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福島原発からの報告
■ 谷川 武:愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学分野
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■from MRIC
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4月16日午後から19日午前の予定で非常勤産業医として福島第二原子力発電所(以
下F2)に寝泊まりして健康管理を支援しています。これまでの状況を要約します。
福島第一原子力発電所(以下F1)のみならず、F2ももう少しでF1と同様の事態にな
るところでした。F2も震災当初から不眠不休で皆がんばっています。確かに東京電力
は今回の原発事故の当事者であり、広範囲の放射能汚染の加害者ですが、F1,F2で働
く所員の多くも自宅、家族を失ったり、自宅が避難指示区域にあったりする被災者で
す。10日以上、震災から一度も戻れず、家族の安否も電話がつながらずに確認できな
いまま、電気が供給されない原発で命を張って事態収拾に努めた方々です。その中に
は九死に一生を得た方々もいます。しかし、避難所では露骨な批判を浴び、風呂も入
れない状態で通常勤務以上のストレスの高い激務をこなしています。これまでは、急
性期でしたがこれからは慢性のストレス状態が続きます。
17日に長期ビジョンが東電本社から示されましたが、フェーズが変わったことから
震災当初から激務をこなした所員に長期休暇をとらすことや、復旧を進めるF1の所長
以外に長期ビジョン担当の所長(前所長が適任か)を現地に常駐させることが適切と
思います。
また、F2の状況も次もし津波が襲えばF1と同様の状態になることは避けられず、所
員が一丸となって対策を進めています。そのため、F2からF1に応援を出す余裕はあり
ません。F1はすでにレベル7です。一企業が事態収拾する事態ではありません。東電
本店をはじめ、ALL JAPANでF1を応援することが求められます。
産業保健に関してもこの一ヶ月の対応は現場では必死でやっていますが、これから
は計画的な健康管理体制が求められます。現地の医療スタッフは産業医科大学から2
人の医師の常駐を希望しています。本日産業医科大学の森学長補佐に連絡したところ、
東電本社の要請があれば検討すると回答を得ましたのでF2増田所長から本店に現地か
らの声を届けてもらうことを依頼しました。今後、従来からの東電の産業保健体制で
はなく外部からきちんとF1,F2の所員の健康管理(通常の労働安全衛生法に基づくも
の以外にストレス対策、放射線被曝対策も含めたもの)を実施することが求められま
す。これは、原発周辺地域住民も含めた国の枠組みが必要です。
谷口プロジェクト(原発作業員の自己末梢血幹細胞採取)について両所長とも感謝
しており、本日午後F2の副所長が担当として詳細な説明を求めて来室します。虎の門
病院谷口医師の現地での説明も実施する予定です。
F2の体育館がF1所員の宿泊所になっています。夜間巡視すると重症の睡眠時無呼吸
症候群(SAS)患者による強烈ないびきにより、睡眠を妨げられている状況でした。昨
日、フィリップス社に支援を要請し、CPAPの提供を受け、これまでCPAPを使用してい
た2名に装着し、さらにSASが強く疑われる大きないびきを発している方々に置き手紙
を置きました。今晩からそれらの方にCPAPを装着する予定です。
愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学分野
谷川 武
石巻ローラー作戦についての報告:主観的な評価も交えて
■ 小野沢 滋:亀田総合病院 地域医療支援部
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■from MRIC
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被災後1ヶ月を経過した石巻で、壊滅地区以外では最も被害のひどかった地区の元
世帯数11,271世帯について全戸調査を行いました。各地からのボランティアの医師、
看護師、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど延300名程度の参加を得て、4月
15、16、17日の3日間にかけて行ないました。
対象住宅に寝泊まりしている人を調べ、1,409世帯が対象地区の住宅に居住してい
ることがわかりました。要介護者や弱者がどの程度この地区に居るのか、という事が
当初の関心事でした。たしかに、終末期の悪性腫瘍の方や、インスリンが中断してい
る方、認知症の増悪が見られる方など少なからず対応が必要な方はいらっしゃいまし
たが、緊急で対応が必要な方は20名、準緊急(1週間以内)が84名、1ヶ月以内にか
かわりが必要だろうという方は170名、合計274名の方に対して何らかの対応が必要と
考えられました。20名の方の対応は全て終了し、地域の訪問診療に繋いだ方が2名で
それ以外の方は、処方再開の手続きや、臨時診療所の紹介、包括支援センターへのつ
なぎなどで大丈夫な方達でした。褥瘡悪化は一例も見つかりませんでした。
これらの数は、予想に比べ非常に少ないものでした。調査対象があまりにも被害が
大きい地域であったというのが、その理由だと考えられます。また、避難所に避難し
なかった地域にはもっと要介護者が居るものと推測されます。しかし、それらの地域
に関しては包括支援センターや介護支援事業所が残存しており、震災による増悪は有
るであろうと予想されるものの、すでにサービスが導入されている可能性が極めて高
いと考えられます。それらの地区についての調査は、今後の課題として残りますが、
緊急性については余り無いかもしれません。
いずれにせよ、石巻地区の避難所や在宅には要介護者や褥瘡の悪化した患者が非常
に少ないという印象を受けます。気仙沼市で訪問診療の仕組を作った永井医師と電話
で話す機会がありましたが、毎日、褥瘡の創処置に追われ、訪問が数件しかできない
との事でした。これは明らかに石巻の状況と異なっています。この点は石巻市介護保
険課の保健師の動きと関係がありそうです。
石巻市では保健師が中心となり、被災後1週間頃から各避難所から要介護者につい
ての相談があると、とにかく周辺の施設に入所をお願いし、褥瘡などがある場合には、
その施設や病院に出向いて、石巻日赤に運んだり、という活動を地道に行い、150名
程度の患者を施設や病院に一時的に入所、入院させていたのです。おそらくこの事が、
気仙沼で起きた褥瘡の多発を防いだものと予想されいます。
このように保健師の活動が有効であったという傍証が得られた一方で、今回の調査
は石巻地区に残る多くの問題点も浮き彫りにしました。今回の調査で問題だと感じた
点を如何に列挙します。
1)栄養摂取
車のない多くの家庭でパンとおにぎりだけの生活が今も続いています。自宅避難者
には配給がないため、避難所にいって期限切れの菓子パンとおにぎりをもらい、ほそ
ぼそ食べている人が数多くいましたが、彼らの多くは食事は満足だというのです。こ
れは、ただで貰って申し訳ない、という意味で満足なだけで、医師の立場からすると
明らかにバランスの極めて悪い食事です。
2)自宅避難
自宅避難者の中には、ほぼ壊滅した中にたつ一軒家で一回部分が一部の壁と柱2本
で立っている家の2階に住んでいる人や、傾きかけた3階建ての2階部分に住んでいる
人、水道、水、電気、下水のない集団住宅に住んでいる人などいずれも、次回津波が
来たら確実に被害を受けるであろう地区の中の余震でも崩れかねない自宅や、衛生的
に極めて危うい場所に済んでいる方が1,409世帯も居ること自体が大きな問題だと感
じます。中越沖地震の時には行政が立ち入り禁止住居を決めていたと記憶しています。
今日、この地域の医療統括者の石井先生が市に確認したところ、そういった立ち入り
禁止については被災後2週間目までに定めなければならず、石巻市は混乱の中、2週間
以内に定めることができなかったので、もう立ち入り禁止にはできない、という回答
を得たとのことでした。もし、余震でそういった住宅が崩れたら、もし、余震でその
住宅に援助に行っていた訪問看護師や、訪問中の医師が巻き添えになってなくなった
ら、誰が責任をとってくれるのでしょう。
3)小中学校の再開
4月下旬から、小中学校が再開される予定です。しかもほとんどの校舎は同じ場所
でです。これまでは、避難所に居る人達をどうするか、という問題に意識が向いてい
ましたが、自分で現地に赴き、現場を見て、また、ある調査班から公営住宅に子供た
ちが大量に帰ってきているということを聞くに及んで、これはマズイと思いました。
渡波小学校というのは防砂林の直近に建つ小学校で、ほぼ海辺と言ってもいい場所に
あります。周辺の住宅は完全に壊滅し、残っていないような地区です。なんと、この
小学校が開校する予定だということで、4階建ての公営住宅に住む人達が子供を連れ
て戻ってきてしまったのです。電気も、水も、下水もなく、前の道路は夕方には冠水
し、破傷風が出ている瓦礫だらけ、自動車が逆さのまま放置されている中で子供は自
転車で走り回っていたというのです。 今後、最大余震が予想され、また、再度の津
波の襲来も予想されているこの時期になぜ、被災地の真ん中の小学校を開校するので
しょう。市は、避難所からのスクールバスはもともとスクールバスがあった地区以外
は出さないということで、親たちは学校にあわせ、否応なく戻れる住宅に戻ってし
まっているのです。しかも、きちんとした評価も住んでいない住宅に。いつ最大余震
が起き、いつ再び津波が襲ってくるかもしれない今の時期に、冠水してしまうような
通学路を子供たちが歩いて通うことだけは何としても防ぎたい。これが私の今の最大
の関心事です。
●まとめ
今回の調査で、被害甚大な地区には今のところ、高い介護ニーズはないことが判明
しました。また、保健師たちの初動がかなり適切であった可能性が高いことも分かっ
てきました。混乱の中、150名の要介護者の域外避難をコーディネートした彼女らに
敬意を感じずにはいられません。
一度域外避難した方達が先方の病院から退院を迫られているという話をローラー作
戦のスタッフが何人もの家族から相談を受けています。今後は保健師さん達と共に帰
宅時のコーディネートの仕組を作る必要がります。
一方で衛生面、住宅面、危機対応では非常に危うい状況に今も石巻が有ることは変
わりありません。信じられないようなことが、いろいろな縦割りの中で生じています。
緊急時には平時の仕組と全く異なる仕組、ローマの独裁官のような仕組がぜひとも必
要だと強く感じています。
亀田総合病院 地域医療支援部
小野沢 滋
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