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「ちきゅう座」より引用
2011年 12月 26日 交流の広場 低線量被ばく松元保昭
<松元保昭>
みなさまへ 松元
すでにご存知と思いますが、細野原発事故担当大臣の要請から放射性物質汚染対策顧問会議のもと、元放影研理事長:長瀧重信、および放医研緊急被ばく医療ネットワーク会議委員長:前川和彦を共同主査とする「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」が、先週22日「報告書」を公表しました。今後の日本の「低線量被ばくのリスク管理」の「基準」になると思われます。
●低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書:2011年12月22日
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/twg/111222a.pdf
同報告書によれば、
1)国際的な合意に基づく科学的知見によれば、放射線による発がんリスクの増加は、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。
2)子ども・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても、成人の場合と同様、100 ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい。
政府はこれまで、年間20ミリシーベルトを避難の基準としてきたが、実際の被ばく線量は、年間20ミリシーベルトを平均的に大きく下回ると評価できる。年間20 ミリシーベルトという数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。(以上同報告書よりの引用)
また、「子どもや妊婦に対して優先的な措置」「きめ細かな対策」をとることは適切であると述べるものの、その具体的な提案はほとんどなく付けた足しの感が否めない。「報告」の骨子は、「避難区域の設定」「除染」など政府の対策を肯定し追随したものであり、事故の現状についても「冷温停止状態の達成等」と表現して、およそ科学的知見とは言えない報告書になっている。
重大な問題点は、「相反する意見も含め」「海外の専門家の方々にも参加を」得、「また、政府の取組とは異なる方法やアプローチを主張される専門家の参加も得て議論をすることとした」としながら、「報告書」では、「科学的知見と国際的合意」をごちゃまぜにして「国際的に合意されている科学的知見」という偽装を大前提にしていることである。
すなわち同グループのリスク評価は、「国際的合意としては、科学的知見を国連に報告している原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、また世界保健機関(WHO)、国際原子力機関(IAEA)等の報告書に準拠することが妥当である。」というものである。いうまでもなくそれらの報告書が「準拠」しているのは、ほかならない国際放射線防護委員会(ICRP)のリスク評価である。
したがって「報告書」によれば、「国際的な合意では、放射線による発がんのリスクは、100 ミリシーベルト以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。疫学調査以外の科学的手法でも、同様に発がんリスクの解明が試みられているが、現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。」という「結論」になる。
さらに、「東電福島第一原発事故により環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は、長期的な低線量率の被ばくであるため、瞬間的な被ばくと比較し、同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。」「UNSCEARやWHO、IAEA等国際機関における合意として、子どもを含め一般住民では、白血病等他の疾患の増加は科学的に確認されていない。」「低線量の放射性セシウムによる内部被ばくと膀胱がんのリスクとの因果関係は、国際的には認められていない。」 等々とつづく。
チェルノブイリ事故と比較しても、「同じレベル7のチェルノブイリ原発事故とは、環境中に放出された放射能量が7分の1程度であり、地域住民に及ぼす健康影響の面でも大きく異なると考えられる。」とし、「チェルノブイリ原発事故における甲状腺被ばくよりも、東電福島第一原発事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり、被ばく線量は小さく、発がんリスクは非常に低いと考えられる。」と、意図的「過小評価」の論調に終始している。
ここでは、私たち市民がたびたび聴いて目を覚まされた「ドイツ放射線防護協会」、「IPPNW(核戦争防止国際医師会議)」、「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」、「クリラッド(CRIIRAD)放射能に関する研究と独立情報委員会」、「ベラルーシ放射線防護研究所」などの国際的市民科学者の提言、およびカナダ・マギル大学チームやユーリ・バンダシェフスキー教授らの専門的知見を無視ないし黙殺し、ましてやICRPの評価基準にまっこうから対立する体系的な科学的知見を公表している「レスボス宣言」や「ECRR(欧州放射線リスク委員会)」の報告・勧告等にも、一顧だにしないワーキンググループの「報告」が果たして「相反する意見も含めて検討」したことになるのであろうか。
加えて海外はさておき、わが国の誇るべき学者たちの研究成果と科学的知見も一顧だにされていない。肥田舜太郎氏をはじめ、矢ヶ崎克馬氏、沢田昭二氏、崎山比早子氏、山内知也氏などが現存しているし、そうした方々の著訳書も広まっている。さらにこの間の市民の内部被ばくへの憂慮にも、とても応えているとは言いがたい。(児玉龍彦:東京大学先端科学技術研究センター教授も第4回の検討会議に招聘されているから、この「報告書」にどういう考えをもっているか伺いたいところだ。)
彼ら「御用学者」たちは、科学的知見を真摯に検討するのではなく、すでに一部の「国際社会」を名のる核推進同盟によってつくられた「国際的合意」を日本政府とともに押し通すことが彼らの「使命」でしかないのは明らかである。犠牲になるのは何百万の子孫である。
来日もして、日本政府および日本の市民にたびたび提言を寄せているECRRのクリス・バズビー博士は、7月の帰国時羽田空港で次のように述べていた。
『まず最初に知ってほしいのは、ICRPの基準は役に立たないということです。内部被曝によるガン発症数について誤った予測をだすでしょう。ICRPのモデルは1952年に作られました。DNAが発見されたのは、翌1953年です。
ICRPは、原子爆弾による健康への影響を調べるために設立されました。第二次世界大戦後、大量の核兵器が作られプルトニウムやウランなど、自然界にはないものを世界中に撒き散らしました。このためICRPは、すぐ対策を考えなければなりませんでした。そこで彼らは、物理学に基づいたアプローチをとりました。物理学者は、数学的方程式を使ってシンプルな形にまとめるのが得意です。しかし、人間について方程式で解くのは複雑すぎます。
そこで彼らは、人間を水の袋と仮定し、被曝は、水の袋に伝わったエネルギーの総量によると主張したのです。これはとても単純な方法です。人の形の水の袋に温度計を入れ、放射線を当て温度が上がったら、それが吸収された放射線量というわけです。』
『彼らは、何かを推進しているなんて言いません。独立した組織で、科学者たちが放射線のリスクを研究しているといいます。決して、原子力を推進しているとは言いません。ただ、結果的にそうなっています。このようなことは水面下でいつも起こります。
私たちの多くは、ICRPはもともと核開発を推進するために設立されたと思っています。推進しないまでも、人々が核開発を阻止しないように設立されたと思います。人々が「牛乳にストロンチウムが入っていたから、ジミーが白血病になっちゃったわ」というと、「いえ、核兵器のせいじゃないですよ、放射線が少なすぎて影響しませんから」、そう言うためにICRPは設立されたのだと思っています。
そして医者たちが騒ぎ出したとき、彼らが何をしたかというと、医者たちをけん制するため、1959年にWHOにIAEAと協定を結ばせたのです。それは、IAEAが放射線と健康に対して責任を持つという協定でした。「IAEA=国際原子力機関」が「健康」について責任を持ち「WHO=世界保健機構」が、放射線のリスクについて考えてはいけないことになったのです。彼らは、蚊だのエイズだけを扱うことになりました。
そこは、はっきり区別されています。これが、ICRPが放射線リスクに対する理解を支配(コントロール)している証拠です。…でも彼らは、絶対にそれを認めないでしょう。』
また講演会では、『20年間ICRPの科学事務局長を務めたバレンタイン氏自身が、辞任直後の2009年4月に、「ICRPモデルは内部被曝を予測することが出来ず誤っている」と公式に認めた』、とバズビー博士は指摘していた。
別なところでは、『チェルノブイリ事故の被曝影響は、国際原子力エネルギー機関(IAEA)と原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)によって隠ぺいされ、否定されています。WHOに対する彼らの支配は、2000年キエフでの中島宏WHO事務局長の言葉からも明らかです。彼はそこで(カメラに録画された)、放射性核種の被曝による公衆衛生の分野ではWHOはまったく委員会に従っていると述べたのです。これは1959年の合意に従ったもので、今でも効力があるということです。ICRPはUNSCEARの証拠を採用しています。UNSCEARはIRCPのモデルにそぐわない証拠はすべて除外しています。UNSCEARによるチェルノブイリ健康被害の隠ぺいは今福島で再び進行中です。今週UNSCEARに新しい委員長が就任しました。ドイツ連邦放射線防護庁(BfS)長官のウォルフガング・ワイスが戦略的な隠ぺい工作を開始しているのです。』
さらに、『チェルノブイリとそれ以外の例の一般公開への対応の歴史から、深刻な健康被害の組織的隠ぺいがあるであろうことが結論されます。それはすでに始まっているのです。
(1)、放射線曝露量を少なく見積もる
(2)、被ばく核種をセシウムとヨードだけに限る
(3)、健康影響を調査しない
(4)、いかなる健康被害も精神的なものであると言い逃れる
日本もソ連と同じ対処をすることがはっきりしました。チェルノブイリ事故後に駆使されたすべての戦術が福島で再び行われています。』
ほとんど上記指摘の通りになった今回の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」を作成した「学者」たちは、おしなべて「原発安全神話」の旗振りをしてきた文字通りの御用学者たちである。来年以降、日本の市民に20ミリシーベルトが合法的に強要されていくだろう。こうした犯罪者たちがのうのうと新たな基準作りの中心に居座っていることこそ、市民の反原発運動が政府・電事連・東電・官僚・メディアなど立ち塞がる大きな壁を乗り越えられていない現実をあらわしている。
この9ヶ月、残念ながら市民の告発の声はまだ弱かった。将来の子どもたちを襲うこうしたリスク評価を許すことは、これまでの私たちの過ちを繰り返すことになる。避難にせよ除染にせよ、リスク評価が分水嶺になる。科学的知見という武器を私たち市民も持たなければならない。
(以上、松元記)
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