06. 2011年3月22日 21:08:28: fZLx20euWI
日本の原子力産業:露呈したリスク2011.03.22(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2011年3月19日号) 福島第一原子力発電所の事故は、日本にとって、そして世界にとって何を意味しているのか。 東日本大震災とその後の津波で大きな損傷を受けた福島第1原発の衛星写真〔AFPBB News〕
東京からサンフランシスコに至るまで、瓦礫と化した住宅の火の元から上がる炎は、常に地震の脅威の1つだ。日本では、火事は「江戸の花」と言われてきた。
しかし、地震の被害を受けた福島第一原子力発電所から散発的に吹き出す炎ほど空恐ろしいものはこれまでなかった。 このぞっとするような光景が、世界中で進められている原子力利用の努力を止めることはないだろう。しかし、原子力利用の形を根底から変える可能性はある。 日本では、原子力発電が総発電量の約3分の1を占める。日本で地震によって一時的に機能を失った原発は、福島第一原発が初めてではない。しかし、冷却に常に水を必要とする原子力発電の技術自体が停止の原因となったのは、今回が初めてだ。 水を得られる場所という条件から、原発の立地は多くの場合、海岸沿いになる。そして今回の場合、それはまさにそこが津波の進路にあたるということを意味していた。 スリーマイル島の原発事故を上回るレベル 福島第一原発の壊滅的な事故が及ぼす直接的影響は、まだはっきりしない。1979年に米国のスリーマイル島で起きた事故はあわや大惨事を招くところだったが、比較的早期に事態を掌握できた。今回の事故はスリーマイル島の事故よりひどいものの、1986年にウクライナのチェルノブイリで起きた事故ほど深刻な状況になる可能性は極めて低い。 チェルノブイリの事故では放射能の雲が欧州全土に達した。犠牲者の数はいまだはっきりしないが、恐らく数千人と見られる。 東京電力が運用する福島第一原発の原子炉は完成から40年経っており、今回、設計時に想定することが求められたあらゆる状況を上回る災害に直面し、適切に自動停止した。同じ海岸沿いにある福島第二原発の原子炉のように、ほぼ無傷に近い形で切り抜けられる可能性もあった。ところが福島第一原発では、様々な不具合が生じた。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695 原子炉は設計技術者が「多重防護」と呼ぶ仕組みで守られている。防護のいくつかは単純な防護壁だ。 まず、燃料棒を構成する核燃料は、硬質合金製の被覆管で覆われている。燃料棒が複数集まった炉心とそれを覆う水を鋼鉄製の圧力容器が格納し、圧力容器の周囲をさらに大きな鋼鉄製の格納容器が覆う。その外側には、格納容器を収める、鋼鉄とコンクリートで作られたもう1つの格納構造物(建屋)がある。 物理的な防護だけでなく、行動による防御もある。地震が発生した時、最初に取るべき行動は緊急停止だ。圧力容器内に収められた原子炉の下部にある制御棒を炉心に差し込むと、原子炉は緊急停止する。 原子炉のエネルギーは大部分が連鎖反応によって生み出されており、中性子がそれを仲介しているが、制御棒はこの中性子を吸収し、連鎖反応を止める。 ただし、その後しばらくは、ほかの反応が続く。福島第一原発のような方式の原子炉の場合、緊急停止直後は、相当な大きさのジェットエンジンを全開で噴射しているのと同程度の熱が小さな容器に密閉されている状態になる。冷却する方法がなければ、内部は相当の温度まで上昇する恐れがある。 失われた冷却機能 --------------------- 陸上自衛隊の消防車が福島第一原発3号機に放水する様子を伝えるテレビニュースを見るジャーナリスト〔AFPBB News〕 --------------------- 津波に襲われた福島第一原発は、冷却機能を失った。発電機は停止し、電子制御装置も冠水した。他所からバッテリーや発電機を調達し、冷却システムを動かそうとしたが、うまくいかなかった。そして、最終的には予備電力もすべて使い果たされた。
福島第一原発は沸騰水型原子炉を採用している。この仕組みは基本的に電気ケトルと同じで、原子炉は底にある発熱体の部分に相当する。 ケトルの電源をオフにできず、放射性の蒸気でケトルの注ぎ口が破損したなら、内部の状況は悪化していく。水量は減少し、最終的には底にある炉心が露出する。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695?page=2 こうなると温度上昇のスピードはどんどん速まり、炉心の一部が溶け始め、水蒸気と反応する。一方で、蒸気の量はどんどん増加し、その圧力は爆発を起こしかねないレベルに達する恐れがある。福島第一原発の原子炉のうち3つで、程度の差はあれ、こうした現象が起きたと思われる。
まず1号機、次に3号機で、複数の放射性元素に汚染された水蒸気が圧力容器から排出され、建屋内に漏れ出した。そこで、水蒸気に含まれた水素が火花に触れて爆発し、建屋の屋根を吹き飛ばした。ただし、この時点では、格納容器に損傷はない模様だった。 1号機では、容器内の水蒸気の圧力が下がらないため、容器を海水で満たして熱を吸収するという思い切った決断が下された。注入された海水には、制御棒では抑えきれない中性子を吸収するためにホウ酸が添加された。 3号機の圧力容器にも同じ対策が講じられ、その後、2号機にも同様の措置が取られた。ところが、東電の報告によると、どこかの時点で2号機内の水がすべて蒸発し、15日朝には恐らくそれと関連すると思われる爆発が起きて、格納容器の底にあるドーナツ状の構造物(圧力抑制室、サプレッションプール)が損傷した。 次第に悪化する状況 そのため15日時点では、2号機が最大の脅威となった。その後、3号機でも格納容器に損傷が報告された。 この段階に入った頃から、発電所施設の状況の悪化が拡大し始めた。まず15日、そして16日に再び、4号機の建物で火災が発生した。 地震の発生時、4号機は保守作業のため休止中で安全な状態にあった。しかし、他の原子炉と同じく、建物内にはプールに保管された使用済み核燃料がある。これも水没させ、水を循環させて冷やしておかなければならない。 4号機と3号機では、使用済み核燃料が外気に露出している恐れがあった。4号機での火災の後、施設内の放射線レベルが急上昇した。この時点で、施設外でのレベルもかなり高かった。 ある時点では、発電所の正門前に防護服なしで立っていた場合、原子力関連の仕事に就く人の許容量とされる放射線量1年分をほんの数時間で浴びる計算になるほどだった。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695?page=3 遠くまで拡散している放射性物質の量に関する情報は混乱しており、それだけでパニックを招きかねない状況に陥った。 米国が、放射線レベルは極めて高く、事態の収拾に向けた作業を大きく妨げる恐れがあると見ているとコメントすると、状況はさらに悪化した。 17 日にはヘリコプター、さらには放水車が出動し、使用済み核燃料の貯蔵プールに水を補給することになった。さらに、重機を用いた新しいアクセス路の確保が始まったほか、外部電力網から安定的に電力を供給するための取り組みも強化された。 連鎖反応 日本人が今後、これまでの原子力依存について再考するのは間違いない。現在、日本全国には55基の原子炉があり、多くが福島第一原発に似た設計だ。ここ数年、太陽エネルギーに巨費を投じてきたにもかかわらず、現実的に原子力の代替となるエネルギーと言えば、輸入資源の天然ガスと環境を汚染する石炭くらいしかない。 短期的には、原子力による発電能力のかなりの部分を停止し、天然ガスの輸入を増やさざるを得ないだろう。長期的にも、原子力発電を大幅に減らせば、その分、天然ガスと恐らく石炭が必要になる。 では、日本以外の国々はどうだろうか? 原子力推進派は、各国が炭素排出量削減に向けて努力する中で、原子力ルネサンスに期待してきた。先進国で毎年25基ほどの原発が建設着工されていた1970年代のようなブームが再来するとの声もあった。しかし、そんな話ももうなくなる。 間違いなく、世論は急激に冷ややかになるだろう。欧米の老朽化した原子炉の安全性向上には時代に合わせた改修が不可欠だが、少なくともこれを実施するだけの政治的意思や予算を見いだすのは難しくなるはずだ。 福島第一原発の衝撃的な映像と、危機的な不運に襲われた感覚は、たとえ最終的に健康被害がほとんどなかったことが分かったとしても、決して忘れられることはないだろう。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695?page=4 ドイツ政府は2010年秋、原発の稼働年数延長で合意に達していたが、福島第一原発の事故を受け、議論を呼んでいたこの計画を3カ月凍結すると宣言した。これによりドイツで最も古い原子炉7基が稼働を停止し、電力網から永久に切り離される可能性が高くなった。 ------------------- 日本の原発災害を受け、ドイツ各地で反原発デモが行われた(写真はベルリン) http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110315/6957702.jpg ------------------ 米国でも、新たな原発の建設に向けてわずかながら盛り上がっていた機運が立ち消えになってしまうかもしれない。 仮にほかに何も問題がなく、福島第一原発の最終的な結果がそれほど悪くなければ、原子力産業はこの危機を乗り越えられるかもしれない。 実際、新型の原子炉は従来型の原子炉よりはるかに安全とされており、これにはある程度の根拠もある。しかも、ほとんどの国は、地震活動のない地域に原発を建設できるという、日本には望めない利点がある。 安全性は高いが、コストも高い新型原子炉 米国の沸騰水型原子炉をはじめとする欧米の旧型原子炉もきちんと改修されており、同様の方式を用いている福島第一原発の原子炉が危機に瀕する原因となった、電源系統の全断といった事態は避けられると考えられている。 ---------------------------- 写真は2009年に撮影されたフランス西部フラマンビルの第3世代原子炉、欧州加圧水型炉(EPR)の建設風景〔AFPBB News〕 http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20090225/3854909.jpg --------------------------- しかし、ほかにも問題がある。新型の原子炉は古い原子炉よりはるかに安全かもしれないが、はるかに高くつくのだ。 実際に建設された例がほとんどないため、どれくらい費用がかさむかは定かではない。米国では原発建設に巨額の融資保証が設定されたが、実際の発注はまだ1件もない。 西欧では2カ所で建設中だが、両者とも予算を超過している。安全性に関する認可を得るのに多大な労力を要するため、投資家は苛立っている。 一方、天然ガスは埋蔵量が十分で、はるかに安く、環境への負荷も比較的小さい。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695?page=5 それでも、世界がこぞって原子力に背を向けるとは限らない。スリーマイル島の事故の後、米国では原発の建設が中止されたが、フランス、そして特筆すべきことに日本では、建設は続けられた。58基の原子炉を抱えるフランスは、日本での惨事を自国の原子力産業への逆風とは捉えず、むしろチャンスと考えているようだ。 ニコラ・サルコジ大統領は14日、フランス製の原子炉は高価なため国際入札に負けてきたが、「ほかより高価なのはほかより安全なためだ」と述べ、自国の原子力産業を褒め称えた。 しかし、原子力発電が最も急速に拡大し、その動きが妨げられる可能性が最も低い地域は、日本を除くアジア地域だ。現在世界で建設されている原発62基のうち、実に3分の2がアジアにある。ロシアはさらに10基の建設を計画している。 中国が原子力大国になったら・・・ ------------------------- (写真は2000年に撮影された江蘇省・田湾原子力発電所の建設風景)〔AFPBB News〕http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20071214/2455543.jpg -------------------------- 一方、原子力発電の導入から間もない国の中で最も重要な存在は中国で、既に13基の原子炉が稼働しており、27基の建設を進めている。今回の事故を受け中国政府は原発の発注を一時停止し、見直しを行うと発表した。 しかし、指導部は石炭からの脱却が必要であることを認識している。中国での石炭の使用が1年間にもたらす健康被害は、原子力産業がもたらすあらゆる被害を圧倒しているからだ。 また、安価で汎用性の高い原発を造れる国があるとしたら、恐らく、中国をおいてほかにないだろう。 もし欧米諸国が原子力に背を向け、中国がどんどん建設を続ければ、不幸な結果を招く可能性がある。原発には信用でき、透明性のある規制、運用者と規制者の明確な区別、しっかり強制される建築基準が必要だ。福島第一原発はこれらの一部を欠いていた。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5695?page=6
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