http://www.asyura2.com/11/genpatu19/msg/466.html
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さきほど、下のほうのスレッドで既に話題になっているNHKスペシャル「シリーズ原発危機 メルトダウン 〜福島第一原発 あのとき何が〜」という事故検証番組を見終わった。
見終わっての印象は、東電とNHKそして専門家と称する人たちがタッグを組んで、もっともらしく見せながら内実はデタラメというひどい番組をつくったというものだ。
番組が言わんとしている検証結果を端的にまとめると、1号機のメルトダウンは運転員たちがIC(非常用復水器)の使い方を知らなかったために思わぬ早さで進んでしまい、原子炉水位計の値がおかしくなったために、メルトダウンにも気づかなかったということになるだろう。
仮に東電の運転員や管理者たちが知識に欠け事故対応に無能だったとしても、それに寄り添った解説に終始しても検証番組としては意味がない。
科学技術的視点で番組を作成したというのなら、まずもって、原発の冷却機能や放射線防禦構造をきちんと説明しなければならない。
中央制御室で起きた危機感漂うドタバタを中心に据えたパニック映画的手法を全否定はしないが、それを映像化する前に、原発に関する様々な装置や構造の基本概念を説明しなければ、ただ映像の力と専門家(肩書き)の力で、ふーんそうなのかと思わせてしまうだけの番組になってしまう。
番組で取り上げられた項目について問題を指摘したい。
【1号機のIC(非常用復水器)問題】
● ICの作動問題とICの基本機能
事故原因や事故対応に関心を抱いてきた人ならご記憶だと思うが、1号機のICは、地震から5、6分後に自動起動したが、温度や圧力が急激に下がったため運転マニュアルに従い10分ほどのちに手動で停止したと発表され、そのことが話題にもなり問題視もされてきた装置である。
そのような公表内容があるにも関わらず、この検証番組では、それがまったく無視され、運転員が1号機のICに関心を持ったのは17:19頃で、それまではICが問題なく動き続けていると思われていたように描かれている。
番組が見過ごしているもっとも重要な点は、IC(非常用復水器)が、電源が無くても作動する一方で、復水器に水がなければ機能しない冷却装置である事実である。
復水器が大量の蒸気を吐き出すと言われていることからも推測できるように、約300℃に達する大量の蒸気を復水し続ける復水器は、貯えられている水をおよそ90分で枯渇させてしまうのだ。
検証番組も、肝心な説明をしないまま、メルトダウンに至らなかった条件として「ICに水を補給し続ければ..」というナレーションを流していた。
バッテリー喪失で弁が閉じてしまうことを知らなかったことが問題視される一方で、復水器が機能を維持するために、およそ90分ごとに大量の水を補給しなければならないという制約条件は触れられることさえなかった。
水が関わるICの機能持続時間を知っていれば、運転員が「津波が襲ったあともICがずっと動作していると思っていた」とか、事故対応現場最高指令者たちが「制御室から連絡がなかったのでICが停止しているとは思わなかった」といった寝とぼけた話は出てこない。
(当時の状況でICに水を補給することは、並大抵ではない作業になるからである)
運転員はともかく、免震棟にいて指揮をとっていた幹部や首相官邸に集まった専門家たちが、ICの基本機能さえ知らなかったというのが本当なら、まったくの役立たず集団でしかないと言っても差し支えがないだろう。
検証番組というのなら、ICが動いていればメルトダウンや放射能放出は避けられたというとんちんかんな結論を語る前に、ICが、タンクへの水の補給なしでどれほどの時間機能できるのかを説明しなければならない。
さらに、津波後の1号機でICのタンクに水を補給する手段があったのかどうかも説明されなければならない。
ICは高所に設置され重力を利用して水を原子炉に戻す仕組みになっており、1台だけ動いていたという消防車でICに水を補給することは困難だったと思われるからである。
地震時ないしは津波襲来時からICが作動していると考えていたのなら、現場にとって、復水器のタンクに水を補給することが困難極まりない“至上命題”になっていたはずである。
番組に出演していた専門家たちは、復水器が壊れて放射性物質を含む蒸気が放出される危険性を考慮してICを停止したとする東電の説明を、ICはそんなヤワな構造物ではないと批判していた。しかし、津波襲来後にICが起動したとしても、17時過ぎには復水器の水が枯渇し、復水器としての機能を果たさなくなっていたのである。
● IC以外の冷却機能を無視
事故発生からこれまで、原発システムの基本とりわけ冷却機能に関する体系的な説明をしないまま、あれが動いた、これが止まったなど、個々ばらばらの事故原因や事故対応の説明説がなされていることにずっと疑念を抱いている。
今回のNHKの番組でも、「冷温停止に向けた手続きは順調」という字句が表示されたが、それがどのような冷却機能を指すのかは説明されなかった。
番組を見た方も違和感を覚えたと思うが、1号機のIC(非常用復水器)は、機能をよく知らなかったとか、長い期間使ったことがなく動かしたのは初めてだったという話が出てくるような装置なのである。
原子炉は事故や地震で緊急停止することはままある。そのようなときには、ICが作動して冷却するのではなく、別の冷却機能が働いて冷温停止に向かわせる。
ICといった冷却装置を説明するのなら、緊急停止した原子炉が冷温停止に向かう標準的な手順をまず説明しなければならない。
福島第一の交流電源喪失は、「所内電源がスクラムで停止」→「外部電源への切替え(地震で)不能」→「非常用ディーゼル発電機自動起動」→「(津波により)非常用ディーゼル発電機停止」という過程で進んだ。
外部電源は途絶えても、津波が襲う15:36までのおよそ50分間、交流電源が使えていた“はず”である。
そうであれば、全電源喪失時に作動するICではなく、交流電源で動く緊急炉心冷却装置(ECCS)によって冷却されるはずである。
1号機については、格納容器スプレイが動いたという話もあるが、原子炉を冷却する装置に関してはIC以外なんら語られていない。
(番組では、冷温停止した5・6号機向け夜の森線の鉄塔倒壊をもって全号機の外部電源が失われたようなイメージを与えていたが、工事中も含め6系統ある外部電源すべてが地震後通電しないままだったため、外部電源喪失というとんでもない事態に陥ったのである。番組は津波でディーゼル発電機が止まったことに焦点を当てていたが、多重に確保し相互融通を図っていたはずの外部電源がすべてワヤになったことが一義的な問題なのである)
● ICがほとんど機能していなかった事実
ICの作動問題を検証の中心に据えるのなら、11月下旬に報じられた、ICの残り水量からICがほとんど機能しなかったと推定されるという話を評価しなければ意味がない。
※ 関連投稿
「1F1号機―非常用復水器(IC)機能せず:「IC作動で原子炉温度が急低下のため手動停止」がウソと東電自らが“告白”」
http://www.asyura2.com/11/genpatu18/msg/624.html
「保安院公表:1号機運転員、事故当日、「タービン建屋1階の原子炉側の通路でシューシューいう音を聞いた」と証言」
http://www.asyura2.com/11/genpatu18/msg/680.html
【原子炉水位問題】
番組は、東電&政府がメルトダウンを知らなかった根拠として、狂った原子炉水位値を持ち出していた。
これは、ICの復水機能持続時間や番組では触れなかった16時ころに認知された水位低下のスピードを考えれば狂っていることがわかるから、ゴマカシ以外の何ものでない。
仮に東電の人たちが水位計に騙されていたとしても、検証番組なら、水位計のまやかしで済ますのではなく、きちんとした説明を行う必要がある。
※ 関連投稿
「“空だき”原子炉の「水位計」があてにならないことを知りながら、メルトダウン秘匿の“言い訳”に使っている政府・東電」
http://www.asyura2.com/11/genpatu11/msg/852.html
「1号機は津波ではなく地震による損傷でメルトダウン:再循環パイプの破損で津波前から毎時25トンの冷却水漏れ」
http://www.asyura2.com/11/genpatu11/msg/584.html
【メルトダウンの認識問題】
番組のいい加減さがよく現れていたシーンだが、17:19ころにICを気にかけたことでICの点検に向かうことにしたが、原子炉建屋の扉を開けたら高い放射線量を測定したので、なかに入るのをあきらめて戻ったという。
おいおいである。異常に高い放射線量が測定されたということは、原子炉内の放射性物質が、配管もしくは格納容器を経由して建屋に漏れ出していることを意味する。
子どもの使いではないのだから、ICに点検に向かったが、高い放射線量だったので戻ったからICの状態は不明という説明で済まされる話ではない。
(ICが作動しているかどうかは、18時半頃に行ったとされるように、外から蒸気の噴出を確認すればわかる。しかし、検証番組によれば、陽の明かりもあった地震発生から18時半頃まで一度も実施していないことになる。建屋のなかに入れないのなら、外から確認する手段を選択するのが当然だろう)
それはともかく、東電の人たちがとてつもない愚か者の集まりだったとしても、検証番組をつくった人たちには、メルトダウン前の17時過ぎには損傷を受けた配管から放射性物質が漏れ出していた事実がわかる出来事だ。
配管損傷や格納容器からの漏れがないままで、建屋の放射線線量が上昇することがあるというのならそうなる説明をして欲しい。
番組でも描かれていたが、日付が12日に変わる頃には非常に高い放射線量を測定し、放射線防護服やマスクを装着するようになり、中央制御室に残る人員も減らしている。
番組は、それでもメルトダウンが論議されることはなかったと説明していたが、それは、みんなが暗黙でメルトダウンを認識しつつも、言葉にするのが憚られた結果だと推測する。
中央制御室のセットなど、番組の制作にはけっこうな額のお金をかけたと思われるが、その結末が、メルトダウンの原因が「ICに関する理解不足」であり、メルトダウンを認識できなかった原因が「原子炉水位計のダマシ値」だというのではあまりにひどい検証と言わざるを得ない。
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