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「住民は東電に騙されるんじゃないか、と思ってる」 原子力損害賠償紛争審査会 〜上〜
http://tanakaryusaku.jp/2011/10/0003055
2011年10月20日 23:08 田中龍作ジャーナル
東電福島第一原発事故をめぐる損害賠償の枠組みを決める「原子力紛争審査会」の15回目の会合が20日、開かれた。
東電の廣瀬直己常務取締役が賠償の現状を説明した。「仮払いについては1,335億円の振込が済んでいる」「仮払いは中間指針に沿って網羅的に行っている」「被害に遭った方は漏れなく請求できるように書類を用意した」…誇らしげで淀みない。史上最悪の原発事故を引き起こした電力会社とは、まるで無関係の人物のような口調だ。
廣瀬常務はやたらと「中間指針に沿って」を強調した。それもそのはずだ。中間指針は、賠償金額が格段に膨らむ自主避難者への賠償を含んでいないのである。
廣瀬常務の説明どおりだったら、被災住民からの夥しい苦情は何なのだろうか。
大塚直委員(早稲田大学大学院教授・法務)が質問した。「中間指針には慰謝料における生活費の増加分が触れられているが、(東電の)書式にはその欄がない。改良するつもりはあるのか?」。
廣瀬常務は次のようにかわした。「『その他』の欄がある。(増加分の欄を)記載すると『これは良くて、これはダメ』ということになる。先ずはお問い合わせ下さい」。
問い合わせても増加分が認められないから問題になっているのである。子供だましにも等しいその場逃れだ。
大塚委員が「現場の窓口では、『書式にないものは指針に反する』と説明する担当者もいるようだ」と詰め寄った。廣瀬常務は「誤解を生みかねない対応をして申しわけない」と、ようやく東電の落ち度を認めた。
この後、被災者の法律相談にあたっている渡辺淑彦弁護士が意見陳述した――
「東電常務の話を聞いて怒りに震えている。交通事故の示談でさえ加害側から『これでどうでしょうか?』と示談を持ってくる。なのに東電は(被害住民が書類を)出さないとカネを出さない。東電が手伝うと言ってるが、住民は「東電に騙されるんじゃないか」と思っている…」。
渡辺弁護士も家族を東京に避難させている(自らはいわき市で弁護士活動を続ける)。身勝手な説明を終えた東電・廣瀬常務は、この時すでに会場を後にしていた。自主避難者への補償がこの日のテーマであったにもかかわらず、だ。渡辺弁護士の怒りも廣瀬常務の耳には届かなかったのである。かりにその場にいたとしても、馬耳東風で聞き流しただろうが。
紛争審査会の委員に原子力村の代理人はいても被害者側はいない。東電の賠償額を少なくするための会議であることを改めて思い知らされる。 (つづく)
◇
事故後7か月にして初めて自主避難者の意見聴取 原子力損害賠償紛争審査会 〜下〜
http://tanakaryusaku.jp/2011/10/0003063
2011年10月21日 21:05 田中龍作ジャーナル
原子力賠償紛争審査会は20日、15回目にして初めて自主避難者の声に耳を傾けた。「家のローンも始まったばかり。それでも子供たちを守るために避難した…」。伊達市から札幌市に自主避難した宍戸隆子さん(39才)は、官僚や学識経験者からなる委員の前で意見陳述した。
宍戸さんの夫は福島県の県立高校で教師だった。福島第一原発の爆発事故直後の3月15日に福島の県立高校は合格発表を行った。その日は雨となった。宍戸氏は勤務する学校に『生徒を「放射能の雨」に晒してはいけない。合格発表は止めるように』と要望した。教頭は「県が決定したことだ」と一蹴し、「放射能の雨」が降るなか合格発表は行われた。
学校に居辛くなった宍戸氏が校長に「辞めたい」と申し出ると、校長は「退職願いの書き方を事務長から聞くように」と素っ気なかった。慰留もしなかった。隆子さんは、原発事故によって家も夫の仕事も奪われたのである。
「自主避難者の多くは、お父さんが福島に残ったまま。家族とたまに会って別れる時、一番泣くのはお父さんといわれる。交通費の援助があれば少しは楽になる。二つかまど(二所暮らし)の生活は本当に苦しい…」。隆子さんは時々声を詰まらせながら訴えた。
隆子さんと共に意見陳述したのは、「子供たちを放射能から守る福島ネットワーク」代表の中手聖一さんだ。
「自主避難者は最初、変人扱いだった。政府もマスコミも『大丈夫、ただちに健康に影響はない』と言ってたから。だがネットでチェルノブイリの情報と照らし合わせてみるとおかしいんじゃないかと思うようになった。変人と思われなくなったのは、政府と東電の信用が落ちて行ってから」。
福島市の瀬戸孝則市長は、宍戸さん、中手さんに先立って意見陳述をした。「今度の原子力災害では国に適切な法律がなく、県と市に経験がなかった(中略)交通事故と放射能は違う。時間がかかるほど(被害は)大きくなる(中略)自主避難者は福島県で5万人、福島市で1300人もいる。来年の小学校入学者は去年の半分ほど(中略)正しいアドバイザーがほしい。毎日毎日、放射能の話をするのにも限度がある」。
東電が原発事故を起こし、政府とマスコミが安全デマを流した。政府は補償範囲を狭めたいために適切な処置をとらなかった。宍戸さん、中手さん、瀬戸市長の話から改めて思い知らされる。
中手さんは陳述の最後に声を振り絞るようにして訴えた。「(マスコミ報道で)十分に理解したから避難したのではない。わからないから大事をとって避難したんです。できるだけ(避難した時期で)分けないでほしい。国は可能な限り踏み込んでほしい。そうすれば、我々はどれだけ救われることか」。
紛争審査会の出す助言を東電がすんなり受け入れるとは考えにくい。また、「審査会の助言に従うよう」政府が東電を指導するとは考えにくい。マスコミが東電を批判することはもっと考えにくい。
政府とマスコミが東電に大甘なため、自主避難者は追い詰められた状況にある。紛争審査会が思い切った結論を出さなければ、さらなる悲劇が起きる。
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