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チェルノブイリの教訓 圧政と欠点と愚かさについて
2011.04.21(Thu) Financial Times (2011年4月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本の原子力安全当局は先週、福島の原子力発電所事故の警戒レベルを最大の7に引き上げた。当局は福島の緊急事態をソ連のチェルノブイリ原発事故と同じくらい深刻だと見なしているということだ。筆者には、これは過大評価された比較に思える。
ウクライナの原発爆発事故から25年経った今も、筆者は1986年4月の恐ろしい数日間の出来事を一つ残らず鮮明に覚えている。当時は26歳で、通信社ロイターの外国人特派員としてモスクワに駐在していた。
4月25日金曜日にキエフに飛んだ。ブリティッシュ・カウンシルのプログラムの一環としてキエフ市内の大学で教えていたスコットランド人の友人ローナと数日間過ごすためだ。この週末にキエフにいた西側のジャーナリストは筆者ただ1人だった。
何も知らずにキエフ巡り
チェルノブイリ原子力発電所の4号炉を覆う「石棺」〔AFPBB News〕
夜に大酒を飲んでいる時に、北に130キロ行ったところで異常な出来事が起きていた。技術者たちがチェルノブイリ原発4号炉の自動停止装置を切る作業を伴う実験を行っていたのだ。
出力が猛烈に急上昇した後、原子炉は爆発した。4月26日土曜日の午前1時23分のことだ。
世界は無論のこと、ソ連でも、共産党の高級幹部やKGB(国家保安委員会)、数人の科学者、医者、消防隊員を除くと、誰も事故のことを知らなかっ た。放射線がウクライナ、ベラルーシ、ロシアなどへ拡散しているのに、秘密主義と欺瞞というソ連の習慣のせいで、何百万人の人が何も知らされずにいた。
ローナと筆者は知らぬが仏で、暖かい春の日差しの中、キエフ巡りをして土日を過ごした。ソ連の基準からすると、キエフは心地よいほど緑が多く、風通しのいい街で、公園や緩やかに起伏した丘陵に満ちていた。今は見えない放射線に覆われている。
日曜の夜は、ホテルの中のドルしか使えないバーで2〜3杯飲んだ。外に出ると路面電車の停留所まで歩き、ベンチに腰かけて、キエフ大学に行く電車が来るのを2人で待った。
国営タス通信が事故について報道したのは事故発生から68時間後のことだった(写真はモスクワのクレムリン周辺)〔AFPBB News〕
4月28日月曜日にモスクワに戻った。クレムリンの近くにあるロイターのオフィスに足を踏み入れるや否や、同僚が、キエフで「何かおかしなことが起きている」ことに気づかなかったかと尋ねてきた。
何も気づかなかった。通りは静かだったし、空港も正常だった。
「ああ、そうか」と同僚は言った。「ただね、スウェーデン大使館から電話があって、ウクライナの原子力災害について何か知らないか聞いてきたんだ」
それから数時間して、事実が明るみに出た。フィンランドとスウェーデンの当局がスカンジナビア半島に向かって流れる放射能雲について報告したの だ。不安が世界を駆け巡った。だが、ソ連政府はなお沈黙を保った。国営タス通信がチェルノブイリで事故があったことを伝える短く、曖昧な記事を配信したの は、事故発生後68時間近く経ってからだ。
事実よりプロパガンダを優先する昔からの流儀にこだわり、タス通信は次に、米国では1979年だけで2300件の原発事故・故障があったという2本目の記事を配信した。偽善と二枚舌は、固いパンと同じくらいソ連らしいものだった。
けたたましく鳴ったガイガーカウンター
筆者の個人的なドラマが最高潮に達したのは、モスクワの米国大使館の職員に放射能汚染の検査をしてもらった時のことだ。体の放射線量は正常だった。だが、ガイガーカウンターがキエフの停留所のベンチに座った時に着ていたジーンズを検査すると、ビービービーというけたたましい音を発した。
「いいでしょう、バーバーさん」と米国の外交官が言った。「このジーンズは我々が燃やしておきます」
それから四半世紀。チェルノブイリの最も重要な教訓は、圧政的で秘密主義の政治体制は途方もない規模で国民を裏切るということだと筆者は思っている。
民主主義は過ちを犯すが、孤立し、自国民を疑う圧政は人権も個人も重んじない。その結果、普通の工業化社会に期待される安全文化を著しく欠いていることが多く、危機時に無責任な行動を取る傾向がある。
改革派のソ連の指導者、ミハイル・ゴルバチョフ氏はこの点を理解していた。彼は事故対応の不手際を利用し、数十年間に及ぶ隠し立てをやめ、グラスノスチ(情報公開)に切り替えることを訴える議論の根拠とした。
しかし、古い習慣はなかなかなくならない。前大統領で現首相のウラジーミル・プーチン氏の下では、ロシア当局は2000年の潜水艦「クルスク」沈没やその他の事故について、率直に情報を公表してこなかった。
福島にも通じる教訓
2つ目の教訓は、原子力産業には最高水準の設計とメンテナンスを守らせなければならないということだ。欠点のある原子炉の設計と不十分な訓練しか受けていない作業員がチェルノブイリ事故を引き起こした。同じように、お粗末な規制のせいで、福島のような古い原子炉が運転継続を認められていた。
ベラルーシ、ロシア、ウクライナの当局によると、チェルノブイリに起因する経済的損失は数千億ドルに上るという。こうした試算は誇張されているか もしれないが、原発の安全を保つためのコストがチェルノブイリ型の大惨事の汚染除去にかかるコストよりはるかに小さいことは間違いない。
最後の教訓は、人間は完璧ではないということだ。知識を手に入れ、未知の領域に踏み込もうとする人間の本能は、高貴であると同時に危険だ。チェル ノブイリのチームが無謀な実験を行っていなければ、事故は起きなかったかもしれない。そして、筆者がくすぶるジーンズの夢をまだ見ていることもなかったろ う。
By Tony Barber
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