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第161回】 2011年4月15日
坪井賢一 [ダイヤモンド社取締役]
福島原発震災 チェルノブイリの教訓(4)汚染食品のデータをどう読むか
福島原発の事故は、国際原子力事象評価尺度(INES)でチェルノブイリ原発事故並みのレベル7に引き上げられた(4月12日)。
放射性物質の総量が未発表なのでなんとも言えないが、原子力安全・保安院と東京電力の記者会見を報じた各紙記事によると、放出された放射性物質の量は数十万テラベクレル(保安院と原子力安全委員会の推計で差がある)で、チェルノブイリの520万テラベクレルに対して10%だということだ(1テラベクレルは1兆ベクレル)。
前回述べたように、初期の爆発と1週間後の火災による大量飛散によるものと考えられる。レベル7は1−3号機に関する評価であり、4号機は核燃料プールの事故だから含まれていないが、全4機の内部に存在する放射性物質の総量はチェルノブイリより多いのは当然で、4倍から数倍だろう。
放出量がチェルノブイリの10%で済んでいるうちに早く収束させてほしいものだが、まだ先は見えない。
筆者は爆発発生翌日から「30キロ圏からの避難、30キロを越えた地域でも放射線量の多い地域は避難が必要」と書いてきたが、今週ようやくそのような施策がとられるようになった。自慢しているのではない。これは初期の状況であることを強調したいのだ。
データがないのでよくわからないが、さらに避難すべき地域が増えている可能性があるので、日本に多数おられる放射線の専門家を集めて福島県内を細かく計測する必要があることを指摘しておきたい。
いいですか?しつこいですが、詳細な観測と公表、これが風評被害防御策にもなるのです。
東電は数万トンにのぼる放射能汚染水を海洋に流した。近隣で水揚げされた魚類から放射性セシウムが毎日のように検出され、漁業はたいへんな危機にある。海洋投棄に対して世界中から批判の声が上がっている。
魚類については、半減期が8日と短い放射性ヨウ素の規制値がなかったことから、厚労省は魚類も野菜類と同じ暫定規制値にすることを発表した。4月5日付の通達である。これで農産品・水産品の暫定規制値は決まった。
この数値と日々検出されるヨウ素131やセシウム137などの実測データを私たちはどのように読めばいいのだろうか。
次のページ>> 暫定規制値を上回っても大丈夫なのか危険なのか
厚労省による魚類を含む暫定規制値は次のように定められた。新聞やテレビでは全てを掲載していないので、ここでは厚労省の文書に記載されている情報を全部転記しておこう。
放射線医学の専門家は、「日本の暫定規制値は厳しいほうで、これを上回っても健康に害はない」とする見解と、「暫定値以下なら安全ということではない。たとえもっと少なくても危険」という意見に分かれる。マスコミに流れるのは前者が多く、これがまた疑心暗鬼を呼ぶ。どちらが正しいのか。じつは、両者とも正しい。
次のページ>> より正しく表現すれば、「ただちに健康に影響しないが、20年後はガン発生率が上がるものの、どの程度上がるかは人によって条件が違うのでわからない」
放射性物質の場合、この値以上から危険だという境い目(閾値)がない。だから「暫定」なのである。
放射線を被曝する量が増えれば、遺伝子が傷ついてDNAのコピーにミスが起きる確率が上がる、したがってガンになる確率も上がるという意味だ。つまり、暫定値とは専門家グループがいろいろな仮説を組み立て、「このくらいなら確率は十分に低いからだいじょうぶだろう」とざっくり決めた値なのである。
ちなみにベクレルとは、放射性物質が放射線を出して崩壊し、別の物質に変わるときに出る放射線量の単位で、1秒間に1個の原子核が崩壊すると1ベクレルである。1秒間に100個の原子核が崩壊する能力があれば100ベクレルだ。
0歳児から90歳代まで同じリスクというのもおかしな話なのだが、詳細を決められるようなものではないらしい。せいぜい乳幼児とそれ以上を区別しているくらいだ。つまり、国民は自分の条件を当てはめて考えなければならない。
テレビのコメンテーター学者が、どんなに高い数値が出ても「暫定規制値を超えているが、ただちに健康に影響はない」としているのも、じつは正しい。もちろん、セシウムの野菜類への規制値500ベクレルに対して、5000ベクレル、1万ベクレルといった桁違いの量は別だが。
チェルノブイリ事故でも、子どもの健康被害(小児甲状腺ガン4000例《死者15人》)が計数として明確になったのは20年後の2005年である。おとなのガン死亡者発生数はよくわからず、将来を含めた予測で4000人(IAEA)、9000人(WHO)から9万人(グリーンピース)まで幅が広い。確実な計数はわからないのである。
したがって、より正しく表現すれば、「ただちに健康に影響しないが、20年後はガン発生率が上がるものの、どの程度上がるかは人によって条件が違うのでわからない」ということになる。
前回、IAEAはチェルノブイリ事故の影響でガン死亡増加率が2−3%増えるとみている、と紹介したが、IAEAも目分量だろう。
自分たちで考えるほかはない。たとえば筆者のような50代のヘビースモーカーにとっては、ガンになるリスクは現状の人工放射性物質より、はるかにタバコのほうが大きいだろう。また、各地域の平均余命や食生活、自然環境による差も大きい。本当によくわからないのである。
次のページ>> チェルノブイリで現在はっきりしていること
チェルノブイリで現在はっきりしているのは、小児甲状腺ガンの増加だけのようだ。子どもの検診だけは留意しなければならない。
福島原発がレベル7に引き上げられた後、枝野官房長官は「福島の事故は重大だが、住民の健康被害は出ていない」(4月12日)と述べた。
当たり前である。急性放射線障害以外は、数年以上経過しないとわからない。チェルノブイリでも、事故から5年後の1991年5月に開かれたIAEA国際会議で、「作業員以外の健康への影響はない」(★注A)と報告されている。小児甲状腺ガンが増え始めたのは1990年からで、この91年の報告では取り上げられていない。データがなかったと思われる。
繰り返すが、福島ではすでに子どもの甲状腺検査は行なわれており、「問題ない」とされている。予防剤のヨウ化カリウム溶液も投与された。したがってチェルノブイリ周辺のようなことは起きないだろう。しかし、これも水素爆発初期の状況だ。
1か月以上経過して、福島県の学校の校庭から大量の放射性物質が検出されるケースも出ている。そのような校庭は使えないだろう。したがって、これから長期間にわたる検査の継続を望みたい。
最も多いチェルノブイリの健康被害は、放射線被害を恐れてストレスが増し、そのストレスによって心理的な健康障害を引き起こすケースだという(★注B)。これも核災害の健康被害に違いない。
筆者も毎夜寝床で煩悶する。「今ごろ福島の原子炉はどうなっているのだろう」と想像すると不眠になる。朝は憂鬱だし、ニュースを見るのが恐い。目をつぶれば、原子炉建屋が爆発する映像が脳裏に浮かび、チェルノブイリ4号炉のガレキと二重写しになる。
「ただちに健康に影響しない。たいした線量ではない」という高名な専門家の見解に安心することもある。最近は「ただちに」という声が聞こえるとますます憂鬱になるのだが。
仕方がない。気を取り直して自分の頭で考えよう。
輸入食品の放射能規制値
国内産食品の暫定規制値のほかに、じつはもう一つ、輸入食品の暫定規制値がある。これはチェルノブイリ原発事故後、厚生省(当時)が定めたものだ。現在もこの規制値は生きており、これを当時は「輸入食品中の放射能の濃度限度」といっていた。
次のページ>> アメリカとタイ以外では日本の規制値のほうが厳しい
輸入食品の暫定規制値は、日本の場合、放射性セシウムで370ベクレル/s(全食品)だ。この規制値を求めた論拠は以下のとおりである(★注C)。
・医療被曝や自然放射線による被曝を除く全ての被曝源からの線量合計は、一般公衆の線量限度5ミリシーベルト(1986年基準★注D)以下に制限される
・輸入食品からの被曝限度をその3分の1とする
・セシウム134とセシウム137の全放射性降下物における比率を66%、ストロンチウム90を33%、その他を1%とする
・一人当たり一日の摂取食物のうち、輸入食品の比率を35%とし、その全てが汚染されていると仮定
・以上の前提と仮定をもとに計算すると、セシウムの限度は421ベクレル/sとなる
・さらに総合的に判断し、370ベクレル/sとする
アメリカの輸入食品暫定規制値は370ベクレル、EUは370ベクレル(乳幼児用食品)と600ベクレル(一般食品)だから、いろいろ仮定を積み上げているものの、アメリカに合わせたのだろう。なお、370ベクレルは、1年間毎日1キログラム食べた場合に0.04ミリシーベルトに相当するという(一般公衆の年間線量限度は現在1ミリシーベルト)。
ここまでをセシウムだけに絞って整理しておこう。
各国で大きな差がある。日本からの輸入食品の検査は各国で厳しくなるだろうが、日本の国内産食品暫定値は200と500ベクレルだから、じつはアメリカとタイ以外では日本の規制値のほうが厳しい。つまり、EUや中国は規制する意味がないことになる。
これらの規制値はチェルノブイリ事故対策だったので、日本より規制値が甘い国は日本の暫定規制値に合わせてくる可能性はある。
タイやシンガポールは1980年代から非常に厳しい。これをもって日本人が、「過剰規制、風評被害だ」とは言えない。輸入食品の規制値は、各国の放射線に対する考え方によるからである。健康被害の将来の発生確率をどうみるかということだ。
チェルノブイリ原発事故から7か月後の1986年11月21日、タイで欧州からの輸入粉ミルク(90トン)からセシウムが66.01ベクレル検出され、タイ政府は販売を禁止した。取るに足らない微量に思えるが、タイ政府は次のような談話を出した。
「人間が生活するうえで、どれほど小さくとも危険性があれば、それを減じるために私たちは厳密な基準を守る」(パグディー・ポシシリ・タイ厚生省食品薬品管理局長★注F)。
1000ベクレルまで問題ないとみる国も、6ベクレルしか許さない国も、どちらも間違っているとは言えない。
「たとえ6ベクレルでも許さない」との方針は、政策というより当時のタイ社会の思想だからである(★注G)。
<※注A〜注Gはこちら>
★注A今中哲二「チェルノブイリ事故による死者の数」(「原子力資料情報室通信」第386号所収、2006、を著者がウエブで改訂し、公開している)
★注B金子正人「チェルノブイリ20年の真実 事故による放射線影響をめぐって」(「日本原子力学会誌」第49巻第1号所収、2007)
★注C「原子力百科事典ATOMICA」による。(財)高度情報科学技術研究機構が運営しているウエブ事典で、世界の研究機関の成果なども紹介している。
★注D1988年以降は一般公衆の年間線量限度は1ミリシーベルトに下がったがったが、食品の370ベクレル基準には影響しないとされ、現在もそのまま生きている。
★注E「原子力百科事典ATOMICA」(前掲)
★注F1986年11月21日付UPIによる配信記事
★注G輸入食品の暫定規制値はチェルノブイリ対策だった。日本では1987年に汚染された輸入食品が30件発見され、その後は年々逓減し、1998年を最後に検出されていない。
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