01. 2011年9月27日 08:19:54: FuasOj3ZdE
http://www.young-germany.jp/article_503エコツーリズム 持続可能な観光 ドイツでは100年前に、バイエルン州南東部オーストリア国境の山岳地帯にあるベルヒテスガーデン・アルプスのケーニヒ湖でエコツーリズムが始まった。エメラルドグリーンの水をたたえた湖では大勢の観光客が環境に優しい遊覧船に乗って、イエンナー山の頂や石灰岩の高原台地「石の海」、ヴァッツマン山群を水面に映すケーニヒ湖の周囲に広がる国立公園の印象的な眺望を楽しんでいる。船には騒音を出すエンジンはなく、空気を汚染し環境に有害な排気ガスは発生しない。環境に優しい静かな駆動装置を装備した18隻の電気推進船が、世界的に有名なバロック様式の巡礼教会、聖バルトロメ教会などの観光名所に向かって、毎年、約50万人の休暇客を乗せて航行している。 バイエルン王国の摂政だった皇太子ルイトポルトが1世紀前に古い漕艇船隊を廃棄し、電気推進船を採用したのは先見の明のある決定だったが、彼にとって地球温暖化防止はまだ問題ではなかった。しかし今日、ドイツ屈指の人気休暇地のエコツーリズムとソフトモビリティ(環境に優しい移動手段)に関して、湖の船隊は重要な要素となっている。なぜなら、リゾート地であるベルヒテスガーデンとバート・ライヒェンハルは持続可能な観光に力を入れており、「アルプスの真珠(Alpine Pearls)」という優れた組織の会員になることによって、それを誇示しているからである。ドイツ、オーストリア、スイス、フランス、イタリア、スロベニアのアルプス地方の自治体21カ所が共同で結成した「アルプスの真珠」は、環境保護への模範的取り組みが評価されて、08年に国際的な環境賞である「エコトロフェア(Ecotrophea)」賞をドイツ旅行業協会(Deutscher Reiseverband)から授与された。「アルプスの真珠」のリゾート哲学は、ソフトモビリティによる自然保護への貢献が核となっている。客は列車を利用するなど、環境に優しい輸送手段で目的地を訪れ、現地でもバスや乗合タクシー、鉄道、あるいはレンタサイクルで、快適かつ格安に移動できるのである。客が車なしでもモビリティを確保できるよう、ベルヒテスガーデン地方ではクアカード(保養券)が地域交通網の列車の乗車券としても使えるようになっている。 「アルプスの真珠」の例は、気候保護と環境保全が観光においてますます重要性を帯びていることと、ドイツが――専門家の意見によると――この分野で国際的に模範的役割を果たせることを示している。リューネブルク大学で観光経営学の教鞭を執るエドガー・クライルカンプ教授は、「ドイツは持続可能な観光に関する議論で先駆者だったが、気候変動と観光というテーマでも牽引的役割を担うべきだ」と言う。クライルカンプ教授はある研究プロジェクトで、気候変動と持続可能な観光の関係について調査している。成長産業である国際観光は現在、地球温暖化を招く二酸化炭素(CO2)の世界総排出量の約5パーセントを占めている。 ドイツでは、環境に優しい旅行への意識と意欲が高まっている。これは世界自然保護基金(WWF)が「観光分野における2009年度カーボンフットプリント」と題して行った最新の研究調査の結果、明らかになった。この調査で行われたアンケートに協力した人の43パーセントが、CO2排出量の削減に貢献するため、今後は休暇先を身近な場所から選ぶ、あるいはすでに選んでいると回答したのである。地中海に浮かぶスペインのバレアレス諸島のなかのマヨルカ島ではなく、東部ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州で休暇を過ごそうというのである。バルト海沿岸で休暇を過ごすドイツ人のカーボンフットプリントを算出すると、往復の移動、宿泊、食事、休暇先での活動で1人当たり258キログラムのCO2を排出していることになり、マヨルカ島旅行で排出されるCO2の量と比較すると5分の1でしかない。休暇地としてドイツ人に最も人気があるのはマヨルカ島だが、ドイツ人が実際に休暇を過ごす国のナンバー1はドイツとなる。08年には、すべての避暑客の約31パーセントが自国で休暇を過ごした。人気があるのは南部のバイエルン州と北部のメクレンブルク=フォアポンメルン州だ。 バルト海に接する海岸線の延長が1900キロメートルに及ぶメクレンブルク=フォアポンメルン州では、地域の観光協会が旅行者のカーボンニュートラルな休暇のために、森林株式の販売という奇抜なプロジェクトを展開している。これは、観光客が1本の木を象徴的に買うことにより、ドイツ初の地球温暖化防止林の植林を支援するというアイデアだ。森林株式1株を10ユーロで買った人は、4人家族が2週間の休暇で排出するCO2を相殺できる1本の木を自らの手で植えることができる。今日までに約7,500株が販売され、総面積7.5ヘクタールに及ぶ6つの森に植樹が行われた。 ドイツでは旅行業者もホテルも、環境に優しい旅行へと発想の転換を図っていることが認められる。先駆的役割を果たしてきたのが、南西ドイツの森林地帯シュヴァルツヴァルトにあるドイツ初のカーボンニュートラルなホテル「フェルトベルガー・ホーフ」だった。経営者はエネルギーや水を大切にしようと努め、建物全体にエネルギーの節約につながる設備を少しずつ整えてきた。古い灯油暖房機を、現代的な熱電併給システムに取り換えた。環境に優しいエネルギーを使用することにより、年間に二酸化炭素の排出量を600〜700トン削減し、灯油を約30万リットル節約できた。一方、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn)は別の方法で環境に優しい旅行を促進している。「目的地は自然(Fahrtziel Natur)」と銘打った特別プランを売り出し、北海の干潟からアルプス地方まで、ドイツの17カ所の国立公園や生物圏保護区、自然公園に乗客を運ぶ。ドイツ自然保護連盟(Nabu)やドイツ環境自然保護連盟(BUND)といった主要環境保護団体と協力し、ドイツ鉄道は行楽情報を提供したり、サイクリングコースやハイキングコースを紹介したりして、自然保護地域への興味を喚起する。 環境に優しい休暇への傾向を示すもうひとつの格好の例は、「ヴィアボノ(Viabono)」という観光認証マークである。これは連邦環境省と環境庁の主導で01年に創設されたもので、ドイツの約350のホテル、別荘、会議場、キャンピング場、青少年向け宿泊施設、レストラン、自然公園、観光自治体などを傘下に収めている。消費者保護や環境、観光部門のその他の組織と協力して、「ヴィアボノ」は持続可能な旅行の実現に取り組んでいる。「ひと味違う旅のフォーラム」では約140の、一部の在外業者を含む、主としてドイツの旅行代理店が結束して、持続可能な観光を自らに義務づけている。ヴィアボノはベルリンの「アトモスフェア」社と協力して、客が空の旅で発生させる温室効果ガスを相殺する提案をしている。「アトモスフェア証明書」の購入代金を、発展途上国で取り組まれている再生可能エネルギー開発プロジェクトに投資するのである。発展途上国では、09年初頭に創設された、持続可能性を目指すイニシアチブ「フトゥリス(Futouris)」も活動している。この組織には、TUIやトーマスクック(Thomas Cook)など、ドイツ有数の大手旅行代理店が所属している。スリランカでマングローブを造林したり、トルコで風力エネルギー利用を促進したりするなど、フトゥリスは現在14のプロジェクトを実施して、全地球上の観光国の自然環境保護と生物多様性の保全を支援している。 |