http://www.asyura2.com/11/genpatu19/msg/431.html
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(回答先: <牧野淳一郎>「専門家」を信用するのか?信用しないならどうするのか?ということ(2011/12/11) 投稿者 石井広国 日時 2011 年 12 月 18 日 13:05:28)
http://jun.artcompsci.org/articles/future_sc/note103.html#rdocsect183
102.8. 研究者の情報発信はどうだったか?
上でみたように、国・東電が今回の事故について積極的に情報発信しないであ ろう、むしろ、放射性物質の放出についても放出したものの影響についても可 能な限り小さいめに評価しようとするであろう、ということは、彼らの立場に 立ってみれば極めて自然なことと考えられます。
そうすると、例えば原子力工学の研究者、学会、放射線医学の研究者、と いったところにも(もちろん、個人差はあるにしても)同様なバイアスが かかることは避け難いと考えるべきでしょう。
一見すると、このような状況は、いわゆる相対主義的科学観に良くあっている ように見えないこともないです。科学者の主張はその人の政治的な立場や信念 によるものであり、「事実」を反映するわけではない、そもそも、そういうわ けで「事実」が何かわからないのだから、科学が事実に近付くとかそういう議 論には意味がない、というのが(少なくとも強い形での) 相対主義的科学観と言 われるものの主張です。
しかし、良く考えてみるまでもなく、ここで私は「可能な限り小さいめに評価 しようとする」人々がいる、といっているわけで、これは「事実」がどこかに あって、それとは違うことをいっている人々がいる、という意味です。この意 味で、科学者の主張がその人の政治的な立場や信念に影響される、という主張 は、ただちに(とか断り書きをつけなくても) 相対主義的科学観につながるもの ではありません。
というような当たり前のことをわざわざ書くのは、科学者の主張がその人の政 治的な立場や信念に影響される、というと、それだけでそれは相対主義だ、と いうようなことをいう人が必ずでてくるからです。実際に研究の現場にいれば 色々な研究者が間違ったことをいっていてそれがその人の信念によるものであ るようなケースはいくらでもみているほうが普通であると思います。というの は、科学の発展の歴史というのは、少なくとも一方では、そのような信念や思 い込みによる間違いを少しづつにせよ「より正しい」もので置き換えてきた歴 史だからです。逆にいうと、ある時点で少し前の時点を振り返ると、研究の最 先端で研究者がいったことは殆ど間違っているように見えるわけです。
で、政治的な立場とか色々なものがあると、色々な間違いとかが修正されにく くなるとか、新しい間違いが生産される、とかいったことが起こるわけで、そ のこと自体は別に、相対主義とかそんなことを持ち出す必要なしに理解できる ことです。
さて、では、原子力工学・放射線医学等が専門というわけではではない研究者 の発言、情報発信はどうだったでしょうか?というのがここで少し振り返って みたいことです。
振り返る、といっても、97 で 書いたように、私の当初の認識は
2011/3/11 の東北関東大震災で、福島県にある東京電力の福島第一原発が
重大な事故を起こしています。これについては色々な人が色々なことをいっ
ていますが、原子炉の物理、核物理、放射性物質の振る舞い、人体への影
響といった様々のところいくつもが間違っているものが多いです。
というもので、残念ながらこの認識を大きく変える必要は感じていないのが現 状です。このような文章では事実を具体的に述べる必要があるので実名で書き ますが、 3/12 くらいの段階では例えば東大物理の早野さん、阪大の計算機セ ンター所属の菊池さん、京都女子大の水野さんといった人々が、メルトダウン はありえない、そういうことが起こるというのはまるで物理がわかっていない、 というような発言をしていました。
http://twitter.com/y_mizuno/status/46222019901136896
九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政策の専門家なのだけれど、
今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの可能性がある、などと言及
されるのは理解できないなぁ。どういう理解をされているのか、聞いてみた
い。そのコメントをするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。
残念。
http://twitter.com/hayano/status/46222811714433024
全くです.RT @y_mizuno: 九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政
策の専門家なのだけれど、今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの
可能性がある、などと言及されるのは理解できないなぁ。...そのコメント
をするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。残念。
http://twitter.com/kikumaco/status/46602299476418560
@MayaYamamoto どういう意味の熔融? 核反応の暴走という意味でのメルトダ
ウンは起きてないし、万が一のために、海水といっしょにホウ酸を注入中だ
から、大丈夫なのでは? 崩壊熱のほうは海水でいいのではないのかなあ
もちろん、これらは「メルトダウン」についての、あるいは軽水炉での重大事故 がどういうふうに起こるか、ということについての基本的な知識の欠如からく る発言です。臨界、つまり、連鎖核分裂の継続がなければ、原子炉からの発熱 は大したことがなく、圧力容器、格納容器が破壊されるとか大量の放射性物質 が環境にでるとかいったことは起こりえない、と思い込んでいたようにみえま す。
また、 3/16 くらいから、アメリカの Monreal なる物理学者の 作った数々の重大な間違いを含む スライド を、日本語に翻訳しようという 活動が KEK の野尻さん、理研の橋本さん他によって始まりました。 http://ribf.riken.jp/~koji/jishin/zhen_zai.html
メッセージ: 素粒子原子核分野の研究者/院生の皆さん
今回の震災に起因した福島原発の事故について国民の不安が高まっています。
チェルノブイリのようになってしまうと思っている人も多いです。
放射線を学び、利用し、国民の税金で物理を研究させてもらっている我々が、
持っている知識を周りの人々に伝えるべき時です。
アメリカのBen Monreal教授が非常に良い解説を作ってくれました。もちろん
個人的な見解ですが、我々ツイッター物理クラスタの有志はこれに賛同し、
このスライドの日本語訳を作りました。能力不足から至らない点もあります
が、皆さん、これを参考にして自分の周り(家族、近所、学校など)で国民
の不安を少しでも取り除くための「街角紙芝居」に出て頂けませんでしょう
か。
元々のスライドの問題点については 3/18に指摘しています が、念のため繰り返しておくと
チェルノブイリ事故の理解がそもそも間違っていた。チェルノブイリでは 臨界が数日維持されたと考えていたらしい。もちろんそんなことはなくて、 チェルノブイリでは最初の臨界事故が爆発につながったがそのあとは 崩壊熱と火災である。
被曝によるがんリスクについて、1年被曝の効果と一生被曝の効果をとりち がえていたため、数十分の一に見積もっていた。
福島第一の状況を、 3/12-3/14 の爆発、3/15 の飯舘から福島市にいたるエリア での高濃度の放射性物質の検出以後であったにもかかわらず、放射性物質 の環境への放出はほとんどないと書いている。
崩壊熱について、数日から数週間後になっても極めて高いレベルであり 危険なままであることはグラフを見れば物理学者ならわかるべきであるのに、 最初の数時間を乗り切ればあとは安心、みたいなことを書いていた
注意して欲しいことは、これらは「後知恵」でいっているわけではなくて、こ のスライドが作られた時点で公開されていた情報から、その時点で私が指摘し ていた間違いである、ということです。
私個人としては、このようなものに「賛同」し、あまつさえそれで 「不安を少しでも取り除」こうとするのは理解しがたいことなのですが、 現実にそういうことが起こった以上、それにはそれなりの理由があるはずです。 ここで書いていることは要するにそれを理解しようという私なりの試みです。
後知恵でみれば、私の書いたことも全体に楽観的に過ぎるものになっていて よろしくないのですが、まあ、その、若干は間違いが少ないのではないかと 思います。
で、以下自分のことは棚に上げて他の研究者の情報発信について書くと、他に も
例えば早野さんは、常に「現在は放射性物質の大きな放出はない」と いっていて、 4/3 の時点では、 3/21 には原発からの放出は なく、 3/15 にでたものが雨で落ちた、という印象を与える記述 をしていた(5月末にはいうことが変わっている)
東大柏での高い空間線量率について、それが測定場所の問題である ことを示唆する発言を複数の人がした
http://twitter.com/hayano/status/54529275491123200 (4/3)
5 3/15だけなのか(1)?】福島県の放射線レベル http://bit.ly/hGo4VM が,
3/15に急増し,3/16以降単調に減っていることから,3/15の重要性は明らか
です.
http://twitter.com/hayano/status/55404814531706880 (4/6)
【グラフ更新 福島第一原発敷地内の空気中のヨウ素131濃度】日々減少中.
新たな大量放出は起きていない. http://plixi.com/p/89833314
http://twitter.com/hayano/status/59749880985432064 (4/18)
【KEK(つくば市)の空気中の放射性物質の種類と濃度】
http://bit.ly/gFCQgx を見ても 3/24以降は大きな放出は検知されていな
い.http://bit.ly/gXCwHn
http://twitter.com/Mihoko_Nojiri/status/59013377548230656
@wdb201126 なんか柏の東大が数値高いのも近くにガッツリ花崗岩が、、、
というような例があり(まだいくらでもあげられますが)、常に福島原発からの 放射性物質の放出の危険を過小評価する方向の間違いを繰り返していることが わかります。
(6/5 追記)
野尻さんから、上の一つだけを引くのはフェアではない、とのコメントを頂い たので、 4/16 の関係しそうなものを以下全部引用します。元は http://twilog.org/Mihoko_Nojiri/date-110416/asc
@wdb201126 なんか柏の東大が数値高いのも近くにガッツリ花崗岩が、、、
世界のたいていの場所より低いと思います。失礼ですが、そういう対策がひろまってるんですか? RT @hamuko_t: 早速のお返事ありがとうございました。図々しくて申し訳ありませんが、外遊びも気にしないで大丈夫でしょうか?
[都内限定] 都内でお子さんをお持ちの方へ。放射線量は低い( 0.2程度)と思うので、外遊びを禁止するメリットは感じません。もし、本当に気にするのであれば、幼稚園の園庭(土)などの放射線量調査を市や区に依頼されてはいかがでしょうか。
福島の1/10 だとおもうんですよね、都内って。てえことは年間被曝線量で 2mSv (要するに世界平均)くらいで、なんぼ不安だからって全部やれっていわれても行政対応できないというのはまあ妥当。
あれねー、東大柏いたずらに不安まいてるとおもうので、キャンパスの中くらいはかったらいいと思ったり。石のそばだみたいな話はちょっと聞いたのですが。RT @SOSOAO: @Mihoko_Nojiri ホットスポット疑惑がうちの界隈(柏とか流山とか)みな不安がってるので顕著なんです。
でもこういっちゃなんだど、福島はすごく心配ですが、東京が高くても、全然関心もてないというか、、、ご飯いきます。
ほお、これはそこそこでてますね。0.4uSv /year RT @t_ton2: 柏の国立がんセンター東病院の調査を見ると、3月22日から上がっているのです。(21日は計測なし) http://bit.ly/gM60fh
0.5uSv/h で住めないというのは大げさなんじゃないかと。。。1mSvの許容線量というのは、環境にある普通の放射線量を 2mSv/y とすると単に 1.5倍になるだけ。0.5Sv/h はそのまま外に入れば3.5mSv/y ですけど、家にいる時間もあるので。 @SOSOAO
たとえばコンクリートの屋内だったら、柏の場合でも 1/10 なわけですから、計算としては外にいる時間x外の線量程度におもっておいてもいいのかもしれません。内部被曝については今 tweet しました。 @ubzm
要するにまとめると不安の元は 10mSv はいかないとはいっても自然線量とくらべると倍以上だし、長期間にわたってこれが続くのか、それともまだまだ1/2くらいになるのか、とか、自分の家ではどのくらいに減っているのかとか、とか、工夫すれば減らせるのか、とか@SOSOAO
@nabeyasu1124 0.2ならね 。まあ東京はつくばよりひくいので(笑)
いや、僕にいわんでくださいよ。RT @ProfMatsuoka: 米国デンバー市は大体その位ですね。立派に人が沢山健康に住んでますが。"@Mihoko_Nojiri: 0.5uSv/h で住めないというのは大げさなんじゃないかと。。。@SOSOAO"
0.2uなんけしからんとか年間 1mSv は多いとかいうなるとをいただいていますが、つきあいきれません。十分自然放射線が少ないところを選んですんでください。 黄色以上のところはやめたほうがいいでしょう。http://bit.ly/gap3N8
ちなみに原発からでた放射性粒子も自然放射線もαβγ線のどれかですから、原発からきたって地面からしみ出してきたって同じです。
名古屋市内の高いところは木曽川の下流だったり 四日市の高いのは、上流からでしょうね。うーんと拡大するとよくわかる。 RT @madone52fs: なるほど、ここ四日市って高いんだ。
(6/5 追記終わり)
国や東電、あるいは原子力工学の研究者の場合には、過小評価する合理的な動 機があるわけですが、特に利害関係がないと思われる他分野の物理学(素粒子 物理、原子核物理、物性物理等)の研究者が同様な過小評価を繰り返してきてい るのは何故か?というのはなかなか理解が難しい問題です。
まず、仮にも物理学者である以上、意図的に事実をねじ曲げるようなことは しないであろうと仮定してみます。そうすると、自動的に、本心から そのような過小評価を信じている、ということになります。
既に書いたように、研究の現場に戻ってみると、研究者というのは(私ももちろ んそうですが)思い込みによる軽率な間違いを一杯するものです。で、その多く は、「誰か別の人がいったことをちゃんと検討しないで鵜呑みにする」、「な んかおかしいと思ったけど、専門家がいうんだからそうだろうと受け入れる」 といったことによっています。
もちろん、専門家のいうことがおかしいと思って、自分で検討して、その途中 で間違えることはもっと一杯ありますが、これは色々指摘されたりして修正さ れることが多いわけです。これに対して、専門家、権威者の発言を鵜呑みにす る、という種類の間違いは、基本的に修正するメカニズムが働きません。もち ろん、事実が、専門家、権威者の発言と全然違う、ということが明らかになっ て、専門家、権威者のいうことが変わるともちろんそれに追随するわけですが、 この時には比較的大きな時間遅れが見られることが多いです。
これは単に研究者というのは大抵保守的というか頭が固いというかそういう傾 向があって、簡単に考えを改めない、ということによっています。実際に新し い研究をしようという時には、この「頭が固い」という特性は実は必要なもの であり、自分の信じるところをそんなに簡単にくるくる変えるようでは新発見 なんかできません。
さて、では、当初(というか現在まで一貫して)福島の事故の規模、影響を 過小評価してきたのは何故か、というと、個人的には
これほどの規模のものとは信じたくない、という感情
大きい、とは政府、東電を含めてみんないってないから多分小さいんだろう、という判断
があったのではないかと思います。また、「大きいんじゃないか」という発言 をすると「権威である××さんがそんなことはないといってるのにお前はデマ を広げるのか?」といったたぐいのことをいってくれる人が一杯いたらしいと いう話も聞きます(私は特にそういう経験をしていないので良くわからないので すが)。
まあ、その、正常性バイアス、パニック神話、集団浅慮というようなキーワー ドで理解してしまっていいのかもしれません。
102.9. 私はどうだったか、ということ。
自分の個人的なことを若干書くと、日記には 3/12 から色々書いていたわけで すがまとまった形の 97 を公開し たのが3/19 であり、上記の Monreal スライドの普及を、というメッセージが 天文学会メイリングリストに流れたことへのコメントという形で天文学会メイ リングリストにメッセージを流したのが 3/20 です。その中身は以下の通りで す。
国立天文台の牧野です。
福島原発の事故の程度については情報が錯綜しており、各国の専門家の評価
も事実上 INES 基準レベル7とみているフランス、ロシアから、レベル6と見
るアメリカ、現在まだレベル5 と公式発表している日本まで、放射性物質の
放出量の見積もりに4桁の差があります。
以下の資料は極めて小規模な事故であるという印象を与えるもので、そのよ
うな宣伝が適切なものかどうかは十分に考えるべきと思います。
牧野の大雑把な理解をまとめたものを以下に:
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/future_sc/note098.html
これだけのメッセージですが、これを流すことには非常に大きな心理的抵抗が ありました。そもそも、自分の利害、という観点からは、こういうことをいう ことには全くなにもメリットはありません。まず、あまりその時点で他の人が いっていないことをいうわけなので、もしも間違っていたら25年の研究者人生 で築いてきた(とまあ本人は思っている)理論研究者としての信用に傷がつくわ けです。また、正しかったとしても、上に述べたように例えば国には影響を過 小評価しようとする十分な動機があるわけで、その意向に沿わない情報を発信 することが国から給料も研究費ももらっている研究者にとって何かメリットに つながるとは考えにくいでしょう。そもそも、あとで正しいとわかる悪い予言 とかアドバイスをして悲惨な目にあう話はカサンドラを始めとしていくらでも あるわけで、賢い人はそういうことはしないものです。
まあ、その、全くメリットがないかといえば、そうでもありません。 3/19 時 点で放射性物質の放出は極めて深刻で、チェルノブイリと同じオーダーである とかなり確信をもって見積ることができました。そうすると、過去の重大事故、 特にウィンズケール(セラフィールド)、チェルノブイリの事例を見ると、いず れは被害状況が明らかになり、しかも今回に関しては実は当初から被害状況が 推定できるデータが公表されていたということも明らかになります。そうすると、 まあ、国や東電や利害関係のある研究者が公式には過小評価側の発表をするの はそういうもので、彼らが国民の信頼を失う(元々はあったとして)のはやむを えないとして、利害関係がないはずの他分野の物理学者が同様に信用を失う(こ れも、元々はあったとして、ですが)ことになるわけです。それに巻き添えをく らうようでは、まず第一に、格好悪いわけです。
もちろん、同じ間違いをしていたら格好もなにもないのですが、事実がどうなっ ていたかを認識していたにもかかわらずだまっていた、というのは間接的に間 違った情報の拡散を助けることになります。さらに、事実が明らかになってか ら後出しで「実は自分は気が付いてた」みたいなことをいうのは非常にみっとも ないことと私は思うので、いうなら早めにいっておきたいわけです。
まあ、もうちょっとえらそうにいうなら、事実の正しい認識が広がるのを助け ることで、今回の事故の被害を少なくすることに多少でも貢献できれば、とか、 色々言えないこともないです。
個人的には、原発は大体数十年に一度くらい大事故を起こすだろうと30年くら い前から思っていて、チェルノブイリの次は、スリーマイル、チェルノブイリ の後でも縮小の方向にいかなかった日本で起こる可能性がもっとも高いし、日 本は国内で大事故をやるまでは決して撤退の方向にはいかないだろうとも思っ ていました。(これは後出しですね、、、) 今回撤退の方向にいかないと次の大 事故まで撤退しないことになるので、まあ、その、それはできれば避けたほう がよいし、避けるのは不可能ではないのではないか、と今のところは思ってい ます。
3/11 くらいからなるべく情報を集めて状況を理解しようとしたのは、そんなえ らそうな話ではなくて単に自分及び家族が東京から避難するかどうかの判断の ためです。国の避難勧告やマスコミの報道が信用できるはずはないということ は初めからわかっていますから、仮に東京を大量の放射性物質が覆う、という 事態になっても避難勧告はでないだろうと考えざるをえません。なので、運を 天に任せるのでなければ自分で判断するしかないわけです。
国や東電がちゃんと情報を隠す気があればそうはいってもどうしようもなかっ たわけですが、結構色々な情報がすぐにでてきました。といっても14日くらい まではどんな情報があるかもわかってなかったですが、風はとりあえず関東に はふかない予報だったので避難とかは、、、とおもっていたわけです。が、 3/15, 16 は関東向きの風になるということが予報ででました。
3/14 の日記で引用したように、風向きその他によっては関東が壊滅的な被害を 受ける可能性があるわけですから、避難は現実の問題です。また、 3/14 には 福島原発からかなり離れたところにいた米空母ロナルドレーガンが逃げ出すと いうことがあり、推定すると 100マイルの距離で20uSv/h ないしそれ以上が観 測された可能性があるということがわかりました。
というわけで、3/15 の朝、茨城県のモニタが数値の上昇を示した時点でとりあ えず西に移動しました。計画停電で通勤も大変だし計算機も動かせないので、 あまり出勤に意味がなかった、ということもあります。
日本、あるいは関東にとっては極めて幸運なことに、 3/15-16 の放射性物質 放出はおそらく 3/14 に比べると少なく、また関東では雨にならなかったため にこの日の汚染は(福島はともかく、関東の多くの部分では)それほど深刻なもの にならず、また雨が降った 3/21-22 にはおそらく放射性物質の放出はさらに 少なかったと思われます。それでも柏など一部のエリアで 0.7uSv/h を超える 高い汚染になり、その半分程度が Cs-134, 137 であったために現在でも 半分程度までしか減っていないわけです。
自分はどうしたかというと、週末には東京に戻りました。 3/15-16 の土壌の 汚染はそれほど深刻にならなかったこと、また、東京にくるかどうかは茨城県 のデータで数時間前にはわかるので緊急避難はできることがわかったこと、 による判断です。家族といっても子供はいないのでそれほど心配する必要性が 大分違う、ということもあります。
102.10. 色々。
なお、事故の後、色々な人が色々なことをいっています。例えば、
福島第一で深刻な事故になったのは設計が古くて安全機構がしっかりしていない BWR-IV だからで、もっと新型のではあんな事故は起きない
原発を止めると電力が不足するから、当面は運転する必要がある
チェルノブイリでの強制退避区域は広過ぎた。実際には健康被害なんかでていない
といったたぐいのものです。新しいものが信用できるかどうかについては、浜 岡ではもっとも新しい5号機が運転開始以来トラブル続きで極めて稼働率が低く、 先日停止させてみたら復水器が壊れていて一次冷却系に大量の海水が流入する という大事故につながりかねない事態になっていたことからもわかるように、 新しい原発では古いのとは違うところが壊れる、というだけの話です。
夏に電力不足、という話は、東京電力、中部電力に関する限り、その発電能力 についての公式の発表を信じるなら(水力や特に揚水発電所は名目能力の通り丸々 発電できるわけではないことを考慮しても)なさそうに見えます。中部電力は 元々浜岡が極めて信用できない代物で、特に5号機完成のあと大幅に稼働率が さがっています。なので、原発抜きでは困るようでは話になりません。
東京電力については、今年の夏に柏崎を全部止めた状態ではさすがに若干不足 する可能性はあると思います。まあ、その、来年に向けては発電能力を増強す る、という方向もないわけではないと思いますが、照明を LED に変えるとか、 古いエアコンを使っているところで新型の熱効率の高いものに変えるとか、建 物の断熱性を上げる努力をするとかで消費電力の削減を図るほうがよいのでは ないかと個人的には思います。
揚水発電所があるので、ピーク時以外の電力消費を減らすことにも十分意味 があります。
チェルノブイリの強制退避区域は、ベラルーシでは5年かかって徐々に レベルを下げたわけで、これはどちらかというと、いくつかの調査で無視できない 影響が見えてきたのでやった、という面があるように思います。これらの 調査は IAEA/ICRP の報告では取り上げられていないので、 IAEA/ICRP の報告 だけをみていればチェルノブイリでの強制退避は必要なかったということに 当然なるのですが、そんなものを信じるのか?と個人的には思います。
102.11. もう一度、国は信用できるのか?ということについて。
現在国、電力会社がやっていることは、極めて深刻な大事故が起こったにもか かわらず、その影響を可能な限り小さく見積もって、可能なら原発の運用、新 規建設を進めよう、ということであるように見えます。実際、3/12 の時点で事 態は深刻だったわけですが、東電も国もそのことをその時点で認識していた、 ということが最近になって明らかになってきています。
つまり、国・東電は、今までなりふりかまわずに事態を隠していたわけで、と いうことはおそらくは今でも色々なことが隠されているわけです。そのような ことが起こるのは国・東電の立場に立つなら合理的なことですから、行動パター ンが今後変わることは期待できません。そういう姿勢で原発の運転、建設を続 けられるとあまり遠くない将来に次の大事故が起こってしまいます。まあ、そ の、国民が皆それでもいいと思うならしょうがないのですが、みんなそう思っ てる、というわけでもないと思いたいところです。
海外の事例から明らかなことは、今後、
どれだけ被曝したかをなるべく正確に評価しないようにする
被曝の影響を可能な限り小さく評価する
退避区域を可能な限り狭く見積もり、補償金額を抑える
農地、海洋の汚染を可能な限り小さく見積もり、耕作禁止区域の発生を避け、補償金額を抑える
というようなことが進むことです。これはもちろん、既に起こっていることで もあります。つまり、信用とかそういう話ではなく、行動の理解と予測は十分 に可能だ、ということです。その理解をベースにして自分はどうするか、 ということが問題なわけです。
=================================
811 ノート から
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/811/note001.html#rdocsect0
1. はじめに (2011/8/11)
今日、2011年 8 月 11 日に、河野直践氏の告別式がありました。
河野さんは私の一つ上、1980年東大文科I類入学です。私は1981年入学の理科I類 であり、初めて河野さんをみたのは、駒場の全学共通ゼミナールの1つとして 開講されていた、理研の槌田氏と一橋大学の室田氏による講義にでた時だった はずです。
全学共通ゼミナールは、基本的には東大(駒場と限らない)先生が駒場の1-2年生 向けに色々な講義をする、というもので、まあ、先生のほうから見ると自分の 学科の宣伝、学生から見ると進学のための情報収集的なところが多いのですが、 その中に「学生が提案する自主ゼミ」というのがいくつかありました。これは、 学生のほうが講師・講義内容を教養学部に提案して、それが認められると正式 の教養学部の全学共通ゼミナールとして開講され、外部講師なら給与(たいした 額ではないですが)がでて、単位も出る(進学には関係ないですが) というもの です。
河野さんは、この自主ゼミ枠を使って、槌田氏と室田氏による講義を企画した わけです。講義の内容自体は全く記憶にないのですが、私は高校生の時にエネ ルギー問題に関する槌田氏の本を読んでいたようで、書いた本人を見ることが できる、というかなりミーハーな興味で見物にいったような記憶があります。
実際にいってみたらそこで一番大きな顔をしていたのが河野さんで、それから 3年ほど、私が卒業研究(実は私は卒業研究では地球温暖化のシミュレーション というのをやっていたのですが)にはまりこんでなんとなくフェードアウトする まで色々なところに引っ張り回されました。
色々なところ、というのは、反原発集会、浜岡原発の見学ツアー、静岡 にある「水車むら」での合宿、厚木での田圃を借りた有機農業実践、と いったものです。
私は大学院に進む時に研究テーマを大きく変えて、地球温暖化というまあなに かしら人類に貢献しそうに一見思える研究から、まるで役に立ちそうにない天 体物理学、恒星系力学をやってそのあとの25年間を過ごしてきました。何故そ のような選択をしたのか、についてはいずれ書きます。
一方、河野さんは一貫して農業と原発の問題に取り組んでこられました。JA に 就職したあと、協同組合経営研究所の研究員から茨城大学の助教授、教授となっ ています。私は河野さんとはもう25年近く連絡もとっていなかったので、最近 の活動がどういうものであったのかは知らないのですが、研究と運動を一体の ものとしてやってきたであろうことは想像できます。
ただ、 3・11以降、河野さんがなんとかして止めようと30年間頑張ってきた原 発事故が、歴史上最悪の原子炉3基のほぼ同時期破壊という形で起こり、大量の 放射性物質をばらまいたことが河野さんにとってどれほどショックであったか は、私などが想像することもできないものがあります。河野さんは 7月にでた「水車むら通信」に以下のような文章を書かれたそうです。
目を覆いたくなるような農林水産物の放射能汚染の現実を前にして、地元
産・国産を食べろと学生達に言うことは、私にはもはやできない。自分は
いったい、何を講義したらいいのだろうか。
その河野さんが 8月7日に死去されたという連絡がはいってきました。信じられ ない、何かの間違いでは、というのが最初に思ったことでした。でも、葬儀の 日程の連絡まできて、どうも本当のことらしい、と思うしかありません。
昨晩の通夜にはいけなかったのですが、今日の告別式には参列しました。25年 ぶりに見る河野さんの顔は、白いものが目立つようになったとはいえ昔のまま で、それが遺影だと思うと、、、25年あってもいなかった人が亡くなった、と いうことが何故これほど自分にとってショックなのか、まだ自分でも良くわか らずにいます。
河野さんの遺志を継ぐ、なんてことはできるはずもないのですが、 自分に残された時間の中で、やるべきこと、できることをやって いかないといけない、と思います。
ということで、原発事故関係、というより、スパコン関係でない色々なことは こちらに書くことにしようと思います。
今日のところはそれだけ。まだ、あまりちゃんとものを考えられないので。
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================
(投稿者補)
河野直践茨城大教授の「原発大事故通信」
下記ブログから
http://green.ap.teacup.com/eauxetforets/101.html
「2011/8/13
「再掲:河野直践氏の置きみやげ」 原発問題
今なお有用な「原発大事故通信」(非圧縮gifファイル)
No.13(1987年6月17日):食品汚染がテーマです。」
http://green.ap.teacup.com/eauxetforets/html/no13_1.gif
http://green.ap.teacup.com/eauxetforets/html/no13_2.gif
http://green.ap.teacup.com/eauxetforets/html/no13_3.gif
http://green.ap.teacup.com/eauxetforets/html/no13_4.gif
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