http://www.asyura2.com/11/genpatu8/msg/596.html
Tweet |
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2378
東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故を受けて、菅直人政権と東京電力が機能不全と思考停止に陥っている。特に目立つのは、スピード感の欠如と視野の狭さである。
事態は急を要す。東電の株価は先週末に449円と、解散価値の半分以下に落ち込んだ。投資家たちが巨額賠償によって東電が破たんしかねないと懸念している証左である。
対策として参考になるのが、昨年春、メキシコ湾で未曾有の原油流出事故を起こした英石油大手BPだ。BPは事故から56日間で、周辺住民ら3万2000人以上に当面の生活補償として2億100万ドル(当時のレートで174億8700万円)を支払った。次いで、米政府の要求を呑み、中長期の損害賠償のための200億ドル(同じく1兆7400億円)の基金を設置した。自ら十分な支払い能力があることを示して、事態の収拾の道を開いたのだ。
首相は、煮え切らない言葉や無責任な発言によって、東電の破綻懸念を煽るのを慎むべきだ。むしろ、東電に、長年、地域独占で貯め込んだストックを供出させ、BP以上の事故対策ファンドの設置を迫る方が建設的である。そうすれば、速やかに避難者らへの当面の補償を開始できる。
民間のカネをいかす視点の欠如は、復興策にも当てはまる。財源を国債増発や増税だけで賄おうとせず、視野を広げて内外から投資を呼び込まないと、日本は沈没しかねない。
■地域独占で生まれた「巨額の資産」
まず、東電にどれぐらいのストックがあるか紹介しよう。
2009年度(2010年3月期)の有価証券報告書によると、原子力発電事業に関連する積み立てとして固定負債の部に、使用済燃料再処理等引当金(1兆2100億6000万円)、使用済燃料再処理等準備引当金(363億1200万円)、原子力発電施設解体引当金(5100億1000万円)が蓄積されている。資本の部にも、資本剰余金(191億2300万円)と利益剰余金(1兆8314億8700万円)の計上がある。ちなみに、東電の純資産は2兆5164億7800万円、総資産は13兆2039億8700万円だ。
電気料金は長年、放置できない内外価格差があると指摘されながら、経済産業省が地域独占を容認してきた結果、東電はこれほどの分厚い資産を形成することができたのだ。中には、電気事業法(電気事業会計規則)に根拠があり、転用に株主だけでなく経済産業大臣の承認が必要なものもある。が、両者が今回の事故に際し、異を唱えるとは思えない。
筆者は、これらを原資として、ただちに、事故対策と補償を目的にした基金を設置させることを提案する。合計の金額は3兆6069億9200万円に達する。BPの2倍の規模の資金を捻出できる計算だ。
もちろん、今回の補償・賠償がそれ以上に巨額になるのではないか、という疑問は残るだろう。
よく引き合いされる1999年の核燃料加工会社JCOの臨界事故の影響は遥かに小規模だった。東海村から出た避難要請は半径350m圏内の住民に対するもので、期間は2日と3時間半程度に過ぎなかった。茨城県が出した屋内退避勧告も10km 圏内が対象で、その期間は1日もなかった。原子力損害調査会によると、この事故で行われた賠償は約7000件、総額は150億円だ。
福島第1原発の事故は、避難指示区域の半径が3、10、20kmと、また屋内退避区域が3〜10、20〜30kmと段階的に拡大されてきた。期間も、最後に屋内退避地域が20〜30kmに広げられた3月15日から数えても、すでに3週間が経過した。政府も月単位の避難が必要な可能性を認めている。
加えて、東北、関東ではホウレンソウなどの野菜や原乳から多量の放射性物質が検出され出荷制限が敷かれている。海洋汚染も確認されており、漁業補償が不可欠との観測にも現実味がある。総合すれば、原発事故の損害が数兆円規模になる可能性は否定できない。
■関東大震災でさえ該当しない「但し書き」
東電の賠償責任の範囲はどうなっているのだろうか。
「原子力損害の賠償に関する法律」(原子力損害賠償法)第3条は、「原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたときは、この限りでない」(抜粋)と、過失の有無に関係なく、原発業者、つまり今回の場合は東電に賠償責任を集中させている。
後段の但し書きにある「異常に巨大な天災地変」は、歴史上あまりみられない大地震などを指す。関東大震災でさえ該当せず、これを相当程度上回るものでないと当たらないと解釈されている。
関連して、枝野幸男官房長官はすでに、東日本大震災は「異常に巨大な天災地変」に該当せず、東電が賠償責任を負うべきだとの趣旨の発言を繰り返している。菅首相も「基本的には(東電に)民間事業者として頑張ってほしい」と東電に下駄を預ける態度だ。
押さえておくと、原子力損害賠償法は、損害保険への加入などを事業認可の条件としている。が、この保険の限度(原発の場合は1カ所につき1200億円)は、賠償の上限ではない。この点で間違った情報が散見されるが、東電には無限の賠償責任がある。つまり、法的には、東電が総資産(13兆2039億8700万円)のすべて注ぎ込んでも損害を賠償する義務があるのだ。
そして、それでも賄いきれない事態を想定して国に賠償責任を課したのが、原子力損害賠償法の第16条である。「事業者に対し、損害を賠償するために必要な援助を行なう」としたうえで、その援助を「国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なう」と定めている。
■避難者や営農者、漁業者への速やかな補償が目的
話を東電に戻そう。前述のように、国の負担を云々する以前に、東電には、機動的に利用可能な積立金だけでも3兆6000億円あまりの資金がある。
まずは、ファンド化によって、資金・資力の存在を可視化して、自らの力で責任を全うする姿勢を明確にすべきである。
そうすれば、銀行団の2兆円近い融資を「緊急融資」などとショッキングに報じる報道や、1年前に比べて8割を超す下落に見舞われた株価に動揺する株主、そして債務不履行(デフォルト)のリスクに怯える東電債の保有者らは、ある程度、落ち着きを取り戻すことができるはずだ。この措置は、いたずらに東電の国有化論や解体論を叫ぶより、よほど実践的と信じている。
もちろん、経済的な不安心理の抑え込みだけが、この措置の目的ではない。むしろ、このファンドを設置する最大の目的は、避難者や農家、漁師への補償を早急に開始することにある。そうした手を打つころで、避難を強いられている人たちの現下の救い難い苦境を少しでも和らげることが急務なのだ。
ちなみに、BPの場合、パートナー企業が多かったため、すべての賠償責任がBP1社に帰属しているかどうか争う余地があった。しかし、事態を深刻とみた米議会とオバマ政権は、毅然として圧力をかけ、事態の長期化を許さなかった。
これに対して、東電の場合、端からそうした逃げ道はない。前述の原子力損害賠償法が、風評被害も含めて、相当の因果関係のある損害に対する賠償を、東電に一元化しているからだ。当然、政府も怠慢を許してはならない。1日も早く機敏な対応を指導する責務があるのだ。これ以上、機能不全や思考停止に陥っている猶予はない。
これまでの政府・東電の対応はあまりにも遅過ぎる。事故そのものの対応に追われているとはいえ、賠償・補償問題では、ようやく先月30日になって、笹木竜三文部科学副大臣が「原子力損害賠償紛争審査会を4月中にも設置する」と表明した程度なのだ。
こうした対応は、JCOの臨界事故を受けて、賠償の制度化やマニュアル化などを提言していた「原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会」の第1次報告書(2008年12月公表)の提言にも反する怠慢だ。
とにかく、まずはこれまでの遅れを取り戻し、困っている避難者や農家、漁師への一時金支払いを迅速に行うため、政府・東京電力には視野を広げて迅速な措置を講じていただきたい。
もし、万が一、避難指示や屋内退避勧告が何ヵ月にもわたって解除されず、ファンドの資金が不足する事態になれば、その時には改めて他の資産の換金手法などを検討すればよい。
日本経団連加盟企業の中には奉加帳が回ってくるのではないかと危惧する声があるが、そんなものを回すぐらいならば、特別立法で関西電力、中部電力など東電以外の全国8つの地域独占の電力会社や、電源開発(Jパワー)が積んでいる同じような趣旨の資産をプール制にして、今回の危機に供出して貰う手もあるだろう。一気に資金量を数倍に膨らますことができる。
責任を持って安定供給を果たす企業が現れれば、供給継続を条件に、発電設備や送電設備を売却する案も考えられる。管理・経営責任も明確にせず、あらゆる対策も講じないまま、血税をリスクにさらす解体論や国有化論を論じることは許されない。
■タイミングを失った復興構想会議
紙幅を費やしてしまったが、本コラムは週に1本しか公表できないので、本格的な復興のために、菅政権の視野の狭さにも苦言を呈しておきたい。
まず問題なのは、首相の復旧、復興対策が、原発事故の賠償問題と同様に、スピード感を欠き、発想が硬直的になっていることだ。
その結果、軸足が、新たな組織や会議作りばかりに偏り、肝心の施策の中身作りが遅れている。
例えば、1日。首相は、今月11日までに立ち上げたいという「復興構想会議」の話を記者会見の目玉に据えようとした。この会議が復旧・復興整備の第1弾で、青写真を描く役割を担わせるというのだ。
しかし、すでに、この時点までに、被災から3週間という貴重な時間が過ぎ去った。青写真などとっくに完成しており、復旧・復興の実行段階に入っていなければならないタイミングを迎えているはずである。
その一方で、急務の復旧関係の特別立法の策定作業が混乱を極めている。阪神淡路大震災の際は、震災から1ヵ月で16の特別法が国会に提出されたが、今回は土台となる基本法に何を盛り込むかさえ決まっていない。4月中の提出すら危ぶまれる。
財源問題での指導力不足も深刻だ。首相は1日の会見で、「今年度の予算の一部凍結では十分ではないことは明らか」と認めながら、「復興構想会議や与野党の協議で合意形成を図りたい」と自らリーダーシップを放棄し、具体策に言及しなかった。せめて、子ども手当の凍結など、民主党のマニフェストの修正ぐらいは手をつけるべきだ。その程度のリーダーシップさえ発揮できないようでは、首相の職責はまっとうできない。
半面、事務方では、「復旧復興特別税」という名の増税や、「震災国債」と名付ける国債の日銀引き受けなど、景気やマクロ経済の足を引っ張りかねないキワモノの論議が繰り広げられている。
しかも、特別税の軸は所得税増税で、中高所得層に重い負担をかけるとされる。所得税の増税は、消費税増税より個人の消費意欲が減退させて、折から減速気味の日本経済の足を引っ張りかねない。
東北だけでなく西日本もにらみ一極集中の緩和を
内閣府は25日の月例経済報告にあわせて、東日本大震災の「マクロ経済的影響の分析」をまとめたが、それによると、北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の1道6県で、社会インフラ、住宅、民間企業の設備といったストックが受けた被害は、16兆円から25兆円に達する。
国の一般会計の当初予算規模は90兆円強で、このうち40兆円以上の財源は国債発行に依存している。かねて財政不安が指摘されてきた状況なのに、その財政に復旧・復興負担をすべて押し付けるのは財政破綻懸念を煽る愚策である。
むしろ、東北地方だけでなく、幅広く各地に、内外から民間投資を呼び込む施策を講じることが重要だ。被災した企業の設備の復旧を支援するだけでなく、従来は国や自治体が整備主体だった社会資本への民間投資の奨励や、新たな産業育成の視点が大切なのだ。
具体策としては、地方財源である法人住民税を大規模事業所の誘致のために減免できるように国の財源を移譲することや、雇用規制の緩和、外国人労働者のビザ制度見直し、空港・港湾・金融・通信・学校などカネやヒトの受け入れに必要な社会インフラの充実が求められる。
さらに言えば、こうした民間資本の呼び込みを主体とした経済活性化策は、中長期の電力不足が懸念される関東への経済の一極集中を是正するために、被災した東北地方だけでなく、西日本各地も対象に含めて全国的に行う覚悟が求められる。
さもないと、日本経済の空洞化や地盤沈下、衰退が加速する事態を招きかねない。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素8掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。