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脱原発のココロ/漫才コンビ おしどり/自ら取材 被ばく者代弁
東京新聞 2012.01.03 朝刊 「こちら特報部」
東京都内でのお笑いの舞台。そろいの服を着た男女が登場した。女性がアコーディオンを奏でて歌うと、男性が針金を素早く曲げ、リンゴの形を作った。すかさず、女性が横から手を伸ばし、「あんたはラ・フランスやから」と洋梨の形に変形させた。「何よそれ」と言い返す男性。女性は一言「用無しよ」。
演じていたのは漫才コンビの「おしどり」。マコリーヌにケンパル、通称マコとケンは実生活でも夫婦だ。ボンボン物を言うマコに、おっとりしたケン。アコーディオンと針金細エという各自の特技を生かし、絶妙な掛け合いを披露する。
こんな「社会問題に関心などないお笑い芸人」(マコ)の生活が続くはずだった。それが東京電力福島原子力発電所の事故以降「吉本興業のおしどりです」と名乗り、東電や政府の会見で質問を連発。心ならずも「脱原発芸人」の呼び名がついてしまった。
睡眠時間を削って国内外の情報を集め、専門書を読みあさる日々。芸で鍛えたマコのよく通る声は会見の名物になった。すっかり顔なじみになった原子力安全委員会の担当審議官は「会見に来る記者の中で一番勉強している」と感嘆した。
会見に出席したきっかけは、自分たちの不安や疑問を解消するためだった。昨年二月十一日、引っ越しの荷物が積まれたままの都内のマンションで、揺れに襲われた。活動拠点を大阪から東京に移した直後だった。
「あのとき生き延びたのに、今死にたくない」。神戸市生まれのマコの脳裏に阪神大震災の記憶がよみがえった。同市内の自宅は半壊。当時、研究者を目指し、鳥取大医学部生命科学科で遺伝子工学を学んでいたが、大震災発生の報道を聞いて、急ぎ故郷に戻り、崩壊した街を目の当たりにした。
芸人を志した動機も避難所で見た光景が根底にある。健康なのに「死にたい」と嘆くお年寄り。その姿を見ながら「人を生かす仕事がしたい」と強烈に思った。
休学してちんどん屋に弟子入りした。生活費のため路上でアコーディオンの流しを始めた。やがて、百人を超える観衆を集める話芸が注目され、スカウトされた。
報道に不信/会見場通い
そして東日本大震災の余震におびえていた三月十二日。福島第一原発が爆発した。「理系でそこそこ知識があった」マコは、テレビや新聞の被ばく量の説明にひっかかった。「海外旅行一回分と同じとか言うけど、パイロットも限界の線量が決められてるのに」
夫婦でネット動画を通じて、東京電力の会見を見始めた。高濃度汚染水に足がつかった原発作業員についての質疑応答にのけぞった。作業員のその後の健康状態を聞く記者に、担当者は「(作業員の)連絡先を聞いていないので分かりません」と言ってのけた。
「どんなやりとりやねん!。だが、この質疑応答は報道されなかった。大手メディアに不信感が募った。最初は会見の書き起こしをしていたが、それでは飽き足らなくなった。「自分で質問したい」と四月上旬、会見場に足を踏み入れた。
<デスクメモ>
新年おめでとうございます。昨年は内外の大ニュースに明け暮れました。今年も混迷はより一段と深まりそうです。ケンさんの針金芸ではないですが、そうした時代こそ「折れない心」を大切にしたい。支えは耐えて生き抜く人たちへの共感です。「こちら特報部」を引き続きご愛顧くださいますよう−。(牧)
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脱原発のココロ/漫才コンビ おしどり/芸も真相も 大事やねん/「震災前」脱し、成長を
東京新聞 2012.01.03 朝刊 「こちら特報部」
ネット上を飛び交う情報にデマが多かったことも、二人の背中を押した。「一次情報しか信用できない。誰かの作った『安心・安全』にのっからず、情報や知識をできるだけ吸収して、ある程度自己判断しなきゃタメだと思った」
四月下旬からは、記者会見が東電に保安院や原子力安全委員会が加わる統合会見になり、新聞協会などに加盟する媒体への署名記事掲載が参加条件になった。雑誌などへの連載が決まって、出席の資格条件は何とかクリアしたが「結局、大手メディアしか参加させない仕組みなのか」と、また疑念が湧いた。
会見でのやりとりも想像を絶していた。たまり続ける原発汚染水の行き先をマコが質問すると、担当者は「海洋投棄の可能性がある」と回答。ケンは「これはトップニュースだと思ったら、どのメディアも大きく報じずに驚いた」という。
現行の処理装置では、汚染水に含まれるストロンチウムが除去できないと気づいたマコの質問には、あっさり「そうですね」と返された。
やがて自分たちだけの問題ではなくなった。五月半ばに「子どもの内部被ばくを調べてほしい」と、国会諸員に陳情に来ていた福島県飯舘村の住民たちと親しくなった。ある若者は「自分は長生きできると思わない」と話した。福島のいわき市で知り合った二十代の原発作業員は「自分には将来子どもを持つ選択肢はない」とつぶやいた。
こうした人たちの“代理人”として真相を追及する―。そんな使命感が芽生えた。今の最大の課題は将来、健康被害が出たときのための過去の内部被ばく量の推定だ。国は事故後、迅速に住民たちの被ばく調査をしなかった。実際、半減期が八日間のヨウ素131を調べる術はすでにない。
官僚知らぬデータ発掘
ケンは昨年十一月、米国エネルギー省・国家核安全保障局のデータを発見した。同三月十五〜二十三日、航空機や地上で測定した調査結果が十月下旬にネット上で公開されていた。
会見でマコが「このデータは住民の被ばく線量評価に役立つのでは」と質問すると、官僚はデータの存在自体を知らなかった。「役所のパソコンでは海外サイトは見られない」が理由だった。
「国は私たちを見殺しにしている。そして、それは震災前の私たち自身のせいだ」と二人は口をそろえる。日本社会で暮らす一人一人が、自分の置かれた状況を全力で考えなければ未来はない、と考えている。
いま企画しているのは、米ハーバード大の名物であるマイケル・サンデル教授の「白熱教室」のような腹を割った議論の場をつくること。汚染がれきの処理ひとつとっても、汚染地とそれ以外の場所の住民との温度差は大きい。「原発問題はきれいごとじゃない。何が正義かを考えるには、自分の心にある闇の部分も正直に口に出さないと、その弱さをつかれる」
原発に関する活動で、仕事は明らかに減ったという。「原発問題も大切だけど、良い芸があるんだからがんばれ」という先輩芸人の励ましの言葉に泣いた。本当は舞台だけの生活に戻りたい、記事より台本が書きたい。それでも、社会について知ることは、自分の人生に必要なことだと知ってしまった。
「だからみんなで、脱『震災前の自分』、そして脱『震災前の日本』にしなきゃ!」
(敬称略、出田阿生)
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漫才コンビ おしどりはこんな人 ⇒
2012.1.1(日)ニュースの深層2時間スペシャル「2012年 原発の運命」
<出演>おしどり♀マコリーヌ(芸人)
今西憲之(ジャーナリスト)
柿沢未途(みんなの党衆議院議員)
<司会>上杉隆
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