01. 2011年4月18日 11:02:58: 03WQF4CLfA
福島原発事故の長期的影響デービッド・ブレナー http://jp.wsj.com/Opinions/Opinion/node_220875
日本の福島第1原子力発電所の危機が続くなか、遠い日本の原発付近の住民、また米国民の、被曝(ひばく)に対する懸念はどれほどのものだろうか。そして、われわれは、放射線被曝の長期的影響についてどれだけ知っているのだろうか。
放射線に関する危険性は、原発から半径20キロメートルの避難区域のすぐ外側では小さく、日本の他の地域では極めて小さい。米国など海外においてはさらに微小であると、われわれは自信を持って言うことができる。明らかに、放射線の危険性は、(目的地が東京や京都であっても)われわれの旅行の計画を変更するほどのものではなく、避難区域に近い場所ですら水や食べ物の摂取を控えなければならないほどではない。 日本のこの状況の第一段階は、ゆっくりと終わりに向かいつつある。大量の放射性物質の空気中への放出は過ぎたもようで、原発近くの空気中の放射線量は3週間で着実に下がってきたことがわかっている。この間、風が沖に向かって吹き続け、放出物の大半が太平洋に放たれたことは極めて幸運だった。その結果、福島とその周辺地域の放射線量は低く、遠く離れた東京、さらに遠い地域では非常に低くなっている。 これは何を意味するのか。放射線被曝後の長期にわたる懸念とは、がんである。放射線量が高ければリスクは高まり、低ければそれだけリスクも低くなる。極めて低い放射線量なら、リスクはさらに低下する。風は、本当に、われわれの友人だった。 しかし、事故の第二段階――長期間にわたり続き、より深刻な問題となる可能性のある――は、今、始まろうとしている。われわれが最も懸念する2つの放射性同位元素は、ヨウ素とセシウムだ。放射性ヨウ素は半減期がわずか8日なため、放出された放射性ヨウ素のほとんどすべてが2、3カ月で消える。 放射性セシウムとなると、話は別だ。半減期が30年と長い。つまり、福島原発から放出されたものが何十年もわれわれの身の回りにあるということだ。この放射性セシウムのほとんどの行き着く先は太平洋で、2万京ガロンの海水でかなり薄まるだろう。しかし、放出物の一部は乾いた土の上に、私たちの食物や水に残る――そして、極めて低いレベルで、文字通り何世代もそこにとどまる。 これは憂慮すべきことなのか。これについては、わかっていることとわかっていないことがある。わかっていることは、この長期被曝により個人ががんになるリスクが極めて小さいことだ。ほとんどの人が人生のある時点でがんになるリスクは約40%で、食料中の放射性セシウムからの放射線量が、個人のがんのリスクを大幅に高めることはない。 しかし、このリスクについて、別な観点――各個人ではなく、人口全体の観点――からみることが可能であり、またそうすべきである。少数の人々にわずかなリスクの増加はある。しかし、それとは別に、数百万、数十億という人のリスクをわずかに増やす可能性があるのだ。 宝くじの購入を考えてみよう。宝くじを買った他の数百万人と同じように、あなたが当選する確率は極めて少ない。しかし、宝くじを買った数百万の人々の中には、数名の当選者が必ずいる。誰が当選するのか分からないだけだ。これと同様に、極めて低い放射線を浴びた数多くの人々に、がんの診断が下るリスクが増えるのだろうか。その可能性はあるが、はっきりとしたことはわかっていない。 なぜ、もっと明確なことが言えないのか。われわれは、まさに第二次世界大戦で日本に原爆が投下されて以来、長い間、放射線の健康被害について研究を重ねてきた。しかし、これらは難しい科学的質問だ。また、低放射線量のリスクに関する基礎科学的根拠について、米エネルギー省で行われている唯一の研究プログラムが、米予算交渉で大幅な支出削減に直面、あるいは存続の危機にさえ立たされていることも、何の助けにもならない。 これは本当に問題なのか。もちろんだ。こうした不透明感すべてが、西側諸国の原発の将来についての討論の枠組み作りを困難にする。近いうちに、多くの老朽化した原子炉の交換を余儀なくされるか、原子力発電と決別しなければならなくなる。こうした問題のほかにも、CTスキャンなど医療画像診断システムの急速な増加や空港での新しいX線スキャナーにどう対応すべきかについて、合理的な決定を下すためには、われわれは低放射線量のリスクをもっと確実に理解する必要がある。 それを怠った場合、「放射線は例外なく危険」や「低い放射線量ならリスクはない」といった極端な意見を中心に議論が展開されてしまう。どちらの意見も真実ではない。 (ブレナー氏は、コロンビア大学医療センターのセンター・フォー・レイディオロジカル・リサーチのディレクター) |