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少し難解なところもあるが、今回の福島原発と同じMOX燃料のことなので、ご参考まで
原発重大事故とMOX
日本の原子力発電所で重大事故が起きる可能性にMOX燃料の使用が与える影響
エドウィン・S・ライマン (PhD)
核管理研究所(NCI)科学部長
1999年10月
序
東海村のJCOの燃料転換工場における臨界事故という日本最悪の核事故から学ぶべき教訓は数多い。中でもおそらく最も重要なのは、核技術が関係する場合には、慢心は危険だということである。科学技術庁は、すぐさま、事故の責任が、不幸にもそのきっかけを作ってしまった労働者たちにあるとしたが、実際の犯人は、臨界事故は起こり得ないと考えた工場の責任者たちや政府の規制担当者らである。このような態度こそが、この事故を可能にした異常なまでの不注意な雰囲気の元凶である。
残念ながら、同じようなばかげた態度が、日本の原子力計画の他の側面でも──大量の放射性物質の頻繁な海上・陸上輸送から、原子力発電所の規制に至るまで──蔓延しているようである。
何十年もに渡って、米国の原子力発電所の設計、立地、建設の基礎となってきた(産業側の)信念は、封じ込め機能(コンテインメント)を破り、大量の放射性物質の放出を招くような重大な事故は、基本的に起こり得ないというものだった。この信念は、1970年代半ばに揺さぶられることになった。新しく設置された米国原子力規制委員会(NRC)が「原子炉安全性研究(RSS)という膨大な報告書を出したためである。RSSは、炉心溶融と封じ込め機能の損失又はバイパスをもたらすような原子力発電所事故のシーケンス(一連の事象の流れ)があり得ることを示して見せた。しかし、RSSは、このような事故の可能性は、ゼロではないが、極めて低いと論じることによって、若干の安心をもたらすことにもなった。そのため、NRCは、既存の原子力発電所における安全システムを改善するために措置を講じる緊急の必要性があるとは考えなかった。ただ、NRCは、このような事故の結果がどのようなものになるか、また、原子力発電所周辺に住む人々を守るのにはどのような措置(立ち退き避難、建物内避難など)を講じることができるかについての分析を始めた。
それから5年もたたない1979年、RSSが100万年に1度しか起こらないとしていた種類の事故が、ペンシルバニア州のスリーマイル・アイランド原子力発電所で起きてしまった。NRCは、ついに、これらの事故を真剣にとらえざるを得なくなり、既存及び新設の原子力発電所に新たな規制を課すことになった。NRCは、さらに、重大事故の可能性に基づいて、公衆のための非常事態計画を立てた。
今日、米国では、原子力発電所の重大事故は、大きな放射能放出につながり、大量の被曝による何十人もの急性死(PF)や、何百、何千人もの潜在的ガン死(LCF)をもたらす可能性があることは、よく理解されている。これらの事故は、激しい事象(たとえば、蒸気爆発、水素爆発、あるいは燃料の破砕)を伴うものである。これらの事象は、非常に激しいもので、ヨウ素131、セシウム137などの揮発性及び半揮発性の放射性核種だけでなく、溶融から簡単に気化することのないランタン140や、アクチニドの核種(プルトニウム、アメリシウム、キュリウム)などの低揮発性の放射性核種も放出される可能性がある。
アクチニドの放出は、とくに憂慮すべきものである。なぜなら、これらのほとんどは、吸入または経口摂取した際に、比較的放射能毒性の強いアルファ粒子を放出するからである。米国のNRCによると、重大事故の場合、軽水炉の中にあるアクチニドのうち最高5%までが放出される可能性があるという。
重大事故とMOX使用
日本の電力会社は、既存の軽水炉にプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を装荷する大規模な計画に乗り出そうとしている。すでにMOX燃料の福島3号機と高浜4号機への輸送が終わっており、MOXの装荷が近く実施されることになっている。そのつぎにMOXを使用することになっているのは、柏崎刈羽である。
原子炉級のMOX燃料を装荷した軽水炉の場合、通常の低濃縮ウラン燃料を装荷した軽水炉と比べ、炉内に含まれるアクチニドの量が相当多くなる。これは、未使用の燃料の中の多量のプルトニウムの存在によるものである。照射の過程で、アメリシウム241やキュリウム244などのような重い核種が蓄積されていく。
表1は、米国のコンピューター・コードORGENS-Sを使って行った計算結果を示したもので、これを見れば、炉心全体に原子炉級MOX燃料を装荷した原子炉と、低濃縮ウランだけを装荷した原子炉との中に、運転サイクルの最後の時点で存在するアクチニドの量が比較できる。計算は、一般的な原子炉級プルトニウムの同位体組成(1)に基づくもので、燃料のプルトニウム富化度を8.3%と想定している。日本では、プルトニウムの富化度13%までが認められている。炉内のアクチニドの量は、アクチニドのすべて核種で、MOX炉心の方が、5倍から22倍近く多くなっている。例外は、ネプツニウム239である。しかし、ネプツニウム239は、ベータ粒子放出体で、アルファ放出体より危険がずっと少ない。
表1:サイクル終わりの時点での低濃縮ウラン炉心及びMOX炉心内のアクチニドの量
Actinides 低濃縮ウラン炉心
(単位:MCi) 原子炉級MOX炉心
(単位:MCi) MOX/低濃縮ウラン
Np-239 1754 1443 0.82
Pu-238 0.2150 2.667 12.4
Pu-239 0.0267 0.1368 5.12
Pu-240 0.0348 0.3532 10.1
Pu-241 10.60 86.51 8.16
Am-241 0.0097 0.2600 26.8
Cm-242 2.964 58.29 19.7
Cm-244 0.1754 3.801 21.7
原子炉級MOX炉心のアクチニドの量が大きいということは、重大な封じ込め機能喪失事故から生じる影響(急性死や潜在的ガン死)が、低濃縮ウランだけを使った炉で同じ事故が起きた場合と比べ、ずっと大きくなる可能性があることを意味している。重大事故の際に発生すると推定されている放射性核種放出割合の数値を使って、影響の増大の幅を計算することができる。
表2は、高浜4号機に似た電気出力87万キロワットの加圧水型炉の周辺113キロメートルの地域でこのような事故の影響がどうなるかを、米国のコンピューター・コードMACCS2を使って計算した結果を示したものである。使用した放出割合は、最近の米国NRCの出版物(2)からとった。人口密度は、高浜周辺の半径110キロメートルの地域の平均人口密度に近い平方キロメートル当たり550人とした。
検討した3つのケース──M(中)、H(高)、L(低)──は、プルトニウムの放出割合の大きさの3つのレベルに対応したものである。それぞれのケースにつき、炉心全部をMOXとした場合と、炉心の4分の1をMOXとした場合とを検討した。関西電力は、最初は、炉心の4分の1だけをMOX燃料とする計画だが、最終的には、炉心の3分の1をMOXにする方針である。しかし、日本は、将来、炉心全部をMOXにすることを計画しており、炉心全部をMOXにする改良沸騰水炉を青森県に建設する計画を進めている。
表2:原子炉級MOX炉心の重大事故の影響
ソースターム
(想定条件) 低濃縮ウラン 原子炉級MOX 原子炉級MOX/低濃縮ウラン
フル炉心 1/4炉心 フル炉心 1/4炉心
ST-1M(Pu RF=0.01)
潜在的ガン死 11,700 56,800 24,200 4.85 2.09
急性死 75 265 133 3.53 1.77
ST-1H(Pu RF=0.035)
潜在的ガン死 31,900 155,000 70,700 4.86 2.22
急性死 417 2,420 827 5.80 1.98
ST-1L(Pu RF=0.0014)
潜在的ガン死 6,090 15,900 8,630 2.61 1.42
急性死 40 64 44 1.60 1.10
RF:放出割合
表2のデータは、軽水炉に原子炉級MOXを装荷すれば、日本の公衆に対するリスクが大幅に増大することをはっきりと示している。炉心の4分の1にMOXを装荷した場合、低濃縮ウランだけの炉心の場合と比べ、重大事故から生じる潜在的ガン死は、42〜122%、急性死は10〜98%高くなる。数値の幅は、アクチニドの放出割合の取り方による。炉心全部をMOXとした場合、潜在ガン死の数は、161〜386%、急性死の数は、60〜480%高くなる。炉心に占めるMOXの割合と、放出されるアクチニドの割合により、原子力発電所の半径110キロメートル以内の地域で、何千、何万という数の潜在的ガン死が余分にもたらされることになる。(この距離は、計算上の便宜のために選ばれたものであり、この地域の外でも影響が生じることはいうまでもない。)
これらの計算は、放出割合(炉内にある総量のうち事故の際に放出される割合)が、低濃縮ウラン燃料の場合と、MOXの場合とで同じだとの想定の下に行われたものであり、事故から生じる影響の差は、炉内にある総量の差からのみくるものである。しかし、実際はそうではないかもしれない。セシウムのような揮発性の核種の放出の割合は、40ギガワット日/トン以上の燃焼度に照射されたMOX燃料の場合、同様あるいはそれ以上の燃焼度の低濃縮ウラン燃料の場合と比べ、相当大きくなることを示す証拠がある。とくに、フランスで行われたVERCOURSという実験では、使用済み燃料を1780kの温度に1時間保った場合、燃焼度47ギガワット日/トンの低濃縮ウラン燃料の燃料棒からのセシウムの放出の割合が18%でしかなかったのに対し、燃焼度41ギガワット日/トンのMOX燃料の燃料棒では、58%に達した(3)。
MOXの使用に伴って増大する危険の大きさからいって、県や国の規制当局はどうしてこの計画を正当化できるのだろうかと問わざるを得ない。その答えは、原子力産業会議が発行しているAtoms in Japanという雑誌の中に見いだすことができる。『通産省と科学技術庁、福島でのMOX使用を説明』という記事はつぎのように述べている。
「MOX使用に関する公の会合に出席した市民が、『MOXを燃やす炉での事故は、通常の炉での事故の4倍悪いものになるというのは本当ですか』と聞いた。返答は、事故が大規模の被害を招くのは、燃料が発電所の外に放出された場合だけだ、というものだった。MOXのペレットは焼結されているから、粉状になってサイトの外に運ばれていくというのは、実質的にあり得ない。だから、事故の際のMOX燃料の安全性は、ウラン燃料の場合と同じと考えられる。」
この返答こそが、MOXの使用を計画している電力会社は、プルトニウムのサイト外への放出に至る事故の影響について評価する必要はないと判断した原子力安全委員会の間違った論理を要約しているといえる。この論理を使えば、日本の当局にとって都合のいいことに、MOX装荷の炉心にある通常の炉心よりずっと多量のアクチニドに関連した深刻な安全性問題を、無視することができるのである。上述の通り、MOX燃料は、低濃縮ウラン燃料と同じく、炉心損傷を伴う重大事故の際には、細かなエアゾールの形で拡散しうるのである。米国で研究されているメカニズムの一つは、高圧溶融噴出(HPME)で、これは、炉心溶融発生の後、原子炉容器が高圧で破損するというものである。このような事態となると、炉心が破片の形で格納容器の内部に噴出し、その結果、格納容器の温度が急激に上がり、封じ込め機能が失われ、放射性物質の放出が生じる可能性がある。
MOXの使用はまた、重大事故の発生の確率を大きくする可能性もある。たとえば、冷却材喪失事故や発電所停電などの事象がある。これらは、米国の加圧水炉では、初期段階での封じ込め機能の損失のリスクをもたらす最大の要因と考えられている。これらの事象が炉の損傷にまで発展する確率は、炉心の緊急冷却が始まるまでに燃料棒の被覆管がどれだけ損傷しているかによるところが大きい。MOX燃料の熱電導率は、低濃縮ウランの場合よりも約10%小さくなっている。一方、MOX燃料の中心線の温度は、50%高くなっている。このため、MOX燃料の燃料棒に蓄えられている熱は、低濃縮燃料の場合よりも大きい。MOX燃料の中央線の温度と蓄えられたエネルギーとが低濃縮ウラン燃料よりも大きいため、冷却材喪失事故の初期段階における燃料棒の被覆管の温度の上昇と、被覆管の酸化率が、低濃縮ウラン燃料よりも大きくなる可能性があり(4)、冷却材喪失事故の影響の緩和のためにNRCが設けている規定を満足させることはMOX炉心の方が難しくなるかもしれない。
結論
米国では、地域住民の避難が実施できる前に大量の放射性物質の放出に至るような原子力事故の平均的リスクは、100万炉年に5件ないし10件と見られている。米国には約100機の発電用原子炉があるから、これは、年間0.1%のリスクに相当する。NRCは、最近、原子力発電所で許されるリスク増大の幅を低く制限するガイドラインを導入した。原子炉級MOXの使用に関連した大きなリスク増大が、米国のこれらのガイドラインの下で受け入れられるかどうか極めて疑わしい。
日本の規制担当者にとって、日本の原子力発電所が米国のものよりリスクが相当低いと考えるのはばかげている。したがって、日本は、軽水炉にMOX燃料を装荷し始めるというその計画を再検討しなければならない。米国の例にならって、重大な封じ込め機能喪失事故が──他の国におけると同じく──日本でも起こりうるという事実を受け入れ、その文脈においてMOX燃料の使用のリスクを評価すべきである。このような評価を厳密かつ正直に行えば、日本の当局は、MOX使用に伴うリスクの増大は、日本人にとって受け入れることのできない重荷であり、将来の日本の原子力産業の焦点は、通常の低濃縮ウランを使った既存の原子力発電所の安全な運転におくべきだ、との結論に至らざるを得ないだろう。
注:
Pu-238, 2.3%; Pu-239, 56.2%, Pu-240, 24.2%; Pu-241, 9.0%; Pu-242, 6.9%; Am-241, 1.4%
R. Davis, A. Hanson, V. Mubayi and H. Nourbakhsh, "Reassessment of Selected Factors Affecting Siting of Nuclear Power Plants, " NUREG/CR-6295, February 1997, p.3-21.
U.S. Nuclear Regulatory Commission, Proceedings of the 461st Meeting of the Advisory Committee on Reactor Safgeguards, April 9, 1999.
U.S. NRC, "Mixed-Oxide Fuel in Light-Water Reactors, " April 1999, op cit.
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