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【佐藤優の眼光紙背】このままだと日本は「原子力犯罪国家」の烙印を押される
2011年04月05日16時00分
佐藤優の眼光紙背:第100回
4月4日、東京電力は福島第一原子力発電所第2号機から海に漏れ続けている高レベルの放射性物質を含む汚染水を集中廃棄物処理施設で貯蔵するために同施設にたまっている低レベルの汚染水1万1500トンの海への放出を開始した。意図的に放射性物質を含む汚染水を海に排出することは、過失で汚染水が海に漏れることとは本質的に異なる。今後は日本国家としての責任が直接問われることになる。
本件に関する日本政府、特に国際法を主管する外務省の認識が驚くほど弱い。4月5日付東京新聞朝刊はこう記す。
放出される水は、低レベルといっても、原子炉等規制法で決められている濃度の最大五百倍の放射性物質を含み、危険時の応急の措置に限り、認められる水準だ。
また海洋汚染についての国際的取り決めであるロンドン条約では、原則として海洋性廃棄物の海洋投棄を禁止している。しかし原子力安全・保安院は「ロンドン条約では、船や飛行機からの海洋投棄を禁じているのであって、陸上の施設からの放出は該当しない」としている。
ここで言う「ロンドン条約」とは、1972年にロンドンで採択された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」のことだ。日本については1980年11月14日に効力が発生している。
そもそも原子力安全・保安院には国際条約を有権的に解釈する権限がない。日本政府で国際条約の有権的解釈権をもつのは外務省(担当は国際法局)だ。外務省はいったいどのような解釈をしているのか、親しくする新聞記者に尋ねてみた。
記者「外務省も原子力安全・保安院と同じようにロンドン条約では、船や飛行機からの海洋投棄を禁じているのであって、陸上の施設からの放出は該当しないという説明をしています」
佐藤「それで国際的に通用すると思っているのだろうか」
記者「それは思っていないでしょう。自国の領海に廃棄物を投棄するような事態はあり得ないという前提だから、ロンドン条約では規定されていないのです。外務省に当事者意識が薄いのだと思います」
佐藤「ようするに時間稼ぎをしているわけだね」
記者「そう思います。頭を低くして自分たちに問題が降ってこないようにしているのでしょう」
佐藤「その不作為が国益を毀損する」
この記者の「外務省に当事者意識が薄い」という指摘が事柄の本質を衝いている。国際法における義務違反は国内法とは異なる。いくら日本政府が弁解しても、国際社会が条約に違反していると考えれば、それが真実となる。「ロンドン条約」第1条はこの条約の目的についてこう規定している。
締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に被害をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。
日本政府もこの誓約を行っているのだ。日本政府(原子力安全・保安院も政府の一部を構成する)が「ロンドン条約では、船や飛行機からの海洋投棄を禁じているのであって、陸上の施設からの放出は該当しない」というような釈明をしていると、国際社会は「日本はロンドン条約の誓約を守るつもりがあるのか。おかしな国だ」という認識を持つようになる。対外的に日本国家を代表するのは外務省だ。外務省が窓口になって国際社会にきちんと情報を開示し、日本政府が所与の条件下で最悪の事態を避けるために、低レベルの放射性物質を含む汚染水の排出を余儀なくされているということを迅速かつ誠実に発表しないと、筆者の見立てでは今後1週間から10日で、日本に「原子力犯罪国家」という烙印が押される。
東電本社2階に設けられた政府と東電の統合対策本部には外務官僚も詰めている。いったい何をしているのか? 外務省は国際法に通暁した専門家を統合対策本部に常駐させ、必要なアドバイスを行い菅直人首相をしっかり支えてほしい。(2011年4月5日脱稿)
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