http://www.asyura2.com/11/genpatu19/msg/586.html
Tweet |
放射能風評対策 組織による広報活動を=言われなき攻撃から正論を語る人を守るために - 石井孝明
http://blogos.com/article/27671/
2011年12月23日 19:20 アゴラ
■「人として正しい道を歩んでいますね」=「原発御用文化人」? 私へのほめ言葉
私はたいして有名ではないが、記者としてエネルギー・温暖化問題に取り組んできた。東日本大震災と福島原発事故の後に、共有されるべき情報を提供してきた。「現状の放射線による健康被害の可能性は極めて少ない」「再生可能エネルギーには問題が多い」「エネルギー政策は安定供給が第一の目標でなければならず、原発は嫌でも利用するべきだ」。こんな考えを主張した。
すると反原発派などが運営するサイトで、私は「原発推進御用文化人リスト」に名指しされていたそうだ。それを見た尊敬する研究者からこう言われた。「石井さん、人として正しい道を歩んでいるようで何よりです」。2人で大笑いした。
このサイトは一例だが、人の話を聞かないで単純なレッテル貼りをして人を敵視する、一部反原発派の知的、倫理的なひどさに、私もその人もうんざりしていた。ちなみに私は政府からカネはもらっていないし、原発を推進したいとも思わない。なんで原発では推進と反対に単純な二分論を行い、相手を批判して対話をしない50年前の議論の姿勢から、思考が進化しない人が多いのだろうか。
私は記者という職業であり、文章を世に出し批判や感想を受けるのは当然だと思っている。記者としての目標はアメリカのジャーナリストのデビッド・ハルバースタム(http://en.wikipedia.org/wiki/David_Halberstam)。ベトナム戦争時には政策の失敗について、ケネディ、ジョンソン両大統領に名指しでののしられても、事実を書き続けた。
また私はおかしな行動をする人は、日本社会の中で常に少数であると理解している。私は記者活動をすればするほど、日本の市民社会の健全さを体験の中で知っている。変な主張は常に少数で一過性だ。
■匿名の攻撃に一般人がさらされる恐怖
「人のうわさも75日」という。ところが変な言論がわずかの時間で消えるまでの時間に、さまざまな弊害が起こる。一つが批判だ。私のような「罵倒されることは当然」な仕事の人はめったにいないだろう。ネットでは匿名の個人攻撃が起こりやすい。震災以降に、原発をめぐる問題で顕著になった。
原発問題で取材や寄稿の依頼などをすると、「ためらい」を見せる人が多くなった。批判を受けるためだ。メディアの取材を受けるような人は、たいてい社会的地位が高く、知的労働に就いて本業がある。忙しいことに加えて、慣れない誹謗中傷にうんざりするだろう。そうした人らが警戒し、発信する意欲が落ちるのも当然だろう。
学問の自由を侵害する恐ろしい事件もあった。「活動家」の広瀬隆氏は7月、福島県立医大副学長の山下俊一氏を、刑事告発すると騒いだ。取り上げる価値もない話で、続報もないが本当に告発したかは知らない。山下氏は福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーで、広島・長崎の原爆のデータを元に「100mSv以下の被曝と発ガン率など健康被害には因果関係がない」という結果を発表、勧告しただけだ。これは医学会で、広く知られた説だ。
山下氏はそれでも福島県で医療活動を行い、医大の教員としてとどまる。おかしな人々が現場で頑張る人まで攻撃する先例は、自由な言論活動の萎縮を生むだろう。言論の自由は「他人の自由を侵害してはならない」という内在的な制約を持つ。学問の自由も当然その中に入る。広瀬氏とその周辺はその常識もないらしい。
正しい情報を告知するのはメディアの役割だ。しかし現状はその役割を果たしていない。その発信力や影響力は急速に低下。また放射能をめぐり、一部メディアはセンセーショナルな情報を伝えて、デマの発信源になることさえある。
その結果、声の大きな人、派手なことを言う人ばかりがネットを中心に目立つ。まじめに物事を考える人ほど断言に慎重になり、目立たない。そして新しく正しい発言をしようとする人が出にくい状況になっている。これは非常に危険だ。
エネルギーをめぐるおかしな政策が次々に打ち出されている。健康被害の可能性は極小にもかかわらず、金額の上限を決めない除染が1月から実施される。総額は数十兆円という試算もある。政府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会」によれば、東電の賠償額は 2011年度から2年間で4兆5000億円。農林漁業・食品産業の風評被害は国内分で8338億円にもなる。
原子力災害に直面した方には同情するが、理性的に考えれば健康被害の可能性は少ないのに、こうした支出は過剰だ。そして原資は税金だ。こうした政策の背景には、理性的な議論が行われていない現状があるのだろう。
■リスクコミュニケーションの組織が、危機の今こそ必要
こうした状況を変えるために、私は「リスクコミュニケーション」を行う組織が必要であると考える。正しい情報を伝えようとする専門家が、匿名の大衆に個人で向かい合うから、問題が起こる。特定問題への組織広報を行うのだ。主体は国か福島県になるだろう。ネットをみていただければ分かるが、「放射能のリスク」を網羅的に、そして発信力がある形で情報を提供している場はない。
その組織は官民の団体がばらばらに発信している情報を一元化する。さらにその組織を通じて発言、対応をさせることで、専門家を守るのだ。具体的には、「1・個別の商品、地域の安全性を積極的にPRする」「2・放射線について『科学の分かっていることを』開示する」「3・リスクを定量化する」「4・偽情報、デマについては、メディアや発言を調査。その発信源を特定し、事実を速やかに発表し、発信源に訂正を求める」という業務を行う。
リスクの定量化とは「環境リスク学」の考えだ。例えば、現状の低線量放射線のリスクより、野菜不足や常習的喫煙の方がガン発生率が高い可能性がある。こうした事実を淡々と伝える。
また組織広報、コミュニケーションの専門家の介在で、専門家の正論を際立たせ、サイトや刊行物に蓄積する工夫もできる。山下氏の告発騒ぎのような問題が起きないように、正しいことを述べる個人を組織で守るのだ。
詳細は調査中だが、英国のFSA(食品安全庁)という組織では、食品のリスクに関するコミュニケーションに平時から積極的で、危機時には上記のような専門広報を行う仕組みがあるという。1986年の同国の狂牛病パニックから対策を学んだそうだ。(http://www.food.gov.uk/)私はいろいろな大会社の広報部をみたが、こうした対策は30人以内での組織で足りると思う。
もちろん官による言論監視活動を含む広報組織は、使い方を誤れば大変な弊害をもたらす。また狂乱はいずれ一服するだろうから、わざわざ組織で行う必要がないという考えも成り立つだろう。しかし風評が現時点でもたらしている弊害と損を考えれば、これから1年ほどは恒常的な組織が必要ではないだろうか。時限を限って活動する組織が望ましいだろう。
「科学は狂信と迷信の毒に関する最良の解毒剤である」(アダム・スミス、英哲学者・経済学者)。正しい考えだが、解毒剤が効くまで人によって時間差があること、そして少数ながらまったく効かない人がいることを、私たちは目撃している。
私たちの自由な社会を守るために、一部の人の放埒な言論活動を言葉の力と理性で止める必要がある。
【お知らせ】私は自らの記者活動とともに、アゴラ研究所とビル・ゲイツ氏が運営する研究機関グローバル・エネルギー・ポリシー・リサーチ(GEPR: http://gepr.org/)のサイト編集に加わることになりました。
実は私がGEPRに積極的に参加させていただいた理由の一つは、このコラムで書いた問題意識にあります。正確な情報を共有できれば、日本社会は自律的に正常化していくだろうと、期待するためです。読者の皆さまのご協力とご支援をよろしくお願いいたします。
http://agora-web.jp/archives/1416658.html
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素19掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。