由に変動する一方で、多くの国は引き続き固定相場制や管
理変動相場制を採用している。

経常収支不均衡は多くの指標の一つにはなり得るが、発生しつつある不均
衡、ましてや持続困難なグローバル・インバランスを特定できる唯一無二の
指標など存在しない。むしろ、目まぐるしく変化する経済・金融情勢に対応
できる柔軟な政策の枠組みが必要とされる。一つ一つの危機はそれぞれ異な
る経緯をたどって発生する。我々はもちろん過去の経験から学ばなければな
らないが、過去の戦いで採った戦略が将来の戦いでも有効とは限らない。柔
軟な姿勢で臨むことが重要である。

政策当局者は、目まぐるしく変化する経済・金融情勢の中で、持続困難な
グローバル・インバランスを特定し適切に対応するための枠組みを構築する
にあたり、以下の三つの重要な要素を認識しておく必要がある。なお、これ
らのうち二つは長期にわたる潮流の変化であり、もう一つは現下の金融経済
情勢に特有のものである。

第一に、言うまでもないことであるが、経済・金融両面で、グローバル化
が一段と加速している。また、技術進歩を受けて、異なる金融市場の間およ
び市場参加者の間での相互連関がますます複雑化している。世界の一地域が
被ったショックの余波がすばやくそして想定外の経路で他の地域へ及ぶよう


になっている。その結果、金融政策のリスクテイキング・チャネルの影響は、
従来に比べて、より大きくかつより広範囲に及び得る。昨今のグローバル投
資家による「利回り追求(search for yield)」はその一例である。

第二に、世界経済におけるエマージング諸国の比重が増している。名目ベ
ースでみて、世界のGDPに占めるエマージング諸国のシェアは1990年およ
び2000年には20%であったが、2009年には31%にまで高まったほか、2010
年には同諸国の経済成長が世界全体の経済成長の7割程度をもたらした計算
になる。このように、エマージング諸国が世界の経済成長を牽引しており、
それに伴い国際社会における同諸国の責任も重くなってきている。例えば、
主たるエマージング諸国の為替レートが硬直的となっている場合の世界経済
への影響が従来よりも大きくなっていることを認識する必要がある。国内産
業の秩序だった構造調整という視点からは、固定相場制から柔軟な為替制度
への緩やかな移行と、自国通貨の増価ペースを調整していくことが正当化さ
れるかもしれない。しかし、緩やかにしか進まない為替調整は、同時に、金
融政策を含む国内マクロ経済政策の柔軟な運営を阻害するほか、調整コスト
を他国へ輸出する性質を持っていることをエマージング諸国の政策当局者は
認識する必要がある。もし他の諸国が自国通貨高を抑制する類似の施策を講
じると、柔軟な為替制度を採る地域がより大きな影響を受ける可能性もある。

第三に、いくつかの先進国がバブル崩壊からの回復途上にあるという特殊
な状況に置かれているため、景気回復ペースのバラツキが各国間で大きくな
っている。エマージング諸国が力強い成長を続けている一方で、一部の先進
国においてバブル崩壊後のバランスシート調整が続いていることもあって、
先進諸国経済の景気回復ペースは遅い。こうした中、先進国の中央銀行は極
めて緩和的な金融政策運営の一環として非伝統的な措置を導入している。先
進諸国経済は、ゼロ金利制約に直面しているほか、バランスシート調整のも
とで金融政策の波及経路が弱体化しているため、伝統的な金利チャネルや信
用チャネルを通じた金融緩和効果は通常期待されるほどには効いていない。


その代わり、グローバル金融システムが一体化した中で、経済成長のスピ
ードの差が拡がったため、先進国のような制約要因が働いていないエマージ
ング諸国への資本流入が活発化している(図表12)。グローバルなレベルで
は、リスクテイキング・チャネルがより実効的に作用している。

エマージング諸国はバブル崩壊の痛手が小さかったため、資本流入の景気
刺激効果が思いのほか大きくなるかもしれない。先進諸国における低水準の
短期金利を利用したキャリー取引が活発化しているほか、エマージング諸国
では、株式市場間や株式市場と国際商品市場の間において価格動向の相関関
係が高まっている(図表13)。もしこうした資本流入が、先々、バブルの生
成や急な巻き戻しに繋がれば、その負の影響はエマージング諸国のみならず
世界経済全体にとっても有害なものになる。

6.政策当局者の課題

持続困難なグローバル・インバランスを未然に防ぐためには、政策当局者
は、経常収支の変化のみにとらわれず、より掘り下げた調査・分析を行い、
根底に潜む不均衡の把握に努めなければならない。グローバル化の急速な進
展によって、有害な不均衡の発見や是正策の実施は、もはや純粋な国内問題
ではなくなってきているという大きな潮流の変化にわれわれは直面している。

マクロ経済政策を組み立てるにあたっては、自国経済の安定を確保するこ
とが伝統的に強調されてきた。しかし、グローバル化の深化に伴い、個別国
の政策対応を単純に積み上げた結果が世界全体にとって最適な政策になると
は限らなくなってきている。このため、先進諸国とエマージング諸国双方の
政策当局者は自国経済の安定の意味するところを再考する必要がある。ある
政策の効果の全容は、もはや国内経済への直接的な影響だけでは把握しきれ
ない。ある国の政策の効果が国境を越えて対外的に波及すること(spillover
effects)や、経済や金融の相互連関を通じて影響が自国へ回帰してくること
を分析することもこれまでになく重要になっている。


大規模な資本流入や硬直的な為替制度から発生し得る金融面の不均衡への
対応を検討するにあたっては、経済的にも政治的にも、全ての国のニーズを
満足させる簡単な方策など存在しないことを認識しなければならない。しか
し、世界経済が運命共同体であること(we are all in the same boat)を踏まえ
ると、各国がそれぞれ異なる方向に進みだすと合成の誤謬が生じる危険性を
高めることになる。われわれの経済政策を導いてくれる機械的ないし自動的
な仕組みは存在しない。このことは、今次金融危機が複雑な経路をたどって
多様な金融市場や世界各国の経済に拡がっていったことや、世界経済が緩や
かな景気回復過程を進む中で新たな難問が浮上し続けていることからも再確
認できる。地道な取り組みではあるものの、政策当局者は、世界経済が海図
なき航海を続けるにあたり、互いの経験から謙虚に学びながら、丁寧かつ建
設的な対話を続けることが不可欠である。

以 上


【参考文献】

白川 方明、「中央銀行の政策哲学再考」、エコノミック・クラブNYにおける講
演の邦訳、2010年4月22日、2010a

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2010/ko1004e.htm/)。

_________、「先進国と新興国:異なる速度での景気回復」、Bauhinia Foundation
Research Centreにおける講演の邦訳、2010年11月23日、2010b

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2010/ko1011b.htm/)。

Bank of Japan International Department, “Japan’s Balance of Payments for 2009,” BOJ
Reports & Research Papers, 2010.

Bernanke, Ben S., “The Global Saving Glut and the U.S. Current Account Deficit,”
Remarks at the Sandridge Lecture, Virginia Association of Economics, Richmond,
Virginia, 2005.

Blanchard, Olivier, and Gian Maria Milesi-Ferretti, “Global Imbalances: In
Midstream?” IMF Staff Position Note SPN/09/29, 2009.

Borio, Claudio, and Piti Disyatat, “Global Imbalances and the Financial Crisis:
Reassessing the Role of International Finance,” Asian Economic Policy Review 5,
no.2: pp.198-216, 2010.

Feldstein, Martin, “Resolving the Global Imbalance: The Dollar and the U.S. Saving
Rate,” Journal of Economic Perspectives 22, no.3: pp.113-125, 2008.

Fender, Ingo, and Patrick McGuire, “Bank structure, funding risk and the transmission
of shocks across countries: concepts and measurement,” BIS Quarterly Review,
September 2010.

Kohn, Donald L., “Global Imbalances,” Remarks at the High-Level Conference on the
International Monetary System, Zurich, Switzerland, May 11, 2010.

Obstfeld, Maurice, and Kenneth Rogoff, “Global Imbalances and the Financial Crisis:
Products of Common Causes,” Paper prepared for the Federal Reserve Bank of San
Francisco Asia Economic Policy Conference, 2009.

Okina, Kunio, Masaaki Shirakawa, and Shigenori Shiratsuka, “The Asset Price Bubble
and Monetary Policy: Japan’s Experience in the Late 1980s and the Lessons,”


Monetary and Economic Studies 19, no.S-1: pp.395-450, Bank of Japan Institute
for Monetary and Economic Studies, 2001.


12. 2011年2月20日 20:58:01: cEAf2Yo8QY
アメリカには、途上国を負債の罠にはめ、金融の力で植民地にしてしまう為のエコノミック・ヒットマンと呼ばれる工作員が存在する。
表の顔は国際経済コンサルタント企業のチーフエコノミスト、としてターゲット国の指導者に接近し、

いわゆる国際開発コンサルタントとして、投資先国の成長性を考慮した経済予測を、若干大きめに出しながら、国際機関や政府機関の投資を促進。
開発銀行等からの融資を受けさせ、アメリカの主たる企業の進出を促し、そのインフラ整備などを請け負い自国の企業に利益が入るようにする。

建設後は、途上国の低賃金を背景にした企業利益を自国に還流させる。途上国は過大な投資から借金漬けになり、利子の支払いと債務超過により、
膨大な資源の提供などでアメリカの国益にかなうよう国連などで動かざるを得なくなるようしむける。

インフラ開発、企業誘致、優遇税制では、傀儡政府の指導者などにも分け前が与えられるが、妥協しない指導者がいる場合、強硬な手段に出る。
それがジャッカルと呼ばれる強行部隊の存在である。口封じをし、軍隊を出動させ、大義名分の中でより強いコントロールをする。
これが30〜40年前のスキームであったらしい。
その発展系が今はどれほど高度にしこまれているかは解らない。とにかくアメリカとアメリカ帰りの金融エコノミスト、証券アナリストの論には
眉に唾をつけ拝聴することをお勧めする。


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