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低量放射線は怖くない
中村仁信著
エディション: 単行本
5つ星のうち 2.0 活性酸素の役割などについて一方的な断言が目立つ。, 2011/11/29
レビュー対象商品: 低量放射線は怖くない (単行本)
低線量放射線が人体に与える影響は、難しい問題である。本書は、その難しい低線量放射線が人体に与える影響について、IVRと放射線防護学の権威である中村仁信先生が、一般の人々を念頭に、対話形式で書いた本である。私は、内科医であり、同時に原子力発電については反対の立場を取る者であるが、その私が、この本を読んで思った事を以下に述べさせて頂く。その前に、先ず、原子力発電に賛成するか、反対するかと言ふ問題と、低線量放射線が人体に与える影響の問題は、別の問題だと言ふ事を強調しておきたい。両者が無関係だとは言はないが、前者は、多岐に及ぶ技術論と政治・経済論に広がる政策上の議論である。それに対して後者は、純粋に科学上の議論であって、低線量放射線が人体に与えるリスクについての見解と原発をどうするべきかと言ふ議論は切り離して論じられるべき物である。−−両者は別の議論である。−−(実際、著者(中村仁信氏)が、原子力発電を積極的に支持して居る訳ではない事は本書冒頭(5ページ)に書かれてある。)更に、もう一つ言っておきたい事は、この事に関連するが、低線量放射線のリスクを低く見積もる論者、或いは、それが却って有益だとする論者を、原発についての議論に絡めて「御用学者」と呼ぶ様な人々が居るが、この様なレッテル貼りはするべきではないと言ふ事である。これは、あくまでも科学上の見解の差であって、低線量放射線のリスクを相対的に低い物と考える論者にその様なレッテル貼りをする事は、科学を政治化する物であり、反原発派である私ですら共感しない事を述べておく。−−反原発派である私が、共感しないのである。−−始めに、こうした事を言っておく。その上で、以下に、私が本書を読んだ感想、疑問を述べる。
(1)先ず、著者は、低線量放射線が、人体に悪影響を及ぼす可能性を示唆した過去の研究に十分言及して居ない。例えば、使用済み核燃料の処理施設周辺地域であるイギリスのドーンレイ周辺地気とセラフィールド周辺地域で、子供の白血病(又は非ホジキン型悪性リンパ腫)が有意に増加して居る事が報告されており、これらの報告は、著者の見解に反して、低線量放射線が、矢張り危険を持つ可能性を示唆して居る。著者がこれらの報告を知らないとは考えにくいので、著者は、イギリスからのこうした疫学研究に否定的な見解を持って居るのだろうと想像するが、仮に著者がイギリスにおけるこれらの疫学研究に否定的な見解を持って居るとしても、この本の中で、こうした報告の存在に言及して居ない事は、少なくとも結果的には、低線量放射線が人体に与える影響について、著者(中村仁信氏)の見解とは違ふ見解が存在する事を読者に語らない事に成り、適切ではない。失礼ながら中村先生が、もし、こうした見解の存在を御存知ないのであれば、例えば、この論文の御一読をお勧めする。⇒M.J.Gardner et al, Results of case-control study of leukemia and lymphoma among young people near Sellafield nuclear plant in West Cumbria, British Medical Journal, Vol.300, pp423-429(1990).この論文は、セラフィールド再処理工場周辺で認められた子供の白血病と非ホジキン悪性リンパ腫の発生率が、(妊娠前での)父親の再処理工場での就労及び被曝量と相関して居た事を報告して居る。中村氏は、この論文の報告を否定するのだろうか?
(2)著者は、電離放射線がDNAを傷害するメカニズムとして、活性酸素がDNAを損傷すると言ふ従来からのドグマを挙げ、放射線が生体に与える障害は「活性酸素にすべての原因がある」と考えて「ほぼ間違い有りません」(本書30ページ)と言ひ切って居る。しかし、放射線の有害作用を「活性酸素がDNAを損傷する事」で説明して「ほぼ間違い有りません」とする著者の説明は、この分野における最近の研究を反映して居ない。即ち、著者はもちろん御存知と信じるが、近年、活性酸素は余りにも寿命が短い事や、更に、DNAが、意外に疎水性が強い事が指摘され、活性酸素がDNAに障害を与える事はそれほど多くない事がこの分野では論じられて居る。だからこそ、システイン誘導体である長寿命ラジカルが注目されて居るのではなかっただろうか?著者が、こうした議論の存在に言及しない理由を、私は、全く理解出来無い。更には、放射線の有害作用は、実は、放射線のDNAに対する作用が原因ではなく、DNA複製酵素への障害が原因ではないか?とする更に根本的な議論も有る事を著者が知らないとは思へない。それにも関はらず、こうした近年の議論に言及せず、DNAに与える傷害によって、放射線が生体に与える有害作用を説明しようとする著者の記述は、1980年代の医学を聞く様である。一般向けの本であるからこそ、この様に再検討が加へられて居るドグマを疑ふ余地の無い事の様に記述して居る事は批判せざるを得ない。
(3)放射線がその電離作用によって活性酸素を生じ、活性酸素の増加は、活性酸素を除去する酵素SODの産生を増加させるので、或る程度の放射線は生体に良い、と言ふ意味の記述が有るが、そのSODの産生増加は、多くの酵素の場合と同様、基質である活性酸素の増加による物ではないのだろうか?つまり、SODが増えるのは体に良いと言っても、そのSOD増加が活性酸素増加に続く現象であるなら、活性酸素の有害作用を強調する著者の論理からすると、結局、放射線被曝は、総体としては有害だと言ふ事に成るのではないだろうか?例えて言へば、ウルトラマン(SOD)が常に怪獣(活性酸素)が出現した後に現れる物である以上、ウルトラマンが来たから地球が平和だとは言へないのと同じで、SOD(ウルトラマン)が出て来る前に増える怪獣(活性酸素)の害を著者は無視して居ると私は思ふが、違って居るだろうか?
(4)言はゆる「ホルミシス理論」を著者は全面的に支持して居る訳ではない様に思はれるが、本書には、これについての肯定的な言及が有り、幾つかの疫学的研究が引用されて居る。しかし、先ず、宇宙飛行士が宇宙飛行から帰還した後、他の人々より健康だったとする事例は、1)そもそも宇宙飛行士の人数は余りにも少なく、その少ない集団の観察をもって「放射線は体にいい」等と結論ずけるのは乱暴である。2)宇宙飛行士は人種、年齢、性別、教育水準において、著しく偏った集団であり、生物としてのヒトのサンプルとしては母集団である人類集団を正しく反映したグループではない。又、3)比較の対照(コントロール群)をどう取るのかによって結論はこうした議論は大きく変はる。4)宇宙飛行士は、普通の人々より健康な集団と思はれる。(持病が有ったら宇宙飛行士には成れない筈である)従って、彼らが宇宙から帰還した後、多くが健康な余生を生きたと言ふのが事実であったとして、それが、宇宙旅行で放射線を受けた効果であるとは断定出来無い。と言った問題が有る。
(5)コバルト60に汚染された台湾のマンションにおいて、被爆したマンション住民の年間ガン死亡率を追跡すると、一般の台湾人よりガン死亡率が低かった、とする事例において、ガン発生率ではなく死亡率が指標にされて居るのは何故なのだろうか?又、そのマンションに居住した人々と一般台湾人との違いは果たして被曝の有無だけだったのだろうか?収入、教育水準、喫煙率、医療機関へのアクセス度、等の因子において、そのマンション住民と一般台湾人の間に差異は無かったのか?等、他の因子の影響の可能性が有り、この比較をもって「ホルミシス効果」の実例とする事には疑問が有る。
(6)本書において、著者はDNA修復を一方的に生体にとって良い事と見なして語って居る。しかし、一般論として、DNA修復はDNA塩基配列の誤りを生じる事も有り、生体にとって常に良い事と見なしていいのか、疑問である。更に、ガン細胞においてもDNA修復は重要な働きをしており、放射線によってDNA修復が活性化される事が、ガン細胞におけるDNA修復をも活性化させる可能性が有る以上、放射線によってDNA修復が高まる事を単純に生体にとって良い事とは言へない筈である。だからこそ、ガン治療の第一線で、ガン細胞のDNA修復を抑制する事が、ガン治療の新しい方法として研究されて居るのではなかったか。DNA修復についての著者の話は余りにも単純化されて居る。
(7)広島、長崎で被曝した人々の発ガンにおいて、ストレスが大きな役割を果たしたのではないか?とする著者の推論は飛躍しすぎて居る。一般に、ストレスが発ガンのリスクを高める可能性は有るにしても、それならば、原爆以外の戦争被害、或いは災害時にストレスによると見られる発ガンの増加は証明されて居るのだろうか?一般読者向けの本であるからこそ、この様な安易な推論を展開する事には感心出来無い。
本書には、教えられる点も有った。又、私は、言はゆる「ホルミシス理論」が全ての点で間違って居るとも思はない。正しい面は有るのだろう。しかし、「ホルミシス理論」は一面的な点が多く、それに反する事実の報告や、理論上の不合理も有ると、私は考えて居る。本書の内容には、他にも疑問に思ふ点は有るが、中村先生を「御用学者」等とは全く思って居ない事を付け加えておく。中村先生が、将来の著作の中で、私が上に指摘した諸点について言及し、反論、説明して下さったら、こんな嬉しい事は無い。
(西岡昌紀・神経内科医)
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