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クローズアップ2011:福島第1原発 廃炉作業、未知の領域 (毎日新聞) 
http://www.asyura2.com/11/genpatu19/msg/223.html
投稿者 赤かぶ 日時 2011 年 12 月 10 日 00:50:31: igsppGRN/E9PQ
 

クローズアップ2011:福島第1原発 廃炉作業、未知の領域
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20111208ddm003040113000c.html
毎日新聞 2011年12月8日 東京朝刊


 ◇時期、全て努力目標

 高い放射線量下での作業、溶け落ちた核燃料の取り出し・保管−−。東京電力福島第1原発1〜4号機の廃炉処理について、7日に内閣府原子力委員会の専門部会が報告書をまとめたのを受け、年明けから廃炉作業が本格化する。79年のスリーマイル島原発(TMI)事故と同様、水で放射線を遮蔽(しゃへい)したうえで溶融した核燃料の回収を目指す。しかし、「人間が踏み込んだことがない領域」(東電幹部)の作業が連続することは必至で、完了には30年以上の歳月を要する見通しだ。山積する課題を探った。【中西拓司、西川拓】

 福島第1原発の廃炉処理は、1〜3号機の原子炉内に残る燃料計1496本と、1〜4号機の使用済み核燃料プール内の計3108本をすべて回収することが鍵となる。政府と東電は、16日に原子炉の「冷温停止状態」を宣言するのに前後して詳細な計画を発表し、年明けに着手する。

 「最初にして最大の関門」(専門家)となるのが、放射線を遮蔽するために格納容器全体を水で満たす「冠水(水棺)」だ。そのためには格納容器の損傷部分を特定して修復する必要があるが、容易ではない。1号機原子炉建屋内では最大毎時約5000ミリシーベルトを検出。致死レベルに相当する線量だ。

 東電は4月に発表した工程表で、いったんは冠水して事故収束を目指す方針を発表したが、その後の事故解析から、1、2号機の格納容器には水素爆発などで最大50平方センチ相当の穴が開いていると判明。5月に発表した工程表では格納容器の修復を断念し、冠水を中止した経緯がある。

 さらに、崩れ落ちた燃料を遠隔操作で回収する作業も困難を極める。原子炉内は長時間にわたって「空だき」が続き、1号機ではほとんどの燃料が溶けて圧力容器底部から、格納容器内に落ちているとみられる。

 燃料1本当たり約170キロのウランが含まれており、原子炉内だけでも単純計算で254トン(ドラム缶換算で約1270本)のウランを回収する必要がある。格納容器の上ぶたから底部までは最長35メートル。その距離から、遠隔操作クレーンでバラバラの溶融燃料を切断・回収しなければならない。しかも、それらは燃料を覆っていた被覆管の金属や炉内の部品と入り交じっている。


福島第1原発の廃炉作業のイメージ(1)左から、原子炉建屋内を除染→格納容器損傷部分の特定・修復→(2)の画像に続く
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/images/20111208dd0phj000001000p_size8.jpg


 「廃炉作業を前倒しし、早期に完了すべきだ」。福島県の佐藤雄平知事は、6項目からなる意見書を専門部会に提出したが、7日の専門部会は「できる限り早い時期に実現できるよう関係者に要望する」などの文言を報告書に追記しただけで、踏み込んだ回答はできなかった。「原子炉内をだれも見たことがない以上、報告書に盛り込んだ回収開始時期は、すべて努力目標でしかない」。専門部会長の山名元(はじむ)・京都大原子炉実験所教授は7日、こう語った。


福島第1原発の廃炉作業のイメージ(2)左から、冠水(水棺)実施→燃料回収(1の画像の続き)
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/images/20111208dd0phj000002000p_size8.jpg


 ◇「スリーマイル」が参考に

 ◇溶融燃料を分析、処分方法研究へ

 「79年のスリーマイル島原発(TMI)事故の経験が生きる」

 日本原子力研究開発機構原子力科学研究所(茨城県東海村)の永瀬文久・燃料安全研究グループリーダーは話す。同研究所はTMIの溶融燃料を保管する国内唯一の機関。福島第1原発の廃炉作業の参考とするため、近く処分方法などの研究を本格化させる。

 TMIの燃料は、経済協力開発機構(OECD)の国際共同研究のため91年に日本に輸送された。深さ15メートルのプールに、アルミの密閉容器に収められた燃料約60個(計2・8キロ、大きさ0・1〜200ミリ)が保管されている。ウランと燃料を覆う被覆管の材料ジルコニウム酸化物が混じり、冷えて固まった溶岩状をしている。これまでの研究で組成や形状などのデータが得られ、切断や回収のための器具開発に役立つという。

 TMI事故では、燃料の45%に当たる約62トンが溶融、うち20トンが圧力容器下部に落下、最大1メートルの厚さで堆積(たいせき)した。作業員が格納容器内に入ったのは事故から1年後の80年。すべての燃料を回収できたのは90年だった。

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)はほとんどの燃料が炉外に吹き飛んだため、建屋をコンクリートで覆う「石棺」で廃炉にされた。TMIは圧力容器の中で燃料がとどまったが、福島第1原発の場合、1〜3号機で圧力容器が破損。1号機では格納容器の底にあるコンクリートの床を侵食し、より深刻だ。

 しかもTMIは原子炉1基だけの事故だが、福島第1原発は1〜4号機で起きた。専門部会委員の早瀬佑一・東電顧問は「廃炉処理が同時並行で進むとは思わない」と話す。

 TMIの廃炉を指揮したロジャー・ショー元TMI放射線管理部長は「微生物の大量発生で炉内に入れたカメラが役に立たなかったりと予想外の事態が発生した。福島の作業は数倍困難で、信じがたいほどの努力と国際レベルの最高の知恵が必要だ」と助言する。

 

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コメント
 
01. 2011年12月10日 09:03:19: WDXVTlrXQw
「廃炉作業を前倒しし、早期に完了すべきだ」 福島県の佐藤雄平知事は何がなんでもこれ以上の人口流出を止めて、避難した住民を戻したくて必死だな、 諦めの悪い男だ!
それにしても 水棺処理して溶け落ちた核燃料を回収するより、 コンクリートを流し込んで石棺処理した方がずっと早くて安上がりで安全だと思うのだが…?

02. 2011年12月10日 12:29:53: 2WAXGSwrMs
関東東北一帯が時間をかけて巨大な石棺と化するだろう。

03. 2011年12月10日 21:11:55: txKoq6KBVw
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/04/blog-post_25.html

チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染(全文書き起こし)

(映像:チェルノブイリ原発4号炉)
十年前の今日、チェルノブイリ原発4号炉の爆発事故によって人類史上最悪の放射能汚染が引き起こされました。30万人以上の人々が家を失い、今も700万人以上の人々が汚染された大地に暮らしています。事故直後、コンクリートによって封じ込められた4号炉は、いまだに強い放射線を出し続けています。
放射能は、人々から大地と家を奪い続けています。おびただしい量の「死の灰」は、広大な地域に降り積もり、人が住むことのできない汚染台地を作り出しました。

事故がもたらした人体への影響は、十年という歳月を経て、風化するどころか、逆に深刻さを増しています。長い潜伏期間を経て、癌や白血病などが急激に増加しています。そして、放射能の影響は脳にまで及んでいることがわかってきました。被爆者の身体の中で何が起きているのか、世界中の科学者たちが詳しい調査や分析を続けてきました。その結果、新しい事実が次々と明らかになってきました。チェルノブイリ原発事故による放射能人体汚染は、十年という時を経て私たちの前に想像を遥かに越える姿を見せはじめたのです。

<タイトル  終わりなき人体汚染  〜チェルノブイリ事故から10年〜>

十年前、チェルノブイリ原発事故で被曝し避難してきた人々の間に、また悲劇が起きました。ひとりの幼い命が失われたのです。少女は、事故当時3歳でした。4ヶ月前、背中に小さなこぶができ、手術を受けましたがその後再発。みるみる病状は悪化し、癌で亡くなりました。5千人余の避難民が暮らすこの地区で、毎週のように人々が亡くなっています。少女の死は、チェルノブイリ事故の呪縛から今も逃れられない現実を、改めて見せつけたのです。

1986年4月26日未明、チェルノブイリ原子力発電所4号炉が突然、爆発・炎上しました。広島型原爆5百個分以上の放射性物質が放出され、原発周辺は強烈な放射能に包み込まれました。放射能が最初に襲った街は、原発からわずか3キロのプリピャチでした。しかし、事故が起きたことは市民には伝えられず、人々はいつもと変わらぬ朝を迎えていました。

事故当日のプリピャチの映像です。画面の一部が時々白く光るのは、強烈な放射線でフィルムが感光しているためです。

チェルノブイリから放出されたセシウム137などの放射性物質は、上空1500メートルにまで舞い上がり、ヨーロッパをはじめ、世界中に広がりました。原発から半径600キロの範囲の汚染は深刻で、その面積は12万平方キロ、日本の国土の3分の1近くにも達します。黄色から濃い赤になるほど、汚染のレベルが高いことを示します。(映像:汚染地域の地図)

一番濃い赤の地域は、東京のレベルの40倍以上にも達しています。最も汚染の少ない黄色の地域でも、日本の基準では立ち入り禁止区域に相当します。WHO・世界保健機関の調査によると、いまだに780万人もの人々がこの汚染地域で生活し、放射線を浴び続けています。広島や長崎では、人々は一瞬のうちに大量に被爆しました。しかし、チェルノブイリでは、住民が長期間にわたって少しづつ放射線を浴び続けているのです。

住民は、放射能が降り積もった大地から、直接放射線を浴びています。さらに、汚染された空気や水、そして食べ物が体内に入ることによって、身体の中からも被爆しています。住民はこの十年間、二つの被爆を同時に受け続けてきたのです。

(映像:IAEAチェルノブイリ調査報告書(1991年))
チェルノブイリの放射能による人体への影響は、どのように考えられてきたのか。これは、事故から5年後、IAEA・国際原子力機関がまとめた報告書です。当時の住民の健康状態を調査した結果、「放射能が直接に影響したと考えられる健康被害は認められない」と結論づけています。そして、今後起こりうる住民の健康被害については、「将来、癌または遺伝的影響による増加があったとしても、それは自然の増加と見分けることが困難であろう」と予測しています。

(映像:ウクライナ共和国 キエフ市)
しかし、IAEAの予測に反して、その後深刻な事態が次々と起き始めました。
異変は、まず子供たちに起きました。この少女は、小児甲状腺癌の治療を受けています。本来、百万人に一人か二人しかかからないという小児甲状腺がんが、子供たちを中心に急激に増加しはじめたのです。

甲状腺は、身体や脳の発達に不可欠な甲状腺ホルモンを作る重要な器官です。チェルノブイリ事故により放出された放射性物質のひとつ、“ヨウ素131”は、体内に入ると甲状腺に蓄積しやすく、癌を引き起こします。その結果、甲状腺ホルモンの分泌異常が起き、成長期の子供の身体や脳の発達が遅れてしまう恐れがあります。

この少女は、事故当時4歳でした。チェルノブイリ型の甲状腺癌は、通常のタイプに比べて進行が早く、転移しやすい特徴があります。このため、発見され次第直ちに手術しなければなりません。この少女の甲状腺にも癌の黒い影が発見されました。

(キエフ内分泌代謝研究所;ミコラ・トロンコ所長)
「最初に子供たちに甲状腺癌が増え始めた時は、私も正直言って放射能の影響と言えるかどうか半信半疑でした。しかしその後、汚染の高い地域ほど患者が多く、しかも癌のタイプが通常のものと違うことから、放射能の影響に間違いないと確信しました。これから更に患者は増えていくと予想しています。」

(グラフ:ウクライナ・ベラルーシ・ロシア西部の小児甲状腺がん発生率)
WHO・世界保健機関の調査によると、小児甲状腺がんは事故から4年後の1990年から急激に増え続けています。

(映像:キエフ小児産婦人科研究所)
最近、汚染地域に住む妊婦たちの身体に、様々な異変が起きていることがわかってきました。キエフ小児産婦人科研究所では、事故直後から汚染地域に住む妊婦2万人以上について、出産に関する詳しい調査を続けてきました。その結果、汚染地域の妊婦の貧血が事故前に比べて10倍に増えたほか、死産や早産が多く発生していることがわかりました。出産異常の原因をさらに詳しく分析してみると、子宮内の出血や早すぎる破水などが増える傾向にあり、主に母体の異常が死産や早産を引き起こしていることがわかりました。

妊娠5ヶ月のこの女性は、事故当時11歳でした。これまでに一度、死産を経験しているため、不安を感じてこの研究所に検査を受けにやってきたのです。
(医師)
「胎盤が厚くなりすぎています。胎児に酸素不足の兆候がありますね。」

胎盤は、胎児に酸素や栄養を供給する重要な役割を果たしています。胎盤は、通常この時期であれば2センチほどの厚みですが、この妊婦の場合5センチ以上に肥大しています。これは、子宮内の酸素が不足していることを示し、このままでは胎児の成長に深刻な影響が出る恐れがあります。画面右側が胎児の頭です(映像:胎児の超音波写真)。この胎児の頭の直径は4センチほどしかなく、通常の胎児に比べて成長が遅れていることがわかりました。この研究所では、「こうした妊娠中の異常は汚染地域の妊婦によく見られる」と指摘しています。

(キエフ小児産婦人科研究所:ダシケビッチ産婦人科部長)
「深刻な状況です。かつてのIAEAの予測と大きく食い違ってきています。私は、その原因は長期間の被爆のためだと思います。今後、長期的な被爆の影響を注意深く調査していかなければいけないと思います。また、妊婦や新生児に染色体の異常も見られるので、今後世代を越えた遺伝的影響が出てくるかもしれません。」

汚染地域では、事故後人工中絶の数が急増しています。放射能による被爆が、胎児に悪い影響を与えるのではないかという不安もあるからです。

ミンスク遺伝性疾患研究所。ここでは、チェルノブイリ原発事故によって被爆した妊婦の染色体にどのような変化が起きているのかを調べています。放射能の汚染地域に住む妊婦、2千人以上の血液細胞の染色体を詳しく分析してきました。その結果、被爆量が高い妊婦ほど、染色体の異常の程度が大きいことがわかりました。染色体には、親から子供へ生命の情報を伝える遺伝子がのっています。

右の染色体の上の部分にわずかな異常が見られます(映像:染色体の写真)。もし、この部分の遺伝子の異常が子供に受け継がれると、先天性の障害につながる可能性があると、この研究所の専門家はみています。

(ミンスク遺伝性疾患研究所:ゲナジー・ラジュック所長)
「我々の調査では、妊婦の染色体の異変ばかりでなく、新生児の先天性異常も汚染の高い地域ほど増えていることがわかりました。その原因としては、ストレスや栄養障害や化学物質による汚染など、様々な複合的要因が考えられます。しかし、それらの中でもひとつの大きな要因として放射能の影響を考えなければならないと思います。」

この研究所の調査によると、放射能の高濃度汚染地域では、先天性の異常をもった新生児の数が事故前の1.8倍に増加しています。しかし、汚染地域の妊婦の染色体異常と新生児たちの先天性異常の増加に因果関係があるかどうかは、まだわかっていません。ラジュック所長は、今後さらに詳しい調査と遺伝子レベルでの研究を進めていかなければならないと考えています。

放射能は、人類にとって未知の部分の多い存在です。チェルノブイリ原発事故によって放出された放射能が人体にどのような影響を与えているのか、その全容はまだ解明されていません。

キエフ市トルイシェナ団地。チェルノブイリ原発のすぐそばにあったプリピャチから避難してきた5千人余が住んでいます。

ウラジミル・ルキヌさん。47歳。ウラジミルさんは、事故のあと激しい頭痛・心臓や関節の痛みなどが次々と現れ、一年半前から仕事ができなくなってしまいました。最近では、強い疲労感や脱力感もあり、一日のほとんどをベッドの中で過ごす毎日です。

ウラジミルさんは、チェルノブイリ原発で働いていました。事故直後、チェルノブイリ原発の周辺にはウラジミルさんを含め、大量の事故処理員が動因されました。飛び散った原子炉の残骸の処理に当たるなど、危険な作業に携わったため、最も深刻な放射能の影響を受けました。強烈な放射線による急性障害で、半月の間に299人もの人が病院に運び込まれ、そのうち7人が亡くなりました。最も高い被爆量の作業員は、一般の人の生涯の被爆許容量の10倍以上を、わずか数時間で受けたと推定されています。処理作業に参加した作業員の数は、80万人以上にのぼります。

チェルノブイリで事故処理をしたウラジミルさんの身体に、最近新しい異変が起き始めました。記憶力が低下し始めたのです。昔のことはよく覚えているのに、最近起きた出来事や新しいことをすぐ忘れてしまうのです。妻のタチアナさんは、ベッドに閉じこもりがちなウラジミルさんを外へ連れ出し、記憶力を回復させようと、買い物を手伝ってもらうことにしています。この日、ウラジミルさんが頼まれたのは、パン・スパゲテイ―・小麦粉・卵、それにミネラルウォーター2本です。パンは買いましたが、ミネラルウォーターのかわりにジュースを買ってしまいました。そして、卵と一緒に、頼まれていないマヨネーズまで買いました。結局、スパゲテイーと小麦粉は買い忘れてしまいました。

チェルノブイリ原発事故の処理作業に参加した80万人以上の事故処理員たちの身体に何が起きているのか、これまでほとんど知られてきませんでした。しかし、最近になって、その人たちの間に深刻な病気が広がっているという実態が明らかになってきました。

ウラジミルさんは、記憶力の低下など、精神的な症状が現れてきたため、専門医に診察してもらうことにしました。

(医師)「原発で事故後、どんな仕事をしたのですか?」
(ウラジミル夫妻)「施設の補修や放射能の除去です。柵をつくって囲むとか、兵隊が埃やチリを取り除いた後、薬品で洗い流す仕事です。」
(医師)事故の前も後も4号炉のすぐそばで働いたのですね。」
(ウラジミル夫妻)そうです。

ウラジミルさんは、思い通りに身体を動かすことに不自由を感じるようになってきました。目を閉じて、自分の鼻先を指で指すという簡単な動作さえ、できにくくなっています。神経系にも、異常が出てきたのです。

この患者は、事故の直後、原発内で放射能の測定をしていました。2年前から幻覚や幻聴に悩まされています。

「光を受けると胸が締めつけられて、とても息苦しくなるんです。耳鳴りやチカチカという雑音が聞こえてくることもよくあります。」

(映像:キエフ放射線医学研究所)
また、事故処理員たちの間では、治療の難しい悪性のタイプの白血病が急速に増え始めています。この研究所が健康調査を続けてきた12万人のうち、この2年間に42人の白血病患者が発生しています。この研究所では、今後、白血病が事故処理員たちの間にさらに広がるだろうと予測しています。

(映像:放射線生物物理学研究所「事故処理員の後遺症と将来予測」1995年)
ロシア保健省放射線生物物理学研究所の内部文書。事故後、2年の間に参加した事故処理員1886人の健康状態について、8年間追跡調査したものです。それによると、事故処理員たちの間に、心臓病・精神や神経障害・癌が多発しています。癌の発病率は、一般の人の3倍、4人に1人は労働不能の状態に陥っています。そして、30代の人たちがまるで50代のような身体になっていると結論づけています。この調査では、さらに将来予測を試みています。その結果、「事故のあった年の処理員の100% が、西暦2000年には労働不能状態に陥る。さらに、そのときの平均死亡年齢は44.5歳になるだろう」と報告しています。

(映像:ウラジミル・ルキヌさん 47歳)
去年の暮れ、ウラジミルさんと同じ事故作業をしていた仲間が、脳腫瘍で亡くなりました。ウラジミルさんより、5歳も年下の42歳でした。

(妻・タチアナさん)
「上の階に住む25歳の若者が、先日車に飛び込んで自殺しました。今頃になって性的障害が現れ、夫婦生活が崩壊すると悲観したのです。隣では奥さんがガンで亡くなりました。36歳でした。ご主人はその後、酒びたりとなり、最後には自殺しました。神様、夫にこれ以上何も起きませんように。」

チェルノブイリ原発事故の直後からはじまった住民の移住は、汚染の高い地域を中心に今も続いています。しかし、この10年に渡る移住政策は、行政に大きな経済的負担を強いてきました。事故5年後のソビエト崩壊によって、汚染地域はロシア、ウクライナ、ベラルーシの3カ国に分割され、汚染対策の負担を分け合わなければならなくなりました。中でも最も大きな負担を抱えこむことになったのが、ベラルーシ共和国です。ベラルーシでは国土の23%が放射能で汚染され、今も220万人もの人々が暮らしています。これは、国民の5人に1人の割合です。

(映像:ベラルーシ共和国  ミンスク市)
ベラルーシは、これまで毎年国家予算の15%以上をチェルノブイリ対策につぎ込んできました。しかし、政府は悪化する一方の国内経済を理由に、今年から汚染対策の大幅な見直しを決定しました。

(チェルノブイリ対策省:イワン・ケニク大臣)
「我々は、これまでの移住中心の対策をやめて、汚染地域に住む人たちに今後とも住み続けてもらうことを考えています。そのためには、汚染された薪や井戸水を使わなくてもよいよう、ガスや水道などの整備をするつもりでいます。このまま対策を続けていったとしても、すべての地域をカバーするには150年もかかってしまうのです。財政状況の悪化から、今までどおり国家予算の15%をつぎ込むことは困難なのです。」

ベラルーシ政府の方針転換は、汚染地域に住む人々にとって大きな衝撃となりました。事実上の移住政策の打ち切りは、住民たちが汚染地域に住み続けなければならないことを意味しています。

人口1万5千人ほどのチェチェルスク地区。この地区は、自給自足の農村地帯です。一部の畑は、今でも場所によっては東京の15倍以上の放射能で汚染されています。このため、住民は汚染された畑の作物を食べ、被爆し続けています。
住民たちのもうひとつの食料源が、周囲に広がる広大な森です。しかし、この森は事故直後、放射能を大量に含んだ雨が降ったため、場所によっては10年経った今でも東京の100倍以上の高い放射能で汚染されています。村の人たちにとって森は、キノコや木の実、野生動物など貴重な食料や、燃料となる薪を供給してくれる大切な存在です。

この村に住むレイナさんの一家も、この日キノコを採りに森へやってきました。16歳のレイナさんは、事故から5年経った頃から、ひどい頭痛と疲労感に悩まされ、体調の悪化を訴えています。

この村に住む唯一の保健婦のゲラシンコさん。村人たちの家を巡回しながら、健康管理をするのが日課です。ゲラシンコさんは、今、村人の健康状態が確実に悪化していると感じています。それは、年齢を問わず、村人全般に渡っています。

(保健婦:ワレンテイ―ナ・ゲラシンコさん)
「私は、事故の前からこの村の人たちの健康管理をしてきました。しかし、最近の村の人の身体を診て、本当に驚いています。すっかり健康状態が悪くなっているんです。以前は、重い病気の人なんてめったにいなかったのに、今では病人のいない家庭は無いくらいです。やはり、食べ物による放射能の影響ではないかと思います。」

(映像:チェチェルスク地区病院)
チェチェルスク地区の人々の身体には、食品を通して放射能が入りこんでいます。その結果、人体にどのような影響が起きるのか、各国の医学者たちがさかんに現地を訪れ研究をすすめています。信州大学医学部講師の小池医師たちは、5年前から毎年この地区を訪れ、住民たちの健康診断を続けてきました。

(信州大学医学部:小池健一講師)
「この人は、たしか前に来られた人ですね。覚えてます。」

住民たちの体内に放射能がどれだけ蓄積しているかを測定し、健康状態との関係を調べています。

(信州大学医学部:小池健一講師)
「そうですね、1023マイクロキューリーで、3万7千で血球数(?)非常に高いです。日本人の25倍ぐらいの高さですね。」

小池医師たちは、特に住民たちの免疫、つまり身体の抵抗力の変化に注目しています。放射能による長期間の被爆によって、免疫の異常が起き、それが頭痛や疲労感などの症状を引き起こしているのではないかと考えたのです。血液中の免疫細胞のひとつ、ナチュラルキラー細胞の働きを調べました。汚染されていない地域と比べると、この地区では正常な免疫機能の範囲から大きく外れる人たちが数多くいることがわかります。(グラフ:チェチェルスク地区と非汚染地のNK細胞活性の比較)

(信州大学医学部:小池健一講師)
「今までにナチュラルキラー細胞の働きが弱くなるということが、白血病の前の段階で見られるというデーターがあります。ですから、こういうナチュラルキラー細胞に異常が出た方が、今後抵抗力だけではなくて癌であるとか白血病であるとか、そういうような病気を一人か二人でも出てくるのであれば、やはりこれは大きな問題になってくるだろうと思いますね。」

免疫の異常は、ウィルスや細菌に対する身体の抵抗力を弱め、様々な病気を誘発します。
小池医師たちは、住民たちの健康状態の変化を将来にわたって見続ける必要があると考えています。

ベラルーシ政府は、水道やガスなどの汚染対策は行なう予定ですが、安全な食品の供給までは考えていません。また、安全な食品はあっても値段が高いため、チェチェルスク地区の住民たちは、このまま自給自足の生活を続けていかざるを得ないのです。

(レーナさんの姉:アンナさん)
「私たちは国から見放されたんです。汚染された食品を食べ続けてベラルーシが滅んでも、地球全体には何の影響もないでしょう。ひとつの民族が消えたという程度ですよ。」

汚染された食品を食べ続けることで、今後身体に何が起きるのか。住民たちの不安が次第に高まっています。
チェチェルスク地区と同じような生活を強いられている人々は、ベラルーシ全体で35万人にも上ります。

(映像:キエフ脳神経外科研究所)
キエフにある脳神経外科研究所。ここでは、重い精神症状に悩む事故処理員500人以上について、検査と治療を続けてきました。その結果、事故処理員たちの脳に異変が起きていることが明らかになってきました。

(医師)
「この患者は脳に障害があり、うまく話せません。」
(患者)
「彼は。。。まだ少ない。。。これから。。。たくさんある。。。まだ少ない。。。。」
(医師)
「自分ではちゃんと話しているつもりなのです。」
(患者)
「210大隊。。。苦しい。。。わからない。。。何を話せばいい。。。よくなる。。。」

事故のあった年に、緊急部隊の一員として動員されたこの患者は、相手の言うことは理解できますが自分で話そうとすると意図しない言葉が出てしまうのです。
脳は、これまで人間の身体の中で最も放射線に対する抵抗力が強いと言われてきました。このため、事故処理員たちに起きている様々な精神症状の原因は、主にストレスによるもので、脳がチェルノブイリの放射能によってダメージを受けたわけではないとされてきました。

(映像:モスクワ診断外科研究所)
しかし、複数の機関による最新の研究がその定説を覆そうとしています。
モスクワ診断外科研究所では、精神症状を抱える事故処理員たちの脳の状態を詳しく研究しています。今、脳の中の血液の流れを調べています。これは、上から見た脳の断面です。白い部分は、血液の流れが活発です。この患者は、脳の左側に血液の流れが悪い部分があります。

(放射線医学部:ニーナ・ホロドワ上級研究員)
「精神症状のある事故処理員の患者、173人を検査したところ、程度の差こそあれ、全員に異常が発見されました。彼らは、脳の血液の流れが悪いだけでなく、神経細胞の働きまでが低下しています。」

脳の状態をさらに詳しく調べた結果、事故処理員たちの脳に萎縮が見られることがわかってきました。
写真の白い部分は、空洞。灰色の部分には、神経細胞が集まっています。40代後半のこの事故処理員の場合、空洞を表す白い部分が脳の中心に大きく広がり、脳全体が萎縮しています。
同年代の健康な人の脳と比べてみると、神経細胞がつまっている灰色の部分がはるかに少なく、神経細胞が死んでしまったことを示しています。

(映像:キエフ脳神経外科研究所)
神経細胞の死滅は、放射能によって引き起こされたのでしょうか。キエフ脳神経外科研究所では、放射能による被爆で神経細胞の死滅が起きるかどうか、ラットを使って実験しています。チェルノブイリ原発事故で放出されたものと同じ種類の放射性物質を、餌に混ぜてラットに与えます。一ヶ月間、この餌を食べ続けることで、ラットは、人間に置き換えれば、事故処理員とほぼ同じ量の被爆を受けることになります。一ヵ月後、ラットの脳の神経細胞にどのような変化が起きているか、顕微鏡で詳しく調べます。
被爆したラットの神経細胞は、輪郭がはっきりせず、ぼやけて見えます。被爆していないラットと比べてみると、明らかな差が見られ、神経細胞が死滅したことを示しています。

(キエフ脳神経外科研究所:アレクサンドル・ビニツキー教授)
「死亡した事故処理員の脳を解剖したところ、放射性物質が蓄積していました。“脳は放射能に対する抵抗力が強い”という定説は、覆ったのです。脳の破壊が、様々な精神症状や身体の病気の原因だったのです。作業中に大量に吸い込んだ放射性物質が、脳にまで入り込み、まるでミクロの爆弾のように神経細胞を破壊していったと考えられます。」

ビニツキー教授の考えは、こうです。事故処理員たちが、作業中に大量に吸い込んだ放射能が血液にによって脳の中にまで運びこまれます。そして、放射線を周囲の神経細胞に浴びせながら少しずつ破壊していくのです。破壊された神経細胞は、もとにもどることはありません。身体の中に入った放射能が多いほど、脳の破壊が進み、やがて脳の機能が失われていきます。脳のもっとも外側が破壊されると、知的な作業ができなくなったり、記憶力が低下します。特に影響を受けやすいのは、視床下部や脳幹など、中心部で、ここが破壊されると食欲や性欲が失われたり、疲労感や脱力感に見舞われます。また、内臓の働きが悪くなったり、手や足の動きをうまくコントロールできなくなるなど、身体全体に影響が出ます。いずれも、事故処理員によくある症状です。

この冬、ウラジミルさんの病状は更に悪化していました。簡単な計算も間違えるようになり、ひとりでは買い物もできなくなってしまいました。

ウラジミルさんは、再び脳の専門病院を訪ね、詳しい検査を受けることになりました。
脳の状態に問題はないのか、MRIという画像診断装置を使って、詳しい検査を受けます。
その結果、脳に異常が発見されました。前頭葉と呼ばれる脳の前の部分に白い塊があります。神経細胞が死滅した痕です。前頭葉は、計算や思考など想像的な働きを担う中枢です。ウラジミルさんの知的障害の原因は、ここにあるのではないかと医師たちは考えています。脳のさらに深い部分にも、神経細胞が死滅した痕がありました。ウラジミルさんの疲労感や脱力感の原因は、これではないかと診断されました。

(医師)
「検査の結果、ご主人の脳に異常が発見されました。一連の症状がチェルノブイリ事故の後始まったことを考えれば、放射能の影響とみるべきでしょう。放射能が脳の中に入り込み、脳を破壊していったのです。簡単に治せるものではありません。あんな大きな病巣がありながら、大事に至らなかったのが不思議なくらいです。もっと拡大していたら、助からなかったでしょう。気を落とさないでください。」
(タチアナさん)
「大丈夫です。涙を見せたら、夫にショックを与えてしまいます。」

チェルノブイリの放射能が、十年もの間、ウラジミルさんの脳を少しずつ確実に破壊していたのです。妻のタチアナさんは、診断の結果を夫に告げず、残された身体の機能をできるだけ維持していく生活をしようと決意しました。

(映像:放射能汚染地域の地図)
最近、チェルノブイリ原発事故による人体への汚染について、またひとつ新しい事実が発見されました。汚染が5キュリー以下で、人体への影響が比較的少ないとされてきた黄色の地域に、赤の高濃度汚染地域に匹敵する人体汚染が起きていることがわかったのです。

チェルノブイリ原発の西、ベラルーシとウクライナの国境沿いに広がるポレーシア地方は、プリピャチ川沿いに開け、広大な森と豊かな水に恵まれた農村地帯です。ポレーシア地方にある人口千人足らずの村・ゼルジンスクに、事故後はじめて検診車がやってきました。汚染の高い地域から巡回してきたため、この村の人々は事故後十年目にしてようやく検診を受けることになったのです。
その結果、意外な事実が明らかになりました。ゼルジンスク村の人々の体内に蓄積された放射能の量が、極めて高かったのです。

(ゴメリ特別病院検診部:ナターシャ・ジノビッチ婦長)
「驚きましたよ。例外なく、みんな被爆量が高いのですから。ここは土地の汚染が低い地域のはずなのに、住民の被爆量は、最も汚染の高い地域と変わらないのです。どうしてこのような高い数値が出たのか、よくわかりません。」

なぜ、この村の人たちの体内に多くの放射能が蓄積されたのでしょうか。その原因をつきとめるため、ベラルーシ国立土壌研究所のグループが調査を続けています。その結果、原因解明の鍵は土にあるのではないかとみています。一般に、土に含まれる粘土分は、放射能を取り込んで外に逃がさない性質をもっています。ところが、この村の土には粘土分が少なく、ほとんどが粒子の粗い泥炭です。このため、放射能が植物に急速に吸収されやすいというのです。

(映像:ベラルーシ国立土壌研究所)
実際に、ゼルジンスク村の土の放射能を測定してみました。結果は、1068ベクレル。汚染はそれほど高くありません。しかし、牧草の放射能は、土の15倍、15544ベクレルにも及んでいます。この村では、放射能が土よりも牧草に大量に蓄積されていました。その結果、この村に降り注いだ放射能は、土から牧草へ、そして牧草から牛へ、さらにその牛が出す牛乳から人間へと、次々と濃縮されていったのです。ゼルジンスク村の人々は、汚染の高い地域と同じレベルの被爆を、この十年間受け続けていたのです。

調査の結果、この村と同じ性質の土は、ホレーシア地方全体に広がり、およそ一万平方キロ、チェルノブイリ原発事故によるすべての汚染地域の一割近くに達することがわかりました。ベラルーシ国立土壌研究所のグループは、人体への影響という視点から見た時、放射能汚染地図が大きく書きかえられることになると警告しています。

チェルノブイリ原発事故から十年。新しい放射能汚染の姿が見えはじめています。放射能が人体に何を引き起こすのか。その実態の解明は、まだ始まったばかりです。 <終>


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