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日本の原子力災害:放射線に耐える
2011.04.11(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2011年4月9日号)
経済的・人的損失の暗雲が拡大している。
福島第1原発で炉心溶融か、周辺で放射性セシウム検出
巨大な津波に襲われ瓦礫と化した福島県南相馬市(3月12日撮影)。その後の原発危機で、5万人もの市民が避難することになった〔AFPBB News〕
精力的に動き回る南相馬市長、桜井勝延氏の首には、ペン型の線量計がぶらさがり、4週間に及ぶ原子力災害の悪夢のうち、後半2週間に浴びた累積放射線量を測定している。
43マイクロシーベルトという現時点での値は、胸部X線検査1回の被曝量とほぼ同じだ。それならば、恐れる理由は何もない。
だが、桜井市長は、市役所から25キロ離れた福島第一原子力発電所から飛来する放射性粒子が、かつては賑やかだった人口7万人の南相馬市を存亡を懸けた闘いに追い込んでいると考えている。
3月11日の津波では、南相馬市でも1400人以上の死者・行方不明者を出した。その後、放射線量が増加を始めると、原発に近い地域に住む約5万人の市民が避難指示を受けて退避するか、自主的に避難した。
南相馬市を襲う3つの不安
それ以後、大気中の放射線量はほぼ影響のない値に戻っているが、桜井市長が心配しているのは、避難した人の多くが南相馬市に二度と戻ってこないかもしれないということだ。
福島第1原発の汚染水1万1500トンを海に放出、東京電力
福島第一原発は依然として不安定な状態にある〔AFPBB News〕
大きな不安要素は3つある。1つ目は、日本政府や福島第一原発を所有する東京電力の発表する情報が、信頼に足るものではないかもしれないという点。2つ目は、原発がいまだ不安定な状況にあり、非常に大量の放射性粒子が突然放出される危険性があるという点だ。
そして3つ目は、事態の安定化に時間がかかればかかるほど、風や海流によって運ばれる放射性物質が漁師や農家の経済活動に与える損害が長期化するという点である。漁業と農業はこの地域の経済の生命線だ。彼らがいなくなれば、町も衰退する。
被害を受けた6基の原子炉のうちの1基で東京電力による窒素注入が開始された4月7日、こうした不安が改めて浮上した。窒素注入の目的は、水素爆発の再発を防ぐことにある。津波により冷却装置が失われた直後に発生した水素爆発では、原子炉から放射性物質が放出された。
桜井市長はこの発表以前から、再度の水素爆発に対する懸念を口にしていた。南相馬市が以前の姿に戻るという希望を市長がなかなか抱けずにいる理由も、そこにある。「情報不足が、市民に大きなストレスとフラストレーションを与えている」と桜井市長は言う。
放射能汚染の影響
それでも現状は、正確な情報が速やかに発表される状態にはない。機能停止した原子炉の1つから高濃度の汚染水が漏れ出し、採取した海水サンプルから法令濃度の750万倍の放射性ヨウ素が検出された問題で、東京電力は4月6日までに高濃度汚染水の流出をどうにか食い止めた。
魚介類にも放射線ヨウ素の暫定基準値、1キロあたり2000ベクレル
茨城県北茨城市の平潟港魚市場で、3月11日の震災後初めての取引をする仲買人たち。平潟漁協では1日に獲れたコウナゴから1キロあたり4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出された〔AFPBB News〕
だがこれより前に、原発から約70キロ南で獲れたコウナゴ(イカナゴ)からは既に通常よりも高いレベルの放射性ヨウ素とセシウムが検出されている。
この残念な事実の発覚を受け、菅直人首相は、魚介類に含まれる放射性物質について新たな暫定基準値を発表した。
安全性に問題がある食品に対する国民の不安を感じ取り(そして恐らく補償の確約にも後押しされ)、地元の漁協は今季のコウナゴ漁の中止を決めている。
放射能汚染に対する不安は、国際的な広がりも見せている。そして日本政府は、放射線レベルに関する科学的な証拠を示すだけでは十分ではないということを思い知りつつある。
国際的な広がり
インドは4月6日、日本からの食品の輸入を全面停止することを決めた。隣国の韓国は、高濃度汚染水の保管場所を陸上に確保するために低レベル汚染水を海に放出するという東京電力の決定について、事前に連絡がなかったことに憂慮の念を表明した。
韓国は、福島で汚染水が放出された太平洋には面していない。だが、日本と同様、韓国にも魚介類の豊かな食文化がある。理性的かどうかはともかく、人々の認識は重要だ。
理性的な判断というよりは感情的な理由から、福島から遠く離れた場所で作られた電子部品や機械部品、さらにはタオル製品までが、イタリアや中国などから放射性物質の検査を求められたり、返品されたりしている。
日本の関係当局は、相手の立場を思いやるのではなく、テクニカルな対応に終始し、事態の改善に役立っていない。
輸出業者は政府に対し、製品が放射性物質に汚染されていないことを輸出先の港に示す証明書を発行するよう求めている。だが、政府はもっぱら、日本の大部分の地域では放射線量は安全なレベルだと輸出業者を説得することに労力を費やしている。
「問題はどう不安を軽減するかであり、科学的証拠をどう提示するかではない」と日本経団連の根本勝則氏は指摘する。
高品質という日本の食品の評判に傷
インド、日本からの食品輸入を3か月間全面禁止
福島産に限らず、日本の多くの食品が輸入禁止になっている(写真は福島県二本松市のスーパーの野菜売り場)〔AFPBB News〕
折しも日本経済が支援を必要としている時に、これまでに世界約50カ国が日本製品の輸入を制限している。日本の農産物輸出先の6分の1を占める米国は、福島など4県の産品を検査対象としている。
欧州連合(EU)は、12都県の産品について、放射線検査を義務づけている。だが、対象地域の貿易業者は、検査用機器の不足を訴えている。
日本の商社の幹部によれば、米国に到着したマグロが税関で止められ、検査を受ける前に腐ってしまったケースもあるという。
ラスベガスに営業で出張していたある酒造業者が、ホテルのメニューから日本食が消えていることに気づいたという話もある。
今のところ、放射能に対する恐怖から直接生じる輸出への経済的な影響は、ごくわずかにとどまっている。農水産物の輸出は、被災した東北地方では偏ってシェアが高いとはいえ、日本の輸出総額に占める割合はごくわずかだ。
それでも、これまで高品質という評価を獲得してきた日本産の食品にとっては、その評判に傷がつくことになるだろう。
日本の国内消費に及ぼす影響は、輸出よりもずっと大きくなりそうだ。放射能汚染への恐れが消費者の信頼感を弱め、その影響は、福島第一原発から250キロ南に位置する東京にまで及んでいると、エコノミストらは指摘する。
仮に政府が消費促進を訴えても・・・
菅首相「福島第1原発は全廃炉を」、基本計画の見直しも表明
日本政府の原発危機対応には、日に日に批判が高まっている〔AFPBB News〕
一部の専門家は政府に対し、一般市民の消費を促す集中的な広報キャンペーンを始めるよう求めている。
だが、そうした活動をしても、ほとんど効果が出ない可能性もある。自信を与える存在ではない政府が宣伝するのであれば、なおのことだ。
津波や原発事故の影響を受けなかった多くの日本人は、被災者に対して同情の念を感じる一方で、楽しみに興じていると見られることに決まりの悪さを覚えている。
「自粛」に向かいやすい日本人の性質が、一斉に表に出てきた。日本の人々は、買い物のための遠出から、春の桜を愛でる花見まで、あらゆるものを控えている。
南相馬の市民たちは、自分たちにほとんど恩恵をもたらしてこなかった原発について、その事故の代償を支払うことにうんざりしている。結局のところ、この原発が生む電力は、ほとんどが東京へ送られていたのだ。
南相馬市の郊外に住んでいた41歳の鍼灸師、シバグチ・タカシさんは、手元に現金もなく、妻と4歳の娘とともに避難所の床で眠る暮らしを続けているにもかかわらず、二度と自宅に戻るつもりはないという。
彼は、自身への放射線の影響については理性的に判断しているが、健康に影響が及ぶかもしれない環境で娘を育てることには不安を感じている。「もうこんなことはたくさんだ」とシバグチさんは言う。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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