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日経ビジネス オンライントップ>IT・技術>エネルギー大変革
原子力発電の代替エネルギーは何か
「空想エネルギー論」を蔓延させないための本質的コスト論
2011年4月15日 金曜日 石井 彰
天然ガス 太陽光エネルギー EROEI エネルギー 産出/投入比率 原子力発電 風力発電
2011年3月11日の東日本大震災と、その後の福島第一原子力発電所の大事故は、直接的な主要被災地でない首都圏での大規模停電、大電力不足を発生させた。量的不足という意味では、1970年代の2回の石油危機時を上回るエネルギー危機である。
直接の被災地である東北の復旧、復興も今後の長期的大事業だが、首都圏の電力不足解消も短期的な復旧は不可能で、しかも中長期的に、これまでのエネルギー体制や論議を根底から覆すことになるだろう。
今回から3回にわたって、エネルギー源構成が今後どう変わっていきそうか、それによって国際情勢がどう変化しそうなのか、エネルギー関連業界がどう変化し、どのようなビジネスチャンスが生まれそうなのか述べたい。今回は、エネルギー源構成が、中長期的にどう変わりそうなのか述べる。
エネルギー源構成の変化
まず端的に言って、日本での原子力発電所の新規建設は無理であろうし、大事故を起こした福島第一原子力発電所の1〜4号機の再開は不可能であり、また福島原発の残った原子炉や、2007年の中越地震被害から完全復旧していない柏崎刈羽原子力発電所の未稼働分の再稼働も、少なくとも中期的には困難だろう。
世界的にも現在、建設中、計画中の約100基、合計出力90〜100百万キロワットの原発のかなりの割合、例えば3割程度は、大幅遅延、ないし中止になる可能性が十分あるだろう。さらに、日本やドイツを中心とする欧州の老朽化した原発の運転延長や建て替えも困難となろう。この合計数千万キロワット分の発電量、ないしエネルギー量は、別のエネルギー源で賄わなければならない。では、どのエネルギー源が代替するのか?
結論を先に言おう。新規原子力発電所の代替は、省エネと天然ガスが大宗を占め、風力発電を中心に再生可能エネルギーも増加するが、補完的役割にとどまり、救世主にはなり得ないだろう。現時点で、一部メディアでは、CO2対策で原子力に期待できなくなった以上、いよいよ太陽光発電や風力発電などのグリーンエネルギー体制に変換すべきとの主張も散見される。
しかし、そういう主張は、コストや使い勝手を軽視した単なる願望を述べたもの、敢えて言えば素人的な見解に過ぎないだろう。かつて1980年代まで日本の政治において、一定割合の人に根強い支持のあった「非武装中立論」が、意外なことに、いざ冷戦終結した後に急速に退潮したように、3月11日以前には、声高にこれら再生可能エネルギーの導入を叫んでいた人たちが、今回の大原発事故に直面した後、むしろ心なしか主張に元気がないように感じられる。なぜ、そのような結論が導かれるのか、以下に、これまでメディアで意外に取り上げられることがなかった、エネルギー問題の本質について簡単に述べることにする。
家庭でのエネルギー消費量は全体の1割程度
まず、そもそもエネルギー問題は、なぜ重要なのか? この基本中の基本を述べた本や論説は意外に少ない。「安くて大量で安定した」エネルギー供給がないと、現代文明は1日として維持することはできず、人類史上未曾有の大悲劇に見舞われ、人口が激減することは100%確実である。
なぜならば、現代人の生活の基盤である、家・建築物、衣服、食糧、食器、紙、家具、上下水道、化学・薬品類、道路・鉄道・船舶などの「最も基本的なモノ」の生産には、膨大なエネルギー投入が必須だからである。世界全体、あるいは日本全体でも、このモノの生産に全エネルギー消費の約半分があてられている。
重量物でもあるこれらの基礎物資の輸送・配送も考慮すると、全エネルギー消費の3分の2にもなる。「安くて大量で安定した」エネルギー源が不足すると、先進国で夜が暗い、テレビや電話・冷蔵庫などの家電製品が使えない、冷暖房が出来ない、車や電車に乗れない、というような瑣末なレヴェルの問題ではないのだ。
だから、日本でも、世界でも、家庭での直接的なエネルギー消費というのは、全エネルギー消費の1割程度しかない。日本のエネルギー消費の一部でしかない電力消費だけ見ても、家庭で直接使用する分は3割以下だ。しばしば、太陽光発電所などの宣伝に、家庭用電力需要の何千件、何万件分に相当するという表現が使われるが、比較の対象がこの意味で適切ではないし、原理的に稼働率がカタログ性能の1割程度しかなく出力が不安定なことにも、コストが非常に高いことにも触れていない。
産業革命以前よりも高い死亡率水準になる
安くて大量で安定的なエネルギーが供給されないと、中長期的に暖衣飽食の生活と公衆衛生インフラが崩壊する。この結果、死亡率が劇的に上がって、18世紀の産業革命以前の中世より、ずっと高い死亡率水準にならざるを得ない。
なぜ、産業革命以前より死亡率がずっと高くなるかというと、当時に比べて世界の人口と人口密度は約8倍に激増しており、世界人口の51%、先進国では78%が都市に居住しているからである。都市では人間生活に必然的に伴う排泄物・廃棄物の自然浄化は全く期待できず、食糧は全く自給できない。だからこそ、産業革命直前に比べて、世界のエネルギー消費量は約30倍に、一人当たりでも約4倍に上昇しており、しかも先進国では数十倍に激増している。
というよりも、本当は因果関係が逆で、18世紀に石炭という非常に安くて効率のよい化石エネルギー源が歴史上初めて本格導入されたから産業革命が生じ、その結果、公衆衛生インフラの確立と暖衣飽食が可能になり、結果、死亡率が劇的に低下して人口爆発が生じ、世界的に都市化が加速度的に進んだのである。ここのところの根本を理解していない、「空想社会主義」ならぬ、「空想エネルギー論」が世の中に蔓延しているのは、決して良いことではない(「エネルギーの爆食がもたらした2度目の人口増」参照)。
エネルギー源の利用価値を判定する9つの基準
カナダの著名なエネルギー専門家、ピーター・テルツァキアンは、価格・コスト以外の、使用者にとってのエネルギー源の利用価値を判定する9基準を挙げている。(1)汎用性(どんな用途でも利用可能)、(2)量的柔軟性(微細出力でも巨大出力でも自在に)、(3)貯蔵性と運搬性、(4)ユビキタス性(時期と場所を選ばない)、(5)エネルギー密度(面積・体積、ないし重要当たりエネルギー量)、(6)出力密度(時間当たりエネルギー量)、(7)出力安定性、(8)環境負荷、(9)エネルギー供給安全保障(政治的リスク)である。
この9基準と、価格・コストとの比較で、用途とシェアが決まってくる。特に、(7)の出力安定性は、太陽光発電などの再生可能エネルギーを考える際に、非常に大きな問題になる。東電管内の人は、原発事故後の計画停電で身にしみて理解しているだろうが、電気は貯蔵ができないので、必要な時に確実に供給できない電源は、仮にカタログ上は同じ発電能力を持っていても、価値は非常に低く、場合によって無価値となる。
石油は、最後の2つの基準以外では、他の全ての基準で最高点である。石炭は、(1)〜(4)に問題があり、(8)についてはエネルギー量当たりのCO2排出量が一番多く最低点である。
天然ガスは(1)と(3)に若干難があるが、(5)〜(7)は最高点で、(8)については、化石燃料の中でCO2排出量が一番少なく、特に発電では効率が良いので、石炭の3分の1程度しか排出しない、全体としてバランスのとれたエネルギー源だ。
原子力は(1)〜(4)に問題があり、また(8)については、CO2はほとんど排出しないが、放射能汚染という大リスクがある。(5)〜(7)は最高点である。太陽光発電、風力発電は、(8)、(9)は最高点だが、それ以外は最低点が付く。
エネルギーの産出/投入比率で考える「コスト」
さて、一番肝心の価格・コストである。ここで、コストと価格は全く異なる事に注意しなければならない。例えば現在、原油の価格は中東動乱や世界的な大金融緩和によって原油先物市場に投機資金が流れ込んだ事もあり、1バレル100ドルを超えているが、世界の平均生産コストは1バレル20ドル未満である。産油国の平均利益率(レント)は、何と8割以上もある! 今だけかもしれないが、こんなに儲かる商売は他に余りないだろう。
これは、需要家にとっては高い価格だが、世界全体でみると、“ぼろ儲け”した産油国が、消費国から大量の消費財を購入した結果、世界経済が回っている側面もあることを意味している。だから、世界大、即ち人類的観点で考える際には、エネルギー源の市場価格ではなく、コストで考える必要がある。
それでは、各エネルギー源のコストを決定する最大の要因は何か? テルツァキアンは、エネルギー源の価値を決定する全ての要因の中で、最も本質的で重要なのは、そのエネルギー源を獲得するのに必要なエネルギー量と、そのエネルギー源が持っているエネルギー量の比率、即ちエネルギーの産出/投入比率、専門用語ではEnergy Return On Energy Invested(EROEI)としており、これがコストを決定する最大の要因である。
このエネルギーの産出/投入比率が高いほど、エネルギー源としての本源的価値が高く、低コストとなり、現代文明を支えられるエネルギー源となるが、その比率が低ければ、いくら大量に存在して環境負荷が低くても、現代文明を支える主要エネルギーには原理的になり得ない。この点が決定的に重要だが、世間的によく認識されているとは言えない。各エネルギー源について産出/投入比率を見てみると、おおよそ以下のようになる。
石油・天然ガス :100倍(中東湾岸等)〜20倍(米国)
石炭 :30倍前後
原子力 :20倍前後
風力発電 :10倍〜20倍
太陽光発電 :5倍〜10倍
この産出/投入比率の推定値は、大まかな推定しかできず、また推定する人によってかなり偏りが見られるが、確実に言えることは、化石燃料、特に石油・天然ガスの数値が圧倒的に高く、次に石炭、原子力と続き、再生可能エネルギーは石油・天然ガスの5分の1〜10分の1程度しかないということである。再生可能エネルギーの中では、太陽光発電よりも風力発電の方が約2倍の倍率がある。石油・天然ガスの数値が群を抜いて高いのは、地表から油層・ガス層まで坑井を掘削すれば、高圧で自噴して来るからである。
この相対比率は、次のページに示す、米国エネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)が昨年公表した、米国での新規発電所(2016年運用開始)の電源別コスト比較にほぼ対応している。
この表では、一番発電コストが低いのが、上から6段目の最新型コンバインド・サイクル方式(Advanced Combined Cycle)の天然ガス発電で、百万ワット・アワー当たり$79.3である(右端の数字)。
なぜ、ここで米国エネルギー情報統計局の数字を引用したかというと、第一に、同局はエネルギー省傘下ではあるが、エネルギー問題は政治的なバイアスがかかりやすいので、日本銀行などと同様に、あえて政治的独立が制度的に保障されている専門機関であって信頼性、中立性が高いこと、第二に、米国では過去数年で「シェールガス革命」という天然ガス生産技術の大革命が世界に先行して生じて、天然ガス埋蔵量の飛躍的増大と価格低下が生じているため、今後の世界の動向を読むための先行事例として最適だからである(ちなみに、日本が輸入する液化天然ガス=LNGは、現状で大半が石油価格準拠の価格フォーミュラである長期購入契約となっており、いまだこのシェールガス革命による価格水準の低下が顕著ではないが、いずれ中長期的には日本を含む世界に波及して来ると考えられる)。
石油は、既に日本をはじめとして、世界的に発電にはほとんど使用されなくなっているので、この表には石油火力は載っていない。
この表を見る時の注意点は、太陽光発電(Solar PV: 下から5段目)のコストは、天然ガス発電の約5倍となっているが、稼働率(左から2段:Capacity Factor)が21.7%となっている。これはネヴァダ州などの砂漠での設置を前提としているためであり、雨天曇天が多い日本では、稼働率が12%程度と半分になるので、右端の総コストはさらに大幅に高くなることである。
太陽光発電の実質的なコストはさらに高い
再生可能エネルギー、特に太陽光発電の問題は、エネルギー産出/投入比率が非常に低く、コストが非常に高いことの問題以外にも、出力の不安定性という大問題がある。夜は全く発電できず、朝夕も出力が低いだけでなく、昼間でも天候次第で出力が大きく左右され、安定電源にはなりえない。
従って、同じ発電量でも使用価値が低く、安定化して同じ使用価値にするために、蓄電池などに電気を貯蔵してから使用すれば、さらに産出/投入比率が大きく低下して、コストは大きく上昇する。だから、実質的なコストは5倍より遥かに高い。
風力発電は、太陽光発電より稼働率が高くかなりマシだが、不安定性は解消されない。従って、コストが比較的低い安定電源である原子力の主要代替電源には原理的になり得ず、CO2削減の観点のみから実質補助金付きで補完的に一定量が導入されるだろう。
次回は、省エネルギーの余地は非常に大きいこと、天然ガスの資源量は、最近のシェールガスなど非在来型天然ガスの生産技術革命によって、少なくとも今世紀中は心配無いこと、不安定な再生可能エネルギーのバックアップ電源としては、機動性の高い天然ガス発電が最も適していること、石炭発電所の排出CO2を分離して地中処理するCarbon Capture & Storage(CCS)は、最近の研究でコストのみならず地質的リスク観点からも大きな期待はできないことが判明しつつあること、などを含めて、国際関係への波及を考える。
(次回に続く)
エネルギー大変革
2011年3月11日の東日本大震災と、その後の福島第一原子力発電所の大事故によって、直接的な主要被災地でない首都圏での大規模停電、大電力不足を発生させた。量的不足と言う意味では、1970年代の2回の石油危機時を上回るエネルギー危機である。中長期的に、これまでのエネルギー体制や論議を根底から覆すことになるだろう。このコラムでは、今後エネルギー源構成がどう変わって行きそうか、それによって国際情勢がどう変化しそうなのか、エネルギー関連業界がどう変化し、どういうビジネスチャンスが生まれそうなのか述べる。
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石井 彰(いしい・あきら)
エネルギー・環境問題研究所代表、石油天然ガス・金属鉱物資源機構特別顧問、早稲田大学非常勤講師。1974年上智大学法学部卒業。日本経済新聞社を経て、石油公団にて1970年代後半から石油・天然ガス(LNG)開発関連業 務、1980年代末から国際石油・天然ガス動向調査・分析に従事。その間、ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任。著書に『世界を動かす石油戦略』、『21世紀のエネルギー・ベストミックス』、『エネルギー:今そこにある危機』、『石油 もう一つの危機』、『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』ほか。
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