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東電事故がアメリカの「核拡散防止戦略」を変えていく可能性とは?
http://www.asyura2.com/11/genpatu8/msg/408.html
投稿者 sci 日時 2011 年 4 月 02 日 21:08:07: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://ryumurakami.jmm.co.jp/
『from 911/USAレポート』               第507回
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「東電事故がアメリカの「核拡散防止戦略」を変えていく可能性とは?」

 東電福島第一原発の事態が一向に好転しない中、アメリカでは当初一部にあった感
情的な反応はやや収まっています。その一方で、今回の事故が改めてアメリカにおけ
る「核戦略」に再考を迫るものとなる、そんな兆候も出てきました。先週この欄でお
話しした内容の続きになりますが、単純にいえばオバマの路線、つまり「安全性を高
めた次世代原発の推進」「核燃料サイクルの凍結続行」「長期的な核兵器廃絶」とい
う三点セットが「問い直される」可能性を考えておく必要がありそうです。

 まずこの「三点セット」ですが、先週お話しした内容をもう一度整理しておこうと
思います。まず、この「三点」というのは、極めて政治的であり、同時に米国経済と
いう点から見てもよく練り上げられた「セット」だということが言えます。まず「次
世代原発」ですが、これは世界に売ってゆくことで中長期的にアメリカの製造業の成
長につながりますし、アメリカに存在する老朽化した炉の置き換えで安全性を高める
事にもなります。また温暖化対策にもなるわけです。

 その一方で「核燃料サイクルの凍結」というのは、世界に対して「プルトニウムの
抽出はしない」という「範」を示すことで核拡散を防止する、ここ20年のアメリカ
の基本政策を踏襲することになるわけです。一方で、そうした「核拡散防止」の延長
に、長期的な理念としての核廃絶を掲げることで、国際社会における理念的なリーダ
ーシップを取ろう、そのような戦略です。

 この「オバマの三点セット」ですが、ブッシュの核戦略の間に大きな「断裂」が
あったのかというと、決してそうではありませんでした。確かに「核廃絶」などとい
うブッシュは絶対に言いそうもないことを言っているという面はありますが、その他
の部分はブッシュ政権の、そしてその前のクリントン政権の時代の核政策を忠実に継
承しているとも言えるのです。

 その核にあるのはやはり「核拡散防止」の問題です。この核拡散防止の問題という
のは、ここ20年間のアメリカの軍事外交の軸となるストーリーでした。例えば、北
朝鮮の核問題がそうです。北朝鮮の核危機というのは、記憶に新しいのは拉致問題を
絡めた六カ国協議が決裂状態にある中で、公然と核開発が続けられ、ミサイル技術は
イランなどともつながっているという状態にあり、その背景には権力の継承問題があ
るわけですが、問題がここまで深刻化するまでには長いストーリーがありました。

 そもそも問題が起きたのは、ビル・クリントン政権当時の93年から94年にかけ
ての「危機」です。北朝鮮は、ロシアからの技術供与を受けて、黒鉛減速型原子炉
(RBMK)を運転開始していました。このRBMKというのは、事故を起こした
チェルノブイリ原発にも使われていたタイプですが、水の代わりに黒鉛を「減速材」
つまり炉内の中性子のスピードを抑える物質として使うために、現在一般的になって
いる加圧水型炉や沸騰水型炉とは構造が異なります。

 特に旧ソ連型のものは、運転しながら燃料棒の交換をしたり、その際に核兵器の材
料となるプルトニウムの抽出をするのを容易にしたりという「仕様」になっていたの
です。そこで、国際社会は、北朝鮮に対して「そのタイプの炉を運転するのなら核兵
器を作らないという誓約をせよ」という圧力をかけ、これに応じさせたのでした。そ
の誓約が85年の話ですが、その後金日成から金正日への権力承継に当たって「求心
力」を必要としたのか、北朝鮮はこの枠組に違反して核兵器の製造を開始したのです。

 クリントン政権は、関係国、特に韓国、日本と協議の結果「KEDO(朝鮮半島エ
ネルギー開発機構)」というプロジェクトを実施しました。核兵器の原料抽出の容易
な黒鉛炉を捨てる代わりに、北朝鮮のエネルギー需要を補うために、安全な軽水炉の
技術を提供するというのがその内容です。つまり「まともな原発」をやるから「怪し
い原発」は捨てろというわけです。しかしながら、この計画は「それでも北朝鮮が核
兵器開発を止めない」ということから、最後は2005年に中止されました。結局、
軽水炉の建設は進捗30%でストップされ、電力が供給されることはありませんでし
た。

 このKEDOですが、韓国の金泳三政権が好景気に水を差したくなかったとか、ク
リントン政権の「原発技術を与えてメンツを立て、エネルギーを供給すれば国際社会
に反抗はしないだろう」という外交アプローチ、更にはテポドンなどまだ話題にもな
らなかった日本ではカネを出すのに抵抗がそれほどなかった、等々の事情が重なって
成立したシロモノでした。ちなみに、このKEDOの交渉当時の国務長官だったウォ
ーレン・クリストファー氏は、先週の3月18日にひっそりと亡くなっています。K
EDOについてはクリストファー氏は積極的な関与はしていないと思われますが、時
の流れを感じます。

 今から考えれば、変則的な政策でしたが、このKEDOという発想の原点になるの
は、あくまで「核拡散の防止」でした。逆を言えば、核拡散を止めるためなら手段を
選ばなかったという言い方もできると思います。とにかく、クリントン時代の核戦略
を象徴する事件です。そこまでやる以上は、自国としても「プルトニウム製造」につ
ながる「核サイクル」には消極的ということで一貫していたわけです。

 2001年からのジョージ・W・ブッシュの時代になると、例えば「核の先制使用
を排除しない」という声明を出したり、あるいはスリーマイル以来凍結していた原発
の新規認可の再開など、核戦略のニュアンスは変わりました。ですが、基本となって
いた「核拡散の防止」という考えに変化はありませんでした。911のテロ被災とい
う事件を受けて、核テロというものが真剣に懸念された時代でもありました。その一
つの象徴は、サダム・フセインのイラクに対する「大量破壊兵器疑惑」と、これを理
由とした開戦でしょう。

 複雑な話なので要約しますが、例えば、アフリカのニジェールにおけるアメリカの
「ウラン鉱山監視」というエピソードがあります。フセインが核兵器を作っていると
いう「疑惑」を証明するために、ホワイトハウスは元ガボン大使のジョセフ・ウィル
ソンという外交官に調査を命じます。ところが政権側の「期待」に反して、その報告
は「シロ」でした。

 そこでチェイニー副大統領(当時)の補佐官などが報復のために、このウィルソン
元大使の妻、ヴァレリーさんが「実はCIAのスパイである」とリークしたというの
です。結果的に世論のイラク戦争への支持が低下し、ブッシュ大統領自身が「大量破
壊兵器の証拠はなかった」と告白するようなムードの中、夫妻の名誉は回復されて、
元副大統領補佐官は有罪になっています。夫妻は連名で手記を出し、最近ショーン・
ペンとナオミ・ワッツのコンビで映画化もされています。

 ですが、このヴァレリーさんに関して言えば、実際にイランやイラクの核疑惑を嗅
ぎまわっていた「核スペシャリスト」であったことは事実のようです。民主党系の夫
妻はクリントン流に「平和裏に核拡散を防止する」という使命感で動いており、「戦
争の口実を欲していた」ブッシュのホワイトハウスとは厳しく対立していたという理
解ができそうです。

 結果的にブッシュはイラクに侵攻して、フセイン政権を打倒したわけですが、その
根拠となる「大量破壊兵器」の最終段階のものが出来あがっていたにしても、そうで
ないにしても、「核拡散防止」という文脈の中での戦争という位置づけは変わらない
と思います。

 同じ「核拡散防止」という方針を持ちながら、ブッシュ政権がクリントン政権と多
少ニュアンスが異なるのは、テロ対策や戦争に訴えただけではありません。例えば、
2007年には、アメリカは長い間封印していた「核燃料サイクル」の一種であるウ
ラン・プルトニウム混合の「MOX燃料生産」工場を、サウス・カロライナ州に新設
しています。商用目的ではなく軍用、研究目的という位置づけでです。

 ブッシュ政権のホンネとしては、MOXだけでなく色々な核開発を進めたい気持ち
はあったのでしょうが、「核拡散防止」という大義からそれはできないわけで、そこ
である意味では不思議なロジックで「MOX燃料工場」を作ったのです。それはロシ
アとの核軍縮合意に基づいて廃棄した核弾頭から取り出したプルトニウムを「処理し
ないと危険」という文脈からでした。従って、この「MOX燃料工場」についても、
核拡散防止という大義に沿ったものというわけです。

 では、そうした「核拡散防止」という文脈ですが、今回の東電福島第一の事故を契
機に、変化してゆくのではないかと思われるのです。二つの政治的要因を指摘してお
きたいと思います。

 一つ目はアメリカの国内政治力学です。先週お話したように、基本的に原子力に対
するアメリカの世論は、三つに分かれています。(1)原発、貯蔵施設、核兵器のい
ずれにも反対、(2)安全な新世代原発を支持、貯蔵問題に理解、核兵器は将来的な
廃絶を遠望、(3)原発推進、核サイクル推進、アメリカは常に世界一の核抑止力を
持つべき、という三つです。

 党派で言えば、共和党の多数は(3)か(2)であり、民主党は(1)か(2)が
圧倒的、オバマ政権は(2)の立場です。非常に単純にいえば、今回の東電の事故で、
民主党内では(2)から(1)へのシフト、つまり現実的な原発推進から原則反対へ
のシフトが起きつつあるようです。では、共和党はどうかというと、(3)の勢力が
じわじわと拡大しているようです。

 3月30日の上院エネルギー小委員会で、共和党のベテランであるリンゼー・グラ
ハム議員が質問に立ってこんなやりとりがありました。(日本語は筆者の意訳です)

<グラハム議員>「マイケル・チュー・エネルギー長官は本当に信頼に足る優秀な長
官と思うんですが、私がアメリカも核サイクルをやったらどうかと聞いたら、長官は
『いまはまだ技術が不十分なので10年は自制した方がいい』という意見だったんで
す。皆さんはどうですか?」

<ヤツコNRC(原子力委員会)委員長>「私はあくまで監督者でありまして、政策
的な判断は控えさせてください」

<グラハム議員>「私はMOX工場がサウス・カロライナに出来たのは有り難いこと
だと思っているんですが、今回の福島の事故ではMOXの危険性は明らかになったん
でしょうか?」

<ヤツコNRC委員長>「そんなことはないと思います」

<グラハム議員>「私はそもそもフランスのやっている再処理技術に興味があるんで
すが、あの技術はどう評価しますか?」

<ライヨンズ・エネルギー次官補代行>「非常に重要なテーマです。ただ、フランス
の現行技術は放射性物質による環境汚染などの問題を抱えており、アメリカとしては
もっと優れた技術開発が可能です」

 これは議会証言とはいっても小委員会の質疑であり、それ自体の政治的な意味は少
ないと思います。ですが、リンゼー・グラハムという上院共和党議員団の大物が、核
サイクルに並々ならぬ意欲を持っていること、サウス・カロライナにMOX工場を誘
致したのはどうやらグラハム議員らしいこと、そして東電福島第一において緊迫した
状況が続いている中で核サイクルに関する「実行の方向での見直し」が論議されてい
ることは注目に値するように思います。

 先ほど、国内政治力学と言いましたが、一言で言えば「民主党支持層が反原発にシ
フトしてオバマの現実路線が弱体化」したことの反動として「共和党の推進論が加速
する政治力学」が動き始めたということです。これには、オバマがリビアの空爆を始
めておきながら、地上軍の派遣や反政府勢力への武器供与に反対している中でカダ
フィを退陣に追い込めない中、政治的に失点を重ねている、この問題も政治力学を複
雑にしているように思います。

 国内の政治力学だけでなく、もう一つ国際情勢もこの問題に関わってきます。一言
で言えば、共和党にある発想は「核拡散の防止」という大戦略から核サイクルを自制
してきたのですが、気がついてみれば、「テロリスト」や「ならず者国家」ではなく、
中国とロシアの核戦略が突出してきているという事実を彼等は気にし始めているよう
なのです。

 例えばですが、東電の原発事故のおかげで先進国である日米、そして英独仏に始ま
る欧州各国では「反原発」のセンチメントが増大しています。その流れが大きくなれ
ばこうした西側諸国では、核サイクルを含む原子力技術で中ロに大きく水を開けられ
ることもあるでしょう。民主主義だから原発ができない、核開発ができない一方で、
非民主的な国家は堂々と核サイクルからプルトニウムの生産を続ける、これではトー
タルの核バランスは崩れるではないか、そんな懸念も当然起きてくるでしょう。

 そんな中、フランスのサルコジ大統領は、多くの外国人が避けている中、日本を訪
問して菅総理と会談しています。その日仏首脳会談では、次回5月にフランスで行わ
れるG8で原発問題を議題とすることが話し合われています。更に、そのG8では国
際的な原発の安全基準が検討され、年内にまとめるという方針も出ています。その年
内にはG20もフランスで行われるわけで、ここでは中国との調整も必要になってき
ます。

 このG8、G20では、恐らくは表面的には「原発の安全基準作り」という作業に
なるでしょう。ですが、水面下では核サイクル、再処理工場、MOX、高速増殖炉、
そしてプルトニウムといった核戦略に関する厳しい綱引きが行われるのではないかと
思います。

 日本としては、東電福島第一の問題に端を発した原発への危機意識の中で、何とか
エネルギー政策を具体的にしてゆくには、日本単独での「安全基準」では説得力が足
りない、そんな計算があって当然と思います。国際的な「新しい厳しい安全基準」が
固まることで、そこに合わせるような形で、エネルギー政策の合意を取ってゆくしか
ないからです。

 ということは、東電の事故を契機に少なくともアメリカの政界では「核拡散防止」
から「新しい核のバランス」に関心がシフトしつつあるということを頭に入れた上で、
日本としては、会議の全体が不毛な冷戦型のケンカに流されることを警戒すべきです。
「新国際安全基準」がまとまらないということになれば、一番困るのは日本だからで
す。その意味で、今回サルコジ大統領が来日したのは良いことだったと思います。原
発大国のフランスは当面は原発から逃げられないわけで、そのために「新基準」を渇
望しているはずで、利害の一致する部分は大きいと考えられるからです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )  
 

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