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原発大国フランスで思う「空想の国」日本
http://diamond.jp/articles/-/14205
2011年9月30日 週刊・上杉隆 :ダイヤモンド・オンライン
■パリの人々に聞いた日本の印象と、その由来
原発大国フランスにやって来た。フランスは、国のエネルギーの約80パーセントを原子力発電に依存し、周辺諸国への輸出も行っている。原発技術を含め、外貨を稼ぐ優秀な基幹産業のひとつになっている。
そのフランスで、原発事故を起こした日本はどのようにみられているのか。パリの病院を訪れたついでに印象を聞いてみた。
「今年の日本は大変だね。地震と台風が二つも同時にやってきて――」
原発事故について微妙に回答を避けたのは、パリのホテルスタッフのひとりだ。彼は、ホテルマン特有の丁寧な物腰で、困った表情を浮かべ、日本に対する哀悼の意を伝えた。
さらに質問を重ねる。すると「事故の対応に失敗したんだってね」という答えが返ってきた。ソースを尋ねると「新聞」だという。
もうひとり、病院のスタッフにメールで印象を尋ねた。
「政府と電力会社が情報を隠しているんでしょ。ひどい話ね」
これまた正しい回答だ。彼女の回答も同じくフランスのメディアが情報源だという。
今月9月、フランスは核関連施設で事故を起こした。
〈フランス南部のマルクール原子力施設にある低レベル放射性廃棄物処理・調整センターで12日午前11時45分(日本時間午後6時45分)ごろ、爆発があり、1人が死亡、4人が負傷した。仏原子力安全機関(ASN)は原因を調べる一方で、放射能漏れはないとして同日午後に収束を宣言した。
マルクールは南部の都市アビニョンから30キロ離れたガール県にあり、多くの原子力関連施設が集まっている区域。爆発があったセンターはこの中にある仏電力公社の子会社が運営する施設。フランス原子力庁によると、低レベルまたは非常に低レベルの放射性廃棄物を処理する溶融炉という。直後に火事が起きたが、すぐに鎮火したという。
ASNは朝日新聞の電話取材に「事故で負傷した4人は被曝(ひばく)していない。施設の内部と外部に放射性物質による汚染はない」と説明し、13日にも調査を担当する査察官を現地に派遣する考えを明らかにした。仏政府は、政権ナンバー4で原発問題に詳しいコシウスコモリゼ・エコロジー担当相を現地に派遣した。
AFP通信によると、この施設の近くでは、仏原子力大手アレバが核兵器から抽出したプルトニウムを使い、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を製造している。一帯に稼働中の原発はない。
仏内務省によると、事故時に施設にいた従業員に対し、待機や避難の命令は出していないとしている。ただ、地元紙(電子版)によると、警察は施設の一帯の立ち入りを一時禁止した〉(朝日新聞電子版9月13日)http://www.asahi.com/international/update/0912/TKY201109120382.html
核熔融炉で爆発を起こし、複数の作業員が死傷するという大きな事故である。
■ジャーナリズムが機能したフランスの核熔融炉事故
当初、フランス政府は事故そのものについて過少発表しようとしていた節があったが、現地メディアの激しい追及などにより、すぐに事実公表に踏み切る。その後、記事の通り、フランス当局が捜査に入っている。
確かに、政府や電力会社による事故の過少発表までは日本での原発事故と同じだ。
だが、フランスと日本では決定的に違うものがある。それはジャーナリズムが機能したかどうかの大きな違いだ。
ルモンドにしろ、フィガロにしろ、原発事故に際して、フランスのメディアは権力監視という最低限の役割を機能させることに成功した。そうした動きがあったからこそ、国策として原発政策を進める政府も、即時の、事故調査、および捜査を余儀なくされたのではないか。
翻って日本はどうか。
事故から半年が経つにもかかわらず、いまだに大手メディアは、政府や東電の情報隠蔽に加担し、事故調査すら求めず、捜査も、証拠保全の声すら挙げていない。
ようやく、政治家が、事故調査委員会の設置を求めて重い腰ならぬ鈍いジャーナリズム感覚が反応したといった具合だ。
■政治家の後追いでようやく動く あまりにお粗末な日本の大手メディア
たとえば、きょうの朝日新聞の一面トップに原発事故調査についての記事が載った。
〈国会に原発事故調 喚問・招致 責任追及発展も〉
けさ、パリのホテルに置いてある国際版で朝日新聞の電子版を読んで、この記事が目に飛び込んできた。あまりに気分が悪くなり、思わずテーブルの向こうの椅子に投げてしまった。せっかくの朝食がまずくなった。記者クラブは海外でも私の気持ちを萎えさせる。
何をいまさら――。なんとお粗末なことだろう。
すでに半年以上前、自由報道協会のフリーランスや海外のジャーナリストたちが指摘していたことを、この秋になって、初めて知ったかのように書き連ねているのだ。しかも、それも政治家が動いて初めて書いている。
日本の国民はなぜメディアに騙されていることに気づかないのか。こうやって遠くのパリから改めて日本の現状を考えてみると、本当にうんざりしてしまう。
これはもはや詐欺である。日本の新聞は、購読料を徴収しながら、「偽情報」という商品を読者に売りつけてきたのだから、「詐欺罪」が成立してもおかしくない。
本来、商品であるならば、きちんとお詫びして回収すべき問題だが、なぜか日本ではメディア業界だけは「欠陥商品」を売っても罪に問われないことになっている。
そしてまた、日本人自身もそうした政府とメディアの蔓延る「虚偽の国」に生き続けることを了としてきたのだ。
もしかして国民も同罪なのかもしれない。現実を直視せず、政府やメディアの言いなりになって自己判断を行わず、「空想の国」に生きることを選択している日本人自らも同罪なのかもしれない。
■陸山会やユッケ食中毒は執拗に追及 原発利権には無視を決め込む国
同じ朝日新聞の国際版の社説で、小沢一郎衆議院議員の陸山会事件のことに触れている。(陸山会の資金 「挙党」で疑惑を隠すな)
http://www.asahi.com/paper/editorial20110929.html#Edit2
こうした視野の狭いオピニオンが、一流を自称する新聞に大きな紙面を割いて掲載されているのだ。
検察当局は、この元秘書による政治資金規正法違反にご執心のようだが、世界が注目している「巨大な犯罪」は別にある。日本社会の目の前に、半年以上にもわたって横たわっている原発事故こそが、世界の関心の的なのだ。
にもかかわらず、日本全体が原発事故、いや原子力ムラの「原発利権」については無視を決め込んでいる。
フランスで原発の印象を尋ねたフランス人はふたりとも「小沢一郎」のこと、その存在自体を知らなかった。それは当然のことだろう。
日本のひとりの老政治家の、元秘書たちによる形式的な「犯罪」よりも、世界に影響を与える原発事故の方に、世界的な関心が集まるのは当然なのだ。
パリにいながら、遠く日本のことを思うと思考が混乱してくる。原子力立国のフランスですら、核関連施設での事故が起きれば、当然に捜査は行われているのだ。一方、日本では――。
生ユッケ事件、天竜川の観光船転覆事故、全日空便の急降下トラブル、そして、小沢一郎氏の元秘書たちの政治資金規正法違反事件――。
すべて捜査が入り、マスコミは大騒ぎした。だが、その一方で、世界的な大事故を起こした東京電力への捜査はその端緒さえ、いや気配さえみせない。
あまりにバランスが悪くないか。いったい日本は大丈夫か。
あす、その日本に帰ろうと思う。
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