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東京電力に原発を運転する資格はない 原子核工学出身の半導体技術者が見た原発事故
2011.04.05(Tue) 湯之上 隆 日本半導体・敗戦から復興へ
私は、何を隠そう原子核工学の出身である。修士課程の2年間、大阪の熊取町にある京都大学原子炉実験所で研究を行った。ちょうどチェルノブイリの原発事故が起きた頃だ。
大学卒業後、日立製作所に就職し、半導体技術者に転身した。それから25年も経ってしまったが、少なくとも原子炉がどのようなもので、現場がどのような環境であり、そこで行われる作業がどのくらい危険なものかは理解しているつもりだ。
本稿では、原子核工学出身の半導体技術者として、今回の福島原発事故に対する意見を述べたい。
作業者を見殺しにするな
福島第一原発では、極めて過酷な環境下で数百人の作業者が事故対策に当たっている。3月28日、保安検査官事務所の横田一磨氏の報告によれば、作 業者の食事は1日2回(ビスケットとアルファ米だけ)、夜は毛布1枚で雑魚寝であるという。また、4月1日の報道によれば、放射線の被曝量を測定する線量 計はグループで1〜2個しかなかったという(なぜ横田氏はこのことに気が付かなかったのか)。
東京電力福島第一原子力発電所の4号機(左)と3号機(右、3月24日撮影)。4月3日、東電社員2人の死亡が確認された。〔AFPBB News〕
福島原発が収束できるか、半径30キロメートルの避難民がどうなるか、首都圏を含む近隣地域はどうなるか、果ては日本の未来はどうなるか、その命 運は上記作業者の双肩にかかっている。であるにもかかわらず、この劣悪な処遇は一体どうしたことなのか。これではまるで、補給路を断たれた兵士ではない か。片道燃料だけ積んで飛び立つ神風特攻隊を髣髴させる。
もはや事態が長期化することが確実となった。作業者の安全を確保し、能力を十二分に発揮できるように、早急に後方支援を充実させるべきである。何 より、十分な食料と水の継続的な補給だ。また、専門の食事係と医療班を常設すべきだ。さらに、就寝用にマット、枕、布団を準備してもらいたい。場合によっ ては、放射線遮蔽した仮設住宅の設置を行う必要がある。
技術と設備の進歩スピードが遅い原発
なぜ、このような簡単なことが、東京電力は瞬時に対応できないのか。半導体の常識からすると考えられない対応の鈍さなのだ。
この問題を、原子力発電所と半導体工場と比較することから考えてみた(下の表)。この分析から、東京電力の体質を浮き彫りにしてみたい。
原子力発電所と半導体工場の比較
まず、技術や設備の進歩の速度に大きな違いがある。最も古い福島原発の1号機は、既に40年以上稼働している。もっとも新しい6号機ですら30年以上稼働している。一度造られた原発は、このように長期間にわたって使い続けられる。
一方、半導体では、ムーアの法則で知られる通り、3年に4倍集積度が増大し、3年に70%の割合で素子が微細化される。それに伴って、技術や設備 が一新される。技術は恐ろしい速度で進展し、常に最先端装置を導入し続けている。新陳代謝が激しいのだ。したがって、どのような技術を選択し、どの装置を 導入するかを即断即決しなくてはならない。
このように、原発と半導体とでは、技術と設備の進歩の速度が大きく異なる。東京電力の判断や対応の鈍さの根底には、このような業界事情がある。
利益が守られ、体質は親方日の丸的
価格競争の点では、東京電力の電力販売ビジネスはまったくの無風地帯にいる。その上、総括原価という仕組みにより、必ず利益が出る収益構造になっている。
一般企業においては、[総売上高]―[総費用]=[利益]となるが、電力会社の場合は、[総費用]+[利益]=[総売上高]となっている。つま り、東京電力の電力販売ビジネスは基本的に赤字になることはない。コスト削減努力を一切しなくても利益が出る仕組みに守られているのだ。
(2007年度、2008年度は最終損益が赤字となったが、これは新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽原子力発電所の復旧費用など特別損失を計上したためである)
一方、半導体は、韓国や台湾をはじめ世界中の半導体メーカーと激しい価格競争を強いられている。また、DRAMやNANDフラッシュなどの半導体メモリーは、需要と供給のバランスで価格が決まるため、数千億円規模の大赤字を計上することもある。
リーマン・ショックの際には、DRAM価格が急落し、エルピーダメモリが2008年度通期で1789億円の赤字を計上し経営が悪化したため、産業再生法第1号適用を受け公的資金が注入されたことを記憶している読者もいるだろう。
東京電力は、競争する必要がなく、利益も確保されている。つまり、日常的には、即断即決を求められることはほとんどないのだろう。
また、電力事業は公共事業の1つである。また、原発は国策の下で事業が推進される。したがって、東京電力は株式会社であるとはいえ、半官半民の性格を持っている。東京電力の組織は官僚的であり、親方日の丸的な体質であると言える。
一方、半導体は、基本的に国策とは関係がない(日米半導体摩擦により国から圧力をかけられたということはあるが)。せいぜい、国家プロジェクトとしてコンソーシアムがつくられる程度である。
半導体に似ているシステムの巨大性と「下請け」構造
しかし、原発と半導体には共通点もある。
原発のシステムは巨大で複雑である。東京電力を頂点として、日立や東芝などの1次下請け、2次下請け・・・、8次下請けと、裾野の広いヒエラル キーがある。技術ごと、設備ごとに、業務が細分化されており、多能工的にすべてを取り扱える人材は少ない(またはいない)と思われる。
その結果、原発のプラント全貌をきちんと理解している者は皆無であろう。また、危険な事故現場で、モーターや電気設備の復旧などの実作業を行っているのは、末端の下請け作業員である。恐らく東電社員は、原発の運転と作業者の管理業務しかできないだろう。
この事情は(残念ながら)半導体でも似ている。工場には数百台の製造装置があり、半導体チップの製造フローは500工程以上になる。これを支えているのは数十社にも上る製造装置メーカーや材料メーカーである。
今や半導体の設計、開発、製造の全貌を理解している者は皆無である。ひとたび工場でトラブルが起きれば、装置・材料メーカーの支援無しに解決は困難となっている。にもかかわらず、日本の半導体メーカーは、装置・材料メーカーを単なる「下請け」と見なし、軽んじている。
東京電力は(半導体もそうだが)、下請けの協力会社とパートナーとして付き合うようにしないと、いずれソッポを向かれることになる。
技術や設備の進歩が遅く、価格競争とは無縁であり、半官半民の親方日の丸体質。東京電力は、このようなぬるま湯に浸りきって茹で上がってしまっているのだろう。
その上、原発の複雑で巨大なシステム、それゆえに8次下請けまであるピラミッド型の階層構造。東京電力はこの階層の上にあぐらをかいていたのだろう。このようなことが、事故対応の判断の遅れや対応の鈍さにつながっていると思われる。
東京電力に原発を運転する資格はない
それにしても、作業者一人ひとりに線量計を渡していなかったことは、到底許されることではない。また、これに対する東京電力の「被曝管理に問題は ないと考えているが、不安に思う作業員がおり、全員に携行させることにした」というコメントには呆れ果ててしまった。このようなことが常態化していたとし か考えられない。
それ以外にも、原子力や放射線に関する見識を疑う事態が頻発している。例えば、3月27日、2号機のタービン建屋地下1階にたまった水から検出された放射性物質について、東電は「通常の原子炉の水の約1000万倍の濃度」と発表したが、28日になって「物質の取り違えがあった。濃度は10万倍程度だった」と訂正している。
また、4月1日、タービン建屋の地下などから見つかった水の分析データを検証した結果、放射性物質の種類や濃度を計算するプログラムの一部にミスがあることが分かり、海水や土壌などを調査したすべてのデータを見直すことになったという。
果たしてこのような東京電力に原発を運転する資格があるか。
事故は現在進行中であるが、東京電力の首脳陣の首をそっくり入れ替えた方がよい。そして、事故が沈静化したら、東京電力は解体すべきだと思う。
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