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「パリ大学のP.サミュエル教授は『自然放射能』と『人工放射能』を区別すべきだという(「エ
コロジー」1973年)。
自然放射能は、宇宙のかなたから地殻の底にある放射性原子から照射を受けているもので、原子
そのものは生体から遠いところにある。ところが、原子力発電所からでる人工放射能は、放射性
原子そのものであって、生体との接触を避けることは困難である。セシウム137やストロンチウ
ム90は、カリウム、カルシウムといった生体にとって不可欠な元素と科学的に近縁関係にある。
したがって、これはカリウムやカルシウムの代わりに生体組織に結合されてしまい、ガンや白血
病、遺伝子の損傷などのような有害な作用をするのである。
さらに人工放射能は、「食物連鎖」を通じて、「生物濃縮」を起こすという点でも、自然放射能
と異なる。
冷却水に出た放射性原子は、プランクトンのところで2,000倍に濃縮され、プランクトンを食べ
た魚で4万倍、魚を食べた鳥で35万倍というふうにすすむ。煙突から出たものは、昆虫の幼虫で3
5万倍、小鳥で50万倍という具合である。
だから、「生物濃縮」のプロセスに入り込むものは、いくら微量に抑えても駄目なわけで、ゼロ
にしなければならない。
これが人間にどのような影響を与えるかについて、疫学的な「状況証拠」がピッツバーグ大学の
スターングラース教授によって提出されている。
1958年以来運転しているシッピングポート原子力発電所の周辺でのガンの発生率を、ペンシルバ
ニア州保健省の資料を用いて調べたものだが、58年以来10年間に、アメリカ全体ではガンの発生
率は8%増、ペンシルバニア州全体では11%増であったのに対して、この発電所からオハイオ川沿
いに1マイル下流のミドランドという町では184%増、35マイル下流の町で35%増、シッピングポー
ト周辺から牛乳の供給を受けているピッツバーグ市で31%増、シッピングポートを含むビーバー
県全体では39%増となっている。
こういう数字が出てくると原子力発電所立地を住民に受け入れさせることは、ますますむずかし
くなってくる。
結局5ミリレム(原子力発電所の通常運転で排出されている量)は、ゼロしなければならないこ
とが不可避であろう。」
(“エネルギー政策の選択” 「世界」 1977年5月)
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