http://jp.wsj.com/japanrealtime/2011/04/19/
2011/4/19 18:09

ゴーストタウンと化した楢葉町、遠のく避難者の帰宅

事故を起こした福島第1原子力発電所から20キロ圏内に位置する避難指示が出された8市町村の1つ、福島県双葉郡楢葉町。町は今、ゴーストタウンと化している。そこには避難指示区域に指定された近隣の多くの市町村同様、不気味な静けさが漂っている。

Ko Sasaki/The Wall Street Journal
閑散とした楢葉町の通り（14日）

ときどき現れる災害対応要員や避難指示に従わず、かたくなに自宅にとどまっているごく一部の住民以外、楢葉町に人影はない。だが14日、楢葉町の小さな墓地で先祖の墓を掃除しているワタナベ・エミさん（38）とケンジさん（35）の姉弟に出会った。

二人は、保険証やはんこ、パソコンなどのわずかな必需品を取りに一時帰宅したのだという。震災の翌日、3月12日の朝に避難指示が出されて以来2度目の帰宅だ。

姉のエミさんは、町には原発があるため、何かあれば一瞬で壊滅的な状態になるだろうといつも思っていたという。だが震災当日は、地割れを引き起こすほどの地震の大きさにショックを受け、原発にまで気が回らなかったと話す。二人は高台にある自宅から津波が押し寄せるのを目撃した。

エミさんは、翌朝、自衛隊の飛行機が頭上を飛ぶ音が聞こえてきたのを覚えているという。その後、避難勧告をする町内放送が流れてきた。

「町内全員避難して下さいと言われた。皆が避難しようとして渋滞ですごかった」と、エミさんは述べた。

ワタナベさん一家は、当初避難は2、3日で終わると考えていたという。「まさかこんなに（長く）戻れなくなるとは思わなかった」。こう話すエミさんは、透明な雨がっぱとゴム製の長靴を着用し、顔はマスクで覆っている。

エミさんとケンジさん、二人の両親と祖父母は全員、最初の1週間は他の住民とともに体育館に避難していた。だが、そこでの生活は思いのほかきつかったと話す。狭い場所に大勢が押し込められていた上、寒さがこたえたという。

そこで家族バラバラに避難することになった。今は祖父母は神奈川県川崎市の親戚の家に移り、エミさんとケンジさんはそれぞれの友人宅に世話になり、両親は避難所にとどまっている。

エミさんたち姉弟が最初に帰宅したのは2週間前。飼っていた3匹の猫を助け出すためだった（3匹とも元気に生きており、今は動物病院に預けられている）。だが、仮設住宅への入居をこれ以上待つことはできないと考え、福島県内の別の場所で部屋を借りるため、必要な書類を取りに再び帰宅したのだった。

将来、楢葉町に戻って暮らすつもりかどうかを尋ねると、エミさんはあいまいに次のように述べた。

「戻りたいけど、多分無理でしょうね。でも、祖父母にとっては、やはりこっちの方がいいと思う」
記者： Daisuke Wakabayashi 　

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