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「除染の限界」に苦悩する福島市の住民 (東京新聞)
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2011年11月27日 日々坦々
「除染の限界」に苦悩する福島市の住民
(東京新聞「こちら特報部」11月26日)
仮置き場の確保の難しさに加え、間もなく雪という大敵も現れる。放射性物質の除染を急ぎたい福島市の住民の焦りは募るばかりだ。作業に挑んだ住民の一人は、除染の限界に打ちのめされたという。本来なら、汚した者が即座に除去すべきだが、現実はその当たり前とはほど遠い。「年内の冷温停止」「2年後の被ばく線量半減」。事故の幕引きを急ぐ政府のお題目ばかりがしらじらしく響く。 (出田阿生)
「あんなに住民が掃除したのに、もうこんなに落ち葉が降り積もった。いくらやっても、きりがない」。高い汚染で知られる福島市渡利地区。市立渡利中学校わきの路上で、そこから車で十五分ほどの同市御山地区に住む深田和秀さん(63)はため息をついた。
二十五日の気温は昼間でも五度くらい。赤や黄に色づいた葉が氷雨で落ち、道ばたに吹き寄せられていた。今年は山の紅葉を喜べない。汚染された落ち葉が放射線量を上げるからだ。
深田さんは市民団体「放射能除染・回復プロジェクト」の一員。同団体は京都精華大の山田国広教授(環境学)を中心に、福島大や大阪大の教員らと福島市民で構成している。今年五月から、住民の手でできる除染方法を探ってきた。
渡利地区の公共施設わきの側溝で、深田さんが線量計をかざす。表示された数値がぐんぐん上がっていく。底に生えた雑草の近くでは、毎時六八・五一マイクロシーベルト(年に換算すると六〇〇ミリシーベルト)にもなった。地上約一メートルで毎時二マイクロシーベルトほど。同地区では避難者が相次いで子どもが減り、すでに閉鎖された保育所もある。
ところが、福島市が空間線量の定点観測をしている渡利支所前の公園では、立ち入り禁止のロープが。表土をはいで除染作業を実施中という。「九月二日に毎時二・二五〜一・四七マイクロシーベルトだったのが、今月二日には〇・九八に減った。計測地点を除染するなんて、数値を下げたいからとしか思えない」(深田さん)
「除染プロジェクト」の実験では、洗い流す方法は最初から断念した。流れ出した水は側溝の泥にたまって新たなホットスポットをつくり、いずれ川や海に流れて汚染を拡大させるからだ。まずは庭の表土をはがす方法に挑戦した。
土ぼこりの飛散を防ぐため、市販の合成洗濯のりを薄く土にかけた。そのうえで、固めてはぎ取った土を袋に詰め、穴を掘って埋めた。
しかし、住宅地は一メートルほど掘ると、コンクリート片などが出てきて掘り進められない。環境省の汚染土埋め立て基準では「表土を三十センチかぶせること」となっているが、せいぜい十センチほどしかかぶせられなかった。
住宅の外壁や屋根、雨どいなどの除染で室内の放射線量を下げる実験もした。深田さん宅でも実施。屋根瓦に合成洗濯のりを塗り、園芸用の布をかけてからはがした。
ところが線量があまり落ちない。詳しく計測すると、屋根瓦の隙間に放射性物質が入り、取れていないと分かった。
「よく水で高圧洗浄しているが、表面の放射性物質は雨で流れており、ほとんど意味がない。セシウムはいったんコンクリートなどにこびりつくと結合してしまい、容易にはがれない」
深田さんは市街地に近い山々を見上げながら「放射性物質の供給源がこんなに近くにあったら、どんなに除染してもいたちごっこだ」と話す。
庭土の除染実験をした御山地区の住宅の空間線量は現在、毎時〇・七〜一マイクロシーベルト前後。自分の家だけ除染しても、隣家の木の葉が落ちてくれば、数値は上がる。ローンの残った住宅を諦め、県外に避難した人もいた。
市立御山小学校を訪れてみた。通学路には雑草が生い茂り、その一角は五月に側溝脇で毎時一八〇マイクロシーベルトを計測している。校門には「今日の空間線量」と書かれた札。下校時、学校の駐車場は車であふれかえっていた。
子どもを乗せた軽自動車が通り過ぎる。「歩いて数分の距離でも、保護者が安全のために子どもを送迎している」と深田さん。そして校庭ではマスク姿の女性数人が、落ち葉をほうきで集めてはごみ袋に入れていた。
「あれは学校の校務員じゃなく、母親たち。子どもが少しでも被ばくしないようにと、毎日落ち葉を清掃している。東京電力や政府はなすべきこともせず、住民の善意にのっかっている」
福島市放射線総合対策課によると、市内でも大波地区は十月から除染作業を本格的に始めた。汚染土砂などの仮置き場が確保できたためだが、これから積雪や凍結が予想され、年内には終わらない見通しという。
渡利地区では七月にモデル事業を実施した。観測地点の公園では表土を削っていたが、担当者は「仮置き場が確保できておらず、本格的にはしていない」と説明した。
深田さんは除染の限界を痛感したという。「完全な除染は困難で不可能に近い」。だが、住民はいる。どうすればよいのか。「子どもや妊産婦を県外に一時避難させて、無用な被ばくを避けるべきだ。まずはそこから始めるべきじゃないのか」
<デスクメモ> 先月三十一日の東京地裁の決定が耳目を集めている。福島県のゴルフ場が東電に除染を求めたが、東電は放射性物質は自社の所有物ではなく、除染の責任はないと拒んだ。地裁は東電側の主張を支持した。東電や国の姿勢は「不運だったと思って諦めろ」ということか。道理のかけらもない国になった。 (牧)
参照:
■福島ゴルフ場の仮処分申請却下=「営業可能」と賠償認めず−東京地裁
(時事通信2011/11/14-20:08)
東京電力福島第1原発事故でゴルフコースが放射性物質に汚染され、営業できなくなったとして、福島県二本松市のゴルフ場「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部岩代コース」の運営会社など2社が、東電に放射性物質の除去と損害賠償の仮払いを求めた仮処分申請について、東京地裁(福島政幸裁判長)は14日までに、申し立てを却下する決定をした。2社は同日、東京高裁に即時抗告した。
決定で福島裁判長は、ゴルフ場の土壌や芝が原発事故で汚染されたことは認めたが、「除染方法や廃棄物処理の在り方が確立していない」として、東電に除去を命じることはできないとした。
さらに、ゴルフ場の地上1メートル地点の放射線量が、文部科学省が子供の屋外活動を制限するよう通知した毎時3.8マイクロシーベルを下回ることから、「営業に支障はない」と判断し、賠償請求も退けた。
■プロメテウスの罠 無主物の責任(1)
(朝日新聞2011/11/24) ソース: http://bit.ly/vd3tBh
放射能はだれのものか。この夏、それが裁判所で争われた。
8月、福島第一原発から約45km離れた、二本松市の 「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」 が東京電力に、汚染の除去を求めて仮処分を東京地裁に申し立てた。
――事故のあと、ゴルフコースからは毎時2〜3マイクロシーベルトの高い放射線量が検出されるようになり、営業に障害がでている。責任者の東電が除染をすべきである。
対する東電は、こう主張した。
――原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電は除染に責任をもたない。
答弁書で東電は放射能物質を「もともと無主物であったと考えるのが実態に即している」としている。 無主物とは、ただよう霧や、海で泳ぐ魚のように、だれのものでもない、という意味だ。つまり、東電としては、飛び散った放射性物質を所有しているとは考えていない。したがって検出された放射性物質は責任者がいない、と主張する。
さらに答弁書は続ける。
「所有権を観念し得るとしても、 既にその放射性物質はゴルフ場の土地に附合しているはずである。つまり、債務者 (東電) が放射性物質を所有しているわけではない」
飛び散ってしまった放射性物質は、もう他人の土地にくっついたのだから、自分たちのものではない。そんな主張だ。
決定は10月31日に下された。裁判所は東電に除染を求めたゴルフ場の訴えを退けた。
ゴルフ場の代表取締役、山根勉 (61)は、東電の「無主物」という言葉に腹がおさまらない。
「そんな理屈が世間で通りますか。 無責任きわまりない。従業員は全員、耳を疑いました。」
7月に開催予定だった「福島オープンゴルフ」の予選会もなくなってしまった。
通常は3万人のお客でにぎわっているはずだった。
地元の従業員17人全員も9月いっぱいで退職してもらった。
「東北地方でも3本の指に入るコ ースといわれているんです。本当に悔しい。除染さえしてもらえれぱ、いつでも営業できるのに」
東電は「個別の事案には回答できない」 (広報部) と取材に応じていない。
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