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世界に衝撃を与えたFUKUSHIMAショック ポスト原子力のニューエネルギーとニューエコノミーの構築へ
2011.04.26(Tue) 一尾 泰啓
石油社会を超えて
大震災が発生した3月11日から1カ月以上が経った4月12日、日本政府は福島原発事故の収束への青写真が描けないまま事故レベルをチェルノブイリ原発事故と同評価のレベル7に引き上げました。
この遅きに失した政府発表は、避難を余儀なくされている地域住民の方々をはじめ日本国民の原発事故への政府・東京電力の対応や原発そのものへの不信感を増幅させる結果を招きました。
この現象は日本に限りません。欧米のマスメディアでも目にしない日はない「FUKUSHIMA」の恐怖は海外に伝播し、各国のエネルギー政策を根底から変えようとしています。欧州経済の雄であるドイツの例を見てみましょう。
ドイツ地方選挙の結果
独バーデン・ビュルテンベルク州の州都シュツットガルトで、地方選後にアンゲラ・メルケル首相とステファン・マップス州首相を風刺するポスターを掲げる緑の党の支持者ら〔AFPBB News〕
ダイムラー、ポルシェ、ボッシュなど大企業が本社を置くシュツットガルトを州都に擁し、基幹産業が集積するバーデン・ビュルテンベルク州で州議会選挙の開票が3月27日に行われました。
同選挙は福島原発事故によって原発の安全性が最大の争点となる中で行われ、開票の結果、脱原発を主張する緑の党(Greens)が大躍進を果たしました。
同じく反原発を掲げる社会民主党(Social Democrat Party)と連立政権を組み、緑の党からの州首相選出が確実視されています。
一方、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(Christian Democratic Union)は58年間守り続けた州与党の地位から陥落するという歴史的な敗北を喫し、国政を預かるメルケル政権にとっても大きな痛手となりました。
ドイツの原子力政策の変遷
過去、ドイツの原子力政策は振り子のように振れてきました。
2002年にすべての原発を2022年までに廃止することが法案化されましたが、メルケル首相はクリーンエネルギーを中心とした低炭素社会へのスムーズな移行を実現させるため、原子力を“つなぎ技術”と位置づけ、昨年9月に原子力発電所の平均12年の稼働期間延長を決定しました。
これによって、ドイツ原発は2030年代に入っても運転されることになりました。
ドイツ国民の民意
苦境に立たされた? ドイツのアンゲラ・メルケル首相〔AFPBB News〕
しかし、このメルケル政権の原子力政策の方針転換は、福島原発事故によって早くも挫折しました。
福島原発事故発生直後、メルケル首相は原発の稼働延長計画の3カ月凍結と、1980年以前に運転を開始した7基の原子力発電所の一時運転停止を発表しました。
この政府の対応に国民が満足していないことは、バーデン・ビュルテンベルク州地方選挙の結果を見れば明らかです。
「FUKUSHIMA」後のエネルギー改革
メルケル政権は「FUKUSHIMA」後の世論や地方選挙結果に敏感に反応し、原発政策の見直しを6月中旬までに行うことを発表しましたが、既にエネルギー政策の抜本的な改革に着手しています。
ロイター(Reuters)によると、6-Point Energy Plan と呼ばれる新しいエネルギー政策の6つの骨子を以下のように発表しました。
1. 洋上風力発電を中心としたリニューアブル発電の更なる強化2. リニューアブル発電の拡大に伴う送電線・蓄電能力の強化3. エネルギー効率の改善4. リニューアブル発電のバックアップ電源としてガス焚発電の強化5. エネルギー技術のR&D強化6. エネルギー価格の上昇が予見される新しい供給体制移行プロセスへの国民の積極参加
ドイツではすでに風力・太陽光を中心に、リニューアブル発電が国の電力供給の17%(約4%の水力発電含む)を占めています。さらに22%のシェ アを占める原子力発電の全廃の早期実現を目指し、その代替電源としてリニューアブル発電を更に拡大していく戦略を示しています。
翻って日本はどうでしょうか?
日本のエネルギー政策の栄光と挫折
福島第一原子力発電所〔AFPBB News〕
1970年代初め石油の1次エネルギー供給に占める割合が70%を超える中、2度のオイルショックを経験した日本の最重要エネルギー戦略は 、エネルギー安全保障上の「脱石油」でした。
この脱石油の国家戦略の下、官民一体となって取り組んだのが原子力発電の普及・拡大でした。
政府が原発を促進する政策や漠大な国家予算を投入する一方(詳細は拙稿「福島原発とメキシコ湾原油開発、意外な相関関係」を参照)、電力会社はこの政策目標を着実に実行してきたのです。
その結果、1973年にわずか2000メガワット(MW)であった原子力の発電規模は、2008年には4万8000MWに急拡大し、原子力は日本の1次エネルギー供給の13%を占めるまでに成長し、一方石油のシェアは43%まで下落しました。
この数字だけを見ると原子力がエネルギー供給源の多様化に貢献してきたことは事実ですが、日本が獲得したエネルギー安全保障は国民の安全と環境の保全を担保に成り立っていたことを、福島原発事故が露呈したのです。
エネルギー基本計画の見直し
エネルギー安全保障に加え、日本政府は環境面から原子力の重要性をさらに高めてきました。
昨年6月に政府はエネルギー政策基本法に基づき、2030年までの具体的な施策を盛り込んだ「エネルギー基本計画」を策定しました。
その中で、ゼロエミッション電源比率を2030年までに70%にするため、少なくとも14基以上の原子力発電所の新設を行うと同時に、設備稼働率を90%にすることを目標に掲げています。
しかし、菅直人首相も今後の原子力計画の白紙検討を表明し、原発開発に関わる自治体首長の約90%が原発の安全性に疑問を呈しているうえ(毎日新 聞調べ)、そもそも国民の原子力の安全性への信頼が地に落ちた状況で、新たな原発の建設はまず不可能と言って過言ではありません。
また企業経営の観点から今回の東京電力の例を見れば、原発という事業リスクの極めて高い資産を持つことに電力会社経営者自身が内心躊躇しているのではないでしょうか。(詳細は「福島の事故が顕在化させた、電力産業の大リスク」を参照)
さらに原発設備稼働率についても、2009年の平均稼働率(新潟県中越沖地震で停止した柏崎刈羽原子力発電所1〜7号機を除く)が72%でしたから、稼働率を90%に上げるということは、メンテナンスや安全対策上設備を停止させる期間を今まで以上に短縮することを意味することから、国民の理解はまず得られないでしょう。
今や現実性のない「エネルギー基本計画」の見直しに、早急に取り組む必要があります。
新たな国家ビジョンの構築
新たな「エネルギー基本計画」の策定に取り組む前にまずやるべきことは、国民が共感・共有できる国家ビジョンの構築であると考えます。
1970年代に経験したオイルショックによって、過度に石油に依存した国民生活は混乱を極め、日本経済は大打撃を受け戦後初のマイナス経済成長を記録しました。
この国家的危機を打開するために、脱石油という国家ビジョンに国民が賛同し、政府と民間が協力して原子力政策を推し進めてきた過去の歴史があります。
あれから40年後の今、日本は同じ状況に置かれています。国民は目に見えない放射線や汚染水の漏洩の恐怖にさらされ、経済活動は大きな打撃を受け、停電や節電を強いられる生活を送っています。
この新たな国家的危機に直面している国民が共感できる国家ビジョンを政府が示すことができれば、官と民が一体となって新しいエネルギー政策を推進することができると考えます。
ポスト原子力のニューエネルギーとニューエコノミー
では日本が構築すべき新たな国家ビジョンとは?
筆者は、原子力に頼らない「ポスト原子力」の新しいエネルギー供給と新しいエコノミーの構築を同時に実現することと考えます。その主役を担うのはクリーンエネルギーです。
原発の新設を期待することは非現実的であることはすでに述べました。既設の原発については、今回の大災害を教訓に可能な限りの安全基準の強化を実施のうえ、稼働寿命を法で定め、順次リタイアさせます。
原子力依存度を段階的に低めていく一方で、クリーンエネルギーへの依存度を段階的に高めていくシナリオです。
さらに、クリーンエネルギーを普及させる官民共同の取り組みの1つとして、今回被災した東北地方や原発をリタイアさせる地域に、優先的・優遇的に太陽光パネル、風力タービン、蓄電池などのクリーンエネルギー製品の製造拠点やR&D施設を設立することによって、被災地域の経済復興に寄与すると同時に、日本にポスト原子力のニューエコノミーを立ち上げます。
現実路線のリスク
クリーンエネルギーのコストは相対的に低下する〔AFPBB News〕
しかし、クリーンエネルギーはコスト高や、自然条件に左右されるため安定供給に問題があることは事実です。
しかし、現状だけでことを判断するのは危険です。10年20年のスパンで世界のエネルギー観を構築し、そのうえで国の進むべき指針を決め、国民に課題に立ち向かわせるのが国家ビジョンでしょう。
エクソンモービル(ExxonMobil)によると、新興国の人口増加・経済発展によって世界のエネルギー需要は2030年までに今後35%増加すると予測されています。
一方、原油開発は、深海や北極圏など今後ますます危険かつ高コスト環境下で行われることになります。つまり化石燃料は、需要の増加と供給コストの上昇によって、その価格は間違いなく上昇トレンドにあります。
一方リニューアブル発電は、太陽光などを中心に市場規模の拡大による規模の経済性、たゆまぬ技術革新・改良、シリコンなど原材料価格の下落により、その価格は間違いなく下降トレンドにあります。
例えば、800MWのガス火力発電所を建設し(1kW当たり1000ドル)、70%の設備稼働率で20年間運転することを想定し、燃料のLNG(液化天然ガス)を現在の価格レベルである1トン当たり5万円として発電コストを概算したところ、約9円/kWhとなります。
仮に10年後に原油価格が1バレル200ドルに到達し、原油価格にリンクしている日本のLNG価格が2倍になった場合、発電コストは約15円/kWhに上昇します。
一方、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2009年に発表した「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」によりますと、2020年までの太陽光発電コストを14円/kWhまで引き下げることを目標としています。
ガス火力発電コストの試算は想定事項によって振れますし、NEDOの太陽光発電コストもあくまでも目標値です。
しかし、筆者の伝えたいポイントは、現状の枠組みの中で構築された現実路線の国家ビジョンにはリスクがあるということです。現状のエネルギーの常識が、10年後のエネルギーの非常識になっている可能性が十分あるからです。
包括的な「エネルギー基本計画」の必要性
長期的な視点とエネルギー観に基づいた国家ビジョンを新たな「エネルギー基本計画」に落とし込む際に、より包括的な施策の導入が必要です。
現行の「エネルギー基本計画」は、2020年までに1次エネルギー供給に占めるリニューアブルエネルギーの割合を10%にする目標を掲げています。
この目標を達成する具体的な施策の1つとして、リニューアブル発電からの固定価格買取制度(Feed in Tariff)の導入が提案されています。
しかし、現行のRPS法(Renewable Portfolio Standard)の見直しについての言及はありません。RPS法は、電気事業者に一定量のリニューアブル発電からの電力供給を義務付ける制度です。
2009年の販売電力量が8585億kWhに対し、現行のRPS法のリニューアブル発電義務量が104億kWhですから、その比率はわずか1%強です。
米国では州単位でRPS法が導入されていますが、カリフォルニア州は2020年までに電力供給の3分の1をリニューアブル発電で賄うRPS法を施行しています。
カリフォルニアの例を見るまでもなく、リニューアブルエネルギーが1次エネルギー供給の10%を占める政府目標に対し、現行RPS法がほとんど寄与していないことは明白です。
日本のお金は日本のために
最後に、お金の話をしたいと思います。下のグラフは毎年日本が石炭・石油・LNGなど輸入燃料に支払った金額を示しています。
1995年は5兆円程度であったのが増加の一途をたどり、2008年には5倍以上の約28兆円に達しました。28兆円と言えば当時の国家予算が約84兆円でしたので、日本は何と国家予算の3分の1にあたる金額をエネルギー費用として海外に支払いました。
今後もこのままエネルギー価格の上昇に合わせコントロールする術もなく、赤の他人に莫大な燃料代を支払い続けていくのか?
それとも、日本のエネルギー安全保障を自らの手でコントロールするために自己投資をしていくのか? 原子力に頼れなくなったポスト原子力時代に突入した今、日本の選択は待ったなしです。
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