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できれば関税だけでなく補助金もなしで自立してもらいたいものだが
この分だとよほど空洞化が進んで円高になってもダメで
超高齢化ピークの2050年や、日本の財政破綻の方が先になるかな
日経ビジネス オンライントップ>投資・金融>変革の時をつかめ 新・ニッポン農業論
「補助金漬け」はウソ、関税頼みが大問題 なぜ農業が貿易の障害物になるのか
* 2011年2月16日 水曜日
* 樫原 弘志
TPP 政治 OECD グローバル グリーンボックス 農業 PSE
なぜ日本の農業はあらゆる貿易交渉で障害物になってしまうのか。生産コストや競争力の問題ではない。政府が関税に代わる新しい保護制度の設計を怠っているからだ。
欧米諸国は過去20年前後で、農業保護を財政による直接支払いに切り換えてきたが、日本は安上がりな関税頼みを続けている。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加をにらみ、政府は「関税」から「財政措置」への置き換えも検討する方針を打ち出しているが、まだその輪郭を示せない。世界貿易機関(WTO)ドーハラウンドも今夏の大筋妥結を目指して交渉を再開した。関税の大幅削減、撤廃に備えて対策を急ぐべきだ。
内外価格差を縮小する努力をほとんどしなかった
経済協力開発機構(OECD)が毎年公表している農業保護指標の1つに生産者支持推定量(PSE)がある。内外価格差に生産数量をかけ、それに農家への補助金を加えた額である。内外価格差をもたらすのは割高な行政価格や関税である。政府買い入れ価格など行政価格は最近姿を消しつつあるので、関税と考えておけばいい。
日本のPSEは2009年に約4兆3500億円で、販売収入の48%を占めていた。つまり農家の収入の半分は保護に由来するもので、保護がなくなれば生産額もぐんと落ち込んでしまう危険がある。最も古いデータである1986年の7兆7600億円、65%に比べればかなりダイエットに成功したようにみえる。しかし、EU (欧州連合)の比率は86年39%、2009年24%で、日本農業は相対的にみても脆弱、過保護状態が続いている。
問題はPSEの中身である。
PSEのうち内外価格差に相当する市場価格支持のウエートを計算してみると、EUが同じ期間に86%から24%へと激減させたのに対し、日本は 90%から84%へとわずかに低下しただけである。EUは行政価格の引き下げや関税削減で農産物価格を下げる政策をとり、その代償として農家の所得を補償する直接支払いを拡大した。
対照的に日本は内外価格差を縮小させる政策面での努力をほとんどせず、関税依存の農業保護政策を続けた。市場価格支持の実額は約3兆6600億円。1兆円以上のコメに続いて、豚肉、酪農が3000億円台で続いている。財政に負担がかからない代わり、農産物を購入する消費者がその費用を負担し続けた。農業予算をカットすれば農業改革が進むと考えるのは甘い。消費者の見えざる負担のもと、農業の構造改革をずるずると先延ばしし続けたツケが今になってまとまって精算を迫られているのである。
WTOもルールに採用した「デカップリング」
「日本農業は補助金漬け」という一般的なイメージが間違いであることがここで分かる。農家の所得の源を分析する限り、内外価格差を負担している消費者が支えているのである。関税依存型農業保護を続けた日本は関税撤廃で膨大な財政負担を覚悟するか、生産者への保護水準を大幅にカットするかの選択を迫られる。
OECDがPSEの公表を開始したのは87年からだ。当時、先進国では農業保護の行きすぎで酪農製品などの過剰や財政負担の膨張が大問題になっていた。そこでOECDが農業政策の仕分けをして、政府による価格保証や高関税など増産刺激的な政策を協調して削減しおうと呼びかけていた。
自由な貿易の流れを妨げるような保護政策は、例えそれが国内政策であっても減らす。逆に推奨したのが補助金を作物生産量に連動させないデカップリングである。直接支払いには環境保全など多様なメニューがある。この考え方は、世界貿易機関(WTO)が一部簡略化する形で農業交渉のルールに採用し、価格支持など増産刺激効果のある政策を助成合計量(AMS)と呼んで削減対象にしている。デカップリングによる所得支持はWTOも削減しなくていいグリーンボックス(緑の政策)に分類している。
関税で守られる度合いが大きければ、政策変更も小出しになりがち。守ろうとする制度自体の運営もややこしくなる。
コメの場合、ウルグアイウンドで輸入割当制度の関税化を先送りするため、ミニマムアクセス(MA)枠を消費量の8%まで増やす代償を約束した。
しかし、MA米の保有・処理コストの膨張に悲鳴を上げて99年、MA枠7.2%(77万トン)で打ち止めできるよう関税化する結果になった。MA 米は本来、流通市場に供給されてこそ内外価格差を縮小する効果がある。だが、農水省は主食用のコメ市場からの隔離を決定。いま1トン当たり4万円前後とされる損失を出しながら養豚など飼料用に売却して在庫増を抑えようと懸命だ。
そうまでして守ってきた国内の主食用米市場で何が起きているのか。
過剰作付けによるほぼ慢性的な供給過剰で、米価は市場開放当時の半値近くに下がっている。兼業や年金所得が大きい小規模、自給的な農家は値段や需給にお構いなしにコメを作り続け、コメ作りを主業とする大規模農家ほど米価の底上げを期待し、減反に協力せざるを得ないという皮肉な現象が生まれている。
本当にコメの関税撤廃は不可能なのか。
コメの関税撤廃でもコメ生産は4割残る
昨年11月に発表された日本総合研究所の提言「わが国農業の再生に向けて」が面白い試算を掲げている。
日本総研はコメの関税を撤廃しても10年後、280万〜380万トン、現状の4割前後のコメ生産は残ると予測する。戸別所得補償を耕作面積1ヘクタール以上の農家に限定して現行10アール当たり1万5000円の約4倍、6万1000円交付するなら8割前後に相当する670万〜770万トンが維持できるという。
その場合、年間5500億円の財源が必要だが、全農家を対象にする現行の戸別所得補償財源(11年度予算案)が、10アール当たり1万5000円の固定支払いに1929億円、米価下落が著しいときに交付する変動補てんに1391億円を計上していることを考えれば、決して実現不可能な額ではないだろう。
10年度にモデル事業としてスタートしたコメ農家向け戸別所得補償制度の固定支払いのように、農地の広さに着目して生産量や収入にかかわりなく交付する固定支払いなら、OECDの考え方をほぼ踏襲したWTOのルールでも削減を求められない緑の政策に該当すると農水省は考えている。
過去のWTO提出資料を見ても、コメなど主要穀物の国家備蓄や学校給食補助、さらには水田でコメ以外を栽培する転作のための奨励金まで「環境保全」名目の直接支払いとして緑の政策に分類して農水省は通報している。財源さえ確保できるなら農業保護の再設計は相当程度、柔軟に考えることができる。
各論を細かくフォローすることも必要
コメだけが重要な農産物というわけではない。養豚、酪農など関税が低くなれば経営的に大きな影響を受ける分野はほかにもある。ウルグアイラウンドでは平均の関税削減率が36%だったが、これから大詰めの交渉が進むであろうドーハラウンドは同54%削減を目標にしている。原則として関税撤廃という TPPもハードルが高いが、WTO交渉でも相当な市場開放を想定しておかなければならない。
内閣官房の国家戦略室や農水省、経済産業省のTPP、農業再生担当部門は連日のように著名な農業関係者、自治体首長らにヒアリングをして農業を活性化するアイデアを集めている。農地情報を仲介する農地バンク構想など具体的なプロジェクトがいくつも実る気配を見せ始めているようだ。そうした各論を細かくフォローすることも必要だろう。
しかし、関税撤廃というTPPにストレートに対応する問題として、どんな財政措置を関税の代わりに持ってこようとしているのか、国民の判断材料として示していく必要があるのではないか。
このコラムについて
変革の時をつかめ 新・ニッポン農業論
自由貿易は脅威か好機か。農業は大きな変革のときを迎えている。逃げるも挑むも生産者の自由だ。だが、環境の変化にあわせて大胆に舵を切り替える勇気があれば、日本の農業にも未来はある。日本の、そして世界の消費者のこころをわしづかみにするニッポン農業の再生に期待する。
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著者プロフィール
樫原 弘志(かしはら・ひろし)
樫原 弘志 日本経済新聞編集委員。
1981年の入社後、財政、金融、経済協力などを担当。99年、FASID(国際開発高等教育機構)リーダーシップアカデミー修了。シンガポール、大分、千葉の各支局長を経て、最近はもっぱら農業、漁業の生産現場の変化を追う。農業とのかかわりは86年のコメ市場開放問題以来。「がんばれマグロ漁業」(日経夕刊連載)で2007年度水産ジャーナリストの会年度賞受賞。
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